思いついたことを書いてみた   作:SINSOU

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大好きお兄ちゃん


「お兄ちゃん」

 

『なんだ?』

 

お兄ちゃんが答える。

 

「なんでもない」

 

『んだよ気味悪ぃな。言いたいことがあるならさっさと言え』

 

お兄ちゃんの声が少し上がった。

 

「なんでもないの。ただ呼びたかっただけ」

 

『ったく、用もないのに声をかけんなっての。てか、いい加減兄離れしろってんだ』

 

『そうだ、なぜ私には頼ってくれない。

 私はお姉ちゃんなのだから、私にも頼るべきそうすべき。』

 

「だってお兄ちゃんはかっこいいし。

 それにお姉ちゃん、お兄ちゃんのことを馬鹿にするもん」

 

私は間を置かずに答えた。

お兄ちゃんもお姉ちゃんも、呆然としたのか、それとも呆れてしまったのか、

しばらくの間、黙ったままだった。

 

『なあ』

 

「なに?」

 

『死ぬなよ』

 

「うん」

 

『何が何でも生きなさい』

 

「うん」

 

ガコンと音を立て、鋼鉄の扉が開いた。

 

 

 

 

喧騒に満たされた夜の町を、私は歩く。

街灯によって街中は光で溢れ、それと同じように、色々な音が、隙間ものあく飛び交っている。

人、車、物、色々なものがこの世界で動き回っている。

様々な物に溢れかえっている町の仲を、私は進んで行く。

ジャラリジャラリと、私から音が響くが、人々はそれに気付くことはない。

私という存在にも気付くことはない。

人々の会話が、客を招く声が、車の騒音が、店から流れる音が、それを消し去ってくれるから。

 

そして私は、光り輝く道から逸れ、先ほどとは真逆の真っ暗な、湿った道へと入っていく。

見えてきたのは、この町には不似合いな建物。

とこどころが罅割れ、白であろう塗装も剥げ落ち、コンクリートを覗かせた、薄汚れた建物。

私は一端足を止め、建物の周囲をぐるりと回る。

サラサラと白い粉を落とし、建物をぐるりと囲む。キンッとガラスが震えたような音がした。

私はゆっくりと、建物へと足を進めた。

 

 

「しねぇぇえぇぇぇぇぇぇぇl!!」

 

足を踏み入れた瞬間、私に向かって数多の光が放たれる。

それは全てが魔力の塊であり、触れれば簡単に物を砕けるほどの力も持っている。

もちろん、肉の塊である人間が当たれば、簡単にひき肉にされて、ハンバーグの具材だ。

私の前方180度を埋め尽くす魔力のを目視し、私はジャラリと音を奏でた。

 

 

「やったか!」

 

一人の男が声を上げた。

彼の頭には大きな山羊の角が生え、背中にはコウモリの翼が生えていた。

それは十中八九、見る人が見れば、悪魔と答えるであろう風体だ。

他にも、狗の顔をした男、頭から別の角を生やした女、合わせて十数人。

彼らは建物の入り口で陣を取っていた。

目的は2つ、自分たちの主を守ること。

そして先ほど、この建物を覆うように結界を張ったであろう侵入者の撃退。

おそらく、自分たちを殺しに来たエクソシストか、魔を払う者の類いだろう。

もしも侵入を許せば、確実に自分たちは殺される。

故に、彼らとて生き残る為に、死にもの狂いだった。

そして足を踏み入れた侵入者に対し、彼らはあらん限りの魔力を撃ち込んだ。

その数、数えて数百を超えるだろう。機関銃の一斉掃射も真っ青かもしれない。

そして何かが壊れる激しい音が響き、白い煙が蔓延し、彼らの視界を覆う。

 

「流石にこれだけの数を撃ち込んだんだ。奴は肉すらも残らず死んだはずだ!」

 

