黒木場リョウ(偽)、頂点目指します   作:彩迦

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かなり更新が遅れまして申し訳ないです(´・×・`)許してくださいね。


二十四話 嫉妬

 

 

 

 

 

 

 

 季節に合わせた食材を活かす。

 料理人としては至極当たり前なことでも、実際に料理を作ると食材の旨みや苦味、長所や短所を活かすことが非常に難しい。後になって木久知先輩から聞いたら、頭の中で料理のイメージが纏まったからで今日作ろうと思っていた品だったそうだ。

 頭の中での料理のイメージと実際の調理では多少の誤差は出てくるもの、それを木久知先輩は頑張ってなんとかしてみせたらしい。世の中にはどんなに努力をしても越えられない壁が存在する。木久知先輩のように天才でありながら努力を怠らない人、才能がなくてもひたすら努力を積み重ねる人。俺は後者の部類に入るのは自覚しているし、だからこそ努力は怠らない。

 

 木久知先輩のように料理のイメージを実際の調理中に修正し直していくのは長年ずっと料理をし続けてきた料理人達だって到達するのにどれくらいの時間がかかるかは分からない。

 俺だって過去と比べてようやくその域に達したのは中学に上がってからだと考えると大衆食堂を経営してからどれくらいの日数が経っているのか、いや考えるのはよしておこう。憂鬱な気分になるだけだ。

 

「黒木場くん!! やっと見つけましたよ!!」

 

「えっ、緋沙子?? ということはお嬢達はカンカンに怒って、ついには緋沙子を迎えによこしたのか?」

 

「いえ、怒ってはないですけど……遅くて呆れてるって感じです。まったく、今まで何やってたんですか」

 

「いやー旅館に向かう道中で遠月学園の卒業生とバッタリ会ったもんだから色々話し込んでたら遅くなっててさ、悪気はないんだよ。ごめんな」

 

 お嬢達に多少呆れられようとも、遠月学園の卒業生に会ったおかげで得るものは大きかった。料理でも、他のことでも。薙切薊の話についてはお嬢達には伏せておくとしよう。現在の遠月十傑にえりな嬢が名を連ねていても、あの父親に関する話はあまり聞きたくはないだろうし。

 それに全国の卒業生が動くなら最悪の事態だって免れるかもしれない。俺に出来ることは遠月十傑に名を連ねること、あくまでも学園の頂点をとるのが目標だから中継地点である十傑には早々と名を連ねさせてもらう。

 

「遠月学園の卒業生、ですか」

 

「え? なんで真顔なんだ」

 

「鼻の下伸ばしてるので、さぞかし可愛かったんでしょうね。私は先に旅館に戻ってますのでごゆっくり戻ってきてください。えりな様達にはちゃんと伝えておきますので」

 

 いや、待ってくれよ緋沙子。

 可愛い人だったけど鼻の下なんか伸ばしてないから。

 

 

 

 

 

 

 秋の選抜のお題はカレー。

 カレーというジャンルにおいてはスパイスは必須だ。どの料理でも香りが重要とされるが、一番際立つといってもいいのがカレーだろう。今年の秋の選抜に選ばれたのはもちろん、カレーというジャンルがお題に出されるなんてますます運が良いな俺は。

 

 潤のために戦い、秋の選抜は絶対に優勝してみせる。それが少しでも潤の恩に報いることになるなら、なんだってするぜ。カレーを作る上で唯一、危険だと思う奴はたった一人しかいない。黒木場リョウ、あいつを倒さない限りは秋の選抜の優勝は出来ない。

 

「なあ、潤」

 

「ん? どうしたの、葉山くん。改まっちゃって」

 

「黒木場と俺、どっちが料理人としてーー」

 

「黒木場くんだね」

 

 スパイスの調合をしながらこっちを見向きもしないで断言する潤。分かってはいたことだけに面と向かってすら言われないとか少しは傷付くぞ、いくら俺でも。一時期、黒木場に教えを乞いていた時。詰め込めきれないほどの知識量を持っていることに驚きの連続。

 いつの間にか潤とスパイスの話をして、ついにはついていけないほどの口論までし始めていた時はもう黙っているしかなかった。だがあの時とは違う。今となっては内容だってちゃんと分かるし、自分でも成長しているのが実感出来てる。

 

