黒木場リョウ(偽)、頂点目指します   作:彩迦

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あけましておめでとうございます。
昨年から書き始め、この作品も多くの方に支えられて何とか今まで続けて来れました。感謝の気持ちでいっぱいです(*’ω’*)本当にありがとうございます。今年度もよろしくお願い致します( ᵕᴗᵕ )


二十三話 不穏な動き

 

 

 

 

 私の試作料理はかぼちゃとにんじんのキッシュ。

 夏野菜を使った新メニューのために色々考えてようやく頭の中でのイメージが纏まったので今日作ろうと思っていた品です。イメージと実際の調理では多少の誤差が出てくるでしょうけど、そこは後輩のためだと思えば頑張れちゃいますっ。かぼちゃの種とわたを取って厚さ5mmの薄切りにして幅4cmに切る。にんじんは皮を剥いてから、縦4つ割りにして横に厚さ4mmに切っていく。ささ身は筋を取り、幅1.5cmのそぎ切りにし、塩、こしょう各少々をふる。

 ボールに卵を割りほぐして、生クリームと牛乳を加えて混ぜ、塩、こしょう各少々を加えて卵液を作る。ここで混ぜ過ぎず混ぜなさ過ぎずを意識しないと味が変わってしまいますからよく注意しないといけないですね。

 

「ーー作る品はキッシュっすね」

 

「ええ、そうです。キッシュは卵とクリームを使って作るフランス、アルザス=ロレーヌ地方の郷土料理で、地中海沿岸の地域でも一般的な料理です。パイ生地・タルト生地で作った器の中に、卵、生クリーム、ひき肉やアスパラガスなど野菜を加えて熟成したグリュイエールチーズなどをたっぷりのせオーブンで焼き上げた一品。ロレーヌ風キッシュではクリームとベーコンを加えたり、ナッツ類を加える場合もあります」

 

 かぼちゃとにんじんを一緒に沸騰させた熱湯に入れ、3分茹でてから水けをきる。フライパンにサラダ油を中火で熱してからささ身を入れて、焼き色がつくまでじっくり焼いていきます。さらにかぼちゃとにんじんを加えて全体に油が回るまで炒めて、炒め終わったら、耐熱の器にかぼちゃ、にんじん、ささ身を並べて卵液を注いでオーブントースターで様子をみながら13~15分焼いていく。

 焼き加減の具合でこの料理は決まりますから絶対に間違えられませんね。いくら試作とはいえ、手を抜くなど後輩には失礼ですから。元・遠月十傑の料理を黒木場くん、あなたに味わってもらいますよ。よし、焼き色がついてきたからアルミホイルをかぶせないといけないっ。

 

「私の試作のキッシュは夏野菜を使っているから、普通のキッシュとはひと味違いますから期待してください!」

 

「その季節に合った食材……なるほど」

 

「かぼちゃとにんじんのキッシュの完成、お召し上がりくださいっ」

 

 美味しいって言ってもらえたら嬉しいですっ。

 

 

 

 

 

 

「かぼちゃとにんじんのキッシュの完成、お召し上がりくださいっ」 

 

 三角に切り分けられたキッシュ。香ばしく、食べなくても分かってしまうほどに美味いというのを感じる。試作でこの一品というのは本当に恐ろしいものを感じてしまう。キッシュに手をつけ、一口頬張るとかぼちゃとにんじんの甘さが口の中に広がり、こんがり焼かれたささ身は火を通していても固くなくて柔らかくしっとりした味わいが甘さと非常に合って凄く美味しい。

 

「凄く美味しいっす、木久知先輩。これで試作なんていうのは恐ろしさを感じるほどに」

 

「え、えぇ?? ありがとうございますっ。別に恐ろしいなんて思わないと思うんですけど……私より先に卒業している先輩方の方が恐ろしいかなって」

 

「確かに恐ろしいっていう点では同意っす。薙切薊とかは別の意味は恐ろしかったですけど」

 

 皿に気持ちが乗っていない。

 料理人として魂も込められずに作られた皿は死んでいるも同然、それなのに味は美味しい。無機質な料理と言わざるをえない。食べると薊の顔が脳内に自然と浮かび、料理からは何も感じない。

 料理には料理人の顔が見れるというけど、薊の奴は違う。当時の俺が必殺料理を作り、薊は俺に合わせる形で同じジャンルの料理を作った上で相討ちに終わるという不甲斐ない結果だった。

