黒木場リョウ(偽)、頂点目指します   作:彩迦

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お待たせしました(。_。*)待っていた人がいてくれたら嬉しいです。更新頻度を上げていきたいと思っております:(´◦ω◦`):アニメの3期までなるべく追いつけるように、頑張れたらなぁ(遠い目


二十九話 至高のカレー

 

 

 

 

 

 

 物心ついた頃からずっと俺は独りだった。雨をしのぐ家があるわけでもなく、寝るための温かい布団があるわけでもない。毎日を生きていくのに必死で、汐見潤という一人の日本人に出会っていなければ今この舞台に立つどころか、死んでいてもおかしくはなかった。

 潤には感謝しても感謝しきれない。この恩を少しでも返すためにはこの学園で潤の理論に基づいて俺が実践する、そうして学園でトップを獲ることによって潤の理論がこの日本料理界に、世界にもっと広く知らしめる事が出来る。

 

 

『どうしたの、葉山くん? 難しい顔をして』

 

『俺の料理の腕が足りないから、潤の理論に基づいて美味しい料理を作れない自分に情けなく思ってさ……』

 

『葉山くんが私の為に料理をしてくれるのは凄く嬉しいよ? でもね、他人の為に作る料理が自分らしさを活かしきれないことになってしまってたら本当に美味しい料理も美味しくなくなってしまう気がするなぁ……』

 

 

 俺の最大の武器を活かす為には様々なスパイスの香りと最大限に引き出すために使える物は全て使う。そうしなければ、あの一人の料理人には勝てないだろう。遠月学園においてスパイスの扱いに長けているのは俺だという自信があるが、黒木場リョウという師匠とも呼べる奴によってスパイスの扱いに対する基礎や応用を学んだ。

 この学園でスパイスの扱いは現時点では俺が黒木場よりも勝っているという事実は強み、自信に繋がる。あいつを倒さなければ十傑に勝つなんてことは夢のまた夢で終わる。

 

 潤の為に作る料理を完璧にするためにはスパイスの香りを審査員に五感で感じてもらい、美味しいと言葉を漏らさせるくらいの品を作る必要がある。クミンパウダー、コリアンパウダー、カルダモン、ターメリック、特製のオールスパイスを活かした、えびのココナッツミルクカレー。

 

『では……葉山アキラ選手お願いします!!』

 

『ほう、これはまた色鮮やかな料理だ!』

 

『ココナッツミルクにスパイスを合わせるとは斬新なアイデアだな……』

 

『ココナッツの風味がえびの味を活かして旨味が増しているわ!! これは……えびの下味にまぶされたターメリックがココナッツミルクとえびの味をより強くしている……スパイスの扱いに長けているとは聞いてたけど、まさかこれほどまでなんて!!』

 

 えびの下味にまぶしたターメリックだけじゃない。おろし生姜、おろしニンニクがココナッツミルクに加えられたことによってココナッツの風味を殺すことなく最大限に味を引き出させた。だけど、それだけじゃないぜ黒木場。お前に勝つにはただ勝つだけではいけない。

 

『そ、それだけじゃないわ……このカレーにはホーリーバジルが生の状態から使われている!! ホーリーバジルの強いクセをココナッツミルクによってマイルドに仕上げるなんて……このカレーは現代カレーが辿り着いた至高のカレー!!』

 

 圧倒的な力の差をここで見せつける。力の出し惜しみなんていうのはしていられない。予選をトップで通過するために全身全霊を込めた、俺のカレーに対する一つの答え。

 

「スパイスの奥深さとココナッツミルクの自然の

甘みのバランス……さらにはホーリーバジル。一つのカレーに対する答えが俺には見えた気がするぜ、葉山」

 

「あんまり驚いてないようだな、黒木場」

 

「ああ、こんな日が来る予感はしていたからな」

 

 

 遠い目をする黒木場を見て悟った。

 

 

『では葉山アキラ選手の得点をお願いします!!』

 

 19、18、20、19、19という得点が出される。

 

『得点は95点です!!』

 

 

