黒木場リョウ(偽)、頂点目指します   作:彩迦

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秋の選抜編のプロット作成中。。。
( *´•ω•`)本編書かないといけないのに、ついつい。


十話 同じ料理人として

 

 

 

 

 大浴場の扉を開く。

 目の前の恐ろしいほどに鍛えられた、その背筋はどんな猛者をもビビらせる。広く大きなその背中は遠月学園の主席に君臨し、今では遠月リゾートホテルの総料理長兼執行役員という肩書きを持つ最強の男。

 堂島銀。遠月学園の最高傑作ともいえる人物であり、料理の腕前は才波城一郎氏にも匹敵するか、それ以上であることは確かだ。えりな嬢との話に夢中で堂島シェフとの筋肉イベントなるものがあるなんていうのは一切、頭から抜けていた。筋肉イベントって自分でも何を言っているのかはわからないけど。

 

「ーーーーん? もう一人目が来たのか……ほう、今年は二人のようだな」

 

「や、やべぇ……おっかねぇ」

 

 幸平の気持ちは分からなくもなかった。誰だって目の前に最強の料理人というより最強の筋肉が居れば誰だってビビってしまう。厨房は戦場、料理はねじ伏せるものというのが港町のレストランで生き抜くのに必要な考えではあったが、目の前の堂島シェフからも似たようなものを感じるのは気のせいだろうか。

 才波城一郎氏と同じ極星寮だった堂島シェフは数々の食戟で相手をねじ伏せて極星寮の黄金時代を築き上げた一人、今の遠月十傑はどこか保守的に見えるけど、この人はどこか違う。その獰猛さを表には出さずに内心に秘めている。

 

「少年達よ、名前を聞いても良いかな?」

 

「おす!! 幸平創真っす」

 

「うす、黒木場リョウです」

 

 堂島シェフは幸平という名字に反応し、何やら思索するかのような表情を見せた。それもそうだろう、才波城一郎氏の今の名前は幸平城一郎でその息子が目の前にいるなんてすぐにはわからないだろうし。俺の名前にも反応したように見えたが、それはありえないはずだ。堂島シェフと会ったのは今日が初めてのことだし。

 

「幸平……もしや才波の息子か!! それに黒木場リョウ、中村との料理対決で引き分けた少年とはな」

 

「才波って親父?? 堂島先輩、親父のこと知ってるんすか!!」

 

「……えっ」

 

 中村という名字には酷く覚えがある。旧姓は中村、現在の名前は薙切薊という男。過去に料理対決をしたけど、なぜ堂島シェフが知っているのか疑問だ。あの料理対決はほぼ非公開で行われたし、当事者達が喋らない限りは広まらないはずという考えまで至ると予想はついた、薊が堂島シェフに喋ったのか。

 待てよ、今ここで才波城一郎氏の息子が幸平って分かったということは過去の逸話とかを聞けるんじゃないだろうかとか勝手に俺は思いましたよ。

 

 

「才波城一郎、今は幸平という性になっているが共に極星寮の黄金時代を築き上げた仲だ。その話を語るには一晩では足りないだろう、数々の食戟や激闘の学園生活は辛くも楽しい日々だったがーー今は黒木場リョウ、きみの話をしよう」

 

「黒木場の?」

 

 嫌な予感しかしないのはなぜなんだ、誰か教えてくれ。

 

「先日、中村から連絡が来てな。今から数年前にきみと料理対決を行なった話を聞いた。大変喜んでいたよ、普段は美食以外を侮蔑的に扱うあの男がね。黒木場、料理人としての腕前は素晴らしいと思うが、同時に厄介な相手を敵に回したようだ……これ以上詳しいことは言えないが、力は溜め込めるうちに溜め込んでおけ」

 

 鋭い眼光が俺を射抜いた。

 死刑宣告にも等しい言葉だった。それもそうだ、えりな嬢の神の舌を完成させるための洗脳や虐待ともいえる教育の邪魔をしたから消すって言われるなら、まだ納得は出来るかもしれない。けど、明らかに違うよな。美食以外を侮蔑的に扱うあの男が大変喜んでいるという状況はおかしい。何に喜んでいるんだ、俺は美食至上主義とは相反している。

 堂島シェフの口ぶりから察するにまだ時間はありそうだ。今の自分の料理に足りないものは分かっている、それを補うためにすることも。言葉より行動だな、今日からでも実行するか。

 

「もしこれからすぐにでも料理したいというなら、まだ多くの生徒達がいる厨房ではやりにくいだろうから地下の厨房を使うといい。今日の研修で余った食材は自由に使え。己を磨きあげろ」

 

「……うす。ありがとうございます」

 

 時間はまだある、焦るなよ俺。

 

 

 

 

 

 遠月離宮のとある一室。

 一緒にトランプをする予定だった緋沙子はお風呂で逆上せてしまったからベッドで休ませているけど、アリスも流石に宿泊研修の一日目だから気を張って疲れたのかウトウトしているように私には見える。黒木場くんはまだ来ないし、そろそろお風呂から上がっていてもおかしくはないのだけれど。

