思いついたことを書いてみた   作:SINSOU

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色んな意味で真っ黒です。
光なんてありません。


真っ黒な世界

「いや・・・来ないで・・・」

 

涙と鼻水などでくしゃくしゃになった顔を歪め、少女は願う。

目の前の立っている赤頭巾に、少女は掠れた声で訴える。

 

そしてその返答は残酷で、

 

「え?」

 

何かが弾ける音と共に、少女の右足が吹っ飛んだ。

見れば、赤頭巾の右手には、回転式拳銃が握られており、その銃口からは煙が漏れていた。

 

 

「ああぁぁぁぁあぁぁぁぁあぁぁ!?」

 

少し呆けていた少女は、襲い来る激痛に声を上げて泣き叫んだ。

焼き鏝を当てられたような、焼け付くような痛みに襲われ、

喪った右足という光景を目の当たりにすれば、誰だって叫ぶだろう。

千切れとんだ断面を必死に抑えながら、少女は悲鳴を上げる。

だが少女の必死の行為も空しく、傷口からは赤い血が流れ出ていく。

 

傷口を抑えるのに必死だったせいか、少女は目の前の赤頭巾のことを忘れていた。

なので、赤頭巾の接近を許し、髪の毛を掴まれて地面に叩き付けられても仕方がなかった。

叩き付けられて傷ついたのか、額から赤い血が滲みだす。

痛み呻き、地面に押さえつけられて身動きが取れない少女が見たのは、

自分の目の前に向けられた銃口だ。

 

「どうして・・・」

 

少女は呟く

 

「どうして・・・!」

 

何もかもを奪われた少女は叫ぶ。

痛みに呻き、意識も次第に失いながら、目の前に自分を殺す銃口を突き付けられつつも。

 

「私たちが何をしたって言うのよ・・・!どうして、みんなを殺したのよ!

 なんで私たちに酷いことをするのよ!ねぇ、答え」

 

返答は銀の弾丸だった。

 

 

赤頭巾は、もはや物言わぬ少女を見下しながら、指で十字を切る。

それは少女の冥福か、それとも皮肉のつもりなのだろうか。

赤いフードの下から覗く、濁りきった青色の目は、

背中から黒い翼を生やした少女を、ただただ見下していた。

 

「主よ、私は今日も善行を成しました」

 

赤頭巾の声は、綺麗な声だった。

 

 

 

 

「なぜ?なぜ私に逆らう!?私は貴様の創造主だぞ!」

 

白衣を着た男は、目の前の少年に叫ぶ。

目の前の少年は、雪のように真っ白な髪で、顔は能面のように無表情で立っている。

ただ、その手には闇を形にしたかのような、漆黒の剣を握りしめていた。

その剣は、まるで生きているか、時折赤い線が走っている。

まるで脈を打っているかのように。

 

少年が一歩進む。

 

「ひぃぃぃぃ!?」

 

白衣の男は情けない声を上げながら、逃げようと身体を反転させた。

が、そのまま回転しながら地面に転げ落ちた。

一体なぜ?と思い、後ろを見ればそこに答えはあった。

なぜなら、そこに二本、足があったからだ。

上等な革靴を履いていて、黒い裾が被さっている足があったからだ。

つまり、自分の足は・・・

 

「がぁぁぁぁあっぁぁぁぁ!」

 

襲い来る痛みと喪失感に、男は叫ぶ。

 

「なぜだ!なぜこんなことが出来た!?

 お前は私に逆らえるはずがないんだ!そのように教育していないというのに!」

 

目に涙を滲ませながら、男は叫び続ける。

その一方で、両手で身体を引き摺らせながら、

少しずつ、ゆっくりと、目の前の少年から距離を取ろうとする。

少年は、剣を握ったまま立ち尽くしている。

 

「私はお前の!お前たちの創造主だぞ!わざわざお前たちを作った私に!

 お前たちは牙を剥いたのだぞ!解っているのか!」

 

叫びながら、男は少しずつ距離を取りながら、内心ではほくそ笑んだ。

このまま少し行けば、地下シェルターへの入り口がある。

そこに行けば、たとえ戦車であろうと簡単に入ることは不可能。

そして十分な食料は詰め込んである。

そこにさえ逃げ込めば、あとはこの事態を教会に報告し、応援が来るまで待つだけだ。

 

私に逆らった欠陥品どもめ!私に逆らった罪を償わせてやるぞ!

