[2]魔法科高校の世界にチート転生者がきたようです   作:型破 優位

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題名でどういう展開かわかるかと思います。


恋人兼ライバル

その場で声を出す者は誰一人としていない。

 

男子を含めたクラウド・ボール本選メンバー最強の真由美が大差で負けた。

 

その圧倒的な実力。

 

箱から真由美と佑馬が出てきた。

 

真由美は息を整えながら、佑馬は汗もかいてない様子で、二人とも何かを話しながら。

 

「さて、中田佑馬の方のクラウド・ボールの実力はこれで証明された。次に中田ジブリールの方だが、相手は誰がやる?」

 

「それ、自分がやってもいいでしょうか。」

 

克人の問い掛けに名乗りを挙げたのは、佑馬。

 

「別に構わないが、大丈夫か?」

 

克人は、二つの意味でそう聞いた。

 

今の試合で疲れていないのか、というのが一つ。

 

佑馬が相手で実力がわかるのか、というのが一つだ。

 

それを的確に汲み取った佑馬は、

 

「問題ありません。」

 

と、だけ答えて、ジブリールと共に再び透明な箱に入っていった。

 

◆◆◆

 

「お疲れ。」

 

二人が箱に入っていくのを見ながら、摩利は真由美を労った。

 

「ありがとう、摩利。でも……また負けちゃったなぁ。」

 

その真由美は、とても悔しそうな表情をしている。

 

「佑馬君が相手ではそれも仕方のないことだろう。だが……あそこまでとはな。」

 

「しかも、あれでまだ本気じゃないっていうのだから嫌になっちゃうわ。」

 

その言葉に、摩利は少なからず驚いた。

 

「……それは本人からの情報か?」

 

「ええ……ジブリールさんの時に本気を出すことになるって言ってたわ。」

 

それはつまり、間接的にジブリールよりも劣っていると言われたようなもの。

 

悔しくないはずがない。

 

「つまり、本番はここからというわけか……達也君といい、三人とも本当に高校生なのか疑問に思うところだな。」

 

「全くよ。」

 

二人が会話している中、箱の中では佑馬とジブリールが向かい合っていた。

 

◆◆◆

 

「さて、こうやって対戦することになったが、まさかさっきのが本気だとは思ってないよな?」

 

「逆にあれぐらいが本気だったらこっちが困ります。」

 

ネットを挟んで軽口を言い合う二人。

 

だが、遠目でもわかるほどの威圧感。

 

「まぁいい。俺が勝つだけだからな。」

 

「おやおや、もう勝った気でおられるのですか?それは油断に繋がりますよ。」

 

「前ならともかく、今の俺が油断すると思ってるのか?」

 

「それもそうでしたね。」

 

そこで、二人とも位置につく。

 

佑馬、ジブリール、共にラケット。

 

合図がなると同時に、球は佑馬の方へ飛んでいった。

 

それを佑馬は打ち返すが、その球は真由美のときとは比べ物にならないほど、速い。

 

ベクトルを操作し、なおかつ自己加速術式まで使ったその球は、ソニックブームを伴ってジブリールコートに向かうが、

 

「遅いですね。」

 

その呟いた一言とともにジブリールが打った球は、佑馬の非ではないほど、速い。

 

実際、単純な運動神経なら、ジブリールの方が上だ。

 

そこに能力が加わることにより、佑馬はジブリールを超えるほどのスピードを出せている。

 

しかし、それがジブリールも使えるとしたら、どうだろうか。

 

佑馬のベクトルの方向を全て加速にあてた球を、ジブリールがベクトルの向きを魔法で反転させつつ、その球を打つ。

 

その結果、必然的にラリーのスピードは上がっていく。

 

観客には、二人の残像しか見えていない。

 

ポイントはまだどっちも取っておらず、一球目からこのレベルの高さ、いや、もう次元が違っていた。

 

20秒が経ち、二球目が出てきたとき、佑馬が動いた。

 

佑馬が打った二球は、いきなりその姿を消した。

 

「……ッ!!」

 

