思いついたことを書いてみた   作:SINSOU

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猛犬
正義の名の下に


誰も彼もが、あたしを置いていく。

 

 

早くから両親を失い、孤児として生きていたあたしは、薄汚い貧民街(スラム)で暮らしていた。

小さかったあたしを雇ってくれる奴等なんているわけもなく、金を稼げなかった私は、

食べるものさえも一人で見つけなきゃならなかった。

あたしは生きる為に必死だった。

金を持っていそうな頭の緩い大人から金を掏ったこともあれば、

食い物を持っていた餓鬼を殴って、食い物を奪ったことすらある。

逆に、あたしが奪った金や恵んでもらったパンを、力だけが取り柄の奴に奪われたこともあった。

みんな、そうしないと生きていけなかったから。

優しそうな婆さんから貰ったパンを、彼奴らはあたしの目の前で食った。

うまいうまいと、あたしに見せつけるように食っていた。

幼かったあたしは、一方的に殴られるしかなくて、ボロボロになった身体を床に横たえて、

あたしは自分の無力さと糞どもへの憎悪を滾らせ、ただ泣くことしか出来なかった。

 

だが、それはあたしに力が無かったからだ。

力が無かったからあたしは奪われた、それだけだった。

力が無い奴は、生きていく資格すらない。

それが当たり前の世界だった。

 

あたしが強くなろうと思ったのはそれからだ。

別に何も考えちゃいなかった。ただ、奪われたくないと思っただけ。

ゴミ山に棄てられていた木の棒を、あたしはただ馬鹿みたいに振り続けたし、

小石を壁に投げつつけたこともあれば、何度も壁を殴り続けたこともあった。

それを、なんど太陽と月が回ったかも覚えてないほどに繰り返した。

あたしは只々、がむしゃらだった。

糞どもに二度と奪われたくなかったから、二度と惨めな思いをしたくなかったから。

結果として、あたしは強くなった。

それこそ、あの時にパンを食いやがった糞どもを、一方的に痛めつけられるくらいには。

 

あの時と同じように、パンを持って歩いて、あの糞どもが出てくるのを待ちわびた。

あたしの顔を見て、ニタニタ笑いをしていた奴らを、あたしは痛めつけた。

助けてくれと泣き叫んでいたあいつらの顔は、まさに滑稽でしかなかった。

あたしは口元を歪めて、何度も何度も糞どもを殴り続けた。何度も何度もだ。

晴れあがった顔で、ただ助けてくれと懇願するだけ奴等に飽きたあたしは、

止めでも刺してやろうと、転がっていた赤錆びたパイプを手にとった。

ひぃ!?と情けない声を上げた糞どもに振り下ろそうとして、あたしの手は掴まれた。

 

「止めてあげなさい」

 

振り返れば、山のに大きな人影がそこにいた。

あまりに大きすぎて、あたしは見上げるしか出来なかった。

あたしは手を振りほどこうと必死に足掻いたが、結局はただジタバタしてただけだった。

あたしがもがいていると、ボコボコにした糞どもが、悲鳴をあげながら逃げて行った。

その後ろ姿は、ひどく小さく見えた。

気付けば、あたしはもがくのを止めていた。

 

変な話だが、あたしは諦めていたんだと思う。

あたしはここで死ぬんだなってね。所詮、力がある奴が正しい世界。

彼奴らをボコボコにしたあたしは、あたしより強い奴にボコボコにされるだけなんだってさ。

ならいっそのこと、腐った世界から解放されたかったんだろう。

だが、あたしが思っていたこととは違う結果になった。

 

「お前さん、教会に来ないか?」

 

それがあたしと先生との出会いだったんじゃないかな。

多分、あの時が一つ目の分岐点なんじゃないかなって思う。

 

 

 

「フィル、またやらかしたみたいだな?」

 

あたしの前で、苦笑いをする先生。ここは教会に置かれた、先生の部屋だ。

先生の山みたいな巨体のせいか、座っている椅子が小さく見える。

あたしはそんな先生の視線を逸らしながら、必死に言い訳を考えていた。

 

「だってあの神父の話、すっげぇつまんねーだもん。

 いつもいつも、長ったらしい神の言葉なんか聞かなきゃなんねーし。

 そんなことより、あたしは先生と訓練をしたいんだ!

