思いついたことを書いてみた   作:SINSOU

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下劣なるリーウィア

「お姉ちゃんありがとう!」

 

先ほどまで泣いていた少女が、笑顔で私に礼を言った。

少女の母親らしき女性も、「ありがとうございます」と頭を下げた。

 

「礼を言われるようなものではない。泣き止んだのなら、それでいい」

 

私はそう言うと、自分の席に座った。

 

「まったく、手間をかけさせおって・・・」

 

聞こえないように愚痴を零しつつ、私は注文していたコーヒーとケーキに目をおとす。

この店自慢のブレンドコーヒーと、この店自慢らしいチョコレートケーキ。

うむうむ、我ながら良い組み合わせだ。

 

気紛れに立ち寄った店ではあったが、なかなかどうして、良い雰囲気ではないか。

煉瓦細工の壁を見渡せば、そこから色々と時代を感じさせる趣きがある。

そして中から零れる香しいコーヒーの香りが良かった。

そう思い、外に置かれたテーブルを見渡し、空いている席へと腰を下した。

 

メニューに貼られていたお勧めケーキセットを注文し、品が来るまで景色を楽しんでいた。

そしていざ食べようとした際に、隣の席から鳴き声が聞こえてきたのだ。

見れば、空へ指を刺した少女が母親に泣きついている。

指の方を見れば、赤い風船が空へと舞いあがっていた。なるほど、風船が飛んで行ったのか。

儂には関係ないと無視をしようとしたが、あまりに声が喧しかったので、

取りあえず少女を泣き止まそうと、懐から兎のぬいぐるみを渡してやったのだ。

 

っといかん、コーヒーが少し冷めてしまっているな。

もう一つコーヒーを頼むのも金がかかるし、かといって冷めたコーヒーは味が拙い。

 

仕方ない。

 

儂は少し考えると、右手の人差し指をコーヒーへと向け、一言呟く。

 

「Toh」

 

すると、コーヒーカップ越しに感じる熱が上がった気がする。

そしてそのまま口に運び、コーヒーを一口啜る。

 

「うむ、良い温度だ」

 

温まったコーヒーを飲みながら、チョコレートケーキを切りながら口に運んだ。

 

「うむうむ、このチョコの甘みとコーヒーのほろ苦さが格別じゃな!」

 

それほど甘くはないチョコレートだというのに、コーヒーの苦さが甘味を引き立たせる。

やはり儂の目に狂いはなかった!

 

もう一口とフォークで切ったケーキを口に運ぼうとして、キィンと音がした。

その音を耳にして、儂は深い溜息を吐いた。

大方、先ほどのことで何かに引っかかってしまったのだろう。

全く、儂はケーキとコーヒーを楽しみたいだけなんじゃが・・・。

 

「で、儂に何か用か?」

 

フォークを皿に戻し、少し不機嫌な目を宿し、儂は自分を取り囲んでいる集団に声をかけた。

 

 

魔法というものがある。

悪魔の力である「魔力」や神の「奇跡」を独自の理論で式に表し、その力を再現したもの、

それがこの世界における魔法という定義だ。

そしてその力を行使する人間を総じて、魔法使いと呼んでいる。

魔法使いとは名前の通り、魔法使う人間だ。

そしてその力を行使する際には、悪魔と契約することが前提とも言える。

彼らの力を行使するためにな。

自らを守るために、人間界では知ることの出来ない、冥界の悪魔の知識・技術等を知る為に、

強力な悪魔を行使し己の力や地位を示すために、悪魔と契約する者が多い。

そして、その魔法使いたちは何かしらの組織に属している。

 

・灰色の魔術師

通称「魔法使いの協会」と呼ばれ、悪魔であるメフィスト・フェレスが長を務め、

多くの新参魔法使いたちが属する組織となっている。

 

・黄金の夜明け団

サーゼクスの眷属である、マクレガー・メイザースが創設者の一人として作り上げた組織。

近代魔術を主に扱い、タロット占いやおまじない系統も扱っている。

古き伝統と歴史を持っている魔術組織だ。

 

