で、試しに風呂の中で考えたらいいんじゃね?とか思って考えたら案が出るわ出るわ!
次話は流石にもう少し早めに出します。
「あさましいな、俺……」
日が落ちそうという夕方の中、ふと俺はそんなことを呟いていた。
あれから俺は小町に心配されて家に帰るよう言われた。あのまま小町を残していくのは少し躊躇われたが、一色もいるのだ。心配はいらないだろう。
まあ、心配されて帰っている俺が言うのも変な話なのは重々承知している。
自らを
かつて偽物を嫌い、本物を望んだ俺だ。欺瞞なんてものは何よりも嫌悪していたはずで、事実人付き合いが嫌いなのもそこからきている。
風は容赦なく肌を刺し、冷たい空気は責めるように痛い。曇天の
いつもは落ち着けるこの並木道も、今日ばかりは煩わしい。
再度自分に嫌気がさしながらも、家路についた。
◇◇◇
と、下がった気分のまま帰ったところ。
「やあ、数日ぶりだね、比企谷君」
玄関に玉縄の姿があった。
………え、なんでいんの。
絶句した俺はすかさずスマホの緊急通報を押し、
「いやいや、それは早計だよ!君がレポートを見てくれるって言ったんじゃないか!」
「……ああ、本気にしてたのか、あれ」
「相変わらず酷いな君は!」
ともあれ、来てしまったものはしょうがない。面倒臭いとは思いつつも、一応部屋には入れてやる。
「ほら、入れよ。2月に外でPC広げるとか罰ゲームだろ」
日は既に落ちており、ただでさえ寒いのに拍車がかかって極寒と言うに相応しいほどになっている。
そのことは玉縄もわかっているようで。
「ありがとう、お邪魔させてもらうよ」
余計な遠慮は無く素直に従った。
結論から言うと、玉縄のレポートは割とよく出来ていた。要点こそ俺が案を出したのだが、しっかりと客観的事実を踏まえた上で自分の考えを述べている。なにより文章がとても読みやすい。こいつの普段発しているルー語は
「ん、いいんじゃねえの」
「そうかな。添削とか変な言葉の使い方とかはなかったかい?」
言われて再度レポートの書かれたPCに目を向けるが、際立っておかしなところはない。
「ねえよ。癪だがよく出来てると思う」
「そうか、ありがとう!」
「それよりお前、なんで俺の家知ってんの?教えてないし教えるつもりもなかったぞ?」
通報しようとしていた時からずっと思っていたのだが、こいつはなんで俺の家を知ってるんだ?普通に気持ち悪い。
「それね、人づてに聞いたんだよ。君はさ、一応。一応だけど折本さんと仲良いよね?いやまあ一応だよ?一応ね。で、僕が折本さんに連絡して教えて貰ったんだよ」
どんだけ一応つけるんだよという感想はさておき、恐らく折本も小町に聞いたんだろうな。そのへんはこいつもわかっているらしく、折本が俺の住所を知っていることに疑問を抱いていない。つまりはそういうことだろう。
「あそう」
だから、わかりやすく適当な反応をした。
「ねえ」
少しの間を挟み、玉縄はそこで一呼吸置いた。
「君が悩んでるって聞いたんだけど、それは話してもらえないかい?」
「……それは誰から聞いたんだ?」
まあ、予想はついてある。伝言ゲームが一番わかりやすい例えだろう。小町から折本、そして玉縄。誰でも思いつく。
「君の住所を聞いた時に、ちょっとね」
当たりだな。
「俺というか……、まあ、俺の友達の友達といったところか」
お得意の友達いないなりの皮肉を用いて話そうとするが、果たしてこいつは俺に友達がいないことを知っていただろうか。知らないなら知らないで好都合といえば好都合だが。
「割と遠いね。でもさ、言ってしまえばその人は他人なわけだよね?そうやって遠い人ともシナジー効果を生み出していけば、win-winで理想的なパートナーシップを築き上げられるし、いいと思うよ」
