[2]魔法科高校の世界にチート転生者がきたようです   作:型破 優位

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すみません。
熱+諸事情+やる気の問題でかなり遅れました。


三高vs一高

 決戦ステージは『草原』ステージに決まった。

 

 そのことにより、三高テント内は多少盛り上がりを見せた。

 

「よし、これで幻術対策がしやすくなる。攻撃し続けておけばまず後ろを取られることはない」

 

「そうだね。森崎って子と実際に正面から渡り合って将輝が負ける道理はない」

 

 そう、『渓谷』や『岩場』ステージみたいに視界を遮る物が多いところでは、いつ幻術にかかるかわからないため対処が難しくなるが、『草原』なら視界を遮る物がなく、術者に付け入る隙を与えなければ何も問題ない。

 

「これで後は中田 佑馬だけだな」

 

「うん。これといって特別なことを見たわけではないけど、超遠距離から魔法を当てる技術と、あの赤い巨人みたいな魔法は脅威だね」

 

「だが、森崎ならジョージ一人でも勝てる。だから俺は中田 佑馬と一対一でやりあう」

 

「今までの傾向からしても、森崎がオフェンスで中田 佑馬が遊撃手なのは間違いないからね。ニ対一で不意を突かれるよりはそっちの方がいいかもしれない」

 

「ああ、それじゃあいくぞ。ジョージ」

 

 そうして、三高のモノリスメンバーは競技会場へと向かった。

 

◆◆◆

 

「今、一条達は森崎が(・・・)幻術を使えると思っている。そして、『草原』ステージということで、攻め続ければかけられる心配もない、と考えてるだろうね。そして、俺の遠距離攻撃を必ず見てるだろうから、不意討ちを避けるためにも各個撃破でくるはずだ。森崎が吉祥寺で俺に一条かな。だから何度もいうけど、敢えて森崎は一人で突撃する。相手の攻撃が集中するだろうけど、それは俺が全部捌く。そこは絶対の信頼を置いて貰ってもいい」

 

「ああ……ってか、そこまで考えてのさっきの試合だったのか?」

 

「まぁね」

 

 一方、一高でも同じような内容が話されていた。

 これまでの三高の一連の流れは、全て佑馬が仕組んだものと言っても過言ではないほど、首尾よくいっている。

 

「森崎のクイックドロウさえあれば、相手も苦戦は免れない。自分の完全特攻の時の実力を存分に試してこい」

 

「ああ」

 

「よし、じゃあ行こうか」

 

 そして、話の区切りをつけて競技会場へと向かった。

 

◆◆◆

 

 新人戦、モノリス・コード決勝。

 選手の登場に、客席は大いに沸いた。

 

 いよいよ、始まるのだ。

 今年度の一年生トップクラスの実力者が揃う試合が。

 

 そして、しばらくして客席がざわつき始めた。

 本部席の近くがざわめいた理由、それは思いがけない来賓がいたからだ。

 

「あれは……九島か?」

 

 佑馬は、来賓席に登場した人物を、はっきりと視た。

 あの若々しい老人は、九島 烈で間違いない。

 

「んー、目つけられたかなぁ……知っていたことではあったけど、めんどくさいことになった」

 

「おい中田。何一人でボソボソと言ってるんだ?」

 

 試合前、緊張感が高まっている時に佑馬がボソボソ何か言っているため、どうしても気になったのだろう、森崎が聞いてきた。

 

「いや、来賓席で九島 烈が観戦してるんだよ」

 

「それは本当か!?……それはさらに無様な姿は見せることが出来なくなったな」

 

 結果、森崎の士気向上に繋がったため、結果オーライというやつだろう。

 闘志が湧き出ている今の森崎なら、何も問題はない。

 

 試合開始の合図と共に、森崎は三高モノリスへと突撃。

 三高から砲撃が始まった。

 

 そして、観客はざわついた。

 なんの脈路もなく、唐突に三高側から飛んできた魔法が消えたたことに。

 

 森崎は自己加速でさらにスピードをあげ突っ込んでくる。

 

「将輝……どうやら森崎一人だけのようだね」

 

「ああ、それなら好都合。アイツが来る前に倒せばいいだけのことだ」

 

 作戦とは別のことが起きているが、何も問題はない。

 寧ろ、一人で突っ込んでくれるのは好都合だ。

 

 森崎に照準を向け、いくつもの魔法を同時に打つ。

 

 誰もが、一高のチームメイトさえ、森崎は倒されたと思った。

 しかし、その魔法は森崎に当たる直前で消えた。

 

「な……消えただと?」

 

 そう、しかも魔法は途中で霧散したのではなく、本当の意味で消え去ったのだ。

 なおも森崎はスピードを上げ、その距離は三百メートルをきった。

 

 だが、誰がやったのかはわかる。

 一高モノリスの隣で手をこちらに翳している佑馬だ。

 

「仕方ない……ジョージ、原理はわからんが数で押しきるぞ」

 

「了解」

 

 既に森崎と三高モノリスとの距離は百メートル。

 森崎は魔法を構築し、将輝達に照準を合わせる。

 

 高速で組み上げられた魔法は、正確に将輝達の元へ飛んでいくも、将輝が前に出て情報強化魔法を展開、それにより森崎の魔法は打ち消された。

 

 同時に吉祥寺が後ろから魔法式を展開し、魔法を放つ。

 

 『不可視の弾丸』

 

 『基本コード』の一つである「加重系統プラスコード』を利用した加重系の系統魔法であり、対象のエイドスを改変無しに直接圧力そのものを書き加える魔法で、情報強化で防げない魔法。

 

 効果自体は「対象物を圧力がかかった状態」に改変する破城槌に似ているが、こちらは「圧力のみ」を改変するため魔法式が小さい。

 

 その魔法が森崎を襲う。

 しかし、その魔法もまた、何の脈路もなく消えた。

 

(……まさか、これも中田 佑馬か?)

