黒木場リョウ(偽)、頂点目指します   作:彩迦

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たくさんの感想と評価ありがとうございます( ᵕᴗᵕ )にやにやが止まりませんでした。これからも精進して参ります。宿泊研修編も残り僅か、お楽しみください(*・ω・)*_ _)ペコリ


十八話 愚者は掌で踊る

 

 

 

 

 

 課題開始から二時間経った。

 課題終了の鐘が鳴らされ、そこには嬉しそうにはしゃぐ生徒や肩を落とす生徒、反応は様々だったけれど私は前者のはしゃぐ部類に入るのでしょうね。まさかストックしておいた食材まで切れてしまうなんて相変わらず私の料理は凄いわ、これならリョウくんにだって劣らないはずよ。

 今日の料理、リョウくんの分だけはきちんと一つ残しておいたから食べさせてあげないとね。ふふっ、二百食達成のとこを私はなんと三百八十食だったのよって自慢出来るわ。リョウくんの悔しそうな顔が目に浮かんじゃう。

 

「お嬢、こんなとこに居た……なにしてんすか」

 

「決まってるじゃない、駄犬のリョウくんのために取っておいた料理を用意してるの」

 

「そうなんすか。あっ、ちょっと言いづらいんすけど……近々、俺の退学を賭けて食戟を行なうことになりました」

 

 ふーん。

 待って、今なんて言ったのかしら。俺の退学を賭けてってどういうこと。まさかこの駄犬のリョウくんは御主人様に断りもなく、自分の退学を賭けて食戟をやるとでもいうの。そんなの絶対に認めません。如何なる理由があろうと絶対に認めないから。リョウくんは私の従者なんだから、もし退学になったら誰が私の面倒を見るのよ。嫌よ、毎日スケジュールのチェックしたり、自分で車呼んだり荷物持ったり話し相手が減ったり、なんだかんだでずっと一緒に過ごしてきたのに。

 

「食戟を行なうことは許しません。まぁ参考までにどんな経緯でそうなったのか、話だけは聞いてあげるけどね」

 

「同じ一年のロッシが緋沙子の薬膳料理を侮辱して泣かしたのでそれを謝らせるのが目的なんすけど緋沙子を泣かした罪は重いんで、アイツのイタリア料理を完膚無きまでに捻り潰すために食戟をやろうと思いまして」

 

「許します、完膚無きまでに捻り潰しなさい。その代わり、薙切アリスの従者として絶対に負けは許されないからね」

 

「うす。今回は久々に頭にきてるんで気合いは充分っす」

 

 えりなの従者である緋沙子を泣かすなんて言語道断よ。私の大切な友人の一人であるんだもの。それを泣かすなんていい度胸をしてるわね。でも何か引っかかる。ロッシくんは常日頃より緋沙子に対して突っかかるような態度を取ってたけど、人前で泣かすほどの度胸なんてないように見えたのに。

 わざとお馬鹿なリョウくんが食戟を挑むように誘ったのだとしたら少し考える必要がある。リョウくんの料理人としての腕前は信頼しているし、ロッシくん程度の料理人が勝てるほどにリョウくんは全然弱くない。でも向こうも何かしら考えた上で食戟に引きずり出したのだから裏があるはずよ。

 

「リョウくん、あまり無茶をしてはいけませんからね」

 

 あなたに何かあったら困るのは私なんだから。

 

 

「あら、どうしたのアリス。そんな真面目な顔をして珍しいわね」

 

「えりな!! ちゃんと緋沙子を慰めてあげたの?」

 

「慰めてって……何の話かしら」

 

 もう、相変わらず鈍感なんだから。

 えりなに事のあらましを説明するとどんどん不機嫌そうな表情に変わっていく。不機嫌を通り越して激怒してるようにも見えちゃうから怖い。あまり、えりなを怒らせない方がいいわね。そもそも普段からロッシくんはえりなの前では緋沙子に突っかからないけど一人になったタイミングで来るものだから何も言えないのね。

 

「緋沙子を泣かせるなんて絶対に許さない……黒木場くんの手を煩わせるわけにもいかないし、私が食戟申し込もうかしら」

 

「すみません、えりな嬢。今回は俺に任してほしいです。あいつは緋沙子を泣かすだけじゃなくて料理人としてやってはいけないことをやってくれたんで……俺が捻り潰さないと気が済まない」

