黒木場リョウ(偽)、頂点目指します   作:彩迦

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評価を入れてくれた方々もありがとうございます。
これからも皆さんに読んでいただいて飽きられないように書いていきたいです。


入学編
一話 料理人としての腕


 

 

 

 遠月茶寮料理學園。

 非常に厳しい少数精鋭教育が特徴で高等部の千人近い新一年生のうち二年生に進級できる者は全体の一割にも満たず、卒業までたどり着く者はわずか数人しかいないという。

 普通にここまで聞けば可笑しくて笑ってしまうだろう。俺は笑うどころか、改めてこの学園のヤバさを再確認したことによって気を引き締めるハメになったけど。

 当然のように退学率が高い学校であるけれど“在籍したという履歴があるだけでも料理人として箔がつき、卒業に至れば料理界での絶対的地位が約束される”とも言われている。

 

「ーー学習内容は料理の基礎技術や食材の知識だけでなく、栄養学、公衆衛生学、栽培概論、経営学など多岐にわたるのよ、分かったかしら駄犬♡」

 

「中等部の内容をさらに濃くした感じっすね。まあ別に興味ないですけど」

 

「あら、リョウくんのくせに生意気よ? やっと高等部に上がって私とリョウくんの目的を達成するためのスタートラインには立ったんだから、さっさと頂点に登り詰めないとね」

 

 お嬢がクスクスと笑いながら俺の背中を叩く。遠月学園の高等部、ようやくこの時が来た。薙切アリスの付き人として中等部時代を陰に徹して目立とうとはせずに刃を研ぎ続けた。お嬢曰く、中等部で悪目立ちすると高等部に上がった時に面倒な日々を過ごすから暴れるなら高等部からにしなさいといわれていたので素直にいうことを聞いてきたので存分に暴れさせてもらうとしようか。

 幼少期に北欧の港町の厨房で料理を奮っていた頃と今は違う。俺ではなく、黒木場リョウとして拾われていても同じことをしたはずだ。この薙切アリスには返しても返しきれない恩が黒木場リョウにはある。これを少しでも返すにはこれが一番だと俺は思う。

 

「お嬢、アンタに北欧で拾って貰った恩を忘れてはいない。今日ここで宣言する、俺はこの学園の頂点を獲る」

 

 入学式の最中に放つような言葉ではない事は自分でも分かっている。今ここで宣言しておかないといけないような気がしたので宣言しただけだ。

 

「……リョウくん。薙切アリスの名の元に命じます、この学園で一切負けることは許しませんからね」

 

 お嬢が満面の微笑みを俺に返してくれる。負け、なんていうのは前世と呼んでもいいものなのかは分からないが料理人時代に腐るほど味わった。自分の料理をゴミ箱に捨てられる日なんていうのもあった。

 そんなクソみたいな負けに比べればこの学園はぬるま湯程度だ。

 

 

『ーーえっと……幸平創真っていいます。この学園のことは正直─踏み台としか思ってないです。思いがけず編入することになったんすけど、客の前に立ったこともない連中に負けるつもりは無いっす。入ったからにはてっぺん獲るんで』

 

 お嬢との馴れ合いでまったくもって気付かなかった。幸平創真の入学式での猛者ばかりの料理人達に臆さない宣言を上手く聞き取れなかった。創真は最後に一礼して在校生徒による数多くのブーイングをものともせずに俺に向かって微笑んだ。

 やはり、食事処ゆきひらでの件を覚えているのだろう。あの時の親子丼からどれほど料理人としての腕を上げたのか気になるのは同じ料理人としての性だ。

 

 

 

 

 

「あー、やっと退屈な入学式が終わったわね。まぁ、リョウくんの宣言とか編入生くんのおかげでそこまで退屈はしなかったけれど」

 

 入学式を終えた後、私はえりなと付き人である緋沙子とのお茶会に興じていた。駄犬のリョウくんはえりなの付き人がいるなら俺はいらないっすよねとかいってそそくさと何処かに行ってしまった。

 やっぱりペットには首輪が必要なようね。リョウくんたら、どこに主人を置いていく従者がいるのよ。

 

「アリスったら相変わらずね。まぁ、あの編入生はともかく……黒木場くんが何か言っていたの?」

 

「普段から料理以外にやる気を見せない黒木場くんが何を宣言したのか、気になりますね」

 

 

 えりなと緋沙子。この二人とは幼少より仲良くしていた。でも小さい頃に頑張ってえりなに宛てた手紙の返事が一切返って来なくて私が不貞腐れていたなんていう事もあった。いくら書いても返って来ないということに私はえりなに嫌われているのだと思ったけれど、リョウくんは絶対に違うっていって手紙を片手に北欧からえりなの住む日本へと単身で飛び立った。

 その時、一週間後に帰ってきたリョウくんは私に宛てたえりなの手紙を持っていた。その時のリョウくんは凄く怖かったのは今でも覚えているわ。叔父様を料理でぶっ飛ばしてきたっていっていたのだから。

 

「リョウくん、この学園の頂点を獲るって宣言したのよ」

 

「頂点……遠月十傑を倒すってことかしら。アリス…今の黒木場くんの実力は正直、十傑と互角かそれ以上のものよ。夢なんかよりよほど現実味がある」

 

「当たり前よっ!! 私の付き人なんだもの、学園の頂点獲るくらいはしてもらわないと♪」

 

 初めてリョウくんと会った時は戦慄したほどの料理人としての腕だった。同年代というよりは長い間、料理人として戦ってきたような貫禄と実力はどんなに積み重ねても差が出てしまう。

 私がリョウくんに料理でたまに勝てるのも手加減されているのが丸わかりなのよ。だって負けっぱなしだと私が機嫌悪くしたり泣くのを分かってるから。ほんと、そういうところは優しいと思うわ。

 

「少なくとも、小さい頃に北欧からアリスの付き人が来たって聞いた時は驚いたわ。同年代っていうよりは戦場を生き抜いた歴戦の料理人みたいな感じだったし」

 

「えりな様はご存知ないかと思いますけど、その時に黒木場くんはえりな様のお父様である薊様と料理対決をしています」

 

「「えっ??」」

 

 待って待って。リョウくん、料理でぶっ飛ばしてきたって物理的にぶっ飛ばしたのだと思っていたのだけれど叔父様相手に料理対決ってなんて末恐ろしいことをしているの。

 

「その時の結果はドローでした。薊様は大変驚いてましたね……でも当時の黒木場くんは必殺料理(スペシャリテ)を作ってのドローだから負けも同然って言っていましたよ」

 

必殺料理(スペシャリテ)

 作った料理人の顔が見える一品であり、老若男女誰もが美味しいと口を揃えていう料理人としての研ぎ澄まされた者にしか作れない。今まで一緒に居てリョウくんが必殺料理を作るとこなんて一度も見たことがない。

 

 

 リョウくん、あなたの料理人としての腕は私が届かない遥か高みに届いているんじゃないのかしら。

 

 

 


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