東方~儚き命の理解者~   作:shin-Ex-

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第117話!

今回でコラボ編は終了いたします!

「そんでとうとうミコちゃんの欠陥が明らかになるんだよね~」

「俺の欠陥・・・・か」

それでは本編にいきましょう。

「本編どうぞ」


第117話

ここは地獄・・・・・・・生前に罪を犯し、咎を背負う者が死したときに訪れる光さえ届かぬ世界。

 

そんな地獄に・・・・・・闇と見間違うほどに美しき一人の少女が我が物顔で佇んでいた。

 

「難儀なものだな。深い愛を持つにも関わらず・・・・・・自身は愛に気がつけないとは」

 

少女は憂いを帯びた表情で呟きながら、煙管を取り出して火をつける。

 

「まあ、それもこれも全ては私の責任。私が奴に架してしまった呪い・・・・・そのせいで―――を愛せなくなるとは滑稽この上ない。こうなることはわかっていたというのにな」

 

自嘲気味に笑みを浮かべながら紫煙をくぐらせる少女の頬には一筋の雫が伝っていた。

 

「神無月の巫女よ。どうかあいつを・・・・・ミコトを救ってくれ。私が唯一愛したミコトを」

 

祈るように目を閉じる少女の脳裏には誰よりも愛し、誰よりも自分を愛してくれたミコトの姿が映っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうぞ」

 

「ああ・・・・・ありがとう」

 

葵に神無月神社の一室に連れてこられたミコトは、差し出されたお茶を受け取りながら礼を述べた。

 

ちなみにこの部屋にはルカも鬼灯も居ない。葵がミコトと二人で話をさせて欲しいと頼んだからだ。

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

ミコトと葵の流れる静寂。葵はどう話を切り出そうと思索しており、ミコトは葵の口から言葉が紡がれるのを待っていた。

 

そして・・・・その時が訪れる。

 

「ミコトさん・・・・今日香霖堂に訪れた人達を見てどう思いましたか?」

 

意を決して葵は話し始めた。

 

「どうって・・・・・まあ幸せそうだなとは思ったよ。皆互いに想い合ってるのはわかったしさ」

 

「そうですね。私もそう思います。皆さん大切な人と共にいて・・・・・幸せそうにしていました。ですが・・・・・・」

 

「ですが・・・・・なんだ?」

 

「・・・・・ミコトさん。あなたはそんな幸せそうな皆さんの姿を目にして少しでも羨ましいと思いましたか?」

 

「・・・・羨ましい?」

 

酷く悲しそうな目をする葵のその問いかけに、ミコトは訳が分からずにキョトンとした。

 

だが・・・・・そうしていたのはほんの一瞬。ミコトは直ぐに気がついた。彼等を見ても・・・・・羨望の感情が一切湧いてこなかったことに。

 

霊夢と歩の仲睦まじい姿を見て、妙な感覚に陥りはしたが・・・・それも羨望と言えるものではないのだ。

 

「もしも羨ましいと思えないとしたらそれは・・・・・それもミコトさんの抱いた欠陥が原因です」

 

「俺の欠陥が・・・・原因?俺の欠陥って一体・・・・?」

 

「それは・・・・・・」

 

葵は一度言葉を止め、目を閉じる。

 

そしてしばらくして静かに目を開き・・・・・・ミコトに告げた。

 

「ミコトさん。あなたは・・・・・・・・自分を愛することができなくなっているんです」

 

「・・・・・え?」

 

葵の口から語られた自身の欠陥・・・・・それはミコトにとって全くの予想外のものであったらしく、ミコトは呆然としていた。

 

なぜなら・・・・・

 

「俺が俺を・・・・・愛することができなくなっている?なんだよそれ?そんなの・・・・・当たり前だろ?自分を愛することなんてできるはずがない」

 

それは・・・・・ミコトにとっては欠陥とは思えない、当たり前の考え方であったのだから。

 

「・・・・・それは神楽さんを死なせてしまったからですか?」

 

「・・・・・ああ。俺のせいで神楽が死んだんだ。俺が居なければ神楽は死ななかった。神楽を死に追いやった自分を愛せるはずなんかない」

 