 俺の負けだ。

 何が悪いとか、そういう問題じゃないのは分かった。全てを出し切った上での敗北で握っている拳が弱々しく震えているのが分かる。黒木場との2点差から見える自分との実力差を近いと考えるか、果てしなく遠いと考えるか。正直、後者だと考えたくはなかった。中等部時代から俺は成長していた、はずだった。黒木場にとって俺は眼中にない、赤子の手をひねるのと同じように簡単なことなのかよ。

 勝てるイメージを浮かべる事すら出来なくなった自分が情けねぇ。黒木場に勝てる料理人が秋の選抜にいるか、いや居ないだろう。それほどまでに俺のえびのココナッツミルクカレーには自信があった。

 

「いつか、俺が葉山に負ける日が来るかもしれない。でもそれは今じゃねえんだよ、葉山」

 

 糸が切れた人形のように崩れ落ちる俺の横を通り過ぎていく黒木場に答えるほどの気力はもう持ち合わせていなかった。

 

「えびのココナッツミルクカレー、凄く面白い品だと俺は思ったぜ、葉山! いやー、それにしても黒木場とは惜しかったけど95点なんて凄いじゃんかよ!!」

 

「幸平……止めとけ、俺とお前が束になっても黒木場には勝てねぇよ」

 

「黒木場には宿泊研修の時に一度負けてるからさー……負けっぱなしで終わるわけにはいかないんだよ俺もさ」

 

「っ……あいつと料理したなら、尚更勝てない相手だってことくらいお前にだって分かっただろ!?」

 

「だからこそ、勝たないといけない相手だろ? 壁が高ければ高いこそ越えた時の達成感は大きいだろうし。黒木場を倒さないと学園のトップになんて立てないぜ、きっと」

 

 学園のトップに立つために必ず通る道、か。壁がすぐ目の前にいる黒木場なら俺はこれからの学園生活をずっと前に進まずに立ち止まっているわけにはいかない。幸平も黒木場の料理人としての実力を体感した上で、今も学園のトップに立とうとしているなら凄まじいメンタルの持ち主だな。

 俺は潤のために戦っている、それなのに相手が圧倒的な実力の持ち主だからって尻尾巻いて逃げるような料理人だって潤が知ったらお腹抱えて笑われてしまうのが目に見える。

 

「んじゃ、次は俺の番だな。葉山、よく見ておいてくれよ、黒木場に勝ってくるからよ」

 

 

 

 

 

 

「んじゃ、次は俺の番だな。葉山、よく見ておいてくれよ、黒木場に勝ってくるからよ」

 

 葉山の料理を見て正直、心が震えた。カレー料理をあんな風に作れる奴がいるなんて凄いと思うと同時にあの葉山ですら倒せなかった黒木場を考えると料理人としての血が騒ぐ。えびのココナッツミルクカレーは、カレーとしての一つの答えを見出したように俺にも見えた。料理人として完成させた品で壁を越えられなかったとなると、正直俺でも心が折れるかもしれない。

 でも負けることは恥ずかしいことじゃない。負けることは経験、即ち相手が強ければ強いほど、負けた時の経験値だって大きいはずだ。負けたことから学べることは沢山あるけど勝つことから学べることっていうのは負けた時の比じゃない。

 

「葉山の仇は討たせてもらうぜ、黒木場」

 

「宿泊研修以来のリベンジマッチってところだな幸平」

 

 宿泊研修のあの日、俺は黒木場に負けた。

 圧倒的な力の差を見せつけられての敗北はまるで親父に料理勝負していた頃を思い出させてくれたのを覚えてる。それだけじゃない、俺は宿泊研修で田所に何もしてやれなかった。あいつの背中を追いかけてやることも出来なかった。もう何も出来ずに負けるのは嫌なんだよ、俺は今よりもっともっと強くなりたい。そのために前を向いて歩くことを決めたんだ。

 

「ああ、リベンジマッチだ。宿泊研修で黒木場だけじゃない、自分自身にも負けたからさ……自分にもリベンジマッチってところだ。あの日から成長出来ているか、再確認」

 

「幸平……」

 

「秋の選抜で俺は絶対に優勝してみせる」

 

 見ててくれよ、田所。

 俺が少しは成長したってところを。

 

 

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございます(´ω`)

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