黒木場リョウ(偽)、頂点目指します   作:彩迦

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クロックムッシュとクロックマダム、どちらが好きですか(๑•∀•๑)私はクロックマダムが好きです。では本編をお楽しみください。


十六話 クロックマダム

 

 

 

 

 

 クロックマダムを口に頬張るお客さん。

 その瞳は大きく見開かれ、驚愕の表情に染まっていく。俺が作ったクロックマダムは通常の品とは違い、マフィンから見直した。通常のマフィンとは違う、お粥を生地に練り込んで外はカリカリ、中はフワフワの食感にモチモチ感を合わせることで卵との相性を極限まで高めた。

 でもそれだけじゃない、ホワイトソースにも隠し味でからすみパウダーを溶かすことでマフィンと卵の二つの味を融合させることで老若男女、誰もが新鮮な驚きのある味に満足するはずだ。マフィン、ホワイトソースときて卵にも工夫しないわけがないよな。卵は半熟の目玉焼きに仕上げるだけじゃなく、刻んだバジルを添える。バジルの上に一滴だけお手製のチリソースを垂らすことで究極のクロックマダムが完成する。

 

『ーーマフィンのモチモチ感だけじゃない。ホワイトソースに隠されたからすみパウダーが絶妙にマフィンと半熟の目玉焼きとの旨みを融合させている!! むむっ、それだけじゃない……このチリソースがクロックマダムを完成させているといっても過言ではない!!』

 

「ただのチリソースじゃないからな。エスニック系チリソースに卵を混ぜたんだ。チリソースの辛さにまろやかさを加え、それがモチモチ感のあるマフィンと半熟の目玉焼きとの融合を昇華させた」

 

 二百食達成が全てじゃないんだ。

 俺達は料理人だ、老若男女全てのお客さんが心から美味しいって笑顔になるようなもんを作らないといけない。中には美食もあるだろうが、料理人がその一品に自分の全てを乗っけていればいいけどそれすらせずにただ美味しいってのは違う。自分の料理を、自分を全て乗っけた一品を食べた人にどんなイメージが浮かぶのか、料理人が歩んできたもんや人柄なんかが料理には絶対に現れる。

 

「まだまだ俺のクロックマダムはあるぜ? 食べてないお客さんは食べていってくれ!!」

 

 料理は人を笑顔にさせてくれる。

 

 

 

 

 

 黒木場くんはいつだって先に行ってしまう。

 薙切家に仕える者として私は日々の努力を怠った事はない、だというのに彼には追い付けない。その背中を追いかけるだけ遠ざかっていく、そんな気がする。私の得意分野である薬膳料理だけは唯一、黒木場くんにだって負けない自信はある。

 

 一つを極めるのに犠牲にした時間は数えられない。えりな様を救ってくれたあの日から身を削って薬膳料理を極めたのに彼は海鮮料理のみならず、あらゆる料理に精通している。どれほど身を削っているんだろう。寝る間を惜しんで料理を極めようと、遠月学園の頂点を獲るために努力を怠らない。

 

「負けてられない……!!」

 

 

 私と黒木場くんとでは力の差が歴然、それでも私だって頑張ってきたんだ。たくさんの人に香菜入りトマトと卵の中華スープを食べてもらいたい。美味しいって言ってもらいたい。二百食達成させてもらいます、えりな様の従者ならこれくらい当然で出来ないといけないんですからーー。

 

 

「ーー相変わらず、不味そうな料理を作っているようだな。神の舌を持つとされる薙切えりな様もなぜこのような品を出す女を従者として連れ添っているのか、まったく理解が出来ない」

 

「……っ。あなたは」

 

 

 アルディーニ兄弟のように本場のイタリア料理を店で振舞っていたように、もう一人だけイタリア料理を得意とする一年生がいる。その実力はアルディーニ兄弟以上にイタリア料理を愛し極めているといっても過言じゃない。父親がイタリア人であり、日本でも一流のイタリア料理店を持っているが故に彼も必然的に料理人としての道を歩んだ。料理の腕は確かなもの、だけど性格的には私とは相容れない。いつも顔を合わせる度に私を馬鹿にするだけならまだしも、えりな様すらも侮辱する輩なのだから許せない。