・薔薇十字団

クリスチャン・ローゼンクロイツによって生まれた組織であり、

その存在はもはや伝説化している。

実際は殆どが曖昧なものであるが、歴史から言えばこちらも古いものだ。

創設者の意志を継ぎ、錬金術や魔術等を駆使し、人間を救うとすらも言われている組織。

 

これらが大きな派閥として、魔法使い内では有名である。

その他を上げるとすれば、魔法少女コスプレ撲滅委員会と化しているニルレムがある。

品位ある魔法使いという自負がある彼らからすれば、

可愛いと言うよりもむしろ媚びた格好の少女(限定)が、

キャピ~ン☆きゅるる~ん☆とこれまた媚びた声で魔法を使う姿は、魔法使いへの侮辱とのこと。

 

それを率先して行っているのが、悪魔の頂点にいる四大魔王の一人、

セラフォルー・レヴィアタンだ。

ニルレムは度々彼女に、その恰好は魔法使いの品位を貶めるのでやめてほしいと言ったものの、

 

「え~そんなの私の勝手じゃな~い☆そもそも、そう言った考えの方が古いとおもうの☆

 そんな可愛くない恰好よりも、魔法少女の方がすっごい可愛いわよ☆」

 

と、むしろ彼女からあなた達の恰好は古臭いと言われてしまったのだ。

その結果、今まで抑え込んでいた彼らの堪忍袋の緒は切れた。

今では、魔法少女と名が付くものを須らく憎悪しているものだから、

そのコスプレ魔王の罪は大きいものと言える。

 

『魔法少女に鉄槌を!魔法使いの尊厳を穢す蛮行を許すな!』

『魔女のイメージだってあるのよ!イメージを破壊するのは止めて!』

『BBAが無理してるだけで気持ち悪い!』

『妹さんを思うならやめてあげなさいよ!』

 

そんなスローガンを掲げ、ニルレムは今日も抗議をしている。

 

それ以外には、魔女の夜(ヘクセン・ナハト)と呼ばれる組織もあるらしいが、

私からしても一切詳しいことは知らない。

ところで、なんでヴァルプルギスと名乗らなかったのだろうか。

正直、そちらの方が魔女っぽくていいんじゃないか?

 

魔女の夜(ヴァルプルギス)は、生者と死者の境が曖昧になる時間のことで、

それに対し、彷徨える死者の魂等を払うために火をたくのが決まっている因習だ。

魔女たちがサバトを開くとも言われている。

まさにどの組織にも属せなかったはぐれ魔女たちが名乗るには相応しいだろうに。

おっと失礼、脱線してしまったな。

 

今も言ったように、時にどの組織にも属さない、属せない魔法使いも存在する。

どの世界にもいるだろう?いわゆるはみ出し者という奴だ。

それらは総じて「はぐれ魔法使い」と称され、その存在は忌み嫌われている。

なんでも、破壊と混乱を招く存在だからとか。

 

他者に迷惑をかける奴等は置いといて、はぐれ魔法使い=危険存在という図式には、

儂としては物を申したいものだ。

正直に言ってしまうと、はぐれ魔法使いだからなんだ?というものでしかないのだがな。

 

そもそも魔法使いと言っても、結局はその分野に命すらも捧げる研究者とも言える。

ゆえに、時には協会のしがらみと言った物がその高みを邪魔することも多い。

その結果、はぐれとなる、ならざるを得ない者もいると考えられるが、

そんなことも考えつかなず、はぐれ魔法使いは悪!と見做す奴等の多さよ。

どいつもこいつも頭でっかちが多いものだから、魔法界隈も困ったものだ。

 

儂が言っても意味がないんだがなぁ。

 

まぁ、何事にも基準や規則というものは必要だ。

基準や規則と言った枠の無い混沌では、何もをってそれと認めるかなど判らないからだ。

一方、そのしがらみを守り続けることも考えものである。

その一歩を踏み出せば、今まで見たことのない世界に足を踏み入れることが出来ると言うのに、

その倫理に縛られるせいで、その一歩が、大いなる発展が妨げられることもある。

 

誰にも当てはまるが、無理やり抑え込もうとすれば、反発はより強くなっていくというのに。

抑え込まれた発条がより高く跳ぶように、缶の飲料が破裂するように。

 

正直、儂のような者としては、前者よりも後者を選ぶのが必然ではなかろうか?