リーダー格の男が声を上げる。

その声は震えており、恐怖からの安堵か、はたまた生の実感か、顔は喜んでいた。

だからこそ、その頭に新しい角が生えたことに気付かずに灰となった。

 

「え?」

 

リーダー各の憐れな姿を見て、周囲の彼らは言葉を漏らした。

ジャラリと音を立て、何かが動く。その音を頼りに、他の魔物たちは音の方へと顔を向けた。

そしてそこにあったのは

 

「氷の壁?」

 

先ほど自分たちで集中攻撃を行った入り口に、大きな氷の壁があった。

まるで城塞のように、壁のように現れた氷の壁は、多少なりと罅が入っているが、

その頑強さを示す様に、自分たちの目の前に聳えていた。

と、いうことはまさか・・・!

 

「て、撤退・・・!」

 

氷の壁が大きな音を立てて砕かれた。

同時に壁だった氷の飛礫が弾丸の如く放たれ、壁の前にいた者達を襲う。

咄嗟に魔術防壁を作った者はそれを何とか防ぐが、

判断に遅れた者たちはその弾丸を全身浴び、透明な氷を真っ赤に染めた。

 

「くそ、やられた!奴はまだ生きてるぞ!」

 

防壁で凌いだ悪魔が叫ぶ。その声に叱咤され、生き残っていた悪魔たちも周囲を見渡す。

だが、怪しい存在は見当たらない。

 

「どこだ!一体どこに消えやがった!絶対にぶっ殺してやる!」

 

殺されたリーダー格は、彼らにとっては兄のような存在だった。

多少なりと頭が軽いが、それでも頼りがいのある兄のような存在だった。

それが一瞬にして死んだ、灰となった殺された。

彼らからすれば、親しい仲間を殺されたのだ、許せるはずがない。

タン、と何かが自分達の後ろに落ちた。

 

「!!」

 

一時の静寂。そして一瞬の間を置いて、彼らは侵入者を殺そうと各々の手を向ける。

ジャラリと音が響いた。

すると今度は、固まっていたグループの一部が、下半身が立ったまま崩れ落ちた。

その頭には、眉間を貫くように銀のナイフが突き刺さっており、彼らは呆けたまま絶命した。

 

ジャラリと音を立て、何かが動く

 

「くそ!?一体なんだ!」

 

すると今度は、屋内だというのに強風が巻き起こり、

部屋の家具諸共、魔物たちが吹き飛び、壁に叩き付けられる。

と同時に、縫い付けるかのように、体中にナイフが突き刺さる。

その姿は、まるで昆虫標本の様だ。

ジャラリと音が響く。

 

「どうした!?奴を始末できたのか!」

 

騒がしい音を聴きつけ、上から誰かが降りてきた。

 

「あ、主様!早く逃げてください!」

 

主の姿を見た配下は声を荒げた。

侵入者を撃退出来たと思ったのに、正体不明の存在に、一瞬にして自分たちは半壊したのだ。

 

「貴様!それでも俺を守る配下か!さっさと侵入者を殺せ!」

 

だが悲しいかな、配下の言葉も今の主には届かなかった。

ジャラリと音がした。

 

「させるかぁ!」

 

主を支えていた部下は、咄嗟に音の方へと手を伸ばし、何かを掴んだ。

それは途端に高熱を発した。まるで熱した鉄を握ってしまったかのように。

だが配下は、音の正体を見極めようと必死に耐えた。そして彼の掴んだもの見た。

 

「鎖・・・だと・・・?」

 

それは鎖だった。まるで大蛇のようにうねる度に、ジャラリと音がする。

その先端には、何やら光るものが備わっていた。それはまるで、刃物の先っちょのようにな・・・。

と、その先端が動き、握りしめていた彼の腕を切り落とした。

必死に声を荒げずに堪え、部下は鎖の下を目で追う。

鎖は蛇のようにうねりながらも動き、ジャラリと音を鳴らす。

 

そこにいたのは、

 

「まさか子ど」

 

