思いついたことを書いてみた   作:SINSOU

1 / 43
思いつき
ある少女への出来事


日常というものは、普段はならばその大切さや有難さを知ることはない。

何故ならば、それが当たり前の世界だからだ。

その世界に生をを受け、そしてその世界で死んでいく。

それが当たり前だからだ。

当たり前であることを否定するには、その世界から一度離れなければならない。

 

ある少女も同じだ。

彼女は、とある家庭の長女として生まれた。

彼女には自分を愛してくれる両親と、自分を大切にしてくれる兄がいた。

家族の愛を一身に受け、少女はすくすくと育った。

蝶よ花よと育てられた訳ではないが、少女は家族や周りからの愛を受け、

その姿をより魅力的に変えていった。

彼女自身は、どこにでもいるどこにでも良そうな少女だ。

勉強も運動もそこそこできる、そんな少女だった。

 

さて、人生には時に大きな転換期を迎えることがある。

それは引っ越しであったり、死別であったりと、人それぞれともいえる。

そして例に洩れず、少女も大きな転換期を迎えた。

 

彼女は高校生となり、反対する両親なんとか説得し、

地元とは別の高校へと入学することになった。

高校の名は『私立駒王学園』

駒王町になある、名の知れた女子高である。

名の知れている通り、結構なお嬢様高であり、

地元の学校とは比べ物にならない程に、優秀なカリキュラムが組まれている、

とパンフレットを見て思った。

 

それに、駒王町には先に一人暮らしをしだした兄が住んでおり、

兄と一緒に暮らすという、兄からすれば寝耳に水なことを言ったのだ。

当然、後で兄からはキツイお説教をくらうことになった。

 

当初、両親は駒王町への入学を反対した。

理由は、娘の一人暮らしに心配なのと、子離れが出来ていなかったから。

そして、娘の学力では厳しいだろう、と思っていたのもあったかもしれない。

もちろん、少女は必死に勉強に励み、入学試験を合格したのだから、

両親からすれば思いも寄らなかっただろう。

やれ、一人暮らしは大変だの、危険だの言ったものの、

すべては兄の存在によって半ば押し切られたので、最後は泣く泣く喜んだ。

ちなみに、兄は両親から電話越しでなぜか怒られた。

 

両親を説得し、これで晴れて高校生生活を送れると少女は喜んだ。

両親と離れることは、自分で決めたものの少し悲しいが、

それでも自分の道を進むと決めたのだ。

さよならは言ったはずさ、別れたはずさ。

 

さて、ここで少女にとって悲しい出来事がいくつかある。

1つ、お嬢様高であった『駒王学園』だが、生徒数の減少により、共学制へと変わったこと

1つ、変態トリオという変態男子が入学したこと

1つ、駒王学園並びに駒王町が特殊な場所であったこと

1つ、少女はただの一般人であったこと

 

そういった悲しい出来事が積み重なれば、悲劇が起こるのは当たり前と言っても良いだろう。

そして決定打になったのは、

夜遅くにシャーペンの芯を買いに、コンビニへと行ったことだろうか。

 

 

何かが引き千切られる音と、身体に走る痛みに少女は目を覚ました。

暗く、上から零れ僅かな光を頼りに周りを見渡すと、どうやら倉庫みたいな場所の様だ。

少女は意味が解らなかった。

なにせ、自分と兄が住んでいる家(祖父の家)からコンビニまでに、

こんな大きな倉庫を見たことはない。

それに、こんな処、一度も来たことすらないのだ。

 

気味が悪くなった少女は、早くここから出ようと立ち上がろうとした。

 

だが、少女は立てなかった。

詳しく言うならば、少女は立つことが出来なかった。

なにせ、自分にあるはずの両脚の感覚が無かったからだ。

少女は気付く。

自分にあるはずの両脚が、膝を含めてないことを。

まるで、獣に食いちぎられたような跡からは、朱い液体が溢れていることを。

 

「え?」

 

少女が発した言葉は、まるで夢の中の出来事であるかの様な、そんな呆けた言葉。

 

「あれ?私の脚、どこ?」

 

少女は自分にあるはずの脚を探す。

だが、そんなものは少女の周りにはなかった。

そもそもあるはずがないのだ。

 

なにせ、

 

「お前が逃げるのが気に入らないから、先に両足を食ってやったよ」

 

暗がりから現れた怪物の口から、少女の靴が見えていたからだ。

 

「それ、私の靴。何で貴女の口にあるの?」

 

