今回はミコトの最大にして最悪のスペルカードが発動されます。
「あれは・・・・まあ酷いよね」
「自覚はあるさ」
それでは本編に参りましょう。
「本編どうぞ」
「天命『命羅万象の統括』」
ミコトがスペルカードを発動した瞬間、金色の球体が現れ、それは卍月の体に命中した。
「む・・・?くく・・・はははははっ!なんだこれは?なんともないではないか!」
しかし、卍月に一切のダメージはない、特に体に異変も感じられず、卍月は笑い声を上げた。
「大層な事を口にしておきながらこの有様か?くくくっ・・・愚かにも程があるわ!」
「卍月・・・・ミコトを馬鹿にしないで!」
「輝夜・・・・よせ」
ミコトを馬鹿にしたような発言に輝夜は激昂するが、ミコトがそれを制する。視線は卍月に向けたままだが、ミコトの表情は・・・・同情が篭っているよう見えた。
「卍月、ダメージがないことに安堵しているようだが・・・・それは甘いよ。『命羅万象の統括』は敵を討ち倒すためのスペルじゃない。コイツはもっと悍ましい・・・・お前の願いに最も遠く、同時にお前の願いを叶えることさえできるスペルだよ」
「なに?どういうことだ?」
「・・・・今わかるさ」
「ッ!?こ・・・・れは?」
突然、卍月は胸を抑え苦しみだした。息は上がり、体中から汗が溢れ出ており、顔色も悪い。
「なんだ・・・・これは?寒い・・・・目が霞む・・・・意識が遠のく・・・・こ、恐い」
得体の知れない恐怖が卍月を襲う。卍月は体をガタガタと震わせていた。
「ミコト?一体何をしたの?」
卍月の様子から、ただならぬことが起きているということを察した輝夜はミコトに尋ねる。他の物達も気になってるようで、ミコトを見つめている・・・・・竜希を除いて。
竜希だけが・・・・ミコトが何をしたのかがわかっているのだろう。
「俺が発動した『命羅万象の統括』は文字通り、あらゆる命を統括するものだ。さっきの金色の球体を受けた者は、俺に命を委ねられる。簡単に言えば・・・・卍月の生き死には俺の掌の上にあるということだ」
「「「「なっ!?」」」」
その説明に、竜希を除く全ての者が戦慄した。
あらゆる命の統括・・・・・支配。それは神の如き・・・・いや、ある意味では神をも超える偉業であり、禁忌の所業だ。それをミコトは成してしまったのだ・・・・・戦慄するのも無理はない。
「今は卍月の生命力をギリギリまで落としている・・・・・死の数歩手前までな。だが逆に・・・・生命力を底上げすることもできる」
「ッ!?これは・・・・もどった?いや、これは・・・」
先程まで苦しんでいた卍月であるが、今は自身の体にあふれる活力に困惑していた。
「今はお前の生命力をもともとのものよりも増大させている。若い頃に戻ったような感じがするか?もっとも・・・・俺の意思次第で、すぐにさっきのように死に近づけることもできるがな」
「なっ!?や、やめろ!頼む!それはやめてくれ!あんな思いはもう嫌だ!」
「もう嫌だ、だと?ふざけるな。簡単に自分の部下を手にかけたお前がそんなことを言う資格があるとでも思っているのか?」
「ヒッ!?」
ミコトの鋭い視線を受け、卍月はたじろぐ。死ぬ・・・・自分はミコトに殺されるのだと、卍月は恐怖に囚われた。
「い、嫌だ!儂は・・・・儂はこんなところで死にたくない!頼む!殺さないでくれ!そ、そうだ!儂の部下にならんか?儂の部下になって姫と永琳を月に連れてゆこうではないか!儂の部下になれば不自由はせん!姫もお前のものにしてやろう!」
死を恐れるあまり、支離滅裂な提案をミコトにすすめる卍月。その姿は、あまりにも哀れであった。
「・・・・ふざけやがって。輝夜は貴様のモノでもなんでもないんだぞ?それなのに好き勝手言うな」
「うぐっ・・・・があっ・・・・」
再び卍月の生命力を落とすミコト。それに伴い、卍月は苦しみ出す。目の前に死がある・・・・・これは間違いなく卍月の精神に多大なダメージを与えているだろう。
「その苦しみから解放されたければ・・・・とっととこの幻想郷から出て行け。月に帰り・・・・二度と輝夜達に近づくんじゃない。でなければ・・・・・貴様を殺すぞ?」
「ヒィィィィィ!?」
確かな殺気が込められたその目で睨まれた卍月に、選択の余地などなかった。
「かくして、使者どもは月へと帰り、永琳さん達に平穏が戻ったとさ。めでたしめでたし」
「勝手に締めないでちょうだい」
腕を組んで、うんうんと満足げに頷く竜希に、永琳が呆れたように言う。
竜希の言うとおり、卍月達は月へと帰っていった。ミコトへの恐れのあらわれか、それはもうそそくさとだ。ちなみに、卍月が殺した使者についてもちゃんと連れて行かせた。その際、向こうできちんと弔うようにとミコトが脅しをかけていた。
「別に俺が締めてもいいじゃん。俺ってば今回の功労者の一人よ?月の最強戦力の彼を倒したんだからさぁ」
「・・・・まさか本当に倒してしまうなんて信じられません」
「人は見た目によらないんだね」
竜希がまさか法月を倒してしまっただなんてと、鈴仙とてゐは感心したように言う。