「それ大学でやったら引かれるからやめとけよ。スタバん時のパラダイムシフト的な考えの変え方とか一周まわって戻ってんじゃねーか」
こんなのがゴロゴロいるとなると、いよいよ考えるのが恐ろしくなってくるな。
「で、そいつの話なんだけどな。極端な話そいつの身近なやつが死ぬんだわ。でもそいつはそのことを素直に認められなくて、認めたと思っても心の底では信じたくなくて」
いなくなるなんて考えもしなかった2ヶ月前。置いたと思っていたコップがなかった時のような、そんな感覚。
「結局そいつは自分を騙して認める以前の話に巻き戻したんだ。それも
そして、認めたくない一心で現状に嘘をついて。
「そいつはどうすればいいんだろうな。足掻こうにも門外漢、手のうちようが無い。浅知恵だが調べた知識をがあるとはいえ本当に役立つかどうかもわからない」
年下二人に諭されて。
「みっともないからって言って調べたことを何も伝えないでさ」
「最終的には諭されたのをいいことに、一人だけ逃げ帰った」
それってさ。
──────最高に、あさましいよな。
それだけ言い残すと、俺は目を閉じて俯いた。
◇◇◇
「レポート見てくれてありがとう。そろそろ帰るよ」
5分くらいだろうか、無言が続いていたのだが耐えかねたのか玉縄がそう切り出した。
「……お前さ、俺の友達の友達の悩み聞いといて結局何も言わねえんだな。まあ別にいいけど」
言われた玉縄はふむ、と顎に手を当てた。言葉を推敲しているのだろう。
「…うん、まずその人は調べた内容を主治医に伝えるべきだね。この世に無駄なことなんてないんだよ。もしかしたらその言葉でその子が助かるかもしれない」
「その子とか言ってるけど、俺死ぬやつのこと子どもだって言ったか?」
「子どもというかさ、歳下だよね?」
正解である。しかしなぜこいつが知っているのだろうか。
「“友達の友達”ってことはさ、それって一周まわって元に戻ってるよ。つまり君のことだ」
「…ふっ、なんだよ。意趣返しか?」
不意に笑みがこぼれ、紡いだ言葉に玉縄は、
「そう受け取ってくれても構わないよ。じゃ、
と、最後まで玉縄らしく応答して家を後にした。
部屋に戻ってこたつに入る。
訪れた沈黙に、俺は意識を思考の海に放り込んだ。
俺が小町に余命を伝えた日の次の日、俺は確かに小町の病気についてや玉縄との会話に出てきた引っかかっていたことを調べていた。ただ結果はお世辞にも良いと言えるものではなく、医者ならば大体の人は知っているのだろうというものばかりだった。
調べたものといえば、麻薬は鎮痛剤に使われているそうだ。世に
特別な状況下ならば使用されていいのか。そんな当たり前のことに俺はふと疑問を抱いた。
精神異常者の刑罰が軽くなるのと同様に、その場その時での状況によってルールが変わるなら、同じように現状も変えてくれよ。現状が変わってしまったのならルールを変えさせろよ。
どこまでいっても答えは出ない。答えを出す必要が無い。なぜなら前提がそもそも破綻していて、そんな仮定に意味など見いだせるわけがないのだから。
「明日、小町の主治医に話してみるか」
かといって、無意味なことなんてないのだ。雪の日の空を見上げるのは恐ろしいように、一見意味が無いように見えてもやはりどこかには意味はあるのである。
今の独り言だって、無意味に見えるが果たして今のは独り言だったのか。
本当に独り言だったのか、それとも
しかし、無意味にはとても思えないのだった。
◇◇◇
「急に呼び出してしまってすいません」
「構いませんよ。さ、お掛けになってください」
翌日、昼過ぎ辺り。初めて俺が小町の容態を聞いたあの診察室のような部屋。俺と小町の主治医は椅子に腰掛けて対面している。
呼び出したのは俺なのだ。先方に余計な気を使わせるのは躊躇われるので要件だけをすぐに話す。