綺麗事を並べて、お行儀よく魔法使いをやっている奴等は理解しているのだろうか。

各々が積み上げてきたものが、総じて主らのように『綺麗なもの』かどうか。

 

バカバカしい話だが、魔法や魔術系統によっては、

それこそズキューンバコーンのような出し入れをしたり、大人数で絡み合ってハッピー!な、

初心なねんねが顔から火を出しながら卒倒するようなこともしている。

魔術と性は結びつきやすいものだからな。

×××で×××して×××に×××しまくって、×××に発展し×××な展開なことも多々ある。

 

だがイメージというものは、時に恐ろしいものだ。

正直、表世界に出ているウスイホン?という奴の内容には、頭を痛めた。

確かにピーでピーなピーピーをピーピーすることもありそうだが・・・。

 

他にも、これは神様も困惑するんじゃないの?という、

血なまぐさい供物を捧げて力を得ようとするものもある。

そんなものを見ていれば、自分たちは『綺麗な魔法使い』と振舞う彼らの姿は、

儂からすれば随分と滑稽なものだ。

 

そして厄介なことに、奴等は異端を許さない。

綺麗であると自負するからこそ、そこから外れた存在を毛嫌いする。

セラフォルー・レヴィアタンによる、魔法使いのイメージを損なわれるのも嫌うし、

はぐれ魔法使いたちによる、魔法使いの存在の流布や、無関係なものへの被害を懸念する。

その度合いは、流布>被害だと思うがな。

 

そんなことを考えつつも、儂は目の前の状況に再び目を向ける。

儂の周りにはずらっと数名の魔法使いが取り囲んでいるのだ。

何故魔法使いと判るか?

黒い帽子に黒いローブと、一般的に想起される魔女の格好だからな。

伝統を重んじるという弊害と言えるのか、正体を隠さない気概に溜息を吐く。

 

雲一つない晴天なのだからと、旅先の町にあったカフェで、

その店おすすめのコーヒーとチョコレートケーキに舌鼓を打っていたのだが。

先ほどまで儂と同じようにコーヒーとカップケーキを頬張る方々がいたというのに、

儂の周囲にいるのはローブと帽子を被った魔法使い達のみ。

隣の席の二人もいつの間にかいなくなっていた。

おおよそ、人払いの結界でも張ったのだろう。

 

内心で、先ほどまでいた者たちと店の者達に謝罪をしつつ、視線を前に戻す。

 

「『下劣なるリーウィア』だな?おとなしく我らについて来てもらうぞ」

 

「すまんな、儂はこの店自慢のケーキと紅茶を楽しんでおる。用なら後にしてくれ」

 

正直、今はケーキタイムを楽しみたいので放ってほしい。

取りあえずこの集団の長らしき存在に一言いい、儂はケーキとコーヒーに目を向ける。

少しチョコレートが溶けかかっておるが、それもまたいいだろう。

そう思い、食べかけのケーキをフォークで切り分け、そのまま口に運ぼうとして、

 

ビチャ

 

突き刺していたチョコケーキが破裂し、顔にチョコレートが飛び散った。

頬に溶けたチョコレートが付着する。

 

「今のは警告だ。次は四肢を撃ち抜く」

 

顔についたチョコの残骸を舌で舐め、手から取りだしたハンカチで顔を拭う。

拭いながら左手の一指し指を集団の一人に向け、

 

「Eci」

 

氷像に変えた。

 

 

 

 

「撃て!」

 