 

 リョウくんがこんなに本気になるなんて珍しい。いつもはボケッとしてる駄犬なのに野獣のような雰囲気を醸し出してる。昔はバンダナを巻かなくても常に野獣みたいな感じだったけど、久しぶりにそういう感じなのかしらね。

 

 私も友達が傷付けられて黙ってられるほど、お人好しではないわよ。

 

 

 

 

 

 遠月学園。

 第九席、叡山枝津也。俺は中等部の頃から様々なフードコンサルティングを手がけた。経営難にあった老舗旅館の経営を立て直したり、高級料亭から依頼を受けての新メニュー開発、京都にあった唐揚げ店を競技会金賞に導くなど、手がけた案件は五百を超えている。そんな俺がなぜ食の魔王の眷族とされる薙切アリスの従者にちょっかいを出さないといけねえんだ。

 そもそも最初はこんな筈ではなかった。上手い儲け話が回ってきたから少し乗っかる程度に考えていたのに上手いこと嵌められた、食の魔王の血族たる薙切薊に。自らの店の一つにフードコンサルティングを頼むと言われたので売り上げから何から何までその店を調べ尽くし、最善策を提案したはずだったのに何故か店の売り上げは一気にガタ落ち。理由は簡単だった、薙切薊の手による一つの情報操作。これが原因だったが後の祭りだ、情報操作が分かったところで手の打ちようがあるわけもなく結果的に店一つを潰しちまった。それなのにも関わらず奴はーー。

 

 

『海外にいる僕の耳にも錬金術士という異名が聞こえてきたから、日本の店を一つ任せたのに……結果的に潰すことになるなんて思いもしなかったよ。なに、まだ学生なのだから失敗することだってある。でもーー』

 

 

 潰しちまったにも関わらず、なんともない風に笑いやがった。最初から店を潰す気だったとしか思えない。そうでもないとあんな風に笑えるわけがない。気味が悪かった、薙切の名と遠月学園のOBで元・十傑と聞いていたから多少は警戒していたがレベルが段違いだ。喰う側であるはずの俺が最初から捕食される側だったという事実。くっ、認めたくはないが向こうさんの方が一枚も二枚も上だったってことだ。

 

 

『今回の件が公になればきみの経歴にも傷が付くだろう。でも安心してくれていい、こちらの要求さえ呑んでさえくれれば公にはしないつもりだからね』

 

 

 俺の経歴に傷を付けないためには薊の要求を呑むしかなかった。

 

『黒木場リョウ、彼を遠月学園から追い出してほしい。チャンスは二回まで与えよう。もし出来なかったらーー』

 

 今回の件を公にされて、経歴に傷がついて今後のフードコンサルティングに影響が出るどころか、店一つ丸ごと潰して責任一つ追わなかったことに対する罰を遠月十傑による会議にかけられて十傑たる資格剥奪すら有りうるだろう。この事は誰にも知られるわけにはいかない。手早く、黒木場リョウという生徒を退学に追いやってしまえばいい。俺が直々に食戟で相手して潰してもいいが、そうすると下手に怪しくなっちまう。ただの一年生相手に十傑が食戟を行なったとなれば周りからも不審に見られるだろう。

 

「ロッシの奴が上手く、秋の選抜で黒木場を仕留めれば俺もこれ以上不愉快な思いをせずに済むんだ。しばらくの我慢だな……」

 

 ロッシは餌をぶら下げればすぐに食いついてくれた。遠月十傑、第十席の薙切えりなの従者である新戸緋沙子を退学にしてやると一声かけたらすぐに従ってくれた。黒木場リョウは何故かデータが少ない。薙切アリスは幼少から北欧に住んでいたらしいが、そのせいだろうな。中等部時代の奴の食戟や料理の傾向、性格、何から何まで調べ尽くすことは叶わなかった。

 ここはやはりロッシではなく、美作昴に任せれば良かったかもしれねえ。アイツのキングオブストーカーは確実に相手を知り尽くす。だが、あれはある意味ではエグいから俺なりの優しさでロッシを選んだ。黙ってロッシに倒されてくれれば、こちらももう何もしねえからな。

 

「秋の選抜、黒木場リョウは確実に入れねーとな」

 

 俺の経歴は誰にも汚させねぇ。

 

 




|x・`)読んでいただきありがとうございますね。

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