[2]魔法科高校の世界にチート転生者がきたようです 作:型破 優位
書き方が雑だったとはいえ(今も雑だけど)、今じゃ1日に4話とか絶対に無理ですよ……。
それと、クロスの要望が何件かあったのでここで言わせてもらいますが、自分はクロスはしません。
作者は面白くても、読み手は全く話についてこれなく場合が多いし、何より更新が遅れますので。
誘ってくださった方、この場でも謝罪させていただきます。
申し訳ありませんでした。
それでは本文です。
九校戦二日目。
佑馬は達也から借りた技術スタッフ用ユニフォームのブルゾンを着て、競技エリアに設けられた第一高の天幕にいた。
理由は簡単。
昨日の会食が終わって部屋に戻ると、そこには深雪がおり、クラウド・ボール女子のエンジニアを達也に頼みにきた、と言っていたのだが、
「兼任の許可貰えたけど仕事全くないから、俺でよければ入るよ?」
ということで、真由美達と話し合った結果、達也は新人戦で頑張ってもらおう、ということになり、佑馬がやることになった。
そして、現在に至る。
佑馬のエンジニアとしての技量は、達也ほどではない、というだけでかなり優秀な部類に入る。
その強みとなっているのが、『写輪眼』と『一方通行』を使って、その場でサイオン特性を把握、何の機材もなしにで調整出来るところにある。
「それで、データはもう大丈夫なの?」
つまり、その時、その場でサイオン特性や心理状態を把握できるため、既存のデータを見る必要もないのだ。
「ええ、大丈夫ですよ。」
「そう……そろそろ時間ね。行きましょうか。」
何か言いたげなだったが、無駄だと思ったのかそのままコートへ向かった。
本当はコートまで行く必要はないのだが、断る必要もないため付いていく。
コート脇についたが、それから二人に会話はない。
その長い沈黙はさすがに不味いと思った佑馬は、気持ちを上げるためにも声をかける。
「……何処まで強くなったのか、見させてもらいますね。」
「……そうね。でも、ここじゃ本気は出せないかなぁ。」
「それは、出せなくても勝てちゃうって意味で?」
「それもあるんだけど……。」
そこで少し間を置いて、佑馬を見上げる真由美。
「また近いうちに戦うかもしれない人に、手の内を晒すわけにはいかないでしょ?」
その見上げた目には、純粋な闘志が、そして顔には、いつもの小悪魔的な笑みではなく、少女らしい笑みが浮かんでいた。
「そりゃそうだ。」
その顔を見て、佑馬も口を吊り上げる。
「さて、行きますか。」
真由美はその一言と一緒に冷却機能のついたクーラージャンパーを脱ぎ、テニスウェア姿になった。
「何か一言、コメントとかないの?」
「それじゃあ、一言だけ。」
いつも通りの小悪魔的な笑みを浮かべた真由美が言って欲しかったのは、自分の格好についてだったのだろう。
しかし、佑馬は表面上のそれを言わなかった。
「このクラウド・ボール、優勝したらもう一回だけ勝負してあげるよ……ライバルとして。」
「……っ!?」
佑馬が言ったのは、真由美を自分のライバルとして見るという宣言。
自分を完全に負かした相手からライバル、と認められる。
それこそ、
「……勿論よ、私は佑馬君のライバルなんだから。」
心の中から言ってほしい言葉だろう。
その真由美が他の高校生に負けるはずもなく、女子クラウド・ボールは全試合一セット、無失点のストレート勝ちで手の内を見せることもなく優勝を飾った。
◆◆◆
真由美の試合が終わった後、ピラーズ・ブレイクで花音が出ているなか、佑馬は再び風間の元へと向かっていた。
「どうしたんだ?君が頼みごととは。」
「本日の試合の行程が終わった後、クラウド・ボールの競技場を一つ貸して貰いたいのですが、なんとか出来ますか?」
「それはまた急なことだな……練習か?」
「練習みたいなことになってしまうのですが、七草家の令嬢とクラウド・ボールをやらせていただきたいのです。」