「だから大丈夫だって言ったじゃないか~・・・・・というかてゐちゃん?見かけによらないってどゆこと?」
「言葉通りの意味。なんな竜希ってヘラヘラしててしょぼそうだったから」
「泣くよ俺?男の子だけどみっともなく泣いちゃうよ?」
てゐの物言いに項垂れる竜希。もっとも、それはポーズであるのだが。
「どうしてこんな男に私は・・・・・」
「お師匠様?どうしました?」
額に手を当てて、どうして竜希に惚れてしまったのだろうと呆れていた永琳に、鈴仙が声をかける。
「なんでもないわ。それよりも・・・・・どういうつもりかしら竜希?姫とミコトを二人きりにさせるだなんて」
今、この場にはミコトと輝夜の姿がなかった。というのも、竜希が永琳達を永遠亭まで連れてきたからだ。
「どういうつもりかと聞かれれば、お節介だと答えよう。輝夜ちゃんは自分を救ってくれたミコちゃんに言いたいことはあるだろうし・・・・ミコちゃんはミコちゃんで色々あってね。いい機会だと思ったんだよ」
「ミコトさんの色々っていうのは一体なんなんですか?」
「それは・・・・まあ鈴仙ちゃんやてゐちゃんにとっても全く無関係ではないんだけど、今はまだ秘密かな。今は輝夜ちゃんのターンということで」
「わかがわからないんだけど・・・・」
「私も・・・・」
竜希の言っている事の意味がさっぱりわからないといった様子で、鈴仙とてゐは頭に『?』を浮かべている。
「まあ、今はまだわからなくてもいいさ。今はまだね。それはそうと・・・・輝夜ちゃんがミコちゃんと二人きりでいるのは心配かい永琳さん?」
「・・・・」
永琳に視線を向ける竜希。その永琳はというと、表情を険しくさせている。
「まあ気持ちはわかるよ。なにせ輝夜ちゃんはミコちゃんと・・・・・蓬莱人をも殺せる存在と一緒にいるんだ。心配するのも無理もない」
ミコトの『命羅万象の統括』はあらゆる命を統括、支配する。それは不死である蓬莱人でさえ例外ではない。
蓬莱人は確かに不死だ。だが、ミコトは直接的に死を与えるのではなく命を奪う。
人は死んで命が失われるのではない・・・・・人は命が失われ、死ぬのだ。
「私のその気持ちがわかるのに・・・・姫とミコトを二人きりにしたの?」
「大丈夫だよ。ミコちゃんは輝夜ちゃんをどうこうしようだなんて思わないさ。あのスペルを使ったのは卍月が許せなかったからだ。命を軽んじ、弄ぼうとした卍月のことが・・・・相当ね」
本来『命羅万象の統括』は禁忌にしているスペルだ。それを使ったのは卍月の所業にミコトがかつてないほどの怒りを覚えたからであり、そうでなければよほどのことがない限り使うようなものではない。
「・・・・絶対に使わないという保証はあるのかしら?」
「あるよ。あいつが一夢命だから・・・・・それだけで十分に保証になる」
「はあ・・・・安い保証ね」
「お師匠様。ミコトさんが姫様をどうこうしようと考えるはずがありません」
「私もそう思う。ミコトは・・・・優しいから」
竜希の発言に呆れる永琳に、鈴仙とてゐが言う。二人共、ミコトに好意を抱いているがゆえに、ミコトを信用しきっているのだ。
「わかってるわよ。何も私だって本気でミコトのことを疑っているわけじゃないわ。ただ、あんなスペルを見せられたあとなんだからどうしても気になってしまうのよ」
「まああんなの見ちゃったらねぇ・・・・・永琳さんからすれば心配するなってのが無理な話ってのはわかってるよ。でも・・・・さっきも言ったけど大丈夫だから。ね?」
そう言いながら、竜希は安心させるように永琳の頭を撫でた。
(し、師匠の頭を撫でた!?)
(うわ~・・・・これはただでは済まなさそうだなぁ)
そのあまりの事態に、鈴仙は心中穏やかではなく、てゐは竜希がどうなってしまうのかと同情した。
しかし・・・・・
「・・・・そうね」
((ええっ!?))
二人の予想に反して、永琳は竜希にされるがままであった。それどころか、少々頭を竜希の方へと傾けているかのようにも見える。
これも・・・・・永琳が竜希に惚れてしまったが故だろう。
(さてミコちゃん・・・・・人払いはしたんだ。きちんとけじめはつけるんだよ)
永琳の頭を撫でる竜希は、ミコトへと思いを馳せる。
その表情は・・・・穏やかでありながら儚げであった。
今回は座談会はお休みしてミコトさんのスペルカード、天命『命羅万象の統括』について説明いたします。
命羅万象の統括は文字通りあらゆる命を統括、支配する禁忌のスペルカードです。発動すると弾幕が放たれ、その弾幕に命中した対象の命を思うがままに操ることができるようになります。
生命力を剥奪することによって死に近づけたり、逆に生命力を増大させることによって活性させることもできます。
もちろん、命を奪うことで殺すこともでき、さらに対象を不老不死にすることも可能です。
ある種神をも超える所業を可能にするため、ミコトはそれを禁忌にしています。
今回は使いましたが・・・・・今後は使わないかもしれません。
それでは今回はここまで。
次回もまた来てくださいね!