黒木場リョウ(偽)、頂点目指します   作:彩迦

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|ョω・`)更新遅くてごめんなさい。



二十二話 卒業生との出会い

 

 

 

 洋食専門店、春果亭。

 遠月学園八十九期卒業生の木久知園果先輩の城だ。元・遠月十傑ということもあってか、料理人としての腕が全てを物語っている。卒業してからたったの二年弱で自分だけの城を構えるなんていうのは早々出来るもんじゃない。俺だって前世じゃ草や根っこかじったり、ひもじい思いしてでも貯金して五年でようやく城を持つことが出来た。

 遠月学園を卒業しただけあって、やはり遠月のブランド力という目に見えない力が働いているのかっていうくだらないことを考えながら頭に包帯を巻いてもらっていた。包帯なんか自分でも巻けるが、元・遠月十傑の一人に包帯巻いてもらうなんてこの先に二度とないだろうから木久知先輩の罪悪感か優しさに甘えることにしよう。今日は定休日のようで店内には人が一人もいない。

 

「あははっ。まさか、遠月学園の子がこんな所に来てるなんて思いもしませんでしたっ」

 

「俺もこんな所に来てまで元・十傑の一人に物理的に殺られるなんて思いもしなかったっすよ。木久知先輩、今日は定休日みたいっすけど一人で試作ですか?」

 

「……面目ないです。今日は一人で新メニューの試作するって前々から決めてあったんですよっ。普段は忙しくて睡眠時間を削ってでも試作しようとしてもなかなか時間が取れなかったりしますからね」

 

 木久知先輩の気持ちは凄く分かる。

 俺が大衆食堂を営んでた時も忙しくて目が回る日々で試作にまで手が回らなくて、よく店に泊まったりしてたっけな。店内の灯り消してあるし、外に出してる看板にも閉店の文字出してあるはずなのに客がドア叩いて飯を出せって言ってきたのは今となっては良い思い出だ。

 ん。木久知先輩の目元に少しクマが出来てるし、疲労が目に見える。真夏の炎天下であんなに汗かいてたら試作を始めてもすぐにバテてしまう。ここはまず先に試作するよりもちゃんとした料理を食べてもらった方が良いだろ。試作するのに時間はいくらあっても足りないくらいだろうし、手早く作らせてもらうか。こんな時は緋沙子から習った薬膳料理の出番になる。

 

「木久知先輩、忙しいからって睡眠時間を削るのは分かりますけど食事まで雑にしてたら身体が持たないっすよ。試作に使う食材と厨房、少し借りてもいいすか?」

 

「え? あっはい。どうぞ。私、睡眠時間削ってるのは言いましたけど食事まで雑にしてるのは言ってなかったはずなのに……」

 

「目の下にクマ出来てるっす。元・十傑の方の口に合うのかは分からないけど、手早く美味しくて身体に良いもん作るんでちょっと休んでてください」

 

 

 試作に使われる食材から手早く作れる薬膳料理はナスをベースにしたスープ料理、夏野菜のポタージュ・黒木場風だ。俺も夜に試作を隠れてやろうと思って焼き網を持って来てたはずだから、ソレを使うか。まずは下準備だーーーーナスは焼き網にのせ、強火で表面が真っ黒になるまで焼く。粗熱が取れたら皮をむいてヘタを切り落とし、2~3等分に切る。

 

 ここでナスの焼き加減を間違うと、もうこの料理はダメになっちまうから慎重にいかないとな。茄子を食べることによって得られる効能には少し身体を冷す作用、水毒を改善する作用がある。また、胃腸の状態を整える作用もあったりするから今の木久知先輩にはぴったりともいえる。

 

 オクラは分量外の塩で板ずりしてから、たっぷりの熱湯でゆでて水に取り、粗熱が取れたら水気を拭き取る。ヘタを切り落として、5mm幅に切る。プチトマトはヘタを取って4等分に切り、玉ネギは薄切りにする。ベーコンは1cm幅に切り、フライパンに入れて弱火でじっくりカリカリになるまで焼く。

 

 これで下準備は終わりだ。ナスをベースに、スープはスープでもポタージュ。ドロっとさせた濃いスープに仕上げる。鍋にバター、玉ネギを入れて弱火でしんなりするまで炒めていく。途中に水、塩を加えて5分ほど煮る。粗熱を取る。ミキサーに先程まで煮たスープとナス、牛乳を入れて攪拌し、網を通しながら鍋に入れる。仕上げだぜ、中火にかけて煮たつ直前で火を止めて粉チーズを加える。最後は塩コショウで味を調える。少し冷ましてから器によそってオクラ、プチトマト、ベーコンを添えて完成だ。

 

「よし。出来上がりだ。夏野菜のポタージュ・黒木場風、召し上がれ……!!」

 

 早くお嬢達のとこに行かないと怒られそうだ。

 

 

 

 

 

 夏野菜のポタージュ・黒木場風。

 真っ白なポタージュの上に添えられたオクラ、プチトマト、ベーコンが色鮮やかで綺麗。料理はまずは見た目の美しさも問われるもので遠月学園の学生だけあってきちんと分かってますねっ。でもそれだけじゃない、この一つの品を食べる前から黒木場くんの調理を見ていましたけど、今の遠月十傑がどれほどのレベルなのかは私には分からないけど当時の十傑レベルは確実にありますね。実際は食べてみないことには何も始まりませんし、一口いただいてみましょうっ。

 

「……はむっ。私の身体を気遣ってくれたんですね? 夏野菜のポタージュという料理を薬膳料理として作るなんていう子はなかなかいません。凄くまろやかで心が落ち着く味ですっ。十傑にも匹敵します、黒木場くんは十傑だったりするんですか?」

 

「第一席目指してますけど、まだ十傑入りすらしてないっすね」

 

 お、美味しい。こんなに優しくて心が落ち着く味を出せるのにまだ十傑入りしていないなんて、驚きです。一朝一夕で作れるような料理ではないのは分かってしまいます。一人の料理人が試作を重ねてようやく自分だけの味に納得してお客さんに食べてもらって笑顔になってもらう、そのためだけに作るような品。ここまでの料理に至るには自分にとって大切なものを理解している料理人のみが作れるはずなのに、学生で既にソレを理解しているなんて。

 

 でも、最近の私はお店の経営に忙しくてお客さんのことを考えていたかなんて聞かれたら困ってしまいます。全然、考えてすらいなくて恥ずかしいです。私はお客さんの笑顔を見たくて洋食を極めてきたのに気付いたら今はコストパフォーマンスを考えたり、美味しさよりもお店の売上に考えがいってたり大切なものを忘れかけてました。身体を気遣って相手を笑顔にする料理を作る。優しくて心が落ち着く料理を作る料理人は今の遠月学園にどれくらいいるのか気になってしまいますね。

 

「黒木場くん、こんなに美味しい料理を作ってくれてありがとうございますっ。私からも怪我をさせた謝罪と美味しい料理を作ってくれたお礼の意味を込めて試作を一品食べていただきたいです」

 

 黒木場くんのおかけで目が覚めたかもしれないです。売上ばかりに目がいっていては良い料理も作れないに決まってます。料理は人を笑顔にするもの、だからこそ今目の前で素晴らしい料理を作ってくれたのにお礼をしないわけにはいきませんよねっ。遠月学園の後輩に教えてもらったんだから。

 

「うす、元・十傑の料理……是非食べてみたいっす」

 

「ふふっ。任せてくださいねっ」

 

 卒業した先輩として一つでも何かを教えたいです。

 

 




|ョω・`)最後まで読んでいただきありがとうございますっ。

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