食戟のソーマ面白いですよね。最近はずっとアニメ見て漫画読んでの繰り返しですo(`・ω´・+o)
捏造設定等、苦手な方はブラウザバックを奨励します。
ゲスト講師として招かれた一人、四ノ宮小次郎。遠月学園第七十九期卒業生であり、 フランスのパリにあるフランス料理店“SHINO'S”のオーナーシェフ。遠月学園に在籍していた頃は十傑評議会第一席の座に君臨し、数々の料理コンテストで優秀な成績を修め、学園を一席で卒業してすぐにフランスへ渡った俺は六年の修行を経て自分の店をオープンさせた。
フランス料理の発展に大きく貢献した料理人に贈られるプルスポール勲章を日本人で初めて受賞し、確かな腕と実績を持つ料理人だと自負している。それまで肉料理偏重だったフランス料理界において、野菜を中心とした料理で旋風を巻き起こしたものの、ただそれだけだ。見事なまでの停滞だ。プルスポール勲章を受賞してからやる気が出ない。
自ら掲げた目標を達成した今、もはや何を目標にすればいいのか分からない。そんな時に遠月学園の宿泊研修のゲスト講師としての話が舞い込んできた俺は店を空けるのを覚悟に、一言で参加の意思を示した。今の遠月の生徒を見て、また自分も初心に返って一から料理に取り組む気持ちを思い出せるかもしれないと。
「さて……」
担当予定グループの生徒達の履歴書を手に取る。食の魔王の血族である薙切家の薙切えりなと薙切アリスに仕える付き人の新戸緋沙子と黒木場リョウか。薙切に仕える付き人なら料理の作法を極めていてもおかしくはないな。それ以外の生徒にはこれといって見どころはないので興味はない。履歴書から視線を外して生徒達へと鋭い視線を向ける。
「おはよう、諸君。七十九期卒業生の四ノ宮だ。この課題では二人一組のペアで料理を作ってもらう。こちらが指定する食材を使っていれば、何を作ってもいい。指定する食材は鹿肉だ」
「鹿肉……指定された食材使ってさえいれば、本当に何を作ってもいいんですね?」
「おう、もちろんだ。バンダナ少年。制限時間は三時間とする。合格条件は簡単だぜ、俺の舌を満足させればいい。説明は以上だ。ではーー始めっ!!」
鹿肉。
加工品なら問題は無いが、今回使用してもらうのは生肉。獣肉ならではの独特の臭みがあり、脂質が少ないことからパサパサしたり固いと食べる人によって感じてしまう食材だ。臭みを活かすか、殺すかは自由としてもパサパサ感や固さはそう簡単にはいかない。
だがバンダナの少年は不敵な笑みを浮かべていた。その笑みは余裕から来るものだと俺は長年通った遠月の生徒だったからこそ分かる。鹿肉がどんな形に変わるのか楽しみだ。不味かったら落とすがな。
新戸緋沙子は黒木場リョウに恩がある。
えりな様のお父様である薊様。彼の行なう英才教育という名の洗脳とも思えるえりな様に対する虐待を私は止められなかった。父に掛け合っても他の使用人に話しても誰も何もしてくれない。私は力が欲しかった。えりな様をお守りするための力を。害悪から全て守りきりたかった。
その日もえりな様は薊様に連れて行かれ、別室で英才教育を受けていた。歯痒かった。日が経つにつれてえりな様が壊れていくのだ。人が変わったように不味い料理を作った料理人に罵詈雑言を吐き捨て、暴力にも近しいことをする。怖かった。このままえりな様が全く別の人物になってしまうんじゃないかと。
『薙切アリス嬢の付き人の黒木場リョウです。えりな嬢にお嬢からの手紙を渡したいんすけど』
黒木場リョウ、彼が現れた。
薙切アリスお嬢様の付き人だという彼は同年代にも関わらず単身でえりな様に手紙を渡すためだけに北欧からわざわざ出向いて来たのだ。そんな彼に薊様は去れと冷たくあしらったのも関係ないと言わんばかりに薊様に料理対決を挑んでいた。
同じ子供なのに、怖がるどころか怒っていた。間違っていると正しく吠えた。私のような無力な付き人とは大違いだ。
その場に偶然に居合わせた私も審査員に混ざり、薊様と黒木場くんの双方に票を入れた。薊様の料理は温かいのにどこか冷たく、感情が篭っていないのに美味しいとその一言しか出ないくらいの美食。反して黒木場くんの料理には温かみがあり、食べていて優しく幸せな気持ちに包まれる。大好きなえりな様との思い出がたくさん蘇り、力をくれるような料理だった。
