黒木場リョウ(偽)、頂点目指します   作:彩迦

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はい:(´◦ω◦`):アニメの三期までに追いつけなかった彩迦さんです。お願いですから石ぶつけないでください:(´◦ω◦):うぅ。


三十話 料理人としての景色

 

 

 

 

 私の神の舌を使わずとも分かる、葉山くんのえびのココナッツミルクカレーはカレー料理という一つのジャンルに対して出された一つの答え。スパイスの奥深さとココナッツミルクの自然の甘みのバランスだけじゃない、さらにはホーリーバジルの強いクセをココナッツミルクを使うことによってマイルドに仕上げるその手腕はもはや学生の料理人の域を越えているとしか言えないわ。

 そんな素晴らしい料理でも黒木場くんのブリ大根のスープカレーを越えることは出来なかった、勝負の分かれ目はホールスパイスとオールスパイスだったようね。黒木場くんはスパイスを本来の原型からスパイスの奥深さを最大限まで引き出すためにテンパリングをしたのに対して、葉山くんは果実や葉を粉状にした3つの香りを併せ持つ特製のオールスパイスを使っていた。

 葉山くんは特製のオールスパイスに重点を置いてスパイスのテンパリングにそれほど時間をかけてはいなかったけど、黒木場くんはその反対でスパイスのテンパリングへの時間をかけてた。もしここで葉山くんがテンパリングにも時間をかけていたら黒木場くんとの2点差は確実に埋まっていたはず。

 

 この2点という数字は葉山くんにとっては近いものじゃないということは葉山くん自身が一番分かっているはずよね。95点なら予選突破は確実、本戦で今のカレーを上回るような料理を作ることが出来るのかしら。

 

「予選から……あまりにもハイレベルな戦い。この料理人達に幸平くんは挑もうというのかしら、無謀にもほどがあるわ」

 

 この二人の料理人とどうやって渡り合おうというの、幸平くん。

 

 

 

 

 

 

 黒木場と出会った日のことは今でも覚えてる。ゆきひらで出会い、この遠月学園に入学を決めるきっかけをくれた。食の上流階級みたいな変にプライドの高い生徒達とはまるで違う、自分自身の信念を持った料理人。審査員が葉山のえびのココナッツミルクカレーを至高のカレーと言っていたけど、黒木場のブリ大根のスープカレーは大衆料理というジャンルでの究極のカレーだろうな。あの料理を見て一瞬、親父の背中が見えたような気がした。

 

 料理人としての力量の差、というのは料理人自身が一番分かってる。

 

『……お前はもっと日本の広さを知れ。ここの料理が全てじゃねえ。自分の料理こそ一番っていうのを証明したきゃ、遠月学園に来い』

 

 黒木場との出会いでの言葉は俺を強く揺り動かすだけの力があった。食事処ゆきひらで店の看板を継いでお客さんに今のまま、料理を振る舞うのはダメだとアイツに思い知らされた。だからこそ、遠月学園に編入してから俺は毎日を料理に打ち込んで来た、宿泊研修での黒木場との料理対決を経て多くを学んで、夏休みに田所との再会で料理人として大きな収穫を得てきた。

 そんな俺ですら、葉山の作ったえびのココナッツミルクカレーには身震いを覚える程に凄い料理だと思った。一つ一つのスパイスを嗅ぎ分ける天性の嗅覚を持つ料理人でなければあの料理は編み出せない。至高のカレー、ともいえる料理でさえ勝てない料理に俺はこれからも挑もうとしている。

 ゆきひらで料理していれば出会うことがなかっただろう、遠月学園の料理人達。まだまだ届かないだろう、一人の料理人の背中。俺が歩んでる道に一つとして無駄なものはない。料理人としての高みを目指す者としてここで立ち止まってはいられないんだ。

 

『……宿泊研修で田所が去った後、俺はずっと後悔してた。すぐ隣にいた田所を守ってやるどころか……小さくなっていく背中を見送ることしか出来なかったのかって、もっと他に何か出来なかったのか考えて眠れない毎日が続いてた』

 

『ううん、創真くんは一生懸命に私を助けてくれようとしたのは私自身が一番分かってるよ。創真くんには私の分まで、これからたくさん見るはずだった料理人としての景色を見て来てほしいなっ……』

 

 料理人として大切なのは、誰のために料理を作るかということ。小さい時に親父からそんなことを言われたっけ。俺は誰のために料理を作る、誰に笑顔でいてもらいたいのか、あいつが泣く姿をもう見たくない。料理人として、目の前でもう友達が、いや大切な人を失うのは嫌だ。

