比企谷兄妹は、それでも永訣を否定する   作:しゃけ式

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やっぱサブタイトルって考えるの難しいですよね。ポケモンssの時も思ってたんですが、なんぼ程サブタイを1話とか2話みたいなのにしようと考えたことか…。





兄にとって、小町はいつも明るい存在である

告白とは、一般的には想い人に好意を伝えることを指す。その方法はそれぞれで、言ってしまえば無限にある。

 

例えば面と向かって告白したり、ラブレターを書いて下駄箱にぶち込んだり、電話で伝えたり、LINEでさり気なく告ったり。

 

 

 

はたまたは、月が綺麗ですねなどと言ってみたり。

 

 

 

………あ、一つ言っておくが俺は別に一色に告白したわけじゃないからな?飽くまであの場のノリというか、本当はそんなこと考えてないというか、てか雰囲気に流されたというかね。

 

 

 

 

 

なんて言ってみるが、あの時俺は確かに心を動かされたのは事実であって。

 

 

 

 

 

はああぁぁぁぁ………。なんでわかんねえんだよ…。イマドキの女子(笑)はそういった婉曲的な告白が好きなんじゃねえのかよ。てか普通知ってるだろ…。

 

 

恥ずかしさを必死に抑え込もうとするが、当の羞恥心は容赦なく俺の心を抉ってくるのだった。

 

 

(つか1日経ってこのダメージか……。いつになったら忘れられるんだよ…)

 

 

とは言いつつも、比企谷八幡にとっての一世一代の告白だったのだ。忘れられる方が異常と言える。

 

 

翌日の俺は、そんなことを考えながら朝を迎えた。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

今日は大学がなく、友達のいない俺にとってはとても暇な日である。

 

 

やることがないと自身の挙動は途端に不審になるもので、意味もなく部屋を見渡した。ふと目の隅に積ん読状態のラノベが見つかったが、やはり読む気になれない。どうしたものか、と床に寝転がって再度辺りを見渡す。自然と窓の外へ視線が行き、今日も今日とて空を見る。

 

 

俺は近頃空を見るのにハマっているのだろうか。自分ではあまり意識していなかったが、思い返してみれば気付くと空を見ている気がする。万有引力は下に向かっているというのに暇さえあれば空を見上げる俺、向上心超高いじゃん。

 

こんな時平塚先生ならば見上げた精神だな、などと上手い返しを思いつくのだろう。亀の甲より年の功という言葉は伊達ではないなずだ。

 

 

なんて、聞かれたらまず間違いなく天に昇らされてしまうだろうな。

 

 

依然空を見上げていると、珍しい光景が繰り広げられていた。

 

異種格闘技戦なんて言葉が似合うだろうか、(カラス)(ハト)が喧嘩をしていたのだった。黒い翼を広げながら(ねずみ)色の躯体を地面に追いやろうとしており、二羽の高度が下がったところで視界から消えた。

 

 

弱い者が淘汰され、強い者だけが生き残る。そんな世知(がら)い当たり前を見せつけられ、俺は少し気が滅入った。流石に今の烏は鳩を食べるために襲ったのではないだろうが、弱肉強食はどこの世でも、むしろこの世界では絶対不変の事実である。

 

人間に置き換えると、何が強くて何が弱いのだろうな。例えば筋力があるやつが強いとしても、拳銃を持ったひ弱なやつがいたら後者の方が圧倒的に強い。では武器の差なのかと言われると、日本だと銃刀法に違反するため立場が弱まる。すなわち、弱者にもなる。

 

 

体の強いやつが文字通り強く病気に蝕まれるやつが弱いのなら、それは生まれながらにしてそもそも種族が違うのだとも言えるのではないか。弱者と強者は分かり合えないのだと言っているようなものではないか。

 

 

話が二転三転しているが、結局何が言いたいのかといえばそれは小町のことだ。小町に限って言えば弱者は小町、強者は病気なのだろう。さらに言うなら運命が強者なのだ。そんな不定形なものが相手なんて、勝てるわけがない。

 

何かを0で割るような、そんな極限なまでの不定形。

 

 

やはり、俺は自身のぼっちも含めて運命を呪わずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

(今日は自転車で行ってみようか)

 