内心、目の前の少年に罵詈雑言を叫びつつ、男はひたすら喚き散らす。

そしてシェルターの入り口に差し掛かり、

シェルターのシャッターを下ろそうとスイッチに手を伸ばそうとして、その手が落ちた。

 

「は?」

 

見れば、自分の腕が肘からなくなっており、壁には剣が突き刺さっていた。

何が起きたのか判らなくなった男だが、再度来る痛みに意識を取り戻すと、

さっきまで離れていた少年が目の前に立っていた。

そして、壁から抜いた剣を、自分の目の前に突き付けている。

黒い刀身は、男の醜く歪んだ男の顔を映している。

 

「なぜだ・・・」

 

男は喚く。

 

「貴様らのような、ただ戦うためだけに作られたクローンごときが!

 創造主の私に逆らうなど、神に背く愚行だというのに!

 貴様らのような欠陥品など、真っ先に処ぶ」

 

言い終わる前に、男の身体は開きになった。

 

目の前で内臓や脳みそを地面にぶちまけた死体を見下しながら、少年は剣を撫でた。

男の血で真っ赤に染まった剣は、まるでその血を吸うかのように、

数度脈を打てば、元の黒い刀身へと元に戻った。

 

「ありがとう」

 

誰に言ったのか、少年はそう呟く。

それに呼応するかのように、黒い剣がドクンと脈を打つ。

くるりと少年が振り返ると、目の前には少年と同じような、

白い髪の少年少女たちが大勢立っていた。

各々手には、剣や槍、斧や弓と言った武具が握りしめられ、

その刃先は全て、赤く染まり、液体が滴っていた。

 

その姿に、少年は剣に視線を向け、苦笑しつつ、再び彼らに目を向ける。

 

「それじゃあ、行こうか」

 

少年はにっこりと笑った。

 

 

 

 

 

まるで闇に支配されてしまったかのように、光さえない世界。

もはや生物が生きることも不可能な荒れ地。

その再奥に、椅子に腰を掛けている神がいた。

それは司祭のような礼服を纏い、頭には王冠を被った、骨の神様だった。

骸骨の神様は、椅子に深く腰を掛けつつも、

何もない眼窩から人間の世界で起っていることを見通していた。

しばらくして、肉のない肉体を軋ませた。

 

『カラスやコウモリどもめ、相も変わらず好き勝手しおる。

 その行いが世界を歪めていると何故気付かぬ』

 

握った骨の手から音が鳴る。

 

『なぜ兄たちは、こやつらに協力しようと考えておるのだ。

 生命の循環を弄ぶこやつらと手を組むなど、愚かにもほどがあるというのに』

 

骸骨の神様から黒いオーラが溢れ、

傍にあった岩がそのオーラに触れ、一瞬にして朽ち果て、砂となって崩れ去った。

 

「骨じいちゃん」

 

『む?』

 

突然の声に、骸骨の神様は振り返る。

そこにいたのは、自分の愛しい孫娘だった。

黒い髪を蛇のように揺らめかせ、黄金の瞳を輝かせ、口からは牙を生やし、

まるで人狼のような風体をしている。

もはや死者と死神しかいないこの世界で、少女は平然と歩いている。

 

『おおう?こちらに来るのは珍しいのぉ。一体何の用か?』

 

声帯のない骨の身体だというのに、その声は優しく聞こえる。

 

「親父が心配してたし、私も心配だった。親父は来れないから私が来た」

 

孫娘の言葉に、骸骨の神様は笑った。

 

『ファファファ!そうか、儂を心配できたか。何とも儂思いの孫娘じゃな』

 

「それで、何かあったの?」

 

『なに、カラスとコウモリたちが煩くてな』

 

「骨じいちゃんが言ってた、嫌いな奴等?」

 

孫娘の言葉に、神様は頷く。

 

『そうじゃ、己の目的の為に、何食わぬ顔で生命を弄ぶ、唾棄すべき者達。

 だというのに、兄たちはそいつらと手を組もうかと考えておる』

 

神様の身体から再びオーラが漏れる。

すると神様の右手に孫娘がそっと触れ、そのまま身体を預けてくる。

 

「大丈夫だよ、骨じいちゃん。

 スケベで屑でロクデナシの雷じいちゃんだって馬鹿じゃないと思う。

 骨じいちゃんの意見が正しいって分かれば、きっと考え直してくれる」

 

『そう言ってくれるのはお前だけじゃよ』

 

「ん」

 

神様は、骨の右手で、孫娘の頭を撫でる。すると、荒れていた心がすっと静まっていく。

 

「それに」

 

『む?』

 

孫娘の言葉に、神様は顔を向けた。

 

「仮に無視されても、私や親父は骨じいちゃんの味方だよ?

