思いついたことを書いてみた   作:SINSOU

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この世界に加護は無し

「この魔女め!」

 

周りからの罵声と憎悪と石などが投げられる。

投げつけられた石は、そのまま華奢な少女へと当たった。

少女の出で立ちは悲惨の一言で、薄汚い襤褸を纏っているだけだった。

民衆から投げられた石によって、襤褸からのぞいた腕は所々青く、体中は擦り傷だらけ。

その姿を見ても、民衆は誰一人として彼女を憐れむことはない。

寧ろ、まるで化け物を見るかのように、その目は蔑視を孕んでいる。

 

『神の奇跡を語る魔女め!教会の命により、貴様を公開処刑にする』

 

少女に下された言葉によって、彼女は全てを失った。

暖かかった家族も、親しかった友達も、何もかもを失った。

必死に私を守ろとした家族は、魔女に毒された者として殺された。

私の不思議な力を凄いと言ってくれた友人たちは、大人たちによって引き離された。

 

「どうして・・・」

 

少女はただ、この世界で生きたかっただけだ。

本来の運命ではなく死んだ少女は、『神』によって力を与えられ、この世界に生まれ変わった。

 

『貴女の為に、加護を与えましょう』

 

少女に与えられた力は、『奇跡の魔法』だった。

少女が助けたいと思えば、その人に信じられない奇跡がもたらされた。

目の見えなかった老婆の目は開き、腕が動かなかった男の腕が動くようになった。

そうした奇跡としか言えないことを、彼女はこっそりと使った。

全ては、困っている人を助けたかったからだ。でも、それももう終わり。

 

不運か、悲劇か、それとも運命か、その力を聞き付けた教会が少女の町にやって来たのだ。

教会の使徒は町の人間に対し、『不思議な力の持つ存在を保護しに来た』と言った。

誰が話したのかは判らない。だが誰かが少女のことを話し、そして少女は魔女とされた。

 

「どうしてよ・・・」

 

少女はただ、この力で人の為になりたいと思った。

新しい世界に生まれ、新しい夢に向かっていた。ただそれだけだった。

しかし、その願いは叶わない。もう叶うことが出来ない。

『神』からもたらされた力は、今や『魔女』の力と烙印を押された。

教会のたった一言によって、彼女の願いは踏み躙られた。

 

「魔女め!よくも俺たちを駄目してくれたな!」

 

「この恐ろしい化け物に死を!」

 

「死を!」

 

教会の使徒たちによって、少女は高台に置かれた杭に縛り付けられた。

そしてその下には、多くの薪が敷かれている。

 

『これより魔女の処刑を行う!』

 

教会の使徒によって放たれた火は、薪へと移り、ぼうぼうと燃えだした。

 

「助けて」

 

少女は叫ぶ!

嫌だ、死にたくない。どうして私がこんな目にあわなきゃいけないの?

私は人の為に力を使ったのに、どうして死ななきゃいけないの?

 

「助けて!誰か助けてよ!」

 

必死に叫ぶ少女の声に、誰も何もしない。誰もが少女の死を望んでいるだけだ。

 

どうして?私は皆を助けたのに、どうして誰も私を助けてくれないの?

 

少女が抱いた感情は、瞬く間に増殖する。

散々私の力に縋っておいて、誰も助けてくれない町の人間が、友達が憎い。

こんな目にあわせる、、私を魔女と言い放った教会が憎い。

私を否定したこの世界が、何もかもが憎い。

 

煙によって咽びながらも、少女の憎悪は止まらない。

 

ああ『神様』、私の願いが叶うならどうか聞いてください。

 

そして魔女は願った。

 

『この世界に呪いあれ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

よく解らない『神』と言う存在によって、少女は前世で命を失くした。

それは少女からすれば理不尽であり、不運であり、あまりにも惨い仕打ちだった。

しかし、彼女は『神』を恨むことは無かった。

むしろ『恨んでも何も変わらない、憎んでも何もか返って来ない』と諦めていたのかもしれない。

『神』は言った。

『現世に蘇ることは出来ない。だが、別の世界でなら生きることが出来る』と。

 

少女は望んだ。

『ならば、現世に生きていく、私の家族を幸せにしてください』

『そして別世界へと旅立つ私に、新しい家族と生きることを許して下さい』と。

少女の願いは単純明快だった。

『家族と生きたい』それだけだった。

そして旅立つ少女に、『神』は加護を与えた。

それは、世界に干渉してしまった、命を奪ってしまった『神』なりの善意だった。

 

新たな世界に生まれた少女は、新たな家族と共に生きていた。

それは少女にとっては望んでいた願いであり、望んでいた夢であった。

一見、何の変哲もない、それこそ普通の願い。それが彼女の望んだことであった。

 

