黒木場リョウ(偽)、頂点目指します   作:彩迦

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温かいお言葉をたくさんの方からいただきました(´;ω;`)
感謝です(´;ω;`)本当にありがとうございました。
これからも日々精進していきたいです( 。•̀_•́。)


七話 伝えたい気持ち

 

 

 

 一つの皿に真摯に向き合う気持ち。

 黒木場リョウと新戸緋沙子の二人は他生徒とは違う視点から料理を完成させて見せてくれた。鹿肉のクセを消すことに頭を悩ませるわけでもなく、俺の現状を見抜いたかのように選んだ料理はシカと根セロリのアッシェ・パルマンティエ。

 その皿に深い意味を持たせて薬膳と合わせることによって俺の体調の改善まで促すことまでやって見せる料理人なんていうのは遠月十傑くらいならば容易にやって見せてはくれるかもしれないが、この二人は十傑ではないのにソレをやって見せてくれた腕前は評価するべきだろう。皿に真摯に向き合わなければ食べる側もその味に満足を得られないからな。

 

「これにて課題を終了とする!! 合格者の黒木場リョウ、新戸緋沙子は引き続き研修を続行し不合格者はホテルに戻り次第、荷物をまとめて学園に戻って退学手続きとなる。さっさとバスに乗れ!!」

 

 合格者はたった二名。ペア形式での料理だったとはいえ、実際に一名形式の課題にしたとしても黒木場リョウと新戸緋沙子は突破出来ただろう。まだ一年生でこのレベルにまで至るとは驚きだぜ、末恐ろしいとすら感じる。だがまだ俺が見てない一年生の中にもコイツら並みの料理人がいると考えると稀に見る充実した宿泊研修だ。まだ見ぬ一年生、楽しみだな。

 

 遠月学園の宿泊研修は高等部に上がった時の一番最初のふるい落としだ。今、揺られるバスの中で合格した二人以外の不合格の生徒達は中等部で三年間ミッチリと料理人として基礎から応用まで鍛えられてきただろうが、高等部に上がるとそんなもんは関係なくなる。強い奴が生き残り、弱い奴は去るっていう弱肉強食のシステムに代わってしまう。

 バス中で誰一人として会話すらしない沈黙が支配するのなんざ、当たり前といえば残酷だが料理人の世界は非常に厳しい。コイツらは退学したらまた普通の高校に通うなり、店を継ぐなりすればいいだろうが料理人はそうはいかない。

 自分の店を持つにしろ、雇われシェフにしろ、どんな形でも料理に携わっている奴は結果を出さなきゃいけない。結果にこだわり、一つの皿に気持ちも込められなくなるような奴は料理人としては失格だ。そうはならない強い料理人になるために遠月学園は必要だと俺は考える。結果を出し、一つの皿に自分の魂の全てを乗せられるような強い料理人を。

 

 

 

 

 

 

 

 

「緋沙子……心配だわ。黒木場くんと一緒なら大丈夫だとは思うんだけど……」

 

「自分の従者を信じるのも主の務めでしょ、えりな。私はリョウくんも緋沙子も絶対に大丈夫だと思うわよ?」

 

 遠月離宮の大広間。

 私とえりなはそこでリョウくんと緋沙子を待っていた。こちらの課題は大したことはなかったのだけれど、退学処分になる生徒はザラに居たわ。不出来な料理を講師に晒して一発退学を宣告されるのを目の前で見るのはあまり良い気持ちではなかった。だってリョウくんは言ってたもの、料理人はたくさん失敗して成長するものなんだって。一回のミスで全てが水の泡になるなんていうのは確かに勿体無いわよね。

 その点、リョウくんと緋沙子は普段から徹夜してでも納得のいかない料理はとことん追求していくようだったから全然問題なんかない。仮に緋沙子がミスしようものならリョウくんがすかさずにフォローしてくれるはずよ、だってリョウくんはなんだかんだ言いながら優しいんだもの。

 

 

「あっ、お嬢」

 

「あらっ。戻って来たわね、駄犬のリョウくん♪」

 

「ひ、緋沙子!!」

 

「えりな様、お待たせして申し訳ございません」

 

 呑気な顔をしているリョウくん、相変わらずね。えりなと緋沙子は抱き合っているけれど、こういう時はもしかして私もリョウくんも抱き締めてあげれば喜ぶものなのかしら。普段からご褒美というご褒美も与えていないし、抱き締めてあげて喜んでもらえるなら主である私も嬉しいというか恥ずかしいというか。

 

「む、むぎゅぅ」

 

「な、何してんすか、お嬢」

 