 あたし、先生みたいになりたくて仕方ねーんだよ!」

 

「私のようになりたい・・・か」

 

先生は少し、寂しそうな顔をした気がした。

 

「先生・・・?」

 

「フィルよ、なぜお前は私のようになりたいんだ?」

 

「だって、先生はすっげぇ強いからな!あたし知ってるんだ!

 先生はすっごい強くて、どんな悪魔でも倒せるって。あの魔王でさえ、先生を怖がってるって!

 それにあたしは聞いたんだ!先生が天使様から御使いにならないか誘われてるんだって!」

 

「そうか」

 

先生の顔が変わった。それは、先生が何か考えてる時の顔だと、あたしは知っていた。

 

「ならば私よりも強い者が現れれば、フィルはその者を目指すのか?」

 

あたしは首を横に振った。

 

「そんなことない!あたしは先生に憧れたんだ!

 先生だから、あたしは先生みたいになりたいって思ったんだ。

 それに、先生より強い奴なんていない。だって、先生は強いんだから!」

 

あたしは思いのままを言葉にした。

あの時、あたしは先生によって救われて、先生のおかげで生きてる。

あたしの目標は、先生以外に存在しない。だって、先生はあたしの全てだから。

 

先生は黙ったまま、あたしの方へ歩いてくると、

その岩のようにごつごつした大きな手を、あたしの頭に置いた。

 

「フィルよ、この世には必ずというものはない。私もその流れに逆らうことは出来ん。

 いつかは私も、誰かに敗れる。これは必然の理だ」

 

私の見つめる先生の顔が、少し笑った。

 

「だからこそ、人は強くなれるのではないかと思うのだ。

 私たち人間は、悪魔や天使や堕天使など、

 他の人外からすれば蝋燭の火のように乏しい命かもしれない。

 だが、その儚い命ゆえに、人は足掻き、研鑽し、己を高めてきた。

 人であるからこそ、私はここまで成長できたと思っている」

 

わしゃわしゃと、あたしの頭を撫でる先生は穏やかだった。

あたしは、先生の言葉がよく分からなかった。でも、なんとなくその思いは解った気がした。

 

「なら先生!あたしが先生よりも強くなる!あたしが先生を倒して、

 あたしを鍛えてくれた先生はすっげぇんだって、みんなに知らしめる!」

 

「そうか、それは楽しみだ」

 

これが、あたしの2つ目の分岐点だったと思う。

先生を越える事、あたしはそう決心した。

 

 

 

 

降りしきる雨の中、あたしは一人、目の前の魔物と対峙していた。

その魔物に名前はあったんだろうけど、あたしは興味なんて無かった。

あたしはただ、目の前のこいつをぶっ殺しに来ただけだったから。

熊のような大きな巨体を持ち、目に見えて分かるほどに長く鋭い爪が、

あたしを引き裂こうとチラついてる。

この魔物は、ここ付近の村々を襲い、多くの死人を出した凶悪な魔物だった。

あるものは首を噛み千切られ、あるものは半分に切り離され、あるものは頭を潰された。

そこに、大人の子供も老人も女も男も関係なかった。

そのため、あたしが派遣されたんだ、こいつをぶっ殺すために。

 

降りしきる雨のせいで視界は悪く、雨音のせいで耳も頼れない。

そんな状況で、あたしはこいつを追い込んだ。

まあ、相手もなかなかで、身体のいくつかを切られ、血が滲んでいるんだけどな。

お互いに手負いの中、あとは相手に一撃を当てるだけ。

 

そんな生と死の狭間、雨が目に入ったあたしはその目を一瞬閉じ、その隙をついて魔物が駆ける。

幾人も手に掛けたその爪が、あたしの胸を貫こうと迫る。

あたしは自分の得物であるハルバードの柄を突出し、その魔物の指の間に入れ、間一髪で止める。

そのまま柄をずらし、魔物の体勢を崩そうとするが、魔物はもう片方の手をあたしに突き出す。

頭を下げて躱すが、そのせいであたしが魔物の下になり、体格と体重の差で、

あたしが魔物に押し倒されてしまった。

ハルバードが盾となるが、逆にあたしを押さえる重しにもなっている。

顔を貫かんと振り下ろされる爪と、かみ殺そうとする牙を、あたしは首をよじって躱し続ける。

だが、それだって通用しなくなる。だからあたしは賭けをした。

相手の爪を躱し、かみ切ろうと迫った牙を避け、あたしは逆に魔物の首に噛みついた。

それこそ牙を突きたてるように。

まさかあたしに噛みつかれるなど想像してなかったようで、引き離そうと魔物は暴れる。

だが、あたしは必死に噛みつき、魔物の肉を噛み千切った。

援軍として駆けつけた同僚曰く、

首から赤い血が噴出する様の魔物を、あたしは口元を真っ赤に染めて見ていたという。

そのせいであたしは『猛犬』なんて呼ばれるようになった。

それこそ怒った際に、髪の毛が犬の耳のようにピンとたつとか、そんなことも相まって。

正直、御免こうむりたい名前だ。

 

