黒木場リョウ(偽)、頂点目指します   作:彩迦

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今思えばこの作品がこんなに多くの方に読んでもらえるとは思ってもみなかったです:(´◦ω◦`):感謝感激です。これからも読んでいただけたら嬉しいです(*・ω・)*_ _)ペコリ


十七話 思惑と罠

 

 

 

 遠月離宮。

 遠月リゾートのお客様に提供するのに相応しい朝食の新メニュー作り。朝食はホテルの顔、宿泊客の一日の始まりを演出する大切な食事だ。そのテーブルを派手やかに彩るような新鮮な驚きのある一品で飾る、となると料理人ですらメニューを考えて試作作りに挑むまでにかなりの時間はかかる。それを学生への課題に出した理由は二つ、現場に対する適応力を見るのと料理人としての素質だ。

 自分で考えたメニューで二百食程度達成出来ぬようなら遠月学園においての価値はないとみえる。しかしジュリオ・ロッシ・早乙女、彼は開始早々に二百食を軽々と達成してみせた。それも独創的な一品で朝食としていただくには最適かつ効率も良い、学生としてのレベルを遥かに越えている。

 

「ふむ、今年の遠月の学生は粒ぞろいのようだな。」

 

 だが料理人は料理を作れればいいっていうものではない。料理を作る上で大切な事を彼は忘れているように見えたがな。いや、忘れているのではなくわざと見て見ぬふりしようとしているのか。食材を生かすも殺すも料理次第、彼の料理は華やかではあるけれど、それ以上でもそれ以下でもないだろう。まるで中村が作る美食と呼ばれる料理だ、中身が一切ないだけの感情の篭っていない品。

 

「ど、堂島さん……」

 

「どうした副料理長(スーシェフ)

 

「く、黒木場リョウが498食達成です」

 

「彼は料理人として完成形に近いといっていいからな、これくらいは当たり前だろう。だがまだ課題終了まで時間がある……彼のことだから時間終了まで作り続けるとは思ったが、どうやら先程のひと悶着で何やら思うことがあるらしい」

 

 映像からハッキリと見えていた。

 新戸緋沙子に対する言葉の暴力、ましてやお客様が目の前にいる状況であのようなことをするなど言語道断、俺ならとっくの昔にクビにしているとこだったが、黒木場が庇った。同じ料理を極める者としてのタブー、それをロッシは犯した。おそらくは黒木場にとっては許せなかっただろう。俺や才波に届きうる、いやそれ以上の料理を作る可能性を秘めている男なのだから料理人としての誇りとプライドがあるはずだ。

 自分の地位や実力に鼻をかけたいわゆる自己中心的でエリート面をして努力しようともせずに天才には勝てぬと諦めて、その場の努力のみで現状を切り抜けるだけでその先には何も無い。しかし黒木場リョウという料理人は違う、昔に中村と行なった料理対決や研修で四宮を見て一瞬で停滞を見抜いた洞察力、高級ホテルの朝食として考えた新メニューは新鮮で驚きのあるクロックマダム。自分の料理に妥協せずに努力を続けてきたからこそ為せるものだ。

 

 

 

 

 

 

 

「黒木場リョウ、498食達成!! 食材が底を尽きたようなので残り時間は自由に過ごすといい」

 

「うす」

 

 課題を達成したという達成感は今はあまり感じられなかった。たくさんのお客さんの笑顔を見られたから良かったけど、今は緋沙子が心配だ。ロッシの言葉で自信を無くしたのか、緋沙子は残り七食で課題達成するっていうのに口数が減って表情もどこか暗い。料理を作る側が暗い表情なんかしていれば食べる側だって美味しいもんも美味しいって感じられないだろうに。

 声を掛けるにも下手なことを言えば逆に落ち込んでしまうかもしれないから何も言えない。俺に出来ることといえば緋沙子を応援することと、ロッシをぶっ倒すことくらいだ。研修の場で波風立てるわけにはいかないのは分かってる、それでもあれは許せない。

 

「あと七食なんだから暗い顔ばっかしてるとお客さんも寄ってこねえぞ。ラストだ、頑張ろうぜ」

 