仲間の一人が氷像になったことで、魔女隊のリーダーは、

対象を捕縛から殺害へと行動目的を変える。

彼女を取り囲んでいた同胞たちは、その言葉を合図に、一斉に魔力弾を放つ。

まるで爆撃を受けたかのように、白い砂煙が舞いあがり、

リーウィアのいた周辺を瓦礫へと変えた。

 

「まさか、こんなところに出てくるなんて・・・!」

 

苦虫を噛んだような渋い顔で、リーダーは相手の女を睨みつける。

 

『下劣なるリーウィア』、未知の魔法をを使う異端の(はぐれ)魔女。

彼女の存在は、魔女協会においてタブーに等しい。

曰く、人の形をした人でなし、禁忌に手を出した愚者、魔に溺れきった女等々、

彼女を蔑む言葉ならいくらでも出てくる。

一方で、かつての彼女を褒める言葉もいくつかはある。

曰く、魔女協会(当時)の期待の星、歩く魔導書、魔法の開拓者と、

当時の彼女がいかに優秀であったことか。

だが彼女は突如、協会から姿を消し、そして今ここにいる。

彼女が魔女協会から姿を消して何十年も経っているというのに、その姿は高齢者のものではない。

それこそ、彼女だけが時間から切り離されたかのように当時に近いままだ。

人形のような白い顔、鉱石のように無機質な赤い瞳、白茶色な髪、

かつての面影を残していたた彼女の姿は、はっきり言って異質だった。

 

指名手配犯だというのに、呑気に喫茶店でコーヒーとケーキを楽しんでいた。

茶色のコートを羽織り、紺色のズボンに白いセーター姿。

正直言って、指名手配犯の自覚すらないであろう姿に、最初は毒気を抜かれた。

 

だが、その認識が誤りだったと直ぐに気付かされた。

 

先ほどまでその瞳に見据えられている時、リーダーはすぐさま攻撃をしたい衝動に駆られた。

そうしないと、彼女自身がどうにかなってしまいそうで。

今もリーウィアのいる場所に雨の如く魔力弾が注がれているが、

リーダーの不安は一向に消えない、むしろより不安が高まってくる。

 

「リーダー」

 

仲間の一人の言葉に我に返り、攻撃を止めるように指示をした。

リーウィアのいた場所は、まるで嵐にでもあったのか、はたまた爆撃を受けたのか、

後の建物は廃屋と化し、煉瓦に敷かれた道は穴だらけ、もはや見る影もない。

だが何故だろう、安心出来なかった。

 

「各自ゴーレムを召喚し、一斉に叩け!」

 

「それはやり過ぎなのでは!?」

 

「良いからさっさとやれ!」

 

リーダーの怒号に、各々の魔女はゴーレムを呼び出し、攻撃場所へと向かわせる。

そして指示通りに、各ゴーレムは未だ砂煙が舞っている場所へと前進する。

と、砂煙の中から赤い光が見えた気がした。

 

『Attezi Ydorap』

 

その瞬間、一体のゴーレムが破砕し、その後方の魔女が朱い液体をぶちまけて吹き飛んだ。

 

「え?」

 

それを合図に、ゴーレムたちが塵へと還り、同じように魔女も四散する。

次々と周りが床を赤く染める中、リーダーの魔女は一瞬、ほんの一瞬だが、

何かが自分に向かっていると直感し、無我夢中で防護壁を生み出した。

そしてその直後、まるで全身が壁にぶつかったかのような衝撃を受け、

その勢いのままに壁へ叩き付けられた。

 

「カハッ!?」

 

肺の中の空気が一瞬で空になり、全身を駆け巡る痛みのせいで、上手く呼吸が出来ない。

ゼェゼェと呼吸する彼女の目の先で、砂煙が風にあおられて散った。

 

「うそ・・・でしょ・・・?」

 

そこにいたのは、砲身の長い銃をこちらに向けた、白いドレス姿のリーウィアだった。

 

 

 

「なによ・・・それ・・・」

 