 

「聞いたぞフィル。また悪魔を倒したらしいな」

 

猛犬と呼ばれてからはや数年、教会の庭で昼寝をしていたあたしは、声をかけた方へと振り向く。

そこいたのは、髪の一部を青く染めた、おかしな髪をしている同僚だった。

彼女の名はセノヴィア・クァルタ。

『斬り姫』と称され、先生からデュランダルを受け継いだ悪魔殲滅者だ。

 

「ゼノヴィアには関係ないことだろ?

 それにスコア的には、ゼノヴィアの方があたしより多く悪魔を狩ってんじゃねぇか。

 あたしへの嫌味か?」

 

「素直に褒めているのだがな。

 しかしフィル、なぜお前は私にはそう辛辣なんだ。

 やはりデュランダルを受け継いだことが原因か?」

 

「ぜーったいに教えねぇ」

 

正直な話だが、あたしはゼノヴィアが嫌いだ。

先生からデュランダルを受け継いだこともそうだが、こいつは先生や周りから目をかけられている。

あたしの方が先に先生の弟子になったのに、後から来たこいつの方が強い。

模擬戦を数えれば100戦49勝50敗1引き分けで、あたしが負けてる。

それも嫌いな理由だ。

それに、あたしの方が年上だってのに、こいつはあたしにため口ときたもんだ。

それも気にくわねぇ。

結局の所、一方的なあたしの嫉妬でしかないんだけど、あたしはゼノヴィアが嫌いだ。

ただし、その実力は認めてるけどな。

 

でも、あたしは絶対にゼノヴィアよりも強くなる。強くならなきゃ駄目だ。

先生を越える、それがあたしの目標なんだからな。

 

ふんと顔を背けるあたしに、

ゼノヴィアはずっと、理由を教えてほしいと聞いてくるが、あたしは絶対に答える気はない。

だって、自分が恥ずかしいんだからな。

そうしていると、私たちの方へ誰かが駆けてきた。

音の方を見れば、あたしの顔を見て、顔を綻ばせながら子供たちが走ってくる。

 

「フィル姉お帰り!」

 

「おう!ただいま」

 

彼らは、あたしが世話になった孤児院の子供たちだった。

あたしが先生によって連れられてから、ずっと世話になりっぱなしの、あたしの帰る場所だ。

 

「どうやら私はお邪魔の様だ。次こそは理由を聴かせて貰うからな」

 

そういって去っていくゼノヴィアにアカンベーをしながら、

あたしは子供たちに、自分の冒険譚を聞かせた。

目を輝かせながらあたしの話を聞いてくれる子供たちに、あたしは自然と顔を綻ばせた。

 

「俺、大きくなったらフィル姉みたい強くなって、みんなを守るんだ!」

 

そう言ったのは、孤児院の最年長のクランだった。

あたしはクランの頭を撫でた。

 

「そいつは困難な道だぜ?

 なにせあたしは、あたしの先生を越える存在になるんだからな。

 つまり、最強のエクソシストになるってことだ。

 あたしのようになるってことは、最強にならなきゃいけないぜ?」

 

「絶対になる!俺はフィル姉みたいになる!だから俺も最強になる!」

 

クランの言葉に、あたしは顔を綻ばせた。

 

「なら待ってるぜ。あたしはずっとその先にいるからな!」

 

ワイワイ叫ぶ子供たちに囲まれ、あたしは満面の笑みを浮かべた。

あたしは未だ最強じゃないけど、あたしは先生を越える。

先生、待っててくれよ。直ぐにあたしが追いつくからな!