 

 薊が作った皿と宿泊研修で食べたOB達のフルコース、木久知先輩のキッシュには明確な違いがある。料理に対する温度差。正確には熱量の違いというべきか、美食のみを料理界に必要とし、他の美食に及ばぬ料理は全て塵芥だと言いきるほどの冷めた考え。

 料理というのは失敗を繰り返し、試行錯誤の上で皿に気持ちを乗せてようやく料理が完成される。そんな料理達を否定しうるものなど料理人としては断じて有り得ない。

 

「薙切、薊先輩……ですか。最近は富裕層のみで構成された閉鎖的コミュニティの活動等やアメリカに本部を置いて南アジア、中近東に進出までしてるって堂島先輩が言ってましたね。黒木場くん薙切先輩との面識が?」

 

「昔にちょっと色々と」

 

「……日本で活動している遠月卒業生の元・十傑の一部に堂島先輩から薙切先輩の動きには気を付けるように言われてます。何やら、日本の各地で活動している卒業生に対して不穏な動きがあるとかって」

 

「不穏な動き……?」

 

「薙切先輩から私には声が掛かっていないので不穏な動きの中身までは分からないんですけど、十傑にもそれぞれ自分達の料理に思想や理念は必ずあります、その中でも美食に拘りを持つ十傑に声を掛けているんだとか」

 

 美食に拘りを持つ十傑。

 嫌な予感しかしない。元・十傑達に声を掛けているなんてな。遠月卒業生の中でも十傑はより高い料理の腕を持つ者達、そんな人達に声を掛けているなんて状況的に結構やばい気がする。

 過去に薊との料理対決をした際に洗脳や虐待ともいえる英才教育を途中で止めさせ、結果的に薙切家から追放された時点で今後に何かしらの影響が出るのは分かっていた。でもまさか、今になって影響が出るなんて。

 

「薙切先輩が何かを仕掛けて来ようとも、堂島さんを筆頭に日本各地の卒業生が対処しますから遠月学園で料理を学ぶあなた達に影響が及ばないように私達も努力はしますからっ。お店を少しの間空けてでもなんとかしちゃいますっ、後輩達の道を切り拓くのも先駆者の役目、ですからね」

 

「……木久知先輩。卒業生が対処しようとも結局は学園内で何かあった場合の先に動くのは現十傑評議会っすよね。もし今の十傑が薊の考えに賛同して学園そのものが変わる、ということになったらどうすればいいんすか?」

 

「えっ。今の十傑が薙切先輩の考えに賛同……そこまで考えてませんでした……。十傑が何かを決める際は過半数以上の承認が必要不可欠、そうなった場合にひっくり返す方法は実質的に不可能に近いです。まぁ、不可能には近いですけどーー十傑の座を奪えばまだ方法はありますけどね」

 

 十傑の座、か。

 

 

 

 

「ねぇ、アリス。黒木場くん少し遅すぎじゃない?」

 

「ん〜……そうね。やっぱり一人であの量の荷物をリヤカーで運んでもらうのには限度があったのかもしれないわ」

 

 旅館。

 えりな様やアリスお嬢が黒木場くんの心配というか別の感情が見える気がするのは気のせい、なのかな。明らかにあの量の荷物をリヤカーで運ばせるなんて許容範囲過ぎてますなんて言えなかった。許してくださいね、私はいつでも黒木場くんの味方です。

 私達が秋の選抜に出場することが決まってから、えりな様の表情がいつもより明るいように見える。これも黒木場くんのおかげかもしれない。私の料理は彼に影響を受けたもの、アリスお嬢は出会った時からすでに影響を受けて今の実力を持っているし。

 

「えりな様、アリスお嬢、黒木場くんを探して来てもよろしいですか? 時間も時間ですし」

 

「そうね、ちょっと様子見て来てくれる?」

 

「仕方ないわね、駄犬のリョウくんたら」

 

 

 お許しも貰えたし、黒木場くんを探しに行かないと。旅館までは一本道だから時間を考えると、あの長い坂を越えていてもおかしくはないはずなんだけどーー。

 

 




いつも評価・感想・誤字報告していただき、ありがとうございます( ᵕᴗᵕ )まだまだ未熟者ですが精一杯精進致しますのでよろしくお願い致します(´^ω^`)

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