 それ以前に、なぜ二百食を達成しなければいけない彼がこの場に居るのか理解が追い付かない。まだ課題の開始から時間はあまり経っていないはずだし、彼は私とは別の会場だったのに今この場に居るということは二百食を短時間で達成したとでもいうの。

 

「……ジュリオ・ロッシ・早乙女」

 

「怒ったようなら謝ろう。しかしきみの料理には華がない。薬膳料理はどうしても見た目には華がなく、味だけの勝負となる。ああ、あのえりな様の従者なのにも関わらず、見た目が見劣りするような料理を作るなんて僕には考えられなーー」

 

 反論出来ない。

 こんな大勢のお客さんがいる手前でボロボロに貶されるなんて思ってもみなかった。確かに薬膳料理はどうしても見劣りしたりすることがある、けど今日の私の香菜入りトマトと卵の中華スープは見た目も味も最高に仕上がっている自信作だ。それなのに、彼は私の薬膳料理を否定し、見た目が見劣りするとまで言った。くっ、こんな奴の前で泣いてたまるもんか。涙なんか見せるとつけ上がるに決まってる。

 

 

「うるせえぞ、黙ってろ。料理を提供する場、客の目の前で料理人が料理人を侮辱するんじゃねえよ」

 

 静かだけど凄まじい怒気を滲ませる黒木場くんは真剣な眼差しをロッシくんに向けていた。昔から黒木場くんの料理に対する心は変わらない。食べる人に笑顔を、そんな風に考える彼がお客さんの笑顔を壊すような真似をする奴を許すわけがない。

 

「ほう、薙切アリスの犬か。よく吠えることだが、勘違いしないでくれ。侮辱しているんじゃない、事実を述べているだけさ」

 

「ロッシくん、私が気に入らないのは別にいい。今は課題の最中なんだから高みの見物でもしていればいいのでは? 私がこの課題で落ちるのを見たいなら」

 

「ーーそうさせてもらおう」

 

 絶対に二百食達成させてみせる。

 

 

 

 

 

 ジュリオ・ロッシ・早乙女。

 まだ課題の開始からあまり時間が経っていないにも関わらずに課題を達成したということを考えれば二百食以上は作らずに二百食のみを作り、時間の短縮が出来る料理を選んだと考えるのが筋だろうな。作業の効率を考えるのも料理人として大切なことだけど、あいつは同じ料理人としてやってはいけないことをやってくれた。お客さんの笑顔をぶち壊したのが、一つ。もう一つは緋沙子という一人の料理人を侮辱してくれたことだ。

 

「許せねぇ……!!!!」

 

 緋沙子は薬膳料理のエキスパートであり、その分野を極めている料理人だ。料理の見た目だって決して見劣りはしていない。それどころか華やかしさだってあり、味だって美味しい。さらに身体に良いと来たもんだ。食べて身体が良くなるならそれほど嬉しいことはない。そんな料理を極めてきた奴の努力を否定するような言葉は緋沙子が許したとしても、俺は断じて許さない。

 

「首洗って待ってろよ……ロッシ!!」

 

「怒りながら料理を作るなんて。器用ですよね、黒木場くん」

 

「大丈夫だ、料理に憎しみは込めてねえから」

 

「料理に憎しみ込められても食べる人が困りますからねっ!?」

 

 

 当たり前だろ。

 笑顔になってもらいたいのに俺がそんな憎しみなんて込めるわけがない。ロッシに料理を作るなら殺意を込めて作ろう。喜んで作ってやるよ。しかし、ロッシの奴もえりな嬢の傍に置いてほしいから緋沙子の座を狙っている感じがしないでもないんだよな。でもよ、ロッシ。俺は見逃さなかったぜ。

 

 

 緋沙子を泣かしたな。

 

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございます(*`・ω・´)

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