 なんだったら、私が骨じいちゃんの嫌いな奴らを皆殺しにするからさ」

 

神様に向ける孫娘の顔は、とても晴々していた。

その瞳はまるで血のように赤黒く、彼女の口は三日月の如く裂けていた。

 

『ファファファ、本当に儂思いの良い子じゃ』

 

神様は優しく孫娘の頭を撫でるのだった。

 

 

 

 

 

「チェック」

 

「おいおい、また俺の負けかよー」

 

机上の上に置かれたチェス盤を見ながら、銀髪の男が愚痴る。

しかし、言葉とは裏腹に、その顔は笑みを浮かべており、心底楽しんでいる印象だ。

口元をニンマリと歪め、男は目の前の相手を見つめる。

紫色の髪一つに束ねた女が、カップに注がれた紅茶に口に運んでいた。

 

「相変わらず容赦しないよね、君ってさ。

 いい加減手加減してくれない?一方的なワンサイドゲームで俺を叩きのめして楽しい?」

 

「ええ、楽しいわよ。

 一方的に相手を倒すなんて、ゲームであれ、戦いであれ、当たり前にやることでしょ?

 勝てる戦いに慢心して勝機を逃すなんて、それこそ愚の骨頂よ。

 それにいくら叩きのめされても、性格が捩じ切れた貴方にとっては、何の意味もないでしょ?」

 

「まぁねー!」

 

相手の言葉に、銀色の男は机を叩きながら笑う。

男が机を叩く度に机が揺れ、チェス盤の駒が倒れた。

しばらくして、男の笑いが収まると、女が自分を見据えていることに気付いた。

 

「おいおい、そんな怖い顔をしないでくれよー?俺ちゃん、蚤の心なんだよ?死んじゃうよ?」

 

「だったらすぐに死になさい、その方が世界のためよ」

 

「うわー、真顔で言ったよ!?君、マジでそう思ってるの?ショックだわー!」

 

身体を抱きしめ、大げさに叫ぶ男に、女は溜息を吐いた。

さっさと終わらせて帰ろうと考えたついた。

 

「それで要件はなに?君の孫のことなら、私が言った通りにすれば問題なかったはずだが?」

 

「うんうん、君の言う通り。君の言葉に従ったら、見事に懐いてくれたよ!

 いやぁー、おじちゃん、何故か孫に嫌われてたからね!なんでだろうね!?」

 

「鏡を見て、胸に手を当てれば解るわよ」

 

いけしゃあしゃあと語る男の言葉に、女は目を細めた。

 

「まぁ、あとは貴方の行動次第よ。依存させるのも良し、突き放してぶっ壊すのも良し。

 私を巻き込まなければどうだっていいわ」

 

女はそう言って席を立ち、部屋の扉へと足を運ぶ。

 

「ところでさー」

 

扉の手をかける寸前に、男が声をかける。

 

「今の悪魔についてどう思ってるかにゃー?おじちゃんは文句あるんだけどさ!」

 

「私に手を出さなければどうだっていいわ」

 

女はそう答えると、扉を開けた。

 

 

 

 

 

 

男は必死に逃げていた。

衣服は乱れ、履いていた靴は既に脱げ、靴下は泥だらけだった。

息は酷く乱れており、時折呼吸が止まるほどだ。

男は荷物を運んでいた。

それはとても大切なもので、男を守る為に何人もの護衛がいた。

彼らは教会の騎士であり、悪魔殲滅者だった。

 

男が運んでいたのは、かの有名な聖剣の1つだった。

一振りで何百もの悪魔を消滅させる力を持った聖剣だった。

ゆえにその力を恐れた悪魔や、聖剣を奪おうと画作する堕天使どもを警戒し、

教会は護衛を派遣したのだった。

 