彼は最後まで言うことが出来ず、

まるで見えない鉄槌を受けたかのように、全身を吹き飛ばされて死んだ。

 

残ったのは、彼らの主であろう悪魔のみ。

その主も、目の前の惨状に声を上げることも出来ず、ただただ震えているだけ。

 

「き、貴様ぁあ!一体なにものだぁ!こんなことをしてただで済むとおもっているのかぁ!?」

 

主の悪魔には自負があった。

自分は上位悪魔の一人であり、それなりに地位も築き上げてきた。

人間界においても、彼はこの町でそれなりに契約を行ってきた。

悪魔側からすれば、彼の行いは絶賛されるほどだ。

それが人間側にとっては、決して果たされることのない『悪魔の契約』だとしても。

もはやこの町に用はなく、さっさと冥界に帰るはずだったのに、この現状はなんだ。

帰れば、悠々自適な生活が待っていたというのに、この現実はなんだ。

あと少し、あと少しだと言うのに!このクソな人間に全てをぶち壊されるというのか!

 

「このクソがぁぁあっぁ!」

 

怒りに染まった悪魔は、目の前のクソッタレを殺そうと右手を挙げる。

この至近距離だ、回避も出来ない。

まともにくらえば奴は死ぬ、咄嗟に防御してもその隙に逃げられる。

そして自分は、冥界に逃げ、自分に歯向かったこいつを殺す算段を・・・!

 

ジャラリと音がした。

 

自分の右腕が凍った。

 

「は?」

 

自分の右足がずれた。

 

「ひ?」

 

自分の左足が捩じ切れるようにすっ飛んで行った。

 

「ふ?」

 

自分の左腕が爆散した。

 

「へ?」

 

一瞬にして四肢を失くした悪魔は、そのまま地面に落ちた。

 

「がぁぁぁぁぁあぁあぁあぁぁぁあああぁぁぁ!?いたい痛いいたいたい!?」

 

悪魔は動くことも出来ず、そのまま痛みに泣き叫ぶことしか出来ない。

そして彼の目に見えたのは、

左腕から複数の鎖を放出している、仮面をつけたエクソシストだった。

 

 

 

 

悪魔を殺せ

魔物を殺せ

教会に逆らおう者を殺せ

 

生まれた時から私たちはそう教えられた。

私たちに名前はない。そもそも、名前という概念すら無かったのかもしれない。

みんな、数字で呼ばれていた。

 

ナンバー〇〇、ナンバー〇〇、ナンバー〇〇、みんなそう呼ばれていた。

ナンバーが付くのはまだ良い方で、下手をすれば〇〇と、数字だけ呼ばれたこともある。

最初はそれが自分のことと気付くことは難しかった。

そもそも、自分がそう呼ばれているという事すら知らなかったからだ。

そうなれば、白い服を着た人たちにぶたれた。そして理解させられる。

彼らが上であり、自分たちが下であることを。

彼らの命令は絶対であり、逆らうこと、彼らの怒りを買うことは、自分の首を締める愚行だった。

 

時折、私たちの中で彼らに逆らう子もいた。翌日にはいなくなった。

彼らの言いつけを守らなかった子もいた。翌日にはいなくなった。

彼らの言葉を無視した子もいた。翌日にはいなくなった。

それを繰り返し行われれば、嫌でも気付かされるのだ。

きっと、もう帰って来ないことを。

 

そして私たちは、悪魔を、魔物を、教会に逆らう者達を殺すことを教えられた。

聖水、銀剣、白木の杭、塩、聖歌、聖書、などなど、魔に対抗するための知識を教え込まれた。

繰り返し繰り返し繰り返し行い、それが無意識にまで刻まれるほどに、私たちは教え込まれた。

 

