素敵な大人のラブコメを。   作:ルコ

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時間の進みに戒めを

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あーしにも感じてくれたら…、嬉しい…、です。

 

 

 

 

…アホじゃん。

 

あーし、アホじゃん!

 

枕に顔を埋めながらに昼間の事を思い出す。

なんであんな事を言ってしまったのだろう。

あんなのほぼ告白みたいなもんじゃん!

ただの告白じゃん!!

戻してよ…。

時間を戻してよ!!

そうしたら、あーしはそんな事を口走るあーしをぶっ飛ばしてやるのに……。

 

「…ぅぅ。なんで、あーし…」

 

日付が変わる時間、だんだんと悶々としてきた頭を枕に何度も打ち付けた後に、あーしはふんわりとため息を吐く。

 

 

 

『…え?なんだって?』

 

 

 

まさかの難聴系男子で助かった…。

 

いや待て、ヒキオのことだから聞こえていても聞こえないフリをする可能性だってある。

むしろその可能性の方が高い。

 

結局、曖昧なままにサイゼを出て、買い物を済まし、変わらぬ態度のヒキオは手を小さく振りながら帰っていったわけだが…。

 

 

『また奢ってくれるなら付き合ってやるよ。またな』

 

 

……。

解せぬ。

…解せぬ男だしアンタは!!

 

突き放すような言葉を言いながらも、荷物を持ってくれたりと優しい振る舞いもする。

引く所は引いて押す所は押す、まさに恋愛マスターの技術。

 

ふと、テーブルに投げ置かれたスマホが目に入る。

 

電話…、お礼の電話をするのは普通だよね?

別に声が聞きたいとかお喋りしたいとかじゃなくて、お礼を言いたいだけ。

だって買い物に付き合ってもらったんだから当然じゃん。

普通言うよね?お礼。

うん、言うし。

誰であろうとお礼の電話はするべきだし。

おし、電話しよう。

電話電話…。

 

「…ふぅ…、よ、よし。電話……」

 

あーしはベッドから起き上がり、テーブルに向かって正座する。

家宝を触るようにスマホを持つと、震える指で操作しながらヒキオの電話番号を表示した。

 

後は…、押すだけ…。

 

押せ…、あーし!押せ!!!

 

「ふ、ふぐぅ…、だ、だめだし!緊張して汗が…っ」

 

額の汗を腕で拭いながら、あーしは様子を見るべくスマホを睨み続ける。

 

 

…今だしっ!!

 

 

ぴっ。

 

とぅるるるー

とぅるるるー…。

 

 

『……なんだよ』

 

「お、お、おう!ヒキオ!?」

 

『そらそうだろ』

 

「あ、え、へへ。いや、なに?お礼って言うの?今日は買い物に付き合ってくれたから…」

 

『いらん。もう寝るから切るぞ』

 

「ま、待てし!あんた!人がお礼を言おうとしてるのにそれを無碍にするの!?」

 

『……』

 

「常識がないし!あんたには常識ってやつがないし!!」

 

『こんな時間に電話してくるお前に言われたくねえよ』

 

電話越しでさえも分かる、ヒキオの呆れた顔。

数秒おいて、抑揚の無い声が小さく呟かれた。

 

『…最近どうなんだ?』

 

「え?どうってのは?」

 

『…ストーカー。あれ以来、ストーカーの気配とか感じないのか?』

 

「…ん。まぁ、ヒキオに言われた通り、あんまり夜は出歩かないようにしてるし」

 

『そうか…』

 

「うん…」

 

『……』

 

「ふふ」

 

『…何笑ってんの?』

 

「えへへ。…なんかさ、顔も見えないのに、ヒキオの表情が想像出来る」

 

『……』

 

「声しか聞いてないのに…、凄く暖かい。お布団の中に居るみたい」

 

膝を抱きながら聞く声はとても暖かい。

自然と緩む頬も、今は誰にも見られることはないから緩みっぱなしでだらしが無い。

続く沈黙すらも心地良いのだから不思議なものだ。

 

 

「ねぇ、ヒキオ…」

 

 

『…あ?』

 

 

「教えてよ」

 

 

『…』

 

 

 

 

「アンタがあーしに優しくする…

 

 

 

()()()()()を」

 

 

 

 

 

 

 

 

……………

………

……

.

.

 

 

 

『君は本当にバカだね。お姉さんが居なかった大変な事になってたよ?』

 

『…今時珍しくないでしょう。高校生がラブホで写真を撮るくらい』

 

『本気で言ってる?童貞の癖に』

 

『それ、関係ありますか?』

 

そんな会話が繰り広げられていたのは放課後の部室棟の一角だった。

ほとんどの生徒が近寄る事のない場所で、あーしは身を潜めながらその会話を盗み聞きしていた。

 

『ま、隼人に私へ連絡させるまでが君の算段だったんだろうけどさ……、今回は本当に危なかったってことは自覚して』

 

『…はい』

 

『聞いたのがクラスに居た数名だったことと、ガハマちゃんが君の()()()()って所を訂正してくれたから大きな問題にはならなかったけどさ』

 

『由比ヶ浜ハマハマですね』

 

『それあるぅ〜。……ってふざけんじゃないの』

 

ゴチン、と。

ゆっくりと振り落とされた拳が彼の頭に当たる。

思いの外強かったのか、叩かれた所を自らの撫でつつも、彼は済ました顔であり続けた。

 

『…君にしては、少し冷静さに欠けた判断だったかな』

 

『……』

 

『…。そんなにガハマちゃんが大事?それとも、君は目の前で困ってる人が居たら、なりふり構わずに自分を犠牲にするの?』

 

彼はしばらく無言のまま目を逸らし続けた。

困ったように眉を寄せる。

 

『…そんなわけないでしょ』

 

『…』

 

『…雪ノ下と由比ヶ浜だけですよ』

 

 

 

 

ふわりと。

 

 

 

 

『…怒られるかもしれませんけど、俺はあいつらが傷付く姿を見る方が、自分の痛みよりもずっと堪えるんです。だからーーーーー』

 

 

 

その言葉は幸せな色をして。

 

 

 

『ーー2人の前では、格好つけておこうかと』

 

 

 

甘く溶けるガムシロップのように充満していく。

 

 

 

『…ぷっ、何ソレ。全然格好良くないよ?』

 

『え、ダークヒーローみたいで格好良いでしょ?』

 

『はいはい。はぁ、まったく呆れちゃうよ。……流出画像の件は私に任して。知り合いに、その手に強い人が居るからさ。…でも、ガハマちゃん本人のことは…』

 

『雪ノ下に任せてます』

 

『君もケアしてあげなよ!?』

 

 

そんな会話の聞こえる物陰で、あーしはジッと、自らの存在を消すように佇んだ。

 

自らの犯した過ちを隠すように。

 

彼の偽りない言葉に悔しさを滲ませ。

 

あーしはその場から静かに離れていった。

 

 

 

 

 

 

 






早足で終わらせまーす。

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