『お前、えりな嬢の付き人なんだろ。俺の代わりに手紙を渡してきてくれよ』
『今のわたしに……えりな様に顔向けする資格なんか……』
『あ? 手紙も渡せねぇくらいにか。はぁ、顔向け出来なくても傍にいて抱き締めるくれーは出来るだろ』
黒木場くんに腕を引っ張られてえりな様が居るであろう薙切邸の中でも使用人すら普段は近付かない部屋に案内する。そこには灯りすらなく、暗い暗い独房のようで薊様がえりな様に罰を与える時によく使われていた。私は身震いし、恐怖と罪悪感に襲われて部屋には入れない。
そんな私を見て彼は笑ったのだ。その笑みはお前は悪くないだろって言っているように私には見えてしまった。何の力もない、無力でダメな付き人な私を彼は責めるわけでも怒るわけでもない。
『んじゃ、行ってくる』
彼が部屋に入ってから一時、口論するような声が聞こえるとしばらくしてからえりな様の嗚咽が部屋から漏れ出した。ドアの隙間から見えるのはいつものえりな様だ。嗚咽を漏らしながら料理を口に運んでいる。大粒の涙を床に零して幸せそうな表情だった。ここ最近見た中でも一番の笑顔だ。
『美味しい…よぉ……』
その言葉を聞いた瞬間に深い闇からえりな様が救われたような気がしたのと同時に私も救われたような感覚だった。私にはとても真似なんて出来ない。料理でえりな様をあんなに笑顔に出来るなんて羨ましい。彼が羨ましくてたまらない。彼みたいに強くなるにはどうすればいいのだろう。憧れと尊敬。私は黒木場くんに近づきたかった。
「おう、もちろんだ。バンダナ少年。制限時間は三時間とする。合格条件は簡単だぜ、俺の舌を満足させればいい。説明は以上だ。ではーー始めっ!!」
私のペアの相手は黒木場くんだった。
薙切に仕える者として付き合いは長いので気は楽だけれど、私の得意とするのは食医の技術を元にした薬膳料理。日常的に激務をこなすえりな様の体調管理に生かしている。生かしているけれど、黒木場くんの料理スタイルは多岐に渡っているので薬膳の知識が役に立てるかは分からない。実力も計り知れないということもあって上手くサポートに回れるのか不安で仕方ない。
「緋沙子、俺はサポートに回る。今回はお前の薬膳料理の出番だ」
「はっ?? 確実に合格するなら黒木場くんの料理の方がーー」
「いや、ただ合格するだけじゃダメだ。睡眠不足解消と胃腸機能の回復を促す薬膳料理を作ろうぜ。作る品はシカと根セロリのアッシェ・パルマンティエだ」
睡眠不足解消と胃腸機能の回復を促す。
なぜそんなことをする必要があるのだろうと思ったが、四ノ宮シェフに視線を向けて合点がいった。普段からフランス料理店のオーナーシェフとしての多忙な毎日で溜まるストレスは胃腸にストレスを与え、ゲスト講師として日本へ渡ってからも宿泊研修の準備で睡眠不足なのか目の下にクマが見える。四ノ宮シェフを良く観察しなければ分からない変化だ。他の生徒は鹿肉の臭みを消すことに頭を働かせることにやっとだというのに、黒木場くんの視点は違う。料理人として既に先を見ている。
しかし、シカと根セロリのアッシェ・パルマンティを作ることに問題は無いけれど薬膳を合わせるとなると難しくなってしまう。薬膳は決して万能なんかじゃないので他の調味料と合わせる時に味が変わって効能がなくなってしまう可能性もある。ここは薬膳料理を軸にするなら私が得意とする料理を作った方が良いんじゃーー違う、黒木場くんには何か考えがあるに決まってる。それなら私が合わせればいい。黒木場くんとの初めての共同作業になるけれど絶対に上手くやらないと。
「鹿肉の臭みは塩に漬け込んでもみ洗いするぞ。今回の品には塩の方がピッタリだからな」
「待って、鹿肉の歯ごたえを残しつつ、薬膳の効能を存分に発揮させるなら塩よりヨーグルトの方が効果的です黒木場くん!」
「……っ!! なるほどな、そういうことか!!」
私は黒木場くんに近づくために薬膳料理を極めた。それは後々にえりな様の体調管理の役に立つようになった。
私はもっともっと成長したい。