思いついたことを書いてみた   作:SINSOU

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多分、HSDD世界にあわないガチ勢


張りぼてのヒーロー(転生?第三弾)

タスケテ

 

それは心の中で叫んだ。

 

モウヤメテ

 

それは自身の行いに恐怖していた。

自分の身体なのに、自分の身体じゃない。

自分なのに、自分じゃない。それは怪物だった。

 

怪物の身体は本能のままに暴れた。

見えるもの全てを壊し、喰らい、血を啜り、そして笑う。

怪物を見た者は、怪物に恐怖し、泣き叫び、そして逃げ出す。

だが、怪物はそれを簡単に蹂躙する。

 

イヤダ

 

目の前で泣き叫ぶ子供を無造作に蹴り飛ばし、子供が裂けた。

母親だろう女が、その凄惨な光景に叫ぶ。鬱陶しいから同じように蹴り飛ばした。

 

ヤメテ

 

自分は何度も叫んでいるのに、自分の身体は勝手に動く。

子供を、大人を、老人を、目に入るすべてを蹂躙する。

 

ヤメテヨォ

 

怪物は嗤う。自身が蹂躙した者達の末路を嘲笑って、目から赤い涙を流して。

 

モウイヤダ

 

目から赤い滴を零しながら、怪物は嗤う。

 

ダレカワタシヲ

 

自分自身を呪いながら。

 

コロシテ

 

怪物は願う。

 

 

 

 

「分かったわ」

 

突然の声に、怪物は動きを止め、声の方へと振りむく。

そこはに人がいた。

紺色のジーンズを履き、上は灰色のダッフルコートを纏い、黒の野球帽をかぶっている。

首元には赤い色をしたペンダントがかかっている。

帽子を目深にかぶっているせいか、顔が見えず、性別も分からない。

ただ帽子から見える髪は薄い茶色だった。

そして怪物は気付く。

目の前のこいつはいつの間に現れたのか?どうしてこいつに気付けなかったのか?

そして、この場にいるのは自分と目の前の人間だけだと。

さっきまではたくさんの玩具がいたのだが、

自分がぷちぷちと壊している間に逃げられてしまったようだ。

ならば、目の前のこいつで今日は最後にしよう、怪物はそう決定し、ニタリと笑う。

その口からはだらだらと赤い唾液が滴る。

 

ニゲテ

 

怪物は叫ぶ。もう自分のせいで誰かが死ぬのは見たくない。

でも、自分ではもはや止められない。故に怪物は、聞こえない叫び声を上げるしか出来ない。

 

「それは無理ね。だって、貴女の声が聞こえたから」

 

そう言うと、その人間は首元のペンダントを握りしめ、

 

「だから貴女の願い、私が叶える」

 

叫ぶ。

 

「鉄槌を下せ、ミョルニル」

 

その瞬間、ペンダントから眩い光が迸り、怪物は咄嗟に目を閉ざした。

そして目を開けると、そこにいたのは黒と金色の甲冑だった。

顔も黒色のマスクで覆われており、目の部分は赤い光を放っている。

口元に当たる部分からは、排気音と共に白い煙が漏れた。

そして甲冑からは、時折バチバチと光が走っている。

その姿に、怪物は一歩後ろに下がった。

 

怪物は感じたのだ。目の前にいる甲冑は恐ろしい存在だと。

今すぐに逃げるべきだと。

そして怪物はその本能に従い、その場から離れようと足に力を込め、

る前に、目の前に甲冑が立っていた。

そして気付けば、甲冑の右腕が自分の身体を掴んでいた。

怪物は振り剥がそうともがくも、いっこうに引きはがせない。

ならばと、怪物は甲冑に向けてその爪を突き刺そうと振るうが、逆に爪が砕けた。

目の前で自分の爪が砕ける様を見た怪物は、一瞬呆けてしまう。

その瞬間、怪物は甲冑に引っ張られて宙を舞い、路上に叩き付けられた。

 

その後、怪物は何度も何度も何度も何度も何度も、路上に叩き付けられた。

さながらメトロノームのように、右左の地面にギッコンバッタンと叩き付けられた。

その度に、怪物の顔から、身体から、何かが砕ける音が響き渡り、

体中から赤いしぶきが迸り、路上を真っ赤に染めていった。

それは皮肉にも、さっきまで怪物がやっていたことを真似るかのように。

 

しばらくして、甲冑は右手を離し、怪物の方を見る。

そこには、四肢は螺子のように捻じれ、飴細工のように歪み、

赤いペンキを被ったかのように、真っ赤に染まった怪物がいた。

四肢はまだ痙攣しており、怪物は幸運にもまだ生きていた。

 

怪物が息をしているのを確認すると、甲冑は右手を大きく掲げる。

すると、装甲に覆われていた右腕から、何やら音が響きだす。

歯車が軋みだすような音、エンジンのタービンが回り出すような音。

それらの音と共に、右腕の装甲が全方位に展開される。

まるで開いた傘の骨組みのように展開された装甲。

そしてその装甲内では、バチバチと電気が暴れ駆け巡っている。

 

甲冑は首を動かし、怪物を見下す。

もはや死ぬのを待つだけの怪物は、辛うじて動けた目を動かし、互いに視線が交わった。

 

アリガトウ

 