「おいおい、潤。俺だってずっと今まで努力をし続けてきたつもりだぜ? 嗅覚だって昔とは比にならないほど洗練されてるしーー」

 

「うん。わかってるつもりだよ、葉山くん。誰よりもキミが努力してきてたのは私がちゃんと見てたから」

 

「それなら……」

 

「中学の時点で黒木場くんのスパイスに対する知識、料理人としての腕は同年代の子達ですら比べものにならないものだったの。まるで長い間ずっと料理人として料理と向き合ってきたかのような感じで、とても中学生とは思えない。もちろん、今の葉山くんは昔とは違うよ。スパイスの知識量や料理の腕でまだ劣っていても、勝てる可能性はあるし。それは嗅覚……それが最大の武器になる、総合力で見るより絶対的に嗅覚だけは黒木場くんに勝ってるんだからね」

 

 俺の前に立ちはだかる大きな壁。越えなければいけない壁。黒木場からは多くのことを学び、潤ほどではないにしろ、恩義は感じてる。

 アイツのおかげで多くを知れた。潤だけではこの嗅覚をさらなる高みへと昇らせることは出来なかった。料理人としてのプライドより好奇心が勝ち、教えを乞うなんて潤以来だった。誰よりも黒木場の実力を俺は認めてる。

 

「ふっ……嗅覚に関しては遠月学園で俺が最高のレベルに達してるだろうな。潤のせいでやる気が削がれたと思ったら、急にやる気が湧いてきたぜ」

 

「別に削ぐつもりはなかったんだよっ!? でもやる気出してくれたならよかった」

 

 秋の選抜、絶対に勝ち上がってみせる。

 

 

 

 

 

 

 「遅いわよ、リョウくん。緋沙子から聞いたんだけど遠月学園の可愛い卒業生に鼻の下を伸ばして遅くなったらしいじゃない?? どういうことなの」

 

 目から光が消えたお嬢。

 表情のなくなった瞳で俺を射抜く。今までお嬢と一緒に多くの時間を過ごしてきたが、今日ほど恐ろしいと思った日はない。えりな嬢や緋沙子の突き刺さるような視線も辛い。

 

「えっと……」

 

「駄犬、おすわり」

 

「うす」

 

 畳の上で正座。

 俺は木久知先輩とやましい事は一切していないつもりだ。ただ、料理を披露して先輩の新メニューの試作を食べたり情報をもらったりしただけだ。秋の選抜のお題のカレーへのヒントも手に入れた。

 断じて俺は何もしてない。木久知先輩は普段のお嬢やえりな嬢、緋沙子とはまた違った可愛さはあったし。でもそんな事を考えてる時点で俺はやましいのか。

 

「お嬢、えりな嬢、緋沙子。弁解をさせてほしいです」

 

「なによ」

 

「ん?」

 

「なんですか」

 

 ここで使う言葉を間違えたら場が修羅と化すのは俺でも分かる。慎重に言葉を選ばないと不味い。どうする、本当のことを言うべきか。下手に嘘をつくより本当のことを言った方がいいに決まってる。

 お嬢は鈍感だけど嘘には敏感だし、えりな嬢は鈍感で嘘にも疎い純情の持ち主、緋沙子は俺の口から何を吐いても疑い以外の何の感情も抱かないだろうな。女って怖い生き物だ。

 

「確かに、遠月の卒業生である木久知先輩に会ったのも事実。そこでわずかな時間であったけど今後の俺の糧になるものを得たんです。ただ偶然にも木久知先輩の可愛さが普段見慣れているお嬢、えりな嬢、緋沙子の可愛さとはまた別なものだったので新鮮だったんですよ」

 

「へぇ。リョウくんたら、いつからそんなに偉くなったの? 私の従者なんだから私だけを見てればいいの」

 

「くっ、黒木場くん。可愛いなんて……ハレンチなっ!!」

 

「そうやってお嬢様達を騙そうとしても私の目は誤魔化せませんよ」

 

 どうやら本当のことを話してもお嬢と緋沙子には効果がなかったようだ。えりな嬢だけが顔を真っ赤にして悶えてる。残りの二人の背後には修羅が見えるのは気のせいだろうか。気のせいじゃないだろうな。ああ、無理やりでも旅行に行かなければよかったと考えるのは俺だけだろうか。

 

 誰か、助けてくれ。

 

 


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