頼みごと、それはクラウド・ボールの再戦をするために競技場を一つ借りること。
風間は軍の中では少佐という階級だが、実際の権力は階級以上のものを持っている。
そのための頼みごと。
「それは厳しいな……ここは軍の施設だが今は九校戦の会場だ。私的なことで使っていいものではない。」
「勿論、タダでとは言いません。ジブリールのピラーズ・ブレイクが終わってからですが、自分のオリジナルのCADと魔法をそちらに提供します。威力は殺傷ランクA相当。どうでしょうか。」
新しいCADと殺傷ランクAの魔法、それは軍としても見逃せないものだ。
「……ピラーズ・ブレイクが終わってからというのは、そこで使うと言うことなのだな?」
「ええ、相手はあの深雪と達也のコンビですから、それなりの魔法を使わないといくらジブリールとはいえ厳しいものがありますから。」
「そのCADを今見ることは出来るか?」
「勿論。持ってきましょうか?」
「頼む。私は真田を呼んでくる。」
そして、それぞれの役目のために一時解散となった。
◆◆◆
「これは……起動式はいくつ入ってるんだ?」
「一つです。」
その特化型CADの形状を見て、驚きながらもその内容を問う真田。
「その魔法を教えてくれないか?」
「まだ秘密なので、真田大尉にだけ。」
そうして口を耳に近づけ何か説明している佑馬に、
「なんだって!?」
大声で叫んでしまった。
「真田、どうなのだ?」
真田は戦慄した。
その魔法の威力、CADの形状は勿論、その起動のしやすさに。
「はっ、先程伺ったものの対価として、破格なものだと思われます。」
真田から出た評価は破格。
つまり、競技場を一つ貸すだけでこれが手には入るなら安いということだ。
「了解した。軍のため、今回はこちらで手配しよう。」
「ありがとうございます。」
あくまで軍のため、という口実で許可を貰い、CADを受け取って一礼し、部屋に戻っていく佑馬。
それを見ながら風間は真田に問う。
「あんな形状のものは見たことないが、どういうものなのだ?」
「系統はおそらく収束、ですが……」
そこで黙る真田に風間は訝しげな目を向けるが、真田の顔には冷や汗が流れていた。
「彼は殺傷ランクA相当と言ってましたが、これは間違いなく、戦略級です。」
それは確かに、競技場一つ貸すだけで手に入るなら破格だ、と頷きながらも、風間の表情には冷や汗が流れていた。
◆◆◆
その夜、真由美と佑馬はクラウド・ボールのコート脇に立っていた。
「勝手に使っても大丈夫なの?」
「大丈夫だよ、許可もらってる。」
「どうやって?」
その質問には答えなかった佑馬に疑うような半目になる真由美だが、
「許可は間違いなく取ってるから大丈夫。」
それだけ言ってコートに向かった。
観客席には、摩利、十文字の三巨頭と鈴音、あずさ、深雪、服部の生徒会役員、達也とジブリール、そして噂を聞いて見に来た数人の九校戦メンバーが静かに見守っている。
「さすがに三回も負けるわけにはいかないわね……。」
「確かに今回は俺もやばそうだな……まさか『マルチスコープ』を使わずに出場競技を優勝するとは思っても見なかったよ。」
「私だって、二回も負けてなにもしないほど鈍感じゃないのよ?」
「手加減はしない……が、正直なところ、本当の本気も出せないな。」
その言葉に観客席の前列にいたものはざわめき、後ろの観客席が何事かとだんだん騒がしくなる。
「……嘘じゃないのね……本当に嫌になっちゃうわ。あれでまだ本気じゃないなんて。」
「試合用の力では本気さ。ただ……テストと同じで、それだけじゃ計測できないものもあるだろ?」
「それもそうね……。」
そして、真由美もコートに立つ。
その瞬間、観客席から緊張が走る。
そこで、開始のブザーが鳴った。
球は佑馬の方へとぶ。
その球を打ってから、真ん中へ移動する佑馬。
(来た!)