 

 

 

 

聖者たちが描かれたステンドグラスの光が注ぐ大聖堂。

あたしは目の前の天使様と対峙していた。天使様の名はガブリエル。

天界最強の女性天使と謳われる識天使様。そしてあたしから見ても美しい顔と思うほどに美人だった。

そしてそんな綺麗な顔が、残念そうあたしを見ていた。

 

「フィル・スーリア、どうしても断るのですか?」

 

「はい、あたしは天使様の加護を得ようとは思わないです」

 

あたしはきっぱりと言った。

 

「理由も聞いても?」

 

「あたしは先生みたいに、人間として生きたいんです。

 人間として、あたしは先生を超えるって約束したんです。

 確かに天使様の加護を得れば、すごく強くなるだろうし、名誉なことだと思います。

 でも、それはあたしには駄目なんです。先生との約束を破ることになる。

 せっかくで悪いんですけど、受けることは出来ません」

 

あたしの言葉に、ガブリエル様はすこし残念そうな顔をする。

 

「それが貴女が決めたことでしたら、私に何かを言う資格はありませんね。

 フィル・スーリア、貴女の進む道に、祝福があらんことを」

 

「感謝します」

 

消えていくガブリエル様を最後まで見届けると、あたしは大聖堂を後にした。

あー、かたっ苦しかったな。いやはや、言葉遣いもあたしらしくなかったし、

やっぱ天使様と話をするのは勘弁だわ。

教会の廊下を歩いていると、クランが駆けてきた。

その顔は、まるで信じられないという顔だった。

 

「おう、どうしたクラン?そんなに慌てて」

 

「フィル姉!俺、選ばれたんだ!」

 

走ってきたクランの顔は、息切れと興奮が入り混じって、トマトの様に真っ赤だ。

 

「おいおい落ち着けって。で、何に選ばれたんだ?」

 

「俺、聖剣使いとして訓練が受けられるんだって!さっき神父様がやって来たんだ」

 

「よかったなクラン!まずは第一歩ってところか。なんにせよ、頑張れよ!」

 

「うん、俺頑張る!

 頑張ってフィル姉のようなエクソシストになって、絶対にフィル姉のように強くなる!」

 

「おう、待ってるからな!」

 

そういって走って行くフィルの背を見ながら、あたしは先生の下へと足を運ぶ。

その後はゼノヴィアの所に顔を出して、また模擬戦でもやるかな。

 

何もかもが最低な所から来たけど、あたしはここまで来れた。

だからあたしは進み続けようと思う。

なぁに、あたしは強いからな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・バルパー・ガリレイの追放処分

 聖剣エクスカリバーの実験は、研究者の暴走により被験者は全て死亡。

 首謀者であるバルパー・ガリレイの追放処分により、この件は解決とする

 なお、聖剣実験は以後も存続し、正当な聖剣の使い手を生み出すことを目標とする

 

・アーシア・アルジェントの追放処分

 悪魔を癒すことが発覚すれば、神の死が公になる可能性がある

 よってアーシア・アルジェントを魔女とし、これを隠蔽する

 

・聖剣エクスカリバーの強奪事件

 首謀者である堕天使コカビエルにより、エクスカリバーが数本強奪される

 この件は公にするこを禁じ、秘密裏に聖剣奪還を検討する。

 ゼノヴィア・クァルタと紫藤イリナを使い、エクスカリバーの奪還、または破壊が好ましい

 なお、悪魔たちが邪魔をするのであれば、双方ともに殺しても構わないとする

 

・ゼノヴィア・クァルタの追放処分

 聖剣強奪により、ゼノヴィア・クァルタが神の死を知ったもよう

 彼女の口から神の死を流布される懸念がある

 よって、ゼノヴィア・クァルタを追放処分とする

 

・和平会談

 三勢力の合議により、天使(教会)・悪魔・堕天使との協力体制を築くことにする

 なお、これにより他のエクソシストたちから不満が見られるが、

 協力体制を崩すのは得策とは言えず、黙殺することにする。

 

・紫藤イリナ、御使いの要請を受ける

 

・ヴァスコ・ストラーダ、リアス・グレモリーの眷属となる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・フィル・スーリアの殺害処分

 『猛犬』フィル・スーリアの存在は危険である。彼女は神の死を知っている可能性がある。

 万が一、彼女の口から秘密が漏れた場合、他勢力を活気づける要因になりかねない。

 そのため、彼女の生存は我々にとって好ましくない。

 よって『猛犬』をはぐれエクソシストとして、三勢力と協力して処分することを検討する。

 フィル・スーリアはゼノヴィア・クァルタや紫藤イリナと同期である。

 そして双方は赤龍帝の仲間という事実を考慮して、

 彼女らの正義感を刺激すれば、彼女たちが『猛犬』を処分してくれることを想定する。




誰も彼もが、何もかもを棄てていく。
では、棄てられた側は?

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