黒木場リョウ(偽)、頂点目指します   作:彩迦

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大変遅くなりすみませんでした(。_。*)決してモンハンにハマってたとかじゃないです´ω`*


三十三話 友の頼み

 

 

 

 

 料理を作るということは効率の良い作業を手間掛けずに行なうことだ。そこに自分の感情などは必要ない、作ろうとする料理を最大限の力を発揮して作る、思いを込めるなんていうのは愚の骨頂。美味しい、不味いという評価には支障はない。

 それなのに遠月学園の生徒は誰しもが、料理に想いを、感情を込めて作る。己の私利私欲や傲慢さ、相手への思い。悪いことではないだろう、しかしそれは時と場合によって邪魔でしかないものだ。料理というのは日々の調理の研鑽を積むことが大切だ。

 

 そんな僕の考えが多少、揺らいだ時期があった。中等部時代に薙切えりな様の従者である、新戸緋沙子という一人の料理人に今思えば惚れていたのだろう。神に愛され、神の舌を与えられた薙切えりな様は崇拝すべき対象ではあったものの、それと同じくらい新戸緋沙子に惚れ込んでいた僕は彼女の創り出す薬膳料理の素晴らしさにいつも目を輝かせていた。

 薬膳という性質上、料理によって効能が変わるために様々な知識と技術が必要な為にレシピ通りに作ることなど、状況によって変わる。薙切えりな様の体調管理をしているであろう、新戸緋沙子は凄まじい料理人になると僕は勝手に思い込み、観察していた。

 料理を誰のために作るのか、これからその料理を食べる相手を想うことで力は最大限に引き出される。非常に興味深かった。僕の料理が昇華され、更なる高みへ進むことが出来るかもしれない。

 

 そしてある日、彼女を見ていて気付いた。彼女の料理人としての知識や技術が上がっているのに対して料理の見栄えは一切変わっていないということに。如何に料理をレシピ通りに作ろうとも、効能を優先させて見た目の華が落ちるようでは何もかもが足りな過ぎる。料理は見た目、香り、味、食感、音で楽しむことが出来るが、彼女の料理では見た目を落としてしまう。見た目が駄目ならば味、食感も劣ってしまうのが必然ともいえる。

 決定打となったのは、彼女が誰かしらに恋愛感情を持ち始めたのか色気づいてきたことだ。今となっては誰に恋をしていたのか覚えていないが、いつも料理の実習でボーッとしているどこか抜けたような男の前ではいつも頬を緩ませているのを見て不愉快極まりなかった。

 

 僕は彼女に片想いしていたんだろう。だからこそ、彼女が他の男の前で頬を染めて調理の単純なミスをするのが不快で仕方なかった。神の舌を持つ薙切えりな様のお傍に腑抜けた従者などいらない。己の料理人としての面を向上させようとも、補おうともせずに羞恥を晒すような者が神の舌を持つえりな様のお傍には必要ない。

 

『ジュリオ・ロッシ・早乙女選手の得点をお願いします!!』

 

 レシピ通りに作り、不測の事態になろうともまたその際の修正用のレシピも作っておいた。僕のイタリア料理は誰にも負けない、完璧なる美食こそが全て。そこに想いや思いなど一切いらないのだ。ただただ何も考えずに作ればいい。そこに敗北はない。

 19、19、19、18、19という数字とともに僕のイタリア料理がアルディーニ兄弟より上だという事が証明され、薙切アリスの料理よりは下だということが得点から見て取れる。

 

『得点は94点です!! 90点以上の高得点、Bブロック暫定2位となりました!』

 

 食の魔王の血族、というだけではないようだな。しかしまだ予選の段階で僕の最高ともいえる料理は出すレベルではなかったのも事実。流石に本戦ともなれば、必殺料理を出す機会は来るだろう。出すとすれば、黒木場リョウにだろうな。

 

 

 

 

 

 予選が終わり、誰もいない予選会場の中に残るのは静寂だけ。つい数時間前までこの場で繰り広げられた熱戦が嘘にも思えるほどに静かさだけが残ってる。今日の予選のAブロック、Bブロックの結果が記された資料を薙切が俺に渡してくれたけど、どういう風の吹き回しなんだろうな。身の程を知れって薙切なら言いそうだし。