 

あれから泥沼だった思考を家にストックしてあるマッ缶で流し込み、身支度(みじたく)を整えて外に出た。最近は徒歩ばかりだったので、たまには自転車で行くのも悪くないだろう。

 

 

 

アパートの階段を降りて駐輪場に向かう。今更だが、俺はお世辞にも新しいとは言えない二階建てのアパートの一室を借りて生活している。家賃はそんなに高くなく、かといって六畳一間のような狭い部屋でもないので割と一人暮らしを謳歌できている。

 

駐輪場は降りた先を右に向かえば見えてくる。一応雨避けが取り付けられているのだが、錆びが凄くていつ落ちてくるかわからないレベルに老朽化している。

 

 

自分の自転車の鍵を解除してサドルに座り、ゆっくりと漕ぎ出す。歩くスピードの2倍はあるので、この分だとすぐに到着するだろうな。

 

 

 

 

 

道すがら、俺は小町に一色のことを伝えるべきかどうか悩んでいた。昔の俺からしたら月の一歩とも言える大躍進なので、恐らく小町は喜んでくれるだろう。が、悩んでいる理由なんて一つしか見当たらない。

 

 

 

俺超恥ずかしくね?

 

 

 

告白した事実を伝えるのが恥ずかしいのはもちろん、伝わらなかったというのが輪をかけて恥ずかしい。だって考えてみろよ、自信満々の芸人が駄々滑りするところとか。俗に言う共感性羞恥は伊達ではない。

 

 

なんて言っている俺だが、まあ小町には伝えるんだろうな。俺ほどの兄になると、どこぞの千葉の兄妹レベルで妹を愛することが出来る。あ、いや、すいません。今俺嘘()きました。流石の俺もあそこまでスーパーシスコンブラザーにはなれませんね、はい。

 

 

まあそれに、小町には早く伝えなきゃダメな気がするしな。なぜなのかはわからないが、このままだと小町が──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

っは、はは。危ねえわ、俺。何小町が死ぬことを忘れようとしてんだよ。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

自分の浅ましさに吐き気を覚えながらも、病院にはいつもより二倍以上の速度で着くことができた。

 

 

いつもの病室(503号室)に向かい、至って普通に扉を開ける。前みたいな恥はかきたくないからな。てか俺ってどこでも恥かいてるのな。昨日だけじゃ飽きたりなかったか。

 

 

ガラガラ、とは鳴らずにスッとドアは開いた。古い病院だとその限りではないだろうが、ここは整備が行き届いているからな。

 

 

顔を覗かせると、こちらに気付いた小町はわかりやすく破顔した。

 

 

「あ、お兄ちゃん。知ってる?今年の桜って開花早いらしいよ」

 

 

唐突に振られた話題に逡巡するも、すぐに返事を返す。

 

 

「らしいな。確か三月中旬かそれより早いくらいだったか」

 

 

「そう!小町も桜見たいな〜。…ねえお兄ちゃん、小町は桜が見たいです!」

 

 

「はあ」

 

 

「でね!小町お花見に行きたい相手がいるの!」

 

 

「誰だそいつ、男なのか?」

 

 

わかりやすい誘導に気付きながらも話に乗ってみる。

 

 

「そうだね。男……、うん、男だよ」

 

 

「その間がすげえ気になるけどまずはその男を処刑しに行くわ。名前と住所の詳細は?」

 

 

俺は自殺志願者かよ。そんなツッコミを自分に入れて、一人で笑ってしまった。無論くすっと笑うだけだが。

 

 

「うわー、その笑い方気持ち悪いなー」

 

 

「ばっかお前笑うのは体にいいんだぞ?笑う者を笑う者は笑う者に泣くぞ」

 

 

「ちょーっと最後何言ってるか分かんなかったけど、取り敢えずその男の子のあだ名はお兄ちゃんだよ!」

 

 

「それ俺かどうか判断しにくいからやめろ。ていうかお兄ちゃんってあだ名なのかよ」

 

 

にしても我が妹ながら良い返しだ。俺も今度使うか。あ、使う相手がいませんでしたね。

 

 

「それよりお兄ちゃん。何か小町に言うことない?」

 

 

「すまん、取り敢えず座らせてもらうわ」

 