その瞬間、真由美は二つ目のCADを出し、球を魔法で打ち返して佑馬のコートの右端を狙う。
そして、ネットを越えようとした瞬間に、真由美側のコートのネット際から魔法陣が出現、ネットを越えた瞬間にドライアイスが放たれ、佑馬のコートに落ちた。
「ほう……すごいな。」
佑馬は素直に称賛した。
これが、真由美の反射膜の対策。
その性質上、佑馬は真ん中に立っていなくてはいけない。
つまり、真ん中に立った時がその時となる。
左右の端にはカバーしきれはない空間があるため、そこを狙うためのCAD二機操作にし、上から叩き落とすことにより、反射膜に触れる前に佑馬のコートに入れた。
そして、そのCADは達也によって調整されたもの。
真由美はどうだ、といわんばかりの表情をしている。
そこからのラリーは、全くの互角。
『マルチスコープ』によってコート全域をカバーしている真由美に、空間転移の球も『魔弾の射手』によって現れた瞬間に返され、ベクトルの力の向きを使った球も減速させることにより真由美も対応している。
そして、前よりも上がったその反射神経、これはスピード・シューティングで既に周知の事実。
追加でCADの二機操作により、佑馬のボールにも対応している。
これが、真由美が今まで佑馬に勝つためにした努力の結晶。
佑馬も点をとられはしないが、取れない。
(反射膜を破るどころか、点を入れさせないか……本当にすごいな。)
ここまで魅せられて、逆に本気にならない方が失礼だろう。
現在百二十秒、つまり、二分秒が経過し、球は現在六球。
残り一分。
そこで、佑馬は止まった。
その間に真由美に五点入り、真由美は訝しげな目を向けながらも勝機と追い討ちをかける。
皆スタミナ切れだと思うだろうか。
断じて否、ジブリールとの試合を見ているメンバーにはこれだけでスタミナが切れると思っていない。
だが、何かしようとしているこの隙を狙うしか真由美に勝機はない。
追加で三十点が入る。
時間にして約六秒。
一秒に五点というとてつもなく速いスピードで畳み掛ける。
そして、追加で五点が入った瞬間、佑馬の背中に異変が起きる。
◆◆◆
「何だ……あれ……。」
その場の誰もが思っていることを摩利が代弁した。
佑馬の背中には、漆黒の翼が生えている。
「ジブリール、何か知らないか?」
達也は近くにいたジブリールに声をかけた。
達也ですら、この現象は知らない。
「佑馬の本気の片鱗でございますが……この競技なら、本当の本気と言っても過言ではないです。」
「あれが、佑馬の本気?」
そして目を向けた達也たちの目に入った光景とジブリールの言葉に、近くに居たものは全員驚く。
「あの姿になった佑馬は私ですら勝てません。」
「……そうか、あれが佑馬の翼か……。」
そこには、佑馬のスコアに表示される五点とコートに立ち尽くす真由美の姿があった。
◆◆◆
見えなかった。
ネットを越してコンマ数秒もかからずに返したはずのボールは気がついたらコートに入っていた。
視認は出来なかった。
そして、対面にいるのは黒い翼を生やしたライバルにして目標の人。
とりあえず見えなければどうしようもないため、ネットに魔法を張り巡らせる。
体力の消耗は気になるが、そうも言ってられないため、減速してなんとか気力で持ちこたえるつもりだった。
しかし、
「……え?」
何の冗談だろうか。
夢でも見ているのだろうか。
確かに減速はした。
だが、ボールはこちらのコートにある。
つまりは、こういうことだろうか。
「……物理的に……壊した?魔法を?」
残り四十秒、減速魔法では持ちこたえられないと、ただ耐えるだけの防壁魔法で七球をなんとか防いでいるが、一球ずつ、防壁魔法は破られてそのままコートに入っていく。
現在十八対三十六。
点数の開きは倍あるが、全く安心できるレベルではなく、既にジリ貧。
観客が黙って見守るなか、佑馬の猛攻は続く。
十九、二十と入っていくのを見ながらも、サイオンが枯渇しているのを感じながらも、それでも気力で耐える。
残り二十秒、二十七対三十六。
とにかく防壁魔法を張り続けるしかなかった。
サイオンはもうほとんど底をついているが、負けたくない、勝ちたい、という執念だけが今の真由美を動かしている。
だが、それでも少しずつ点は入れられる。
残り十秒、三十二対三十六。
四点差にまで迫られている……いや……抑えている。
ジブリールですら勝てないと言わしめたその猛攻を、真由美は抑えているのだ。
意識が朦朧とするなか、魔法だけは打ち続ける。
(負けたくない……勝ちたい!!)
残り五秒、三十四対三十六。
最後の力を振り絞って、とにかく耐える。
残り四秒、サイオンはもう既にない、しかし、気力だけが真由美に魔法を打たせる原動力となっている。
残り三秒、一点が入った。
残り一点差。
残り二秒、感覚的に、いや、女の感というやつだろうか。
防壁魔法を展開すると同時に、コートのある一ヶ所に反射の魔法を展開した。
残り一秒、その展開した場所にボールがきて、それを上へと反射、後のボールは一球も侵入していない。
後ろでボールが落ちていくのを感じるが、魔法はもう打てない。
そして、ブザーが鳴り響くなか、真由美の意識は暗転した。
真由美ちゃん、よく頑張った。
そして、今頃気づく。
クラウド・ボールとピラーズ・ブレイクの日程って同じなんじゃ……ジブリールだからいっか。