「小町のことで少し相談がありまして」
「はい、なんでしょうか」
「小町の病気のことは主治医の貴方が一番よく知っているとは思うんですが、もう一度だけレントゲンをとってもらえませんでしょうか」
その言葉を聞いた主治医は肯定否定の前にまず驚いたようで、目を丸くした。
「レントゲン、ですか?」
「一応俺も調べてみたんですけど、小町の症状ってある病気に似てるんですよ。誤診とかそんな大層なことを言いたいんじゃないんですが、どうしても諦めきれなくて…」
「なるほど。確かに変異するものもあるにはありますし、もしかしたら小町さんが症例第一号の可能性だってあります。望むのでしたら、今からでも行いますよ」
「そうですか、ありがとうございます!」
意外とすんなり通ったのでありがたい。話も通じる相手だったので本当に感謝感激といったところだな。ドラマとかじゃよく誤診なんてするか、と怒鳴り散らすような人もいるそうだったので内心ビクビクしていたのだが、杞憂だったようだ。
一時の間を空けて、主治医が口を開いた。
「具体的には、なんの病気だったらどういう治療法を行えばいいのかご教授願えますか?」
ここで萎縮であったり謙遜したりするのはマナーに反する。実際はどうなのかわからないが少なくとも俺はここで余計な会話を挟むのは御法度だと考えている。
──────、──────。
「………なるほど、過去にそんな事例があったとは」
「昔テレビでもやってた気がしますよ?」
「いやはや、何分メディアには疎いもので。もしそこまで上手くいくなら、確かに小町さんの命は助かるかも知れませんね」
全てを説明し終えた。本職に浅知恵を披露するのはやはり直前まで躊躇われたのだが、最後まで聞いてなおかつ希望のある返事をくれたことに俺は思わず安堵の息が漏れた。ソムリエに酒を勧めるような感覚に陥るとはまさに今のようなことだったのだろう。
息をついていると、けたたましい足音を鳴らして勢いよく扉が開かれた。
「先生!503号室の容態が!!」
「いつものか?」
503号室。間違えようがない、小町の病室だ。
「いえ、それがいつもより激しくて……」
「あの、いつものってのは何なんでしょうか?」
無粋だとは思いつつも、口を挟んだ。
問われた主治医は焦っているのが目に見えてわかるように、早口で答えた。
「鎮痛剤が切れました。…最近効き目が薄くなっている気がするな……。…安心してくださいね、お兄さん。
そう言い残して主治医は走ってきた看護師と共に部屋を後にした。無論、駆け足で。
面会謝絶。大仰な言葉だとは思うが、それでもやはりいつも以上に心配になる。なにせ今までそんな言葉は出てきたことがなかったのだ。加えて余命の残り日数。10日を切った状態でこんなことが起こらないなど、そう考えている方が甘かった。
小町が助かるかもしれないなどと、淡い期待を寄せてしまう俺が憎たらしい。恥ずかしい。気持ち悪い。
俺の提案した方法だって、それは小町が
前提がそもそも破綻している。昨日のこたつでの思索が今日になって全くいきていないな。
それでもなお、淡い期待を寄せるとするならば、俺はこの提案が無意味にはならないのだと考えるだろう。
Life 55/62
作者はニセコイコミック勢だったので、一週間ほど前にやっとこさ結末を知ることが出来ました。予想通りのエンドとはいえ、マンガラノベアニメ全作品中でも春ちゃんが一番好きな作者からしたらやはり悲しかったです。
ただ春ちゃんが四十路になっても結婚してない感じだったのは評価するぜ割とマジで。
てか弥柳さん(夫)誰やねん。
あと某ssに影響されて買ってしまった天も早く読まねば……。予防線ってわけじゃないのですが、もし次も更新が遅かったらそれは麻雀漫画のせいです。