ある一点から気配を感じたジブリールは、そこに向かって全力で走るも、間に合わない。

 

神威。

 

佑馬に二点が入る。

 

そしてさらに、佑馬は反射膜をコート全体に張り、ジブリールの球を問答無用で返す。

 

「これをどうにかしなきゃ、俺に勝つなんて夢のまた夢だぜ?」

 

そう言って口を吊り上げ、三球、四球と増えていく球を一球も落とさずに打ち続けるジブリールを観客みたいに見ている佑馬。

 

そして、それが油断だった。

 

ジブリールが打った四球は、反射膜に触れる直前で姿を消した。

 

反射膜でコートを覆っているとはいえ、箱の隅には当然覆いきれない小さな隙間が存在する。

 

そして、箱の隅に二球、ボールが落ちていた。

 

◆◆◆

 

「……何あれ。」

 

真由美が言っているのは、試合展開のことではない。

 

今の魔法のことでもない。

 

二球は確かに転移して、箱の隅に落ちた。

 

しかし、後の二球の行方を見て、その場の全員が思っていることを真由美が溢した。

 

佑馬のコートの空間に亀裂が入っており、二球とも粉々に砕かれていたのだ。

 

「達也くん、あれが何かわかる?」

 

真由美は達也に話をふる。

 

この中で一番この状況を理解できている人、と判断した結果だが、

 

「……いえ、わかりません。佑馬の反射させる魔法と空間転移の魔法が何かしらの現象を引き起こしたのかと思われますが……。」

 

「空間転移だと?」

 

達也の説明に反応を示したのは、克人。

 

「はい。佑馬とジブリールは空間転移魔法を使うことができます。」

 

「あの二人はBS魔法師なのか?」

 

「本人達は違うと言っていましたし、BS魔法師が苦手とする実技も満点でしたので、それは違うと思います。二人の固有魔法というのが一番現実的な考えですね。」

 

「そうか。」

 

それを聞いた克人は再び箱の中の現状を見る。

 

佑馬のコートの空間に亀裂があるまま、二人は三球に減った球を打ち合っており、点数は現在二点ずつ。

 

この二人に何か危ないものを感じた克人は、それが杞憂であることを願いながらその試合を観戦した。

 

◆◆◆

 

「おお、やるじゃん。」

 

佑馬が、さっきのジブリールの攻撃に対して感嘆の声をもらした。

 

それは、反射膜をコートに広げたときの完璧なる弱点。

 

佑馬を中心として広がるそれは確かにほぼ全域を覆っている。

 

そこで、ジブリールはある仮説を立てた。

 

佑馬はその場から動くことが出来なくなり、隙間を狙った転移による攻撃を対処することが出来ないかもしれないという。

 

ジブリールが反射膜内に二球入れたのは、自分の仮定とは別の突破口を見出だせるかどうかを試したもの。

 

結果、反射膜内には亀裂が入り、佑馬のコートの隅にはボールが落ちた。

 

ジブリールの仮定が確定となり、それが唯一の突破口となった瞬間。

 

その結果、佑馬は反射膜を解かざるを得なくなり、また最初と同じ打ち合いになっている。

 

砕けた二球を含めて六球が出た頃、佑馬とジブリール、両者に疲れの色が見え始める。

 

ベクトル操作を重点的に使って出来るだけ体力を使わずに対処していた佑馬と、自己加速術式と加速を使って対処しているジブリール。

 

佑馬は二試合連続と超スピードの魔法使用によるもので、ジブリールは超スピードでの魔法のマルチキャストによるもの。

 

佑馬が神威で飛ばしても、空間転移で現れた場所に飛び、現れた瞬間を打ち返し、ジブリールの空間転移で飛ばした球も、同じく空間転移で現れた瞬間に打っている佑馬。

 

両者一歩も引かずに試合は続き、ブザーがなった。

 

結果は、引き分け。

 

二人とも息を切らしてネット越しに近寄る。

 

「まさか反射膜のあの弱点を突いてくるとは思っても見なかった。さすがだなジブリール。」

 

