比企谷兄妹は、それでも永訣を否定する   作:しゃけ式

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1日でお気に入り登録数がそれまでの投稿2回分くらいの増加量だったので、何があったんや!?と恐る恐る日間ランキングを見たらなんと載せていただいていました!
決して順位は高くはなかったのですが、それでもやはり嬉しかったのです。皆さん、ありがとうございます!

あと、今話でひとまずの区切りなので後書きがかなり長めです。暇な方はぜひ読んでやってください。



桜の皮肉は、いろはの心をどう色付けるのか

3月上旬。肌を刺すような寒さは過ぎ、ぽかぽかと晴れ渡る空の陽気は心地良い。

 

 

今日はわたし、一色いろはの卒業式です!

 

 

今の時間は朝の6時半。いつもより早く起きたわたしは朝ごはんを食べて着替え、散歩に出かけて時間を潰していた。

 

おめでたい日には相応しい快晴であり、気分が高揚する。不意に吹く風も柔らかいもので、先月までの不快な寒さは既に去っていた。

 

 

さて、わたしは総武高の元生徒会長です。そして今日は卒業式です。何が言いたいのかというと、実はわたし卒業式での答辞の役を担わされているんですよね。答辞自体は別に嫌ではなく、生徒会長だったということからみんなの前に立つのも慣れています。じゃあ何が「担わされている」と表現するものがあるのか、ということなんですがね。

 

 

結論から述べます。わたしは失敗したくありません!

 

 

平塚先生から答辞を任された日の夜には答辞を考えていたのに、書き終えてから1週間後にまた読み返すとどこか稚拙な印象を受けたその原稿は今ではゴミ箱の中。それから何度か書き直してみたものの、これといってしっくりくるものはなかった。数少ない友達に確認を頼んだこともあったが、やはりみんなはどこが悪いなどとは言ってくれなく良いとしか言葉を(つづ)らなかった。本物に憧れたわたしにとって、そんな彼ら彼女らはどことなく空虚に映った。友達の書いたものなら無条件に良いものだ、なんてものは欺瞞以外の何物でもない。

 

 

ふふ、どこか先輩みたいなことを言ってしまいましたね。こんなことで先輩を思い出していては、わたしもまだまだです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()から、わたしは先輩のことを思い出さないようにしてたのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ほどなくして、卒業式が開式された。いつもの和気あいあいとした和やかなムードは無く、厳粛な雰囲気に包まれた体育館は特別な日なのだと嫌でも実感させられた。

 

 

わたしの答辞は校長先生の話のあとにある送辞の次だ。これだけ聞くとすぐに言わなければならないなんて感じるが、ほとんどの校長先生の話は総じて長いものなので気持ち的には割と余裕がある。(くだん)の答辞は開式直前に書き上げることが出来た。完成度はお世辞にも最高などといえるものではないが、はじめに書き上げたものに比べると上出来である。及第点を一回り超えた程度かな。

 

 

「————と、いうことです。ともあれ、三年生の皆さん。ご卒業、本当におめでとうございます。この学校で得た経験をこれからの未来の糧に、皆さんのご活躍を期待しています」

 

 

パチパチ、とまばらな拍手から満場の拍手へと変わって校長先生の話の終わりを知らせる。

 

 

 

 

 

「次は在校生による送辞です。在校生代表、比企谷小町」

 

 

 

 

 

しかし、応答の返事は一向にない。ざわざわと周りが騒ぎ出したところで司会が慌てて訂正を入れた。

 

 

 

 

 

 

「し、失礼しました。代読、川崎大志」

 

 

 

 

 

「はい!」

 

 

その声を聴きやがてみんなは静かに収束していった。

 

 

 

やだなあ……、また思い出しちゃう、先輩のこと…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから卒業式は(つつが)なく終わり、私は足早に学校を出た。面倒な事に関わりたくないからね。

 

教室を出る直前、わたしはある男子から声をかけられた。内容は「お前のことが好きだった、俺と付き合ってくれ」とのことで、「わたし、彼氏いるんで」の一言で断ったのだ。

 

 

あの調子じゃ他にも声をかけられそうだった。じゃあ逃げるしかありませんよね?ということでわたしは多少の名残惜しさを振り切って学校を出たというわけです。まあこの後に予定があるっていうのも理由の一つなんですが。

 

 

 

 

 

目的地に向かって歩く。普段よりゆっくりな速度の理由はなんだろうか。

 

疲れたから?気分が乗らないから?暖かさにやられたから?