四肢が螺子曲がり、口から血を流している魔女が儂の姿に怯えている。

先ほど儂に声をかけ、脅した奴だし、おそらくこいつがリーダーだろう。

 

「知らぬか?魔法じゃよ」

 

「そんなの知らない、魔導書にも、載ってないじゃない・・・!」

 

「書物だけが全てではない。お主はもう少し、外に目を向けるべきじゃったな」

 

パチンと指を鳴らせば、自分の姿が元に戻る。

 

「なんなのよ、アンタは一体何なのよ!」

 

「?」

 

怯えきった姿の魔女の言葉に、儂は首を傾げた。

 

「お主が言ったではないか、『下劣なるリーウィア』と。

 しいて言うなら魔法研究者じゃよ、お嬢さん。」

 

「ふざけないで!仲間を殺しておいて、何が魔法研究者よ!このはぐれ魔女め!」

 

「何を言うかと思えば、脅し、殺しにきておいて何を言っておる?

 まさか、抵抗されないとでも、自分たちは死なないと思っておったのか?」

 

儂は支離滅裂な魔女へと足を進め、僅か数センチにまで顔を近づけた。

 

「甘いわ、小娘」

 

「貴女がね、忌まわしき魔女め」

 

その瞬間、足元に魔法陣が現れ、光を放ちだす。

 

「ほう、これは・・・」

 

「塵に帰れ、異端の魔女め」

 

そして周辺が光に包まれ、リーダーは自分の作戦が成功したことに口元を歪めた。

ざまぁみるがいい、このまま私と共に死ね!

そうして最後に、異端の魔女の恐怖におびえる顔を見ようとして、

まるで面白い玩具を見つけた子供のように、口元を歪めた魔女の顔を見た。

 

『合格だ、君は連れて行くこと決めた』

 

そんな言葉が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

『Arumoh Imeka ydorap』

 

歯車の軋み、何かがひっくり返る音が聞こえ、世界のすべてが止まった。

光も音も、何もかもが動きを止め、モノクロで臭いの無い静寂が訪れた。

水滴は水玉のまま空に止まり、煙すらその形のまま石のように固まっている。

 

『久々にこれを使うことになろうとはな。まったく、長年生きすぎて耄碌しちゃったかな』

 

私は目の前で、ニヤリと口元を歪めた魔法使いを見つめる。

四肢が折れ曲がり、自分の血で汚れきっているのに、その顔は生き生きとしていた。

自分のやるべきことを果たせた、そんな満足した顔だった。

 

『まさかの自爆とは吃驚しちゃったな。それほどの覚悟だったなんて、正直感心ちゃうわ。

 でも、惜しかったわね』

 

内心、彼女の行動に感服しつつ、その思いを踏み躙るように笑う。

私はパチンと指を鳴らし、足元に描かれた魔方陣を解除する。

伊達に生きる魔導書と呼ばれた私ではない。

 

『本人は勘違いでも満足してるみたいだけど、このまま消失させるのはもったいないわよねぇ』

 

自爆してまで目的を果たそうとするこの子を死なせるのは、正直もったいない。

一体どうしようかと考えていると、ふといい考えを思いつく。

 

この子が使った魔法は、魔法陣内にいる全ての対象を消失させる自爆魔法。そして代償は自分の命。

鉄砲玉の為に作られた、(人材)使い捨ての魔法。ということは、この子は実質死んだことになる。

 

『どうせこの子は、このまま死人扱いになるだから、私が貰っても良いわよね!

