[2]魔法科高校の世界にチート転生者がきたようです   作:型破 優位

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番外編としてテニスの王子様書いてます。
興味がある方はどうぞ。

それでは本編です。


最強の片割れ

 一高の女子がアイス・ピラーズ・ブレイクを独占して勢いにのるなか、男子の不振は更に悪化するだけだった。

 

 それもあり、天幕はそこまで盛り上がることも出来ず、気まずい雰囲気になっている。

 

 そして現在、ジブリールと雫、深雪と担当エンジニアの佑馬、達也はホテルのミーティングルームに呼ばれていた。

 呼んだのは真由美で、アイス・ピラーズ・ブレイクの決勝メンバーを、ジブリール、雫、深雪の三人で独占したことによる今後の方針についてだ。

 

「時間に余裕があるわけじゃありませんから、手短に言います。決勝リーグを同一校で独占するのは今回が始めてです。司波さん、北山さん、中田さん、本当によくやってくれました」

 

 深雪とジブリールは丁寧に、雫は静かにお辞儀して、真由美の賛辞に応えた。

 

「この初の快挙に対して、大会委員会から提案がありました。決勝リーグの順位に関わらず、学校に与えられるポイントの合計は同じですから、決勝リーグを行わずに三人を同率優勝としてはどうか、と」

 

 つまり、大会本部は楽したいと言っているのがよくわかった。

 だが、そうは問屋がおろさない。

 

「達也君、貴方の意見はどうかしら?佑馬君はともかく、二人も戦うとなれば貴方もやりにくくなると思うんだけど」

 

 どうやら真由美も同率優勝で落ち着かせたいようだった。

 これは、個人としての意見ではなく、チームリーダーとしてもっとも望ましい決着だからなのだろう。

 

「それは本人達が決めることです。コンディションは二人とも問題有りませんから」

 

「なるほど……佑馬君はどうかしら」

 

「ジブリールに任せます」

 

 二人がこういったため、真由美は女子三人に視線を向ける。

 

「私は……」

 

 先に口を開いたのは雫だった。

 

「戦いたい、と思います」

 

 強い意志が込められた瞳で、真由美の目を真っ直ぐ見返して。

 

「深雪とジブリールと本気で競うことの出来る機会なんて、この先何回、あるか……。私は、このチャンスを逃したくない、です」

 

「そうですか……」

 

 真由美は視線を床に落として一つ息をついた。

 

「深雪さんはどうしたいのですか?」

 

「北山さんがわたしとの試合を望むのであれば、わたしの方にそれをお断りする理由はありません。そして、わたしもジブリールに挑んでみたいです」

 

 実は極めて気が強い性格の深雪であれば、こう答える事は真由美にも分かり切っていたことだった。

 

 そんな深雪が兄以外で自分を完全に下に置くとは思ってなかっため、ジブリールに挑む、というのには驚いたが。

 

「なるほど。では、ジブリールさんはどうしますか?」

 

「勿論、お二方の申し込みはお受けいたします」

 

「分かりました……では、決勝リーグを行うことにすると大会委員に伝えておきます。決勝は午後一番になるでしょうから、試合の準備を始めた方がいいでしょうね」

 

 真由美の言葉に、真っ先に一礼したのは達也。

 

 ミーティングルームを出て行く彼の背中に、すかさず真由美へお辞儀した深雪と雫が続いた。

 

「……貴方達は行かなくてもいいのかしら?」

 

 ただ、佑馬とジブリールはその場に残っているが。

 

「一応三人の意志を尊重して決勝リーグをしてくれたけどさ、実際のとこは?」

 

「本音を言うと、同率決勝が望ましかったわね……ただ、自分よりも強い人に挑みたいという気持ちもよくわかるから、仕方ないわね」

 

 困ったように笑いながら言う真由美に佑馬は感謝と申し訳ない気持ちを込めて一礼しミーティングルームを出いき、ジブリールもそれに続いた。

 

「……私ももう一度勝負したいのよ?佑馬君」

 

 何か呟いたようだが、それは誰にも聞こえることはなかった。

 

◆◆◆

 

 観客席は、超満員だった。

 新人戦女子アイス・ピラーズ・ブレイク決勝リーグは、午後一番、他の競技とわざわざ時間をずらして行われることになった。

 

 一般席だけでなく、関係者用の観戦席も満員。

 

 そこには真由美と摩利に挟まれた達也の姿があった。

 

「佑馬君はやっぱり、ジブリールさんの方についてるの?」

 

「いや、佑馬は……あそこにいます」

 

 達也が指した場所に、確かに佑馬はいた。

 いたのだが……

 

「……なんであんなところにいるのかしら?」

 

「ジブリールを真っ正面から見たいのと、人混みは嫌だって言ってました」

 

 電光掲示板の上にいた。

 

「というか、あいつはどうやってあそこまで……瞬間移動出来るんだったな……」

 

 はぁ―……っと両隣から溜め息が聞こえるが、それもすぐになくなった。

 

 二人の選手がステージに上がってきたからだ。

 

 フィールドを挟んで対峙する二人の少女。

 

 片や、目に清冽(せいれつ)な白の単衣に緋の袴。

 

 片や、目に涼しい水色の振袖。

 