次に行われるのが戦闘訓練、文字通り殺すための技術を刷り込まれた。

いかに相手を殺すか、効率よく殺すか、合理的に殺すか、無傷で殺すか、苦しんで殺すか、

様々なことを実戦で学んだ。

私たち同士を戦わせて。

切られた痛みで泣き叫ぶ子もいた、血を見て吐いた子もいた、殺せないと剣を落とした子もいた、

みんないなくなった。

 

残った私たちに掛けられた言葉は、「合格」という言葉。

そして番号と呼ばれなくなり、ようやく名前が付けられた。

 

沢山いた私たちは、気付けば3人になっていた。

髪が白く、眼つきも口も悪い私よりも背の大きい男の子。

髪が白と黒の半分で、口は軽かったけど、頼りがいのある女の子。

そして、私。

初めの時は会話すらなかった私たちだけど、

ここまでくれば、不思議と言葉を交わす様になっていた。

私にとって、男の子はお兄さん、女の子はお姉さんのような存在になっていた。

皆と一緒に入れたことが、私にとって救いだったのかもしれない。

でも、彼らはそれを簡単に引き裂いた。私たちはみんなバラバラになった。

 

そして私が移された新しい場所で待っていたのは、、

複数の神器移植による、新たな悪魔殲滅兵士の運用実験。

複数の魔剣を操れる完成体(ジークフリート)を参考に、

優秀なエクソシストに複数の神器・聖剣・魔剣を移植することで、

新しい戦力としてのエクソシストの創造と、その有用性を実験すること。

そして私に移植されたのは、彼(ジークフリート)の持っていた魔剣の欠片。

 

彼の有している魔剣の欠片を、特殊技法で生成された鎖に固定し、私に移植したのだ。

疑似的とはいえ、魔剣を操れる私はいわば、ジークフリードモドキ。

ある意味、彼らは第二のジークフリードを生み出せたんじゃないかな・・・。

 

 

「化け物!この化け物がぁ!」

 

私は、目の前でゴロゴロするしか出来ない悪魔に、溜息を吐いた。

なぜ、今の現状でその言葉が吐けるのだろうか。

まるで自分は化け物ではないと言いたいのか。

それを言うならば、私はまだ人間だ。そして目の前の悪魔は悪魔だ。

私からすれば、お前の方が怪物だ、と言いたくなる。だが、私は討論も会話もする気はない。

私は自分の神器に指示を出す。

私の指示を受け、ジャラリと音を立てて鎖が動きだし、目の前の悪魔に襲い掛かる。

そしてジャラリと音を立ててれば、鎖は私の中に戻った。

私は、灰となった悪魔を見届けると、建物に火を放ち、振り返ることなくその場を後にした。

大丈夫、結界によって周囲に燃え移らないようにしたから、安心だと思う。

 

 

『ごくろうさん』

 

お兄ちゃんが声をかけてくる。

 

「うん、今日もお仕事頑張ったよ」

 

『うんうん、怪我もなくてお姉ちゃんも安心」

 

ごめんねお姉ちゃん、私、お兄ちゃんと話をしてるの。

私の言葉に、お姉ちゃんの態度が一気に不機嫌へと傾いた。

 

『酷い、リムルがグレた。それもこれもフリードが悪い』

 

『知るか、そもそもお前の態度も問題があるだろうが。

 ことある毎に俺に責任を擦り付けるのマジでやめろ。終いにゃ怒るぞ!』

 

『こんな横暴なお兄ちゃんといると、リムルが影響を受けて悪い子になる。 

 だからリムルは私と一緒にいるべき』

 

お兄ちゃんとお姉ちゃんの口論に、私は溜息を吐く。

でも、それが私にとっての生きがい。お兄ちゃんとお姉ちゃんがいると、私は頑張れる。

でも、そろそろ本物の二人に会いたいなぁ。もう我慢の限界だし、一人遊びにも飽きちゃったし。

私は、自分の頭で描いた二人と会話をしながら、一人街中を歩いていく。

 

その数日後、三勢力による和平が成立することになる。

 




神話系統の作品って、なぜか近くの図書館に無いから困る。

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