 うん、それがいいわ。

 死人に口なし、本人が棄てちゃった命を、拾った私がどう弄っても問題ないわね。

 肉体は(書類上)木端微塵扱いになるだろうし、私が有効活用しちゃおっと』

 

思い立ったが吉日、私はすでに虫の息の魔法使いを背負うと、

箒替わりにライフル銃を呼び出し、そのまま空へと駆けて行く。

その瞬間、爆音と目のくらみそうな光が真下で巻き起こった。

 

「あーあ、気に入りそうだった町だったのになぁ。ま、人材が確保できただけで十分ね」

 

私は煙を上げる町を見下しながら、自分の隠れ家へと飛んで行った。

 

 

そして、新たな同士を生み出すことにした。

時折、一人ぼっちが寂しいくなるし、数が増えればその分効率も上がる。

 

『さて、この子を素体にして色々と混ぜちゃおっと』

 

物言わぬ躯の少女の周りには、おびただしい瓶詰の何か。

鉱石や液体に浸された動物、植物などが置かれている。

それらは異世界からの流れ物や、先生から譲り受けた物。

 

当初は貴重なサンプルで数が少なく、様々な実験で使い果たしかけたが、

今では異世界に行けるようになり、材料の問題は改善された。

 

『マジ狩る奈々葉の多脚モンスター因子に、魔女攻防の粘体スライム因子、

 プリンセスリボンの変身機能・・・よし、諸々入れちゃえ』

 

そして少女の肉体を魔法陣の中心のおき、周りを材料で囲む。

 

『ではハッピーバースデイ!新しい同士の誕生よ!』

 

祝詞と共に魔法陣を起動し、全ての物が溶け合い、混ざり一つになる。

そして、

 

『おはようございます、マイマスター(我が主)』

 

『おはよう、私の可愛い眷属ちゃん』

 

互いににっこりと笑いあった。

 

この日、魔女協会の記録名簿にあった名前が一つ。誰にも気づかれることなく消えた。

そこ記されていた名前の存在も、その世界から消えることとなった。

同時に、新たな異端がこの世界に生まれることとなった。

 

 

 

 

 

「いやはや、あの時は面白かったのぉ。まさか自爆の道連れにしようとしたのじゃからな」

 

儂は背もたれ椅子に深く腰を沈め、儂自身に見出された弟子1号に笑いかける。

 

「申し訳ございません、我が主(マイマスター)。かつての私がご迷惑をおかけしました」

 

ぺこりと頭を下げる弟子一号。

その気持ちを代弁するかのように、彼女の背後でうねっている触手もしゅんと垂れる。

 

「よいよい、あれは儂の愚かさゆえの結果であり、お主の覚悟が勝ったんじゃよ。

 まぁ、それ故にお主は全てを失い、そして生まれ変わったのじゃがな、キヒヒ」

 

その元凶の儂が言うのもアレだが、ほんのちょっぴりは同情しておる。

儂に関わらなければ、そうならなかったろうに。

 

「滅相もございません!主様のおかげで、私はより高みへと上がれたのデスから!

 ああ!かつての私の知識なんて単なるゴミだったのですね!

 主様の仰る通り、世界は広く深く、そしてどこまでも続いているのを実感できます!」

 

じゃが、儂の言葉を跳ね除けるようにハイテンションな弟子一号の姿。

それに呼応するかのように、触手もビタンビタンと暴れておる。

 

「う、うむ!そうであろう!確かに今までは狭い世界であった。

だが、それを卑下するのは止めよ。

今までのお主だった存在は、今のお主の礎になったのだ。それを忘れるでない」

 

「はい!忘れません!わたしはかつての私を忘れるつもりはありません!

 ええ!主様に褒めていただいた私(昔)捨てられるはずがないのデスから!」

 

「う、うん。えっと・・・、まぁ、気をつけなさいよ?」

  

なんというか、張り切って色々と混ぜ過ぎちゃったかなぁ・・・。

先生、やっぱり私はまだまだ未熟者です。

 

 

 

 

 

 

 

『凄い凄いすごいです!先生!今のは一体何なんですか?』

 

『魔法だよ』

 

私の問いに、先生は少し目を伏せて答えた。

 

『ですが先生、様々な本を読んだ私ですが、今のような魔法をみたことがありません』

 

私は先生に尋ねた。私の知る限り、先生が使ったのはどこの文献にも載っていないものだ。

勉学のために、色々と本を読み漁った私だからこそ解った。

 

『いや、確かに魔法さ。正しくはこの世界には記されていない魔法さ』

 

『この世界にはない魔法・・・ですか?』

 

『そうだ、この世界に定義されていない魔法だよ』

 

 

先生の言葉がよく解らなかった。

魔法というのは、この世界だけに存在するものでしかないのでは?

