黒木場リョウ(偽)、頂点目指します   作:彩迦

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秋の選抜前、夏休み編が始まります。選抜メンバーの過ごす夏休みが語られていきます( 。•̀_•́。)ではどうぞっ


夏休み編
二十話 秋の選抜、選ばれし者


 

 

 

 

 一年生の合宿から数ヶ月後、終業式当日。

 十傑評議会により〝秋の選抜〟のテーマ、開催概要を具体的に議論していき、選抜メンバーは一年生六百二十八名のうち合宿での成績や将来性を考慮して百名以上の候補が抽出される。そこからさらに十傑評議会による絞り込みでは六十名決まった。その中でも秋の選抜、優勝候補筆頭として黒木場リョウの名が上がり、俺は思わず目を剥いて奴の合宿での成績を見ると開いた口が塞がらなかった。ゲスト講師全ての評価が最高レベル、課題の朝食の新メニュー試作では四百九十八食を達成している。今年の一年生は総帥が玉の世代と評していたが、こいつは群を抜いてるぞ。駄目だ、ロッシでは勝てるわけがない。

 

「黒木場だけでも手詰まりだっていうのに……幸平創真、あの野郎……!!」

 

 唐揚げ専門店、もず屋。

 京都に本店を構えて関西全域に展開するもず屋。全日本からあげ競技会で三年連続金賞獲得という史上初の偉業を達成し、今年も受賞は間違い無しといわれている。今の勢いなら、さらに金になると思った俺はもず屋の東京進出をプロデュース・プランニングした。しかしとんだ邪魔が入っちまった、幸平創真という一年生。六月の僅かな連休で潰れかけた商店街をすみれ印の唐揚げロールという新鮮味溢れた面白い品で見事に立て直してみせた。

 その手腕は見事なもので、俺の下につくなら邪魔して経歴に傷をつけたことは水に流してやろうと思ったがあいつは職人気質を振りかざしてチンケな店にこだわり、誘いを蹴りやがった。秋の選抜で消すのは黒木場リョウだけじゃねえ、幸平創真、あいつも必ず消す。俺は全ての料理人を従える者だ、あいつらとは見ているステージが違う。

 

「ちっ……幸平創真は美作昴で処理するしかないか。黒木場リョウは……不味いな」

 

「お呼びですか、叡山先輩」

 

「ああ、よく来たなロッシ。黒木場リョウの今までの食戟での公式記録を渡しておく。あいつがお前相手に作る料理の傾向を美作のトレースで絞らせる、秋の選抜でのお題も先に教えておくから対策を練っておけ」

 

「なっ……そんなものがなくとも僕のイタリア料理が負けるとは思えませんが」

 

「馬鹿かよオメーは。合宿での成績が本当なら遠月十傑に匹敵するほどの実力だ。新戸緋沙子を追い出したいんだろ? 確実に倒すには念を入れないといけねぇ。分かったならさっさと資料持っていけ」

 

 俺の言葉にロッシは不服そうな面をして資料を片手に去っていく。料理人としてのプライドや誇りなんか関係ねぇ。幸平創真は最悪、仕方ないから見逃すとしても黒木場リョウは絶対に消さないと経歴に傷どころじゃなくなる。もず屋はまだ日本国内程度で話が終わるが、薊の野郎は世界で活躍している料理人だ。店を潰した件を公にされたら今後の活動が非常にやりづらくなるし、十傑評議会にも居られるかはわからなくなる。

 

「秋の選抜、優勝候補筆頭……なんでまたそんな奴を薊は学園から消そうと考えるんだか謎だ。少し調べてみるかーー」

 

 知っておいて損することはないだろ。薙切アリスの付き人やっているくらいだから薙切薊との接点を持っていてもおかしくはない。合宿での成績は十傑にすら匹敵するほど、薙切えりな以上の実力の持ち主だ。俺でも食戟して無事ではいられねえ。幸平創真なら確実に仕留められるだろうが、得体の知れない料理人ほど恐ろしいものはない。勝負っていうのは情報量が多い、たくさんの知識を持っている奴が勝つんだ。