 ふふふ。リョウくんもなんだかんだいっても男の子のようね。ほんのり頬を染めちゃって。当たり前よっ、こんな美少女の主に抱き締められて喜ばない従者なんて絶対にいないわよね。ほんのり顔を染めてるリョウくんもなかなか可愛いわね、というかなんで私の顔も熱くなってるのかしら。いやいや、これはただのご褒美なのであって深い意味なんてないのに。うーっ、顔の熱さがとれないわ。

 

「……リョウくんの馬鹿っ!!」

 

「なんかすみません」

 

 頭をぽりぽりとかきながら離れるリョウくんの背中を見て私は思う。こんなにも広くて頼りになるような背中をしていたかしら、と。

 

 

 

『よし、集まったな』

 

 ゲスト講師の一人、関守先輩の一声で大広間に集まった生徒達の会話が静まった。時刻は夕方、本来ならここで私達は夕飯となるのだろうけれど、遠月学園の宿泊研修で普通の夕飯になるなんて想像がつかないわ。あるとすればお客様に夕飯を提供した後にまかない飯で夕飯を済ませる、とかがしっくりくるわね。

 

『ーーこれより彼らの夕飯を先に作り終えた者から自由時間とする。近くの大学で合宿中のじょうわん大学のボディービル部の皆さん、アメフト部とレスリング部の方々も後から合流することになっている。今日の夕飯の牛肉ステーキ御膳、これを各自50食分作り終え次第、自分達でまかない飯を作って夕飯を済ませなさい』

 

 大広間のあちこちから生徒達の悲鳴が聞こえる。五十食分なんて意外とあっという間に作れると思うのだけど、やっぱり皆疲れてるのかしらね。

 

『ちなみに制限時間は一時間、もし一時間以内に50食を達成出来ない者はその場で退学とする!! ではーー始め!!!!』

 

 さて、さっさと作ってお風呂にでも入ろうかしら。

 

 

 

 

 

『ちなみに制限時間は一時間、もし一時間以内に50食を達成出来ない者はその場で退学とする!! ではーー始め!!!!』

 

「……十五分あれば足りるな。さっさと作るぜ!!」

 

 牛肉ステーキ御膳五十食。

 お客様に料理を出すんだから迅速かつ丁寧な調理が心掛けられる。普段なら十分前後で出せるだろうが、慣れない厨房ということとレシピの暗記をあわせると大体こんなとこだろうな。

 肉の片面に塩・胡椒をして均等に伸ばす。周りの脂は適量に取って後から野菜とともに炒める。フライパンを強火で熱して熱くなったら牛脂とバターを入れ、脂がまわってバターが溶けたらにんにくスライスを入れ、にんにくのいい香りがしてきたら強火のまま塩・胡椒した面を下に肉をフライパンの中に入れる。この作業を同時並行で五つ進める。

 

「焼き色がついてきたらーー」

 

 焼色がついたら火を弱めて肉汁が浮いてくるのを待つ。表面に肉汁が浮いてきたらひっくり返し、あと十秒焼けば絶妙な味が出る。肉を取り出してみじん切りした脂を炒めて、もやしとタアサイやほうれん草を加えて炒めれば完成だ。この作業をあと十回、五つの同時並行で進めればすぐだろう。

 

 問題は味噌汁だな。こちらは量を多く作ってカバーすれば時間も十分に間に合う。先程使ったほうれん草の余りをサッと茹でて5cmくらいにカットして溶いた卵を用意したら、沸いたお湯に削りぶし30gを入れて1~2分間置き、ざるに布またはキッチンペーパーをしいて削りぶしをこし、1分間おく。これで出汁は完成だ。もう一つのお湯を沸騰させておいた鍋に薄口しょうゆ、みりん、塩、さっき完成させた出汁を入れる。そしてほうれん草を入れて一煮立ちさせたら溶いた卵を回し入れる。たまごが固まりかけたらおたまで軽〜く数回大きめにかき混ぜまぜればほうれん草と卵が絡み合って十分美味しくなる。

 

「黒木場くん、後から話があるのだけれど少し良いかしら?」

 

「ん? えりな嬢から俺に話しかけるのは珍しいっすね、良いですよ」

 

 えりな嬢がいつになく真剣な表情を浮かべながら俺に声を掛けてきた。珍しいな、えりな嬢の方から声を掛けるなんて。普段会うことがあっても、うちのお嬢が一方的にえりな嬢に話しかけていくばかりなので俺が入るような余地が一切ないのに。

 何か緋沙子のことで悩みでもあるのだろうか、いやえりな嬢なら俺なんかに相談するより先に直接、緋沙子を問いただしてそうだからそっちの方面ではないだろうなあ。

 

 

『ーー黒木場リョウ。50食達成、合格!!』

 

 

 

 えりな嬢からの話って……なんだろうな。

 




最後まで読んでいただき、ありがとうございました(๑•∀•๑)

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