 

 俺が作った、ゆきひら流、鮭とチーズのグラタンカレー。葉山のような天性の嗅覚を持たない、黒木場のような料理人としての凄まじい腕を持たない、ゆきひらで大衆料理人としての道を歩んで来た俺だからこそ作れるカレー料理としての集大成。

 

『葉山選手に続くのは幸平創真選手です!!』

 

『これは!! チーズのとろみがしっかりと焼かれた鮭と渾然一体に!!』

 

『クミンとカルダモンによる香ばしさと僅かな渋み、さらにそれを舌でしっかりと刺激させるようなクローブ、深くスパイスと結びついたこのコクの正体は……』

 

『りんごチャツネのようね。りんごをベースに酢、砂糖、青唐辛子にコリアンダー、タマリンドを混ぜて作られているようね。本場のインドではあくまでも、チャツネは付け合わせ……薬味のような扱いなのにグラタンカレーという掟破りな料理にりんごチャツネを入れるなんて!! スプーンが止まらないじゃない!!』

 

 宿泊研修での黒木場との一戦。

 俺が作った海老と野菜たっぷりの温玉雑炊に足りなかったのは食材全てを一つにまとめあげる一体感、一つの敗北は次に繋げる。りんごチャツネを入れることによって鮭とチーズという二つの食材達は腰の入ったどっしりとした旨みへと変わった。

 本場のインドからすれば型破りという調理法かもしれない。でも、油脂や動物性の材料を増やすことなく旨みの次元をはね上げる。さらに濃厚チーズが入っているにも関わらず、チャツネの効果で後味はサッパリで味の連携ともいえる最高のカレーだぜ。

 

「黒木場。俺はここで立ち止まらないぜ」

 

「ああ……」

 

「約束したんだ、あいつの分まで料理人として景色をたくさん見てくるってな」

 

 黒木場の真剣な瞳は真っ直ぐに俺を捉える。

 

『それでは幸平創真選手の得点をお願いします!!』

 

 

 19、20、20、19、17という得点が出される。

 

 

『得点は95点です! なんと、至高のカレーと称された葉山アキラ選手と並びましたーっ!!』

 

 握られた拳をさらにギュッともう一度強く握り直す。得点は95点、それでも葉山と俺が同列かといわれれば同列2位とは言えない。先程の葉山の得点、 19、18、20、19、19だったのを考えればすぐに分かる。これがもし食戟だったら俺は葉山に敗れていた。俺は今日、同時に黒木場と葉山の二人に敗れた。

 葉山のえびのココナッツミルクカレーは人を選ばずに高い評価を得ていたのに対して俺は一人に17点という数字、まだまだ俺には料理人としての足りないものがある。足りないものは足せばいい。料理人としてここで終わるわけじゃない、ここからまた始めればいいんだ。

 

 

 

 

 

 

『薙切アリス選手、堂々の96点です!! 断トツのトップとなりましたーっ!!』

 

 予選Bブロック。

 審査員が海千山千のプロが作る料理を毎日相手にしていたとしても、その海千山千のプロはリョウくん並みの実力があるとは思えないわ。こっちは毎日、海千山千のプロ以上の料理人と一緒に料理しているのだから、これくらいは当たり前じゃないかしら。

 私はえりなみたいな神の舌を持っているわけじゃないし、緋沙子みたいに薬膳料理を極めたわけじゃない。だからといってリョウくんみたいに馬鹿正直に様々な学年の人や寮に行って料理を教わるということは出来ない。だからこそ自分なりに考えに考えた武器は化学の最先端技術を学ぶことによって編み出した最先端の調理法。

 

 まだ秋の選抜は始まったばかり。予選で終わるつもりはないからこそ、少しだけリョウくんの真似事をして直接リョウくんから学んでみたの。最先端の調理法を簡単に見せてもギャラリーは盛り上がらないし、リョウくんが倒すって言ってる、ロッシくんもいるみたいだし。

 

「あら、ロッシくん。私の友達にちょっかいを出して、わざとリョウくんを勝負の舞台に引きずり出そうとするなんて……なんて器の小さい男の子なのかしら。あ、口が滑ってしまってごめんなさい。でもリョウくんと戦いたいなら、ちゃんと飼い主の許可を取ってからにしないと、ね♪」

 

 満面の笑みを浮かべながらロッシくんの横を通り過ぎる私。

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございます:(´◦ω◦`):

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