黒木場リョウ(偽)、頂点目指します   作:彩迦

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誤字報告機能からの誤字報告していただいた方、ありがとうございます(๑•∀•)添削はしているんですが、漏れてしまいます。これからも誤字等見つけていただいた方は教えていただけたら嬉しいです(๑•∀•๑)



九話 伝えられない気持ち

 

 

 遠月リゾートホテル、遠月離宮。

 えりな嬢との話を終えた俺はお風呂セットを片手に大浴場へと向かう。普通に泊まれば一泊で八万するほどの高級ホテル、その大浴場ともなれば格別だ。一日の疲れを癒すにはお風呂が一番効果的ともいえるし。明日の課題は何になるだろうと色々考えてみるものの、想像は一切つかないし、考えるだけ無駄だな。とりあえず出された課題は全力で応えればいい。

 

 先の課題で四ノ宮シェフに出した皿、シカと根セロリのアッシェ・パルマンティエ。あの皿は普通に作り上げることは出来たけど、薬膳料理の知識が不足している俺では完成に至らせることは出来なかった。緋沙子がペアであったからこそ、薬膳料理としての睡眠不足解消と腸機能の改善を促し、完成させることが出来たんだ。まだまだ料理人としての先が俺にはある、緋沙子からもっと薬膳料理について教わらないとな。

 

 

「おっ、黒木場じゃん!! もしかして俺の方が先に五十食達成していたのか!!」

 

「さっきまでえりな嬢と話してたから、とっくに俺の方が作り終わってたとこだな」

 

 背後から肩を掴まれたと思えば、幸平だった。夕食の五十食分を一番最初に作り終えていたのが俺だとすれば、えりな嬢が二番で幸平が三番ということだろう。俺がえりな嬢と話していた時間も考慮すると作り終えたのは大体、二十五分くらいか、やはり凄まじい実力の持ち主だ。いくら厨房でお客さんに料理を振舞っていたとはいえど、成長の度合いが違う。遠月学園に入るまでの時間を無駄にしてなかったのが目に見えてわかる。

 

「作り終えてから薙切と話すくらい時間の余裕があったってことかよ。まだまだ俺は成長出来てねーってのか……」

 

「成長してねぇわけねーだろ。確実に前に進んでるからこそ、今ここでこうやって一緒に大浴場に向かってんだろ。学園の頂点を獲る道をゆっくり歩んでる」

 

 この先、俺が学園の頂点を獲るためには遠月十傑という大きな壁が立ちはだかり、同年代のえりな嬢や幸平創真が最大の壁になりうると俺は思っている。いや一番危ない奴がいる、スパイスの申し子ともいえる葉山アキラ。今の実力では創真でもまだ追い付ける領域ではないし、俺ですら油断すると呑まれると思うほどの料理人としての成長スピードは、危険だ。

 香辛料の扱いには俺も自信があった、自分の知識を葉山に教えているうちに気付いたら知識量が瞬く間に俺を超えていた。料理人が成長するのは俺にとっても嬉しい、知らないうちにもっと強くなっていて俺の目の前に立ちはだかることになると恐ろしくてたまらない。負ける気はないけどな。

 

「確実に前に……良いこと言うな、黒木場」

 

「だろ。さっさと風呂にでも入って疲れをとらねーと明日も頑張れねーぜ」

 

 

 衣服を脱ぎ捨て。

 

 タオルを片手に。

 

 大浴場への扉に手を掛ける。

 

「ーーーーん? もう一人目が来たのか」

 

 大浴場に筋肉の妖怪が居た。

 

 

 

 

 

 月明かりに照らされる山々を眺めながら入るお風呂は最高だと私は思う。それも敬愛するえりな様や昔から仲の良いアリスお嬢様と一緒に入るお風呂ともなれば一層、格別だ。

 お二人の白く美しい肌が火照り、息遣いも普段より色っぽく見えてしまう。ああ、お許しくださいえりな様、こんな風にえりな嬢を見てしまう私をお許しください。

 

「緋沙子、どうしたの?」

 