「いえ、佑馬と会長さんとの試合を観てなければ見つけることも出来ませんでした。」

 

ジブリールが今回の弱点を見つけられたのは、真由美との試合にあった。

 

最後の二十秒しか使っていなかったが、その反射される場所が全部均一ではなかった。

 

端になればなるほどネットを越えてほんの少し、コンマ数秒単位での遅れで反射していたのをジブリールは見逃さなかった。

 

後は試合の中で空間を把握して、そこにピンポイントで球を飛ばすだけ。

 

ジブリールの動体視力と空間把握能力の結果だった。

 

「引き分けは初めてじゃないか?」

 

「そうでございますね……やっとでございますよ。」

 

佑馬は勝ったわけではないのに、とても嬉しそうに、ジブリールもまた、困った表情をしながらも何処と無く嬉しそうだった。

 

「……さぁ、行こうか。」

 

「はい。」

 

空間の亀裂を直してから、透明な箱を出て克人の元へと向かう二人。

 

誰も二人の実力に文句を言うこともできず、そのままメンバー入りが決定となった。

 

◆◆◆

 

「それで、どうだったのですか?お兄様。」

 

今回、生徒会室で留守番をしていた深雪は、家についたときに佑馬達のことを噂で聞いたため、気になって達也に聞いた。

 

「……すごいというレベルではなかった。あれは日本どころか、世界でもトップクラスの実力だ。」

 

「そこまでですか?」

 

達也が嘘を言う人ではないことを知っている深雪は、二人の実力を知っているとはいえ少なからず驚いた。

 

「佑馬のCAD無しの自己加速術式と加速術式、それを悟らせない認識偽装の術式のマルチキャストに音速並みで動く身体能力、ジブリールもCAD無しで自己加速の術式と加速術式のマルチキャストにこちらも音速で動く身体能力、そして二人ともその中での空間転移の使用。どれもこれも高校生、というより、一流の魔法師ですら不可能だろう。」

 

達也から聞かされた内容は、あまりにも現実離れしており、思わず息を呑む。

 

――ジブリールのはともかく、佑馬は全く違うのだが。

 

「ジブリールはピラーズ・ブレイクはやったのですか?」

 

その質問は、自分もアイス・ピラーズ・ブレイク(棒倒しやピラーズ・ブレイクと略すこともある)に出るため、対戦したときのために少しでも情報を集めようという魂胆があった。

 

「いや、ピラーズ・ブレイクはやってないが……俺も全力で調整するけど、深雪も苦戦は免れないだろうね。」

 

そして、時は少し遡って、放課後の生徒会室。

 

そこには二人の姿があった。

 

「十文字君、どう思う?」

 

七草真由美と、十文字克人。

 

「中田佑馬と中田ジブリールのことか?」

 

「そう……危険だとは思わない?」

 

そう、真由美達は危惧していた。

 

父親達が、十師族があの二人を狙うことに。

 

「ああ、確かにあの二人は危ない。師族会議では少し覚悟を持った方がいいかも知れないな。」

 

「やっぱりね……。」

 

真由美が、十師族が負けたというのは、とても重大な事件だ。

 

日本最強であるはずの十師族がただの魔法師に負けた、となれば、十師族の実力が疑われてしまう。

 

「だが、あの二人が与えた影響力は、我が校にとって大きいものだぞ。」

 

「それも否定できないのよね……。」

 

そう、あの二人の試合を見たあと、各部活動が躍起になって練習している。

 

九校戦メンバーは特に素晴らしい気合いの入れようなのだ。

 

そして、実際に真由美も影響を受けた一人。

 

「あれを見せられて頑張るなと言われる方が無理でしょ。」

 

佑馬とジブリールが一高にもたらした九校戦へのモチベーションアップは、予想以上に効果が大きかった。




モノリス・コードとアイス・ピラーズ・ブレイクはやりません。
実力はこれで証明されちゃってるので。

クラウドは、加速の術式で物質を反射出来るという原理で佑馬と対等=敵なし状態にしました。

魔法は無理です。

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