「ごめんなさい」

 

甲冑は右腕を怪物に振り下ろした。

その瞬間、晴天だというのに、轟音と共に稲妻が落ちた。

 

 

 

 

目の前で炭になった怪物が、風に乗って崩れていく。

私は何も言わず、その光景を眺めていた。

掌にに残った僅かな灰を握り締め、私は右手を地面に叩き付けた、何度も何度も。

その度に地面が抉れ陥没していくが、私は気にも留めずに殴り続けた。

 

すると、何かが地面に落ちたのか、コンという音がし、私は音の方へと顔を向けた。

見れば、黒いチェスの駒がそこにあった。形からして『兵士』の駒だろう。

 

私はその駒を掴み、バイザー機能を働かせ、それを調べる。

そして分かったことは、目の前の駒は、あまりにも悍ましいものだということだった。

名称は判らないが、それは生物の根幹を弄り、別の生物に書き換える術式が組み込まれていた。

 

それは、私の世界では禁忌に等しい術式だった。

 

別の種族に変える魔法や技術はあるが、あくまでその機能を一時的に借りているだけだ。

水中で呼吸出来る魔法を使っても、人間は人間、獣人は獣人のままだ。

種族すらも弄ることは、その生命を侮辱する考えがあるからだ。

そして、どうやらこの駒には、一種の先導術式も組み込まれていた。

それは、悪魔として振舞うように意識を誘導する、一種の洗脳だった。

自分達を上位種と考え、それ以外は全て下等と見下す。

自分たち以外を玩具と見做し、自身の欲望を溢れさせ、最後は暴走させる。

おそらく、そのなれの果てが・・・

 

私は手にしていた駒を握りつぶした。

 

「許せない」

 

不思議と声が零れていた。

命をなんだと思っているんだ。命は変えていいものじゃない。

私には怪物の声が聞こえていた。

 

タスケテと

 

イヤダと

 

コロシテクレと

 

元がなんであったかは私には解らないし、もう知れない。

本当は怪物の自業自得かもしれない。でも、怪物は後悔していた、自分の行いを。

許されない罪だろう、許されていない罪だろう、周りを見れば、

怪物が行った凄惨な行為を様々と見せつけられる。

でも、もしかしたら、怪物にもやり直せるチャンスがあったかもしれない。

苦しんで、苦しんで、永遠に苦しみ続けることになっても、罪を償えたかもしれない。

でもそれは永遠に来ることはない。

なぜなら、その機会を永遠に奪ったのは自分だから。

私は拳を地面に叩きつけ、巨大なクレーターが生まれた。

 

 

すると、パチパチと拍手の音がきこえた。

音の方を見れば、なにやら中世の貴族が着るだろう、時代錯誤の服を着た男が立っていた。

 

「いやー、素晴らしいですね!」

 

男の声は明るく、それが余計に私をいらつかせる。

 

「逃げ出したペットを処分しようとしたら、人間界に逃げられてしまいまして。

 流石にばれたらまずいと思い、わざわざ来てみれば、今まさに倒されたんですからね!」

 

拍手の音が盛大になる。

 

「それにしても、君は素晴らしいですね!ペットとは言え、アレは僕の眷属の一人でしたからね。

 並大抵の中級悪魔にも負けないのですが、それがまさかの一撃!本当に僕は幸運だなぁ!」

 

そういうと、それは私にこう言った。

 

「アナタ、僕の眷属になりませんか?」

 

沈黙の私に、男はべらべらと語り出す。

悪魔になれば、好き勝手生きられる、力さえあれば何をしても構わない。

まさに悪魔の勧誘だった。

 

私は悪魔に尋ねた

 

「私が倒した怪物のことを、お前はどう思った?」

 

悪魔はどうでもいいような顔をして、

 

「別に何とも思っていないよ。いらなくなったペットに興味なんて無いからね」

 

「そう」

 

その言葉に、私は悪魔に向けて歩き出す。

 

「僕の提案を受け入れてくれるんだね!?

 そうだね、この提案は君にとっても良い話だ」

 

私は左腕に力を込める。

 

「鉄槌を下せ」

 

それを合図に、左腕の装甲が展開する。

 

「これで僕もレーティング・ゲームに挑めるというものだ。

 君の力は僕のために使わせてもらうからね!」

 

悪魔の言葉を無視して、私は歩く。

 

「ほら、これが悪魔になるための駒、悪魔の駒さ。

 君の強さからして『戦車』が良いだろう。さあ、受け取ってくれ!」

 

悪魔は、目の前に立った私に、先ほどとは違う形の駒を渡す。

だが、それはさっきの駒と同じ力を宿していた。

 

私は右手を差し出し、それを受け取る。

そしてその駒を握り潰し、

 

「ミョルニル」

 

雷を纏った左腕で目の前のそれを殴り潰した。

 

 

 

 

周囲が帯電している中、私は力を解除する。

すると、自分の姿は変身前の恰好に戻り、赤い石のペンダントが首にかかっている。

 

「いいだろう」

 

私は目深にかぶった野球帽から、まだ見ぬ悪魔を見据える。

自分達の欲望のために、他者を犠牲にする悪魔。

そのために誰かが犠牲になるというのなら、

 

「私がお前達を潰す」

 

私はそう呟いた。


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