「え、あ、いや!! なんでもないです。ところでえりな様、先程はどちらにいらっしゃったんですか??」

 

「そうよ、えりな!! 待ってたのに、なかなか来ないんだからっ」

 

 いつものえりな様なら五十食分など余裕で作り終えているものだと思っていたのに、大浴場の前で待っていてもすぐには来なかった。私はどこか具合が悪いのかと心配になり、アリスお嬢様は私の方がえりなより早く作り終えてるなんて、という風に喜んでいた。

 

「あー……ちょっとね。二人の手前だと恥ずかしいから、黒木場くんに数年前のお礼を言ってきたのよ」

 

「お礼……」

 

「お礼ってなんの??」

 

 

 えりな様が黒木場くんにお礼を言うような出来事はやはりあの日のことだろうと私は察しがついた。けど、なぜか私の心がズキンと痛むのはなんでだろう。私はえりな様のことを心の底から敬愛しているし、卑しい気持ちなど持っていないはずなのに。見えないとこでえりな様が黒木場くんに会っていた、ということにズキンと痛んでしまう。この痛みはなんなんだろう。

 この痛みの正体に私は気付いている。好き、という感情なんだ。えりな様が黒木場くんに会っていたから私は無意識のうちに嫉妬していた。主に嫉妬するなんて従者として許されるわけない。

 

 

「アリスの手紙を届けてくれた時のお礼よ」

 

「あらっ、そんなことで今さらお礼を言うなんて!! もっと早く言うべきよ、えりな」

 

 なぜ嘘をつくんですか、えりな様。あの日は手紙だけではなかったはずですよね。アリスお嬢様の手紙だけじゃなく、黒木場くんの料理で心が救われたんじゃないんですか。そう思いながらも私は何も言えずに無言を通す。えりな様がこうするのには何か訳でもあるんだろうと、必死に自分に言い聞かせる。

 

 えりな様は黒木場くんのことが好き。あの日、彼に救われたあの日から、彼に会う度に私に向ける笑顔とはまた別の、心から嬉しそうな笑顔を向けていた。それくらいにえりな様が彼のことを好きになって、それを周りに悟られないようにしても笑顔から全部分かってしまった。

 従者として主の幸せは願っているけど、本当は私も黒木場くんに気持ちを伝えたい。彼の隣りを歩きたい。料理人としてだけじゃない、彼の優しい心に触れてしまったことで好きになってしまった。でもそれは許されない、憧れることは許されても気持ちを伝えることは許されない。私は薙切えりな様の従者。主である、えりな様が黒木場くんのことを好きなら私は自分の気持ちを押し殺さないといけない。

 

「緋沙子、さっきから黙っているようだけど。やっぱりどこか具合が悪いの?」

 

「逆上せちゃったのかしら? 長風呂はあまり身体には良くないというし、今日の疲れがだいぶ溜まっているんじゃないのかしら」

 

「だ、大丈夫です。ちょっと考え事をしてただけですので!!」

 

 私にとっての幸せはえりな様の幸せ。

 恋の成就を願うのが従者としての務めだし、従者の私に出来ることならなんでもするべき。でも、えりな様のお気持ちはハッキリしているけどアリスお嬢様の気持ちが私には分からない。いつも黒木場くんと一緒に居るだけあって本来の気持ちは伝えれる立ち位置にいる。

 羨ましい、じゃなくて黒木場くんと一番最初に出会って手懐けたからこそ主として君臨しているなら、アリスお嬢様の気持ちと黒木場くんは両想いっていうことになるんじゃないの。

 

「あ、あれ……お二人が四人に見え……」

 

「緋沙子!! それ、逆上せてるじゃない!!」

 

「は、早く脱衣場まで運ばないと!!」

 

 立ち込める湯気とえりな様とアリスお嬢様の同年代とは思えない強調されたソレが私の頬に触れて、柔らかい。やっぱり男の人はこのくらいはほしいんだろうなあ。黒木場くん、私はまだまだ色んな意味でダメみたいです……ね。

 

 

 え、えりな様……恋って難しいです。

 




最後まで読んでいただきありがとうございます´ω`*

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