 今日はもう緋沙子もダウンしてることだし、お開きにしても良いかしら。アリスだってほとんど寝てるような状態だし、ちゃんと休んでおかないと明日の研修に支障をきたして退学にでもなってしまったら後味が悪い。

 

「アリス、眠いなら寝ても良いのよ??」

 

「んー……いやよっ。全然眠くないわ……」

 

 アリスったら相変わらず頑固なんだから。私も人のことは言えないけど。待って、今この状況だと黒木場くんが来たら私がまた話すチャンスが到来するってことじゃないかしら。緋沙子は寝てる、アリスだって寝てるようなものだし。ここは二人きりでまた話なんかして距離を少しでも縮めるというのもアリじゃない。

 

 

「黒木場っす。入りますよ……ってなんでもう皆寝てるんすか。お嬢は珍しくないっすけど、緋沙子がこんな時間に寝ちゃうなんて」

 

「緋沙子はお風呂で逆上せたから寝させて、アリスは研修一日目で気を張って疲れちゃってるだろうからね」

 

「あー……なるほど。二人きりでトランプっていうのもなんですから、えりな嬢にお願いがあるんすけど」

 

 く、黒木場くんからのお願いだなんて。いつになく真剣な表情してるし、重要なお願いに違いないわね。でもなんだろう、想像がつかないんだけど。

 

「えりな嬢に俺の料理を食べてほしいんですよね。今の自分に足りないものの再確認、というか」

 

 料理の味見ということね。珍しいわね、普段は料理の味見なんか一度も頼んだこともないのに。味見ならさっき、お風呂に入る前にでも言ってくれたらしていたのに。大浴場で何かあったのかしら。いえ、あまり深く考え込んでも仕方ないわ。黒木場くんの料理の腕がさらに上がることを考えれば、私の神の舌は料理の味見に最適役なのだから。

 

「ええ、もちろん良いわよ。その代わり……不出来な料理を出したら承知しないんだからね」

 

 

 一体、どんな料理を作ろうというのかしら。

 

 

 

 

 

 遠月離宮の地下、厨房。

 堂島シェフより今日の研修で余った食材を自由に使っていいと言われたのでありがたく使わせてもらうとしよう。バンダナを頭に巻き、包丁はちゃんと研いであるし、準備は万端だ。流石は遠月リゾートホテルだけあって厨房も最新の設備が整っている。料理人の腕だけでも料理は上手く作れるが、設備が整っているとその分だけもっともっと上手くなるからな。

 

「ねぇ、黒木場くん……ちょっと良いかしら」

 

「うす」

 

「なんでここに幸平くんがいるの?」

 

 えりな嬢の突き刺さるような視線が俺を襲った。逃げたいけど逃げられない、蛇に睨まれたカエルのように動けない。俺は仕方ないと思うんだよな、えりな嬢に料理の味見をしてもらおうと思ったら幸平がちょうど良いから料理対決しようぜって言うんだから。そりゃあ、俺も幸平と料理対決するのは初めてだからナイスアイデアじゃんとか思ってしまったのは反省してる。

 幸平の料理に対する心は俺と似ている。互いに作れば作るほど、もっと高みに上れるような、そんな料理が作れる気がしてならない。俺は同じ料理人として幸平創真の今の料理が見て、感じて取り入れられる部分があれば取り入れたい。料理を見て技を盗む、料理人とは日々進化しないといけない。

 

「よぉ、薙切!! 俺と黒木場、どっちの料理が美味いか見せつけてやるぜ!!」

 

「あなたみたいな三流の料理人が黒木場くんの作る料理に適うとは思えないですけどねっ!!!!」

 

「そんなのやってみねーとわからねーだろ!」

 

 顔を真っ赤にぷりぷり怒るえりな嬢。なんかお嬢と似ているなあと思う。雰囲気なのか怒り方なのかはわからないけど。幸平を少し羨ましいと俺は思っている、だってえりな嬢に初めて会った時はツンツンしていたのに最近はツンツンさに鋭さがない気がする。

 幸平に対しては親の仇のように鋭いのに、俺に対しては先の尖っていない包丁のような感じだ。これが時間の流れっていうやつか。凄く悲しく感じてしまう。俺ももう少し尖ってるくらいが良いんだが、言えるわけもないし。

 

 

「さて作るか……幸平、俺が作るのはチキンフリカッセだ」

 

「おっ!! 先に教えてくれるなんて親切だな。じゃあ俺も教えるぜ、作る品はゆきひら流、海老と野菜たっぷりの温玉雑炊だ。夜にはピッタリな品だろ!!」

 

 ゆきひら流、海老と野菜たっぷりの温玉雑炊か。お腹に優しそうな料理だ。野菜をふんだんに使ってなおかつ、ただの雑炊じゃなく温玉を使うとなると隠し味があるはずだ、作る前から楽しみだな。だが俺のチキンフリカッセも負けていないってとこを見せてやるぜ。

 

 

 勝負だ、幸平。

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございます( *´•ω•`*)感謝です。

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