 

 Aブロック

 一位 黒木場リョウ 97点

 二位 幸平創真   95点

 二位 葉山アキラ  95点

 四位 美作昴    92点

 

 Bブロック

 一位 薙切アリス       96点

 二位 ジュリオ・ロッシ・早乙女 94点

 四位 タクミ・アルディーニ   92点

 四位 新戸緋沙子       92点

 

 Aブロック、Bブロックの役者は揃った。この中から現時点で薙切えりなを除いた一年生のトップが決まる。仮にも神の舌を持つとされる薙切が秋の選抜に出場していたとして、どんな料理出してくるのか、わくわくするな。それに予選だとどれくらいの得点取れたのかも気になるなあ。

 薙切を除いてAブロックとBブロックの両方の得点を見ても誰も黒木場の得点には勝っていない。一番近い点数で薙切アリスの96点か。黒木場と長い時間を過ごしてるなら、納得かもな。あんな凄い料理人が近くに居て感化されないわけないし。

 この遠月学園の生徒は我が強くて、料理にもその我の部分が見えてくるのにも関わらず黒木場にはそれが感じられないどころか、自分から他の生徒達に学ぶ姿勢を見せてる。きっと黒木場と関わった料理人は少なからず良い方向に変わっていくのは間違いないよな。

 

「あっ、創真くん! こんな所に居たんだっ。そろそろ極星寮でお祝いパーティーが始まるみたいだよ!」

 

「おうー……分かった。って田所!? なんだよ、今日の予選見に来てたなら声くらい掛けてくれても良かったのに」

 

「……声掛けたかったんだけど、なんか創真くん落ち込んでるように見えたから」

 

 予選で黒木場に2点差を付けられて、葉山とか皆の前だったから落ち込むわけにはいかないから人目の付かないとこで肩落としてたのを見られたのか。まぁ、田所になら別に見られてもいいか。

 

「それに、もう遠月の生徒じゃない私が応援しに来てたのを極星寮の皆以外が知ってたりしたら、色々言われちゃうだろうし……」

 

「色々言う奴が居たりしたら、俺が田所の分まで食戟で黙らせる!! だから田所は堂々と本戦も応援しに来てくれよ!! 俺は凄く嬉しいから」

 

「創真くん……て、照れちゃうべさ!! さ、はは早く極星寮の皆のとこに行こうよ!!」

 

 もし今日の予選に田所が出場していたら、どうなっただろう。そんな考えが頭を過ぎる。田所なら予選を突破出来ていただろうな。あの時の田所の寂しい背中は今でも鮮明に覚えてる。俺は田所の分まで精一杯、この秋の選抜を闘い抜く。

 秋の選抜で勝ち抜いていけば、また黒木場とぶつかる時は必ず来る。その時こそは絶対に勝ちたい。勝つために俺に足りないものは少しでも補わないとな。

 

「田所から見て、今の俺に足りないものって分かるか?」

 

「創真くんに足りないもの? 普段から料理に対して前向きで、ひたすら努力家だし……足りないものってあるのかな? 私は創真くんみたいな料理人になりたいなって思ってるけど」

 

「お、おう! ありがとな!!」

 

 な、なんだこの気分。

 自分に足りないもの聞いたのに凄く褒められた気がした。やべ、顔が熱くなってきた。照れてるのか俺。落ち着け、落ち着け、俺。田所と会うのは夏休み以来だったからかな。凄くドキドキするぞ。

 

 

「幸平、イチャついてるとこ悪いが……時間あるなら少し話したいことがある」

 

「っ!! イチャついてねーから!! って黒木場か」

 

「話……というよりお前にしか頼めないことだ」

 

 神妙な面持ちをした黒木場が立っていた。大事な話、なんだろうな。いつもと雰囲気が違う。田所を先に極星寮に行くように促し、黒木場と共に肩を並べて歩き出した。

 

 

 





次話より本戦に突入します( *・ω・)やっと本戦です。極星寮メンバーの闘いも書きたかったのですが私の作風ですとどんどんお話が長くなってしまうので割愛させていただきます。もしご要望などございましたらメッセージよりいただければ閑話でお話を出させていただきます。

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