だが、彼らはその役を全うできなかった。ようは死んだのだ。

しかも悪魔や堕天使ではなく、たった一人の化け物に。

 

それは突然現れた。

まるで自分たちが来ることを解っていたかのように、そいつは道のど真ん中に立っていた。

始めは悪魔か堕天使かと警戒したが、それからは何の力も感知できなかった。

だがその出で立ちは、山の中にいるのは不自然な恰好でもあった。

護衛の一人が、警戒を取りつつもそれに近づいた。

 

「貴様、一体なにものだ」

 

腰に携えた光の剣を握りながら、それに尋ねた。

そしてその返答は、

 

『それ、おいしそう』

 

それは飛びかかった。

 

 

まるで悪夢のようだった。

それは光の剣に齧りつくと、バキリと音を立てて噛み砕き、咀嚼し、ゴクンと嚥下したのだ。

 

『まずい』

 

そういうと、それは右手を傍にいた護衛に向けて薙いだ。

その瞬間、その護衛はズルリ斜めにズレ、上と下に分かれた。

その光景に、男と護衛は一瞬呆けるも、直ぐに各々武器を取り出し、男は大事な荷物を抱える。 

すると、男はそれと目があってしまった。

まるで全身を滅多刺しにされたような幻覚を見た。

それは自分を見つめていた。

 

『それ、おいしそう』

 

男は護衛の一人に手を引かれ、荷物を抱えて走り出した。

それも男を追いかけようと動くが、それを残りの護衛たちが阻む。

なんとしても、荷物を守り抜くという使命に殉じる姿だった。

 

その後、男と護衛は、必死に化け物から距離を取ろうと走った。

息も絶え絶えになりながら、降ってきた雨にぬれ、寒さに体の熱を奪われ、

泥に足を取られながらも走った。

しばらくして、流石にここまでくればと、少し息を整えようと足を止めた。

互いに息を整えながら、二人は互いに今の出来事を語る。

あれは一体何なんだ?と。

互いに言い合うなか、乱れた息も整い、また走り出そうとした瞬間、

男の目の前で護衛の首が飛んだ。

切り落とされた首からはまるで噴水のように赤い滴が溢れる。

 

『みぃつぅけたぁ』

 

そこにいたのは、体中を剣や槍で貫かれながら、こちらを見ている怪物だった。

男は叫び声をあげながら走り、そして今に至る。

 

もはや呼吸すら困難で、意識も途切れはじめた瞬間、男は地面に叩き付けられた。

見れば、怪物が自分を抑え込んでいたのだ。

殺される!男はそう思い、もはや体裁を省みず、無様に命乞いをした。

自分は荷物を運んでいるだけだ、だから見逃してくれ。

もはや何を言っているのか男自身も分からなかった。

 

『これ、ちょうだい』

 

怪物は男の持っている荷物に手をかけた。

それは教会から託された大切な聖剣。命に代えても死守しろと言われた聖剣。

だが、命の危機に晒されたこの状況で、その命令は意味をなさなかった。

男は、命が助かるならと、怪物にそれを渡すと、わき目を振らずに走って行った。

 

怪物は、お目当ての聖剣を取りだすと、直ぐに齧りついた。

先ほどと同じように、バリボリと音を立てて咀嚼し、嚥下する。

すると、怪物の身体に光が満ちる。

 

『うん、やっぱり思った通り。良いものを食べると、私も強くなれる』

 

そういうと、怪物は残りを同じように噛み砕き、柄さえも喰らい尽くした。

 

『さぁて、次はどんなものを食べようかな』

 

着物を纏った少女は、まだ見ぬ武具に心を躍らせ、口元を歪めるのだった。

 

 

 

 

これは様々な世界が、様々な要因で結ばれ、全てが真っ黒になった世界。

恋をした化け物の少女がその結末に狂い、

鎧に身を固めた少女が、魔に雷霆を振りかざしているかもしれない。

笑顔を貼りつけた聖女が、人々に笑顔を振り撒き、

小さな白猫が、野に放たれた獅子の如く暴れ、

魔を払う斬り姫が、その刃を鬼神の如く振るっているかもしれない。

そんな真っ黒な世界。


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