 

先生から教えて貰った世界では、魔法(物理)な世界や、魔法(プロレス)だったり、

魔法ではなく『魔砲』だったりと色々な定義がされているようだった。

指輪をはめてヒーヒーだのと五月蠅い音を鳴らして力を行使する存在もいるとか。

 

『でも先生、魔法というのは、私たちが使っているものでは・・・?』

 

『地域が変われば、考えも文化も言葉も違うように、世界が変われば魔法も違うんだ』

 

先生の答えは、私の琴線に触れた。

異なる世界には異なる魔法が存在する。それってとても興味深いです!

 

『先生!私、先生の魔法を知りたいです。異なる世界の魔法のこと、私は知りたいです!』

 

『その必要はないんじゃないかな?魔法に関しては、君は指折りの逸材だ。

 わざわざ私の魔法を知らなくても、君を評価する人たちはたくさんいるはずだ』

 

『そんなのはどうでもいいんです!先生の魔法を私は知りたい。それだけじゃダメなんですか?』

 

それは私の本心だった。

多くの先生が、私の両親が、私のことを認めてくれた、私の頑張りを褒めてくれた。

でも不思議なことに、私はそのことに満足していなかった、正直嬉しくなかった。

多少なりとも満足していたのかもしれない。でも、私はそれに満足できなかった。

言ってしまえば、私の好奇心を満たしてはくれなかった。

 

でも今、私の目の前には未知なるものが存在している。

私の知らない異世界の魔法が存在している、そしてそれを知ってい先生がいる。

琴線に触れないわけがない、興味をそそられないわけがない。

 

『・・・』

 

『先生!』

 

先生は屈みこむと、私の目を見て尋ねた。

 

『君に覚悟はあるかい?』

 

『!』

 

先生の目からは、普段の優しさを感じられず、ただ冷たい印象だった。

 

『私の魔法は、いわば異世界の知識だ。この世界の理から外れるものだよ?

 一時の興味に、全てを捨てることが出来るかい?犠牲に出来るかい?』

 

『私は・・・・・・!』

 

『一時の感情で決めてはいけない。

 そもそも、この世界にとって、私の魔法は知らなくていいものなんだ。

 私のせいで君が不幸になるのは、私は悲しいことだからね』

 

先生は普段通りの優しい目つきになると、私の頭を撫でた。

先生からしたら、これで私は止まってくれると思っていたのかもしれない。

でも答えなんて始めから決まっていた。至極単純明快な答えだった。

そして私は、異端となり果てた。異端となり果てた今(私)へと至る。

 

「それじゃあ異世界魔法研究のために、

 『カードクリエイターぶっろっさむ』と『マジ狩る奈々葉』の観賞しなきゃ」

 

私は先生から譲り受けた異世界の映像媒体を動かし、日夜異世界魔法研究に励むのであった。




・カードクリエイターぶっろっさむ
 小学生の少女が、魔法のカードで困っている人を助けるお話

・マジ狩る奈々葉
 迫りくる敵を魔法(物理)でなぎ倒す、魔法世界からやってきた王女のお話

・魔女ってマジか!?
 高校生男子が、ヒロイン(魔女)の秘密を守る為に奮闘する恋物語

・プリンセスのリボン
 なんにでも変身できる魔法のリボンを使って、王女様が人助けに大忙し

・神姫少女あおい
 神の力をまとった少女が、世界を闇に染める敵と戦うバトル物

・空飛ぶ魔法使い
 魔女あるある?ネタ満載のほのぼのストーリー

・魔女の攻防
 大切な王子様を守る為に、魔法使いの女の子が拳を駆使して頑張る恋物語

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