 

ドアを閉めてベッドの隣に備え付けられてある椅子に座り、小町に言われたことを考える。

 

今日小町に言おうと思っていたことは一色への告白くらいだが、それをこいつが知ってるとは思えない。そもそも小町は外に出られないのだから、知りようがないのだ。他になにか言わなければならないことといえば………………、何だ?一人暮らしの感想とかか?全然わからん。

 

考え込んでいてもしょうがないので、適当に答えることにする。

 

 

「マッ缶はちゃんと買い置きしてるぞ」

 

 

「誰もそんなこと聞いてないよ」

 

 

「一人暮らしでも自炊してるから栄養は偏ってない」

 

 

「小町的にポイント高めだけどそれも聞いてない」

 

 

「大学の友達と飲み会に行った」

 

 

「はいそれダウト」

 

 

な、嘘がバレるなんてエスパーか!?……あ、そういえば俺小学校から友達いませんでしたね。

 

痺れを切らしたのか、小町が不機嫌そうに口を開いた。

 

 

「もぉー、なんでわかんないのかなぁ?昨日お兄ちゃん告白したんでしょ!その詳細を教えてよ!!」

 

 

「待て待てなんでそれをお前が知ってるんだよオイ」

 

 

んー、と右手の人差し指を顎に当てて上を向く。よく女の子の見る考えるポーズだ。あざといったらありゃしない。

 

 

「いろはさんからLINEが来たから?」

 

 

「はいそれダウトォォォォォオオオ!!!!!!!!!」

 

 

なんであいつ小町にLINEしてんだよ!!!!!てか告白気付いてたんかいワレ!!!!!(錯乱)

 

 

「ひゃっ!!もうお兄ちゃん、びっくりさせないでよ!それよりさ、どんな状況でなんて言ったの?教えて教えて!」

 

 

目を輝かせながら俺の方を向く。これがもし由比ヶ浜とかならあしらえるのに悲しいかな、小町相手だと無条件に言ってしまう。パッシブスキル発動しすぎぃ!!

 

 

「……夜に、月が綺麗だなって」

 

 

「うんうん!文系っぽくていいと思うよ!それで?」

 

 

「…月が出てなかったんだよ、まだ。だから一色に月はまだ出てませんよって」

 

 

恥ずかしくて顔から火がでるという慣用句があるが、まさしく今の俺の状況がそれだ。顔が熱くて火が出そうである。

 

 

「あははははっ!そりゃダメだよお兄ちゃん!月が出てないのに月が綺麗ですねなんて、笑わせないでよぉ!」

 

 

バカ笑いして俺を指さす小町。

 

 

「違う、ちょっと待て!これにはちゃんとしたバックボーンというか前日談というか事前準備があってだな…」

 

 

それを聞いた小町は笑うのを止め、静かに俺の言葉を待った。

 

 

「実は外出てすぐに三日月の話になったんだよ。んで月が出るのは日没から二時間らしくてな」

 

 

「で?その後は?」

 

 

「俺が一色に………、」

 

 

そこまで言って気付いた。この後の話を俺は小町にどう説明する気だ?

 

小町が死ぬことを伝えた、なんて本人に言うつもりなのか?まだ自分が死ぬことを伝えていないのに?

 

 

嫌な汗が背中を流れ、鼓動が早くなる。急に視線を泳がせた俺はさぞ変に見えただろうな。

 

 

「どうしたのお兄ちゃん。続きは言えない?」

 

 

「……ああ、悪い。言えそうにない」

 

 

さっきまでの明るい気配は見る影もなく、神妙な空気が流れ出した。

 

 

 

「それってさ」

 

 

 

しっかりとこちらを見据えて、顔を見て、目を合わせて、重くなった雰囲気の中言い放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「小町が死んじゃうってこと?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Life 51/62

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




いつも感想や評価ありがとうございます。単純な作者はそれだけで頑張ることができます(笑)

それはそうと、サンシャインがついに終わってしまいましたね。でもなんで二期制作決定の発表せえへんのや!!!!!!

来年の春アニメじゃね?とか思ってた作者はありふれた悲しみの果てにいます。せめてライブで発表してくれなきゃ本当に引くレベルで絶望します。


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