そんな中で、少女は他と違うところがあった。

1つ、少女は過去の記憶、前世の記憶を持っていた。

それは彼女にとっては幸運なのか、不幸なのかは解らない。

でも、それでも彼女は幸せだった。なぜなら、彼女は家族と共に生きていたからだ。

 

もう一つ、少女が他の人間と違っていたのは、特別な力を持っていたこと。

それは『傷を癒すこと』。

ちょっとした擦り傷程度なら簡単に治すことが出来た。そう、それだけのことだ。

それでも少女は恐れた。この力を知ってしまったら、家族が拒絶するかもしれないと。

だが少女の思いとは逆に、少女の家族はその力を祝福した。

 

『その力を恐れてはいけない。それを含めて、お前は私たちの大切な娘だよ』

『ちょっと変わった力があっただけ。それだけの話じゃない』

『私、お姉ちゃんみたいな力が欲しい!』

 

他愛の無い言葉。でも、少女にとっては救いの言葉だった。

少女は本当の意味で、家族になれたと思うことが出来た。

家族の言葉を受け、少女には夢が出来た。それは、この力を使って人の役に立つこと。

家族が認めてくれたこの力で、家族に誇れることをしたい。

あまりにも曖昧で、不明瞭で、それでいて子供染みた夢。

それでも少女にとっては、大切な、新しい夢であった。

 

そう、夢だった

 

少女は新しいノートを買いに出かけた。

いつも通りの道を行き、学校近くの文房具店でノートを買った。

店のおばちゃんが、笑いながら話しかけてくれた。

帰り道の途中で、犬と散歩をしていたクラスメイトと出会い、明日また会おうねと言った。

夕食のハンバーグを作って待っているであろう、家族の下へとスキップしていた。

そして家の門を通った瞬間、少女は違和感を感じた。

まるで、水中へと潜ってしまったかのような息苦しさと身体の動き辛さ。

そんな感覚に襲われ、不安になって家へと走り、家族のいるリビングへと走った。

そして少女は見てしまった。

 

まるで部屋でペンキをぶちまけたように、壁、天井、床が真っ赤に染まっていた。

そしてリビングに置かれているソファに、全く知らない女の人が座っており、

 

「あら、遅かったわね」

 

女性の右手は、妹の胸を貫いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしてだよ」

 

少年は言葉を零した。

 

「ふざけるな・・・」

 

少年は、自分の未来を夢見ていた。

『神』という存在から特別な力を貰い、自分は幸せになれると信じていた。

その力はまるで、ゲームのような、漫画のような、アニメのような力だ。

 

「これで俺は幸せになれる・・・!前のようなクソッタレな人生なんかじゃない。

 俺は俺のためにこの力を使うんだ!そして、楽しく暮らすんだ!」

 

それは少年にとっての夢。人から見れば、ただの我が儘で子供染みた夢。

しかし、それは縛られ続けた少年にとっては充分な夢だった。

少年は自分のために力を使った。

 

 

「ふざけるなよ・・・」

 

 

少年の言葉に怒りが、憎しみが、呪いが宿る。それは自分の未来を壊した存在への憎悪だ。

少年からすれば、目の前にいる存在は雑魚だった。

レベルの上限まで鍛え上げ、最強の装備を身に纏い、無敵のゲーム主人公に対する、

始まりの村の雑魚モンスターのような存在だった。

歯牙にもかけなった存在だったからこそ、少年はあえて見逃していた。

それこそ少年が少し本気を出せば、それらは一瞬にして灰へ塵へと変えることが出来た。

面倒くさかった、それだけの理由で見逃していた、それだけだった。

 

 

だが、それが少年の慢心であり、驕りであり、情けであり、不幸へのきっかけとなった。

 

 

そいつが俺の幸せを奪い、俺の未来を踏み躙った。

雑魚の分際で、ゴミの分際で、俺の輝かしい未来を踏み潰しやがった。

 

許せない、いや許せるわけがない。

見逃されたことにすら気付かず、それを知ることもなく、そいつらは少年の尾を踏んだ。

ならば、それ相応の罪科を、賠償を、全てに支払わせなければならない。

これは正統なる報復であり、復讐であり、逆襲である。

 

少年に新たな夢が出来た、それは気に入らない存在を根こそぎ淘汰すること。

出来るだけ惨く、残酷に、そして真綿で締めるように、ゆっくり復讐すること。

罪科は単純にして明快、『少年を怒らせた』

 

「殺す、絶対に殺す、全て皆殺しにしてやるぞ糞がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

少年の声が、空に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

そしてこの世界に、新たな脅威が生まれることになる。

彼らは皆、ただの人間でありながらも、不思議な力を持っていた。

奇跡を起こし、死者を引き連れ、あらゆる傷を直し、あらゆるものを粉砕し、

この世界にない魔法を操り、神のごとき力を振るい、あらゆる勢力の脅威と化した。

 

『まぁ、予想できることだよね』

 

誰かがそう呟いた。


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