 

どれもしっくりと来る理由ではなく、しかし一つは最初から思い当たっていた。

 

 

やっぱ、あれなんだろうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

辿り着くのが少し怖い。

 

 

 

 

 

桜の木は綺麗に花を咲かせており、満開の並木道は鮮やかな桃色で彩られている。1か月前までは無味乾燥とした枝の色しか見られなかったのに、時間というものは恐ろしいもので気がつけば大きな変化をもたらしている。

 

この並木道をまっすぐ進むと病院がある。それこそ1ヶ月前まではルーティーンとして進んでいた道だが、今日だけは違っていた。

 

少し先のところを右に曲がると広場に出る。そこはお花見の名所であり、老若男女問わず人気の場所だ。

 

 

まあ、病院が近いから急性アルコール中毒にも迅速に対応できるからみたいな身も蓋もないような理由もあるそうですけど。

 

 

お酒と言えば、恐らくどの家庭でも1度はお正月に親からちょっとは飲ませてもらう経験がありますよね?わたしも例に漏れず飲ませてもらったことがあるんですが、なんで大人はあんな苦い飲み物を美味しそうに飲めるんでしょうか。お父さんに聞いても「大人になればわかるよ」としか教えてくれませんでしたが、てことはつまりわたしはまだ子どもなんですよね。

 

 

じゃあ具体的には何歳くらいから大人なんでしょう?

 

 

この国では20歳が成人の線引きですけど、前に誰かから聞いた話によるとそんな国はもう日本くらいだと聞いたことがあります。一般的なのは18歳らしいんですが、なら大人のボーダーというのは間をとって19歳と言えるでしょう。つまり、大学1年生。

 

 

 

それは、奇しくも先輩の年齢と同じであって。

 

 

 

確かに先輩は大人っぽいですし、ともすればお酒だってすでに美味しいと感じてそうですよね。たった一つしか年上じゃないのにあの落ち着いた雰囲気なのはやはり大人だからでしょうか。

 

なんて言いつつも、来月になればわたしも先輩と同い年になるんですけども。

 

 

 

 

 

っと、閑話休題です。

 

 

やっぱ、どうしても先輩のこと考えちゃうなあ……。今はまだ思い出したくないのに。

 

 

 

 

 

桜の花びらがわたしの周りを舞う。少し強い風が吹き、花弁は桜吹雪となって空間を包んだ。鮮やかなピンクはおよそわたしの感情の色とは似つかわないコントラストを描き、そんなアイロニーにわたしは心の中で苦笑するしかなかった。

 

 

目的地はすぐそこです。どくんどくん、と早くなる鼓動を隠すように手を胸に当てて前に進む。

 

 

 

 

 

 

 

 

綺麗な桜の下を陣取っている3人に、わたしは軽く挨拶をするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遅れました、こんにちはです!それと先輩、またその人なんですか!!!ほんとそれ浮気ですって!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのもの言いに、先輩はいつもの雰囲気を携えて呆れたようにわたしを見てくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一色、冗談でもそういうことは言うな。俺が浮気できるほど甲斐性があるように見えるか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どこか自分を卑下した言葉に、先輩を除いたわたし達3人はただ笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





()()()から、わたしは先輩のことを──
あの日···八幡と大学で出会った女が2人で一緒にいるのを見た日

代読···生徒会長の小町はまだ厳密には退院できていないので卒業式には出席できなかったから 元々は小町が言うはずだった

鼓動が早くなる···浮気相手(に見える)人と一緒にいるのを見たくない

3人···言わずもがな、八幡と小町と大学での八幡の友達(女)



まずは「比企谷兄妹は、それでも永訣を否定する」をここまで読んでくださってありがとうございます!初めは別のssが全然書けなくなったから気分転換に、という思いで始めた見切り発車全開のものだったのですが、当初の構想まで持っていけて一安心です(笑)

それと最後のシーンですが、作者はバッドエンド及びビターエンドよりもハッピーエンドの方が好きなのでこういった形になりました。バッドエンドを期待されていた方はすいません、結局は自分のしたいことをするという結果になってしまいました。

ただバッドエンドにしようと思えば物凄いバッドエンドだってあったんですよ?

というのも、1話に八幡が間違えて403号室に入るシーンがありますよね?実はあれ最初に話の流れを考えながら書いていたのですが、あの時点で八幡は精神病を患っており、もともと403号室が自分の病室で5階を押したはずなのにというのは毎回4階に上がっていたために癖で押していたというものでした。この話の最後は自分のしていたあさましさに相当な自己嫌悪を表し、最後には自ら命を絶ってしまうという、全く救いのないエンドです。

が、そんなエンド誰得やねんと思い直した結果、このシーン普通にギャグで使えるんじゃね?となってあのような無駄な伏線が残ってしまいました。


さて、この話で終わってしまうとわからないことが3つほど残りますよね。ひとつはなぜ八幡が生きているのか。またひとつは小町がなぜ生きているのか。そしてもうひとつは玉縄の伏線。

これらを作者の中で自己完結してこのssを終わらせるのは忍びないというか、無責任な気がするのでその辺りを恐らく1〜2話で全て回収するつもりです。なのでまだ更新はあります。


最後に、ここまで読んでくださった方にもう一度お礼を述べて終わろうと思います。本当に、ありがとうございました。


感想並びに評価、まだまだ待ってます!(笑)





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