『貴女を歓迎するわ、悪魔としてね!』
『え、ええ!?な、何なんですか一体!?』
所々に見える、塗装の剥げた壁や、蜘蛛の巣の廊下を通り、
文字の書かれたプレートのある部屋に通された私にかけられた言葉だ。
私にとって彼女は、声をかけられることさえ、
嬉しいと思ってしまうほどに憧れの存在の一人だ。
まるでルビーを溶かした様な、炎を纏ったような、朱い髪を流し、
全てを見通してしまうような、そんな綺麗な瞳をしていた。
『あらあら、〇〇〇さんは随分と緊張してますね。
××、〇〇〇さんは何も知らないのですから、説明しないといけませんわ』
『そうね▲▲、私も急ぎ過ぎたわ。取りあえず、説明するわね』
×××と話をしていた▲▲も、私にとって憧れの先輩だ。
長い髪を総髪にし、漆黒よりも煌びやかな黒髪で、
微笑む顔はまるで母性を表したかのように、見る者を穏やかにしたと思う。
『あ、あの!▲▲先輩も一緒にいますけど、こ、これはどういうことですか!?』
私のいるこの場所で、有名な二人の先輩を前に私は混乱した。
一体これはどういうことなの?
『あら■■、〇〇〇さんに説明してないの?』
『詳しい話は、ここでした方が良いと思いまして』
×××先輩に問われ、私を案内してくれた一つ上の■■先輩が答える。
■■先輩は、黄金と見間違うほどに、綺麗な金髪で、
その顔は物語に出てくる王子様のように、凛々しく、優しく、そして精鍛な顔立ちだ。
彼に恋する友達は多く、頻りにアタックをかけようとするも、
互いにけん制してるみたいで、なかなか動けないみたい。
それに、噂では×××先輩の恋人とも言われており、その噂も大きな壁になっているみたい。
■■先輩に×××先輩は『それもそうね』とため息を吐いて、私に振り向いた。
『そうね、説明させてもらうわね。でももう少し待ってくれないかしら?
あと2人ほど来るの。』
『××!遅れてすみません!』
『すみません』
×××先輩が言うやいなや、扉が大きな音を立てて開かれ、二人が入ってきた。
そしてその2人を見て、私は驚く。
『え、★★★先輩に、??さん!?』
『〇〇〇サン・・・?』
私の目に入ったのは、噂に聞くセクハラすることしか能の無い悪名高き先輩と、
私のクラスの同級生、??さんだった。
雪のような真っ白の髪で、こじんまりとした姿に愛くるしさを覚える者も多く、
そして名の通り、小猫のようにしなやかな動きで、その愛くるしい度は更に倍増!
それゆえにマスコットとも呼ばれてもいる。
『あら、??、〇〇〇さんと知り合いなのね。
思うことはあるかもしれないけど、とりあえず、〇〇〇さんに説明するからね』
そして説明を受けた私は多くのことを知った。
悪魔のこと、天使のこと、堕天使のこと、皆がこの町を守る為に戦っていること。
そして、私の力がそれを助けることが出来ること。
『わ、私、今でも何が何だか分かりません。
で、でも!皆さんがこの町のために頑張っていることとか、
私のこの力が、皆さんの、町のためになるのなら、協力させてください!』
『そう、その言葉が聞けて嬉しいわ。じゃあ、〇〇〇、一緒に頑張りましょう』
『はい!』
×××先輩の言葉に、私は皆に満面の笑みを零した。
「おい!おい!起きろ!」
私の名を呼ぶ声に、私は閉じていた目を開けた。
目の前に入ってきたのは、黒髪に感服を纏った、時代錯誤甚だしい男だ。
はっきり言って目に悪い。
特に無理やり起こされた私にとっては。
「黙れ。おまえの声は私をいらつかせる」
「だったら会議中に寝るな。何回注意させるつもりだ」
私の言葉に、男が反論する。
私と男がいるのは、先ほど出てきた、古い木材の部屋ではなく、
趣も侘び寂びもない、コンクリートで囲まれた部屋だ。
その中に、円系にしつらえた机と、それを囲むように置かれた椅子があり、
その一席で私は寝ていたようだ。
普通ならば、会議中に寝る私が悪いのだが、生憎私は機嫌が悪い。
「なら眠くならない会議にしろ。はっきり言って今日の会議は退屈過ぎる」
「お前なぁ・・・」
私の自己弁護に、男は諦めを思っただろうが、顔に出ている時点で丸判りだ。
だが、埒が明かないので、私は謝罪する。
「分かったよ、次からは気を付ける。で、会議はどうなった?」
「その言葉、俺は何回も聞かされているんだがな・・・。
とりあえず、俺たちの行動方針は決まった。
俺たちのやることは、勝手に人間たちを搾取しておいて、
世界を守護している気でいる三勢力を打倒し、人間たちを守ることだ」
男の言葉を、私はただ聴くだけだ。
「旧魔王派が何やら良からぬことを考えているようだが、
団の方針で互いに干渉をしないと決めているから何も言えん。
まぁ、ことが成されれば、
あいつらは俺たちの世界に干渉するのを最低限に控えると取り決めたんだ。
そこは自分たちの沽券に係わるだろうから、信用は出来る」
「どうだろうな」
私の言葉に、男はにやりと口元を歪める。
「仮に約束を破ったとしたら、その時は俺たちで奴らを打倒すればいい。
もとより、俺たちと奴らは利益のために集まっているのだからな」
「あらあら、それは怖い」
私も同じように口元を歪めつつ、男を窘める。
ふと私は、話を変えようと他の派閥が起こしたことを問いかけた。
「ところで、あの戦闘狂はどうした?
あの御坊ちゃんは、先日の殴り込みで随分と楽しそうだったみたいだけど」
「ああ、随分と楽しそうだったみたいだぞ。
なにせ、自分と同じ龍の片割れである赤龍帝と戦えたみたいだったからな。
帰ってきた後、随分といい顔をしていたみたいだ」
「へぇ、あいつらとやり合ったんだ。私も雑ざりたかったなぁ」
私の言葉に、男は私をじっと見つめる。気持ち悪い。
「良かったのか?赤龍帝のいるグループは、お前の・・・」
「ああ、いい経験をさせて貰ったよ。ええ、本当に・・・!」
私の歪む顔に、男はもはや何も言わず、ただ、黙ったままである。
「さて、方針は決まったんでしょ?
だったら、私たちは私たちのために動くだけ。
そうでしょ、曹操?」
「そうだな。
俺たちは俺たちの目的の為に動こう。いくぞ、ナコト」
「了解」
目の前を歩く曹操に、私は少し口元を歪め、その後ろを着いて行く。
早くみんなに会いたいなぁ・・・。