 前者が深雪で後者が雫だ。

 

 始まりを予告するライトが点った。

 そして、開戦を告げる狼煙となった瞬間、同時に魔法が撃ち出された。

 

 雫の陣地を熱波が襲う。

 深雪の『氷炎地獄(インフェルノ)』だ。

 

 しかし、雫の氷柱は倒れることなく持ちこたえている。

 

 『氷炎地獄』の熱波を、氷柱の温度改変を阻止する『情報強化』が退けているのだ。

 

 深雪の陣地を地鳴りが襲う。

 だが、その震動は、共振を呼ぶ前に鎮圧された。

 

 普通の人には両者一進一退に見える互角の攻防。

 しかし、それは全く違う。

 

 雫の『共振破壊』は完全にブロックされているのに対し、『氷炎地獄』の熱波は雫の陣地を覆っている。

 

 不利な状況を脱退しようと、雫が動き出す。

 

 CADをはめた左腕を、右の袖口に突っ込んだ。

 

 そこから出てきたのは、拳銃形態の特化型CAD。

 それは、達也が持たせた雫の切り札だった。

 

 CADの同時操作という技術を前に、深雪に一瞬の動揺が生じる。

 そこに撃ち出された魔法は、『フォノンメーザー』

 

 振動系の魔法で、超音波の振動数を上げ、量子化して熱線とする高等魔法。

 

 今大会、始めて深雪の氷柱にダメージが通る……が、その程度しかダメージを与えられなかった。

 

 そこで、深雪も魔法を切り替えた。

 

 深雪の陣地から白い霧が立ち込め、雫の陣地へと押し寄せる。

 雫はそれを融解を妨げる『情報強化』で対応するが、この霧は、『冷気』

 

 この攻撃には意味をなさなかった。

 

 『ニブルヘイム』

 

 広域冷却魔法で、今回の霧は液体窒素によるもの。

 そして、その威力は今、最大レベルに上げられていた。

 

 液体窒素が通りすぎ、深雪側の面に液体窒素の滴がびっしりと付着、そこで深雪は『ニブルヘイム』を解除し、再び『氷炎地獄』を発動した。

 

 気化熱による冷却効果を上回る急激な加熱によって、液体窒素は約七百倍の膨張率で一気に気化。

 

 轟音を立てて雫の氷柱が一斉に倒れ、深雪の勝利が決した。

 

◆◆◆

 

 それからバトルボードの決勝を挟んで再びアイス・ピラーズ・ブレイク決勝リーグ。

 

 今度は雫とジブリールだ。

 

 雫は既にCADの同時操作の構えをとっており、ジブリールは拳銃形態の特化型CADを持っている。

 

 長い静寂、そして、ライトが点る。

 

 開始と同時に、再び同時に魔法が撃ち出された。

 

 雫から出たのは『フォノンメーザー』

 それをジブリールは情報強化により、無傷で(・・・)対応。

 CADから『天撃』を放つ。

 

 雫は九つに別れた『天撃』を『情報強化』で対応し、『共振破壊』をジブリールの氷柱へと仕掛けた。

 

 だが。

 

「作戦が(あも)うございますよ」

 

 ジブリールが手をかざしただけで、それはキャンセルされた。

 

 そして、ジブリールはクラウド・ボールで見せた『手』を両翼から顕現させた。

 

 何をされるか分からないが、雫はその間に特攻を仕掛ける。

 

 ジブリールは防御に徹しながら、その『手』を天に向けて『何か』をしていた。

 そこで雫は、『共振破壊』をキャンセルされた瞬間に、『フォノンメーザー』を撃った。

 

 そして、直撃した氷柱にヒビが入る。

 

 ジブリールの操作する『手』には、強大な力を持つ代わりに弱点がある。

 

 集中力を切らしてはいけないため、本人は防御に徹することしか出来ず、その防御も甘くなる。

 

 それを『手』で補えば問題ないのだが、『何か』をするために『手』を使っているジブリールは、連続で攻められた時の対処が遅れる。

 

 その弱点を見つけた雫は、猛攻を仕掛けた。

 

 ジブリールはなんとか捌くがいくつかの氷柱はヒビが入り、二個が崩れ落ちた。

 

 だが、その瞬間、空が暗くなり始める。

 

 空には、真っ黒な雲が会場を覆っていた。

 

 そして、ジブリールの『手』から光が空へと昇っていく。

 

「少しヒヤッとしましたが、なんとか間に合いました。これにて、終了でございます」

 

 その言葉と同時に、ジブリールは『手』を振り下ろした瞬間、会場を凄まじい音を立てて強烈な光の筋がフィールドを襲う。

 

 雫の氷柱は跡形もなく、消え去っており、フィールドにはその威力を物語るかのようにぽっかりと底が見えぬ大きな穴が空いていた。

 

私の固有魔法(・・・・・・)、『雷撃』でございます」

 

 そして、それを見ていた佑馬は冷や汗を流しながら呟いた。

 

「……俺、こんな魔法知らねぇぞ」




ジブリール、深雪、雫だとさすがに雫を助け出すことは出来ませんでした……ファンの皆様、自分の力がないせいで申し訳ありません。

次回は深雪とジブリールの一騎討ちです。


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