黒木場リョウ(偽)、頂点目指します   作:彩迦

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二話 かつての必殺料理

 

 

 今から何年も前の話だ。

 お馬鹿なお嬢が一生懸命に頭を悩ませながら書いた薙切えりなへの手紙はいつの日も返事が返ってくることはなかった。ある日、ついにお嬢が不貞腐れて泣きながら手紙を書いてるのを見かけた俺は頭の中で何かが切れるような音が聞こえた。

 えりな嬢への手紙がいつも手元に届く前に父親である薙切薊の手によって破かれて読むことすらないなんていうことは俺はうろ覚えではあったが覚えている。でも、実際に仲良くなろうと一生懸命に小さな子が書いた手紙を破き捨てる様はゲスの極みともいえよう。

 

『私……えりなに嫌われてるのかな……』

 

 ボロボロと大粒の涙を流すお嬢を見て俺は直接、えりな嬢に手紙を渡すべく北欧から日本へと単身で飛び立った。俺は激怒したのだ、行くついでに邪知暴虐の薙切薊をぶっ飛ばしてやらねば気が済まない。えりな嬢に直接手渡ししない限りはまた破かれておしまいなのだから、元凶となる薊をなんとかせねば。

 

 

「薙切アリス嬢の付き人の黒木場リョウです。えりな嬢にお嬢からの手紙を渡したいんすけど」

 

 薙切邸の扉を叩いて出てきたのは邪知暴虐の薙切薊だった。少々、驚いたような顔を浮かべていた。それもそうだろう、北欧からわざわざ出向いて来たのだから驚かない方がおかしい。だがやはりなかなかのくせ者だ。薊はすぐに表情を変えて胡散臭そうな笑みを浮かべる。

 

「わざわざ北欧から出向くなんてね、驚いたよ。でも済まないのだけど、えりなは外出中で屋敷には居ないんだ。代わりに僕から手紙を渡しておこう」

 

「おい……てめえ、いい加減にしろよ。お嬢からの手紙を捨ててんのは分かっている。屋敷にえりな嬢もいるんだろ、さっさと通せよ」

 

「怖い怖い。薙切の付き人もレベルが下がったものだね、粗暴な輩だ。今のえりなに友達なんていうのは必要ないものだ。君の方こそさっさと帰ってくれ」

 

 友達なんていうのは必要ないだと。この野郎、言わせておけば。友達のいるいらないなんていうのはてめえが決めることじゃねえだろ。頭の中が煮えたぎってくる。子供の身体で殴ったところで何の意味もない。

 この男は確か遠月の確か十傑の中でも元・第二席。料理人として戦うにも今の俺では負ける可能性は高い。しかし、えりな嬢へ手紙は絶対に渡さなきゃいけない。

 

「俺と料理対決しろ」

 

「は?」

 

「勝ったらえりな嬢に手紙を渡させてもらう」

 

「……ここまで身の程知らずだとは驚いたよ。良いだろう、付き人程度に僕の美食の素晴らしさなど分からないだろうがね」

 

 黒く濁りきった瞳が俺を捉える。確か美食至上主義だったか、美食を追求した料理を芸術と呼んでそれ以外は全て餌と断言する狂った考えの持ち主だな。まだお嬢やえりな嬢がこんなに小さいっていうのに狂っているなんてな。

 美食至上主義なんていうのは俺の考えとは相反している。料理っていうのはその皿に自分が見えるもんだ。失敗してたくさんの失敗を繰り返してその料理が完成する。それを美味しいもん以外は餌と罵るようなゴミに俺は負けねえ。

 

「うちのお嬢を泣かすような奴の素晴らしさなんて理解すらしたくねぇ」

 

 俺はバンダナを巻いて包丁を構えた。

 

 

 料理のお題は卵を使った料理。

 卵を使うならどんな料理でも良いと薊は言った。卵は和洋中のどのジャンルでも使える万能な食材といえる。恐らく、薊は子供である俺に土台を合わせた形だ。でも土台を合わせるなんていうのは油断ともいえる、俺が作る料理には卵が使われているので確実に有利だ。

 

 作る料理は俺の必殺料理である白身魚と野菜のオープンオムレツだ。これは現時点での最高傑作だ。これで薊を倒す。港町で荒くれ者達に食べさせてきた魚料理に前世で多くの人達に食べてもらった卵料理を融合させるなんていうのは無茶苦茶だとは思ったが全然無茶でもなかった。