「黒木場くん……」

 

「なあ、香菜入りトマトと卵の中華スープ、お客さん以外の分がまだ余っていたら一つ欲しいんだけど良いか?」

 

「もちろん、いいですけど」

 

 

 えりな嬢は神の舌を持つために、様々な激務に追われて体調を崩すかもしれないと緋沙子はえりな嬢のために薬膳料理を極めようと必死になって今があるんだ。それはなかなか出来ることではない。一人のためを思い、極める。俺が作る料理と通じる部分はかなりある。誰かを思い、誰かのために作る。ロッシは緋沙子の料理の上辺しか見ていない。料理の味だけの勝負となると言っていたが、あれは間違いにも等しい。

 香菜入りトマトと卵の中華スープは見た目にも華があり、トマトが卵の中華スープとマッチして色鮮やかで非常に美しくみえる。それにさらに香菜が加えられていることによって見た目からも深みが増してるとすぐに分かる。非常に完成度の高い中華スープだ。

 

「ーーおい、ロッシ」

 

「誰かと思えば……一体、何の用だ? まさか、その手に持っているのは新戸緋沙子が作ったスープのようだが」

 

「てめぇに緋沙子が作ったスープを食わせてやろうと思ってな。このスープは見た目も味も非常に完成度が高いとは俺は思っている、まだ食べてねーけど」

 

「ふっ、食べるまでもない。見た目が美しくない料理は僕の口に入るまでもない。駄作も同然だ、美食たるもの全て優雅でなければならないのだから」

 

 カチンと来た、美食とはなんだ。

 料理の見た目や味が全てハイレベルな品のことか、それとも見た目や味がハイレベルだろうと、その料理には何の気持ちも篭っていない無機質なもののことか。料理というのは失敗を重ねて、皿に自分の気持ちを全て乗せてからようやく完成するもんだぜ。それを努力すら無視して見た目が駄目だから駄作だとよ、いい度胸してやがる。

 

「残念だぜ、ロッシ。ここで考えを改めようものなら俺も少しは穏便に済まそうと思ったが……我慢ならねぇ!!!! 俺は近いうちにてめぇに食戟を申し込む」

 

「いいだろう。このジュリオ・ロッシ・早乙女、きみのお相手をしよう。食戟を申し込むのだから、それなりの対価が必要だがどうする?」

 

「負けたら遠月学園を退学してやるよ。その代わり、てめぇが負けたら緋沙子に謝罪して金輪際、あいつに関わるんじゃねえ……!!」

 

「決まりだな。薙切アリスの犬程度、僕の敵ではない。食戟の日程はまた後日、改めよう。では、失礼する。お互いに残りの研修を楽しもうじゃないか」

 

 その後ろ姿から感じる余裕。

 負けたら遠月学園の退学とか勢いで言ったものの、お嬢に言ったらかなり怒りそうな気がする。まあその時はその時だな。俺が退学を賭けるまでもないとか言いそうだけど、あの場で退学くらい賭けないとロッシは乗らなかったような気がする。いや、あえてわざと退学を賭けると言わせたと考えるべきか。まさか、な。

 

 

 

 

 

 こうも簡単に食戟を申し込んでくるとはな。

 僕にとって新戸緋沙子は前々から料理人としての腕前も大したこともないのに、えりな様の従者として日々仕えていることが非常に目障りで仕方がなかった。究極の美食を追い求める僕こそがえりな様に相応しい存在だと決まっているのに。だからこそ新戸緋沙子を学園から追い出すためにわざわざ、彼とは手を組んだのだ。要求を聞く代わりにこちらの願いを叶えてくれると。

 黒木場リョウ、薙切アリスの従者である彼を食戟で倒せというのが要求。なに、簡単なことだ。従者となるような者が僕の道を阻めるわけがない。中等部時代、黒木場リョウという名はあまり聞いたことがない。料理人としての腕前がそれなりにあるなら名前が上がっていただろうが、ないということはそういうことだ。ただの金魚の糞も同然だ。

 

 

「叡山先輩、約束はきちんと守ってくださいよ」

 

 悪く思わないでくれよな、黒木場リョウ。

 




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