少女は怪物に問う。

 

「言っただろう?お前が逃げるのが気に入らなくて、先に足を食ったんだよ」

 

怪物は口元を赤く染めて、少女の片方の靴を吐きだした。

 

「ダメだよ、それ兄さんからのプレゼントなんだから、もう片方も返してよ」

「は?」

 

少女の言葉に怪物はあっけにとられた。

だが、すぐに気が付く。少女の目が既に正気を失っていたことを。

 

「そうかい、だが心配することはないさ。

 なにせ、そんなことを気にすることも出来なくなるんだからねぇ!」

 

怪物は口を開けて少女を食べようと襲う。

少女は咄嗟に避けようとするが、左の脇腹に激痛が走る。

何か硬い物を砕く音が聞こえ、少女の上から紅い雨が降った。

 

両脚と脇腹から血を噴き出しながらも、少女は右腕を靴の方へと伸ばす。

這いずりながら、少女は大切な靴を手にし、両腕で抱きしめる。

 

「そんなに大事なら、もう片方も返してやるよ」

 

すると、少女の前にもう一方の靴が転がる。

少女は靴を両方を抱きしめ、「良かった」と呟く。

その少女の胴体を槍が貫いた。

 

ケタケタと笑い声が起る。怪物が少女を貫いたのだ。

 

「本当に人間というのは面白いわ!この無様さ!この愚かしさ!本当に笑いが止まらない!」

 

そんな笑い声をあげる怪物に、後ろから声がかかった。

 

「はぐれ悪魔バイサー!あなたを消滅しに来たわ!」

 

バイサーと呼ばれた怪物は、少女から槍を引き抜くと、

自分の愉しみに水を差した存在へを目を向ける。

そこには、血のように真っ赤な髪を靡かせた少女と、複数の男女が立っていた。

 

 

お腹に熱い感触を感じ、靴を抱いたまま転がっていた少女が見たのは、

朱い髪の女性と、朱い腕を持った少年、白い髪の小さな子供や、

何故か剣を持った金髪の少年、そしてポニーテールの女性だった。

朱い髪の女性が何か、朱い腕の少年に語っている。

そして、他の人たちが、怪物を襲う。

 

少しぼうっとしていた少女は、家に帰ろうと、ゆっくりと這いずる。

 

兄さん、心配してるだろうなぁ。帰ったら謝らなきゃ。

 

夜遅くに出ることを心配していた兄の姿を思い出し、

少女は申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

帰ったら兄さんに謝ろう。それでもだめなら、なんとかご機嫌をとらなきゃ。

そんな思いで、身体を引き摺りながらも、少女は家へと帰ろうとする。

 

だが、溢れでた血液と体力の消耗は激しく、少しずつ身体が重くなる。

 

駄目だよ、私は家に帰るの。帰らなきゃダメだの。

 

ふと、少女の前に影が差す。

見ると、朱い髪の女、いや女の子が自分を見ていた。

霞んでいた少女の目が、偶然か、それとも必然か、朱い髪の女の子の顔を見た。

 

「これ・・・手遅・。

 可・相だけ・、悪・・駒を使・・・にはいかな・し、せめ・安らか・・くことを・うわ」

 

朱い髪の少女、自分の学校の先輩は、自分に向けて掌を翳す。

すると、手のひらから黒い何かがあふれ出る。

それはただの少女からしても、あまりに禍々しいものだと理解出来た。

 

薄れ行く意識の中で、少女は現実に戻される。

自分はここで死ぬのだと。

訳の解らない怪物に襲われて、訳の解らない戦いに巻き込まれて、

パパやママ、兄さんに恩返しも出来ずにここで死ぬんだと。

 

嫌だ

嫌だよ

なんでこうなったの。

 

「いや・・・。し・・・くない。た・・・す・・・てよ・・・」

 

「ごめんなさい・・・」

 

自分の言葉を、先輩は否定した。

少女の中に黒い感情が生まれる。

 

思いというものは、それがより強く、より洗練され、より輝かしい物であるほど、

反転した時の反動は恐ろしいものだ。

それこそ、幸せの絶頂から絶望へと叩き落される時など、

憎しみに囚われた復讐鬼を生んでしまうほどなのだから。

 

どうして私がこんな目にあうの?

どうして助けてくれないの?

どうして私を殺そうとするの?

どうして?

どうして・・・

 

「ぱぱ、まま、にいさん、ごめんね・・・」

 

この日、一人の少女が失踪した。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。