 

 その瞬間、吉祥寺は中田 佑馬を見る。

 そして、その瞬間に背筋に悪寒が走った。

 

 せめて半分の位置にはいるだろうと思っていた中田 佑馬は、なんと一高のモノリスの近くにいるのだ。

 

 直線距離にして、約六百メートル。

 

 その距離から、一条や吉祥寺の魔法を打ち消しているのだ。

 

 観客は、そこで広げられている攻防に魅了されていた。

 いくつもの魔法が高速で展開され、絶え間なく双方から打ち続けられるこの状況。

 

そして、ディスプレイにはしっかりと映されていた。

 三高側が魔法を撃った瞬間から、別の『想子(サイオン)』によって包まれていることを。

 

 だが、それと同時に『想子』を視覚的に見えるもの達は、一様に首を傾げた。

 普通なら視える『想子』だが、三高側の魔法を包んでいる『想子』だけはどうしても視えないのだ。

 

 尚も激しい魔法の撃ち合いは続くが、どちらが優勢なのかは明らかだった。

 三高は森崎の攻撃特化のクイックドロウによって発動される魔法に追い付かなくなり、攻撃を捨て防御に専念、森崎は防御を捨て、とにかく攻撃に専念していた。

 

 これは、正に番狂わせだった。

 

 森崎一人で、三高の最強コンビを封じているのだ。

 そしてさらに、防御に徹した将輝と吉祥寺は、幻術も警戒している。

 

 よって、防御も少しずつ、遅れていく。

 森崎の攻撃スピードも、若干遅くなりつつあるが、それでも普通の魔法師のそれよりは早い。

 

 しかし、その魔法の撃ち合いも、徐々に激しさがなくなっていった。

 森崎の『想子』が尽きてきたのだ。

 

 それと同時に、再び将輝と吉祥寺は攻撃を再開する。

 

 そして、とうとう森崎の足が止まった。

 好機と魔法を撃ち込む将輝と吉祥寺だが、同時に、しまったと後悔する。

 

 森崎の周りが光に包まれていたのだ。

 よって、将輝は吉祥寺の、吉祥寺は将輝の方にCADを向けどちらに来てもいいように構えた。

 

 しかし、それは来なかった。

 

 それと同時に、客席が再びざわつく。

 さっきまで三高モノリスの近くにいた森崎が、一高モノリスの横で座り込んでいるのだ。

 

「……幻術にいつかかったかわかるか?ジョージ」

 

「ごめん、全くわからなかった」

 

 その状況に驚きながらも、二人の頭は冷静に試合を見ていた。

 『想子』が切れたことにより戦闘不能になった森崎。

 それにより、三対二と試合展開は変わる。

 

 反撃開始とばかりに一高モノリスへと向かおうとした二人に、その瞬間悪寒が走った。

 

 一高モノリスから、佑馬から発せられる何かに。

 

◆◆◆

 

 疲れきった森崎を空間転移で、しっかりと光の演出をしながら戻した佑馬は、モノリスの横に座らせる。

 

「おかえり。どうだった?」

 

「はぁ、はぁ……吉祥寺なら、一人でも、なんとか、いけそうだった……けど……一条は無理だ」

 

「ふむ……俺も同じ考えだ。だが、二人を相手に小一時間防御に専念させたのも事実だからな」

 

「ああ、ありがとう……いい経験をさせて貰ったよ」

 

 息も絶え絶えに言う森崎に労いの言葉をかけ、再び三高側に目を向ける佑馬。

 

「よし、じゃあこの試合の幕引きをしてくる。お前はここで見てな」

 

「頼んだ……!?」

 

 その瞬間、佑馬に恐怖した。

 佑馬から発せられる恐ろしい何かが、全身をベットリと覆ったのだ。

 

 それは、殺気。

 

 こちらに向かおうとしてきた将輝と吉祥寺も、それにより足を止めていた。

 

「じゃあ、行ってくる」

 

 その言葉と同時に歩みを進める佑馬。

 自分に向けられているものではないとわかってはいても、恐怖するしかなかったあの殺気。

 殺気だけでも、自分では敵わないと認識させられた。

 それと同時に、佑馬に勝ちたいというライバル心も。

 

「……やっぱり凄い奴だよ。佑馬」

 

 ゆっくりと歩いて三高モノリスへ向かう友人(・・)を見ながら、森崎はそう呟いた。




こんな感じでどうでしょうか。

やっと九校戦の終わりが見えましたね。

……あれ、十三束空気。

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