 白身魚となすとトマトはそれぞれバターでさっと焼き塩こしょうをする。香ばしい香りが広がっていく。薊の方も見る限りではオムレツを作っている。こちらの調理を見てわざと合わせたのか、いけ好かない男だ。

 

「きみのような子供は世界の広さを知っておいた方が良い。北欧の小さな港町では井の中の蛙も同然」

 

 その眼差しはまるで人をゴミのように見ているかのようだった。同じ料理人としての同等に見ることなく、見下し嘲笑うような輩とは。確かに見た目は子供にしか見えないだろう。かつての遠月学園を卒業しただけあって実力も凄まじいだろう。

 それに俺が劣っているのかと問われればノーだ。多くの修羅場は潜った。苦悩の日々だった。この料理が今の全てだ、見てみろ薊。俺は負けない。えりな嬢に絶対に手紙を渡さなければいけないんだよ。

 

「俺のことを何も知らないような奴に世界の広さなんていうのを説かれたくない」

 

 卵を溶きほぐし、豆乳と混ぜる。塩こしょうで味を整えて溶き卵を熱したフライパンに流し込む。フライパンの中で半熟状に固まってきたら白身魚となすとトマトを形よく並べてのせ、蓋をして焼き上げていく。

 蓋を開ければ絶妙なバランスと香ばしい香りが場を包む。薊も目を大きく見開いた。それもそのはずだ、同じ料理人であればこの一皿がどういう皿なのか見れば分かるだろう。

 

「ーーーー必殺料理の完成だ」

 

 一つの皿に全ての思いを乗せる。

 黄金に輝き、白身魚と野菜がさらに輝きを放つ。一口食べれば皆が幸せになれる、そんな皿。


 

 

 

 

 

 

 

 

「あの時は悔しかったな」

 

 薙切薊との料理対決の結果はドロー。研鑽を重ねて創り出した必殺料理が薙の料理と相討ちに終わるなんていうのは不甲斐ない結果だった。もし薊が必殺料理を繰り出していたら俺は負けていただろう。薊は驚き、賞賛していたがあれは余裕から出る賞賛だ。

 あの日から俺は料理人として強くなっただろうかと自問自答する日々だ。本来なら中学三年の秋に食事処ゆきひらで料理人、才波城一郎の料理を食べて少しだけでも教えを乞うことを考えたけれどそれは上手くいかなかったし。

 

「おっ!! いたいた!! やっと見つけたぜ!!」

 

「……お前は幸平創真」

 

「名前覚えててくれて嬉しいぜ、まあ入学式から時間はそう経ってないから覚えてて当たり前か! なあ、アンタの名前も教えてくれよ」

 

「黒木場リョウだ」

 

 お嬢のお茶会に出ていたら幸平創真とは会えなかっただろうから、ある意味ではラッキーかもしれないな。やはり見ただけで分かる。料理人としての腕は確実に上がっているな、これは。

 

「黒木場、俺はあの日から色々考えてさ……自分の知らない世界の広さを知って料理人としての高みを目指すことにしたぜ。それを食事処ゆきひらで活かしたい」

 

 料理人としての高み。創真はもっともっと強くなるんだろうな。若さって羨ましい、俺って身体は若いけど中身はもうそんなに若くない気がするからなあ。

 

「ああ、俺もお嬢の恩に報いるためにも自分自身のためにも遠月学園の頂点を獲る。もしその邪魔をするなら幸平創真、お前が相手でも俺は遠慮なく料理で負かすから覚えとけ」

 

 脳裏にお嬢の顔が浮かぶ。

 この学園の頂点を獲るためには遠月十傑評議会を倒さなければならない。あの時の必殺料理から俺の料理はさらに上へと昇華した。

 人を笑顔にする、楽しませる、美味しいっていってもらえるような料理。その一皿で相手を幸せに導けるようなもんを創り出すまでに至るにはあともう少しだけ、何かが必要だ。

 お嬢と一緒に過ごしてきて、それが何なのかはようやくわかった。料理をもっと美味く作るには自分の全部をそいつにあげられるような、そんな愛せるような奴を見つけることだ。

 

「お嬢にも言われたんでな。この学園で一切、負けるなってな」

 

「……負けるな、か。俺もこの学園に入ったからには黒木場、お前も踏み台にして上に上り詰めてみせるぜ!!」

 

 

 

 俺は絶対に学園の頂点を獲るぜ、お嬢。

 

 

 


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