 だからこそ調べる。黒木場リョウから何も出ないなら薙切薊を調べればいい。あいつは確かに情報操作では一枚上手のようだが、過去の情報全てにまで手は回らないだろ。黒木場リョウをなぜ消そうとするのか分かれば状況も少しくらい有利に働くかもしれねぇ。

 

 

 

 

 秋の選抜、出場者の発表。

 えりな嬢に呼び出されたお嬢と俺は大体の予想がついていた。大方、呼び出されるということは秋の選抜の出場者に選ばれたということだろう。えりな嬢のことだから自分の友達が選ばれたことに関して凄く嬉しくて激励したいとかそういうことなのか。

 いやさすがにえりな嬢も遠月十傑の一人だからそこまでは子供じみてはいないよ。日々、神の舌を持つえりな嬢は一流のレストランや料亭での味見の仕事などもしているため、普段は一緒にいるようでなかなか時間も取れなかったりしててお嬢と遊びたくても遊べなくてションボリしてるらしい。

 

「アリス、黒木場くん。あなた達を呼んだのには大体の想像がついてるとは思う。今日は従姉妹と大切な友人二人が秋の選抜の出場者に選ばれたの。アリス、緋沙子、黒木場くん……お祝いでもしましょう!! 今日から三日間ほど予定空けててね、アリスと緋沙子と一緒に旅行でもどうかなって……もちろん黒木場くんもよ!?」

 

「ふぅん……えりながわざわざ呼び出すなんてまさかとは思っていたけど。実際に言われてみると照れくさいわねっ。しかも旅行なんて合宿以来ね」

 

「……えりな様。だからスケジュール調整を頼んでいたんですね、なんてお優しい……」

 

 やっぱり、秋の選抜の出場者に選ばれたか。

 ロッシとの食戟は恐らくというか確実に秋の選抜でぶつかることを考えれば絶対に夏休みは無駄には出来ない。あんまり深く考え過ぎてもいけねえから、旅行で息抜きでもして後から考えていくか。お題がなんにせよ、俺がやることは変わらない。お客さんに笑顔で美味しい、そんな風に言ってもらえる料理を作るだけだ。

 ちょっと待てよ。緋沙子が居れば俺がいる必要もあまりないと思うんだよな、秘書のように華麗になんでもこなしちゃうから天真爛漫で自由なお嬢も制御してくれそうだし。逆に俺がいるとガラの悪そうな奴と喧嘩おっ始めそうになるからいいことない気がする。

 

「女水入らずで旅行に行ったらどうですか? 俺は秋の選抜のお題に向けて試作でもして過ごしますし」

 

「「「却下」」」

 

 却下されたぜ。

 

 

「とりあえず、旅行の前にアリスと黒木場くんにも秋の選抜について少し説明することがあるわ。AとBに分けられた各ブロック30名ずつで予選が行われるの、その各ブロックの上位の選手が本戦トーナメントの出場権を得る。ちなみに私は秋の選抜を運営する立場にあるから選抜に出ることは出来ないわ。この秋の選抜は特別なもの……現在の十傑メンバーの殆どが本戦への出場した経験を持っているのーー」

 

 

 つまりは次代の十傑は俺たちの誰かから選ばれるというわけか。六十名の中から何人が選ばれるのやら。俺は料理人としてはまだまだ学ぶべきことがたくさんある、遠月十傑を倒して学園の頂点を獲るにはまだ研鑽を積むべきだ。今、目の前にいるえりな嬢もいつかは倒す日が来るかもしれないがまだその時ではない。今は秋の選抜の予選突破とロッシとの食戟に備えて刃を磨く時だ。

 必殺料理を出す時が秋の選抜であるだろうか。あの料理を出すのは絶対に倒さなければいけない相手のみだ。過去に戦った薙切薊、あいつを仕留められなかったけど今の俺はあの日から成長しているはずだ。料理経験だってかなり積んだだろう。油断もしないし、慢心もしない。前に進むには努力を怠ってはいけねえ。

 

「秋の選抜の頂点は俺が獲ります。お嬢や緋沙子にも渡す気はないっすから」

 

「リョウくん……駄犬の癖に生意気よっ」

 

 秋の選抜の頂点は誰にも渡さない。

 

 




読んでいただきありがとうございます( *´꒳`*)

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