プロローグ
side 命
「ふう・・・」
冷たい風を肌で感じながら、俺は森の近くの道を歩いていた。季節は冬。それも気温は氷点下に達するほどの真冬日。だからだろうか、休日にもかかわらず人の影は見当たらない。かく言う俺も好き好んで外を歩いているわけではない。外出している理由はただ一つ。
家居たくないのだ。
あそこには俺の居場所はない。いや、家だけではない。この世界には俺の居場所など、とうにないだろう。
(いっそ本当に消えてしまおうか)
冗談でもなんでもなくそう思ってしまう。どうせ、俺が消えても誰も何も思わない。そう思わせるほど、俺は世界の全てに絶望していた。
「はあ・・・」
何度目かわからない溜め息を吐く。すると、
チリン♪
小さな鈴の音が鳴った。どこからか気になった俺は周囲を見渡す。しかし、音を鳴らしたと思われるものは見当たらない。
(気のせいか)
そう思いまた歩き出すと、
チリン♪
また聞こえた。もう一度、周囲を見渡してみる。すると、森の手前に二匹の猫を見つけた。
音の正体だ。首に鈴を付けている。一匹は雪のように白く、もう一匹は夜のように黒い。なぜか俺はその二匹の猫から目が離せなかった。確かに猫は好きな方だが、ここまで興味が惹かれることは本来ない。自分でも疑問に思いながら猫を見つめていた。しばらく見つめていると、猫は森に入って行った。
(俺を呼んでる?)
なぜか俺はそう思ってしまった。しかし、そう思ったことに何の違和感も感じない。俺は猫を追って森に入って行った。
どれだけ歩いただろう。少なくとも1時間は歩いている。俺の足は止まらない。いや、止められない。
ただひたすら猫について歩いて行く。
「なあ、どこまで行くんだ?」
俺はついそう尋ねてしまった。すると猫は答えるように、同時に振り返った。
チリン♪
また鈴の音が聞こえた。それと同時に奇妙なことがおきる。突然周りの景色が揺いだのだ。
(何だ、今のは?)
俺はいいようのない感覚に陥って、思わず頭を抑える。ふと、先ほどまで猫がいた場所を見てみる。
しかし猫はいない。
(どこに行った?)
そう思い周囲を見渡す。すると、自分がいた場所から右手の方に開けた場所があることに気づいた。
さらに、木々の隙間から明らかに人工の建物が見える。
(こんなところに建物?)
俺は気になって建物の方に歩き出す。そして、森を抜けると建物の姿を完全に目にした。
「神社?」
そこにあったのは、幻想的な雰囲気を醸し出す神社。これが俺の幻想入りの瞬間だった。
プロローグなので話が短くなっております。
次回以降は今回より長くなっておりますのでどうかお楽しみに。