淡々と・・・・だが悲しげに語るミコト。その一言一言には自らへの憎しみさえ秘められていた。

 

自らを愛する・・・・・即ち自愛の心というのは本来誰にでもあるものだ。

 

人は誰かを愛する前に、まず自分を愛する。そして自らの幸せを願い、誰かを愛して誰かの愛を受け止める。もちろんそこに相手の幸せを願う心もあるであろうが・・・・・人とはまず自らの幸せを望むものであり、それが当たり前の事である。

 

だが・・・・・ミコトにはそれがない。正確にはかつてのミコトには・・・・・神楽を失う前のミコトには確かに自愛の心はあったが、神楽を死なせてしまったという自責の念からミコトは・・・・・自らを憎み、自愛の心を捨てしまったのだ。

 

それによりミコトに欠陥が生じ・・・・・ミコトは自身に向けられた愛と自身が抱いた愛に気がつくことができなくなってしまったのだ。

 

「ミコトさん・・・・」

 

ミコトを見つめる葵。その表情は酷く悲痛なものであった。

 

普段の葵ならば『なんでそんな悲しいことを言うんですか!』とミコトに言葉を投げかけるのであろうが・・・・・そうはしなかった。

 

なぜなら葵は・・・・・知っているからだ。

 

ミコトの過去を見たからこそ、神楽がいかにミコトにとって大切な人物であったのか、いかに神楽の存在がミコトにとって救いになっていたのかを葵は知っている。

 

だからこそ・・・・・・そんな神楽を自らが原因で喪失してしまったミコトの計り知れに絶望を葵は理解してしまい、言葉を投げかけられなかったのだ。

 

だが・・・・・

 

「自分のことを愛せないことが欠陥だって言うなら俺はこのままでもいい。それが俺に与えられた罰だって言うなら甘んじて受けるさ。たとえ・・・・・一生このままだとしても構わない」

 

それでも・・・・・ミコトをこのままにはしておけないと、葵は強く思った。。

 

自らの愛に気づけない・・・・・・それは即ち、愛される幸せを享受することができないということと同意だ。

 

ミコトにとって神楽を死なせた自分とは憎むべき存在。故に自らへの愛を無意識のうちに遮断し、自ら抱いた愛さえも目を逸らして自らを絶望へと追い込む。

 

葵はそんな絶望から・・・・・ミコトを救いたいと願った。

 

それはミコトの過去を知り、ミコトと同じく疎まれる苦しみを知り、そして・・・・・愛する物から愛される幸せを知った葵だからこその思いであった。

 

「・・・・・ダメですよミコトさん。ちゃんと自分を愛してあげないと・・・・・ダメですよ」

 

ミコトを救うべく、葵は語りかけた。

 

「・・・・そんなの無理だ。俺は俺を許すことができない。俺は自分を愛することなんて・・・・・」

 

「ミコトさんはもう十分すぎるほどに苦しみました!」

 

ミコトの言葉を遮るように、葵は声を張り上げて言う。

 

「十分すぎるほどに苦しんで!十分すぎるほどに自分を責めて!十分すぎるほどに絶望を知りました!だから・・・・・だからもう自分を許してあげてください。自分を・・・・・愛してあげてください」

 

「でも・・・・」

 

「でもじゃありません!そもそも・・・・・そんなことを神楽さんが望んでいると思っているんですか?自らを愛することができなくなってしまったミコトさんを見て、彼女が喜ぶと思うんですか?」

 

「それは・・・・・」

 

言い淀むミコト。わかっているのだ・・・・・神楽がそんなことを望むはずも喜ぶはずもないということを。

 

「神楽さんだけじゃありません。他の皆だって・・・・ミコトさんのことを知る人達だって誰一人そんなことを望みません。そうでねければ紫さんがあなたをここに連れてこなかったはずです。それに私だって・・・・・ミコトさんには自分のことを愛して欲しいと願っています」

 

「葵・・・・・」

 

涙を流しながら、必死にミコトに訴え掛ける葵。

 

そんな葵の姿を姿を目にし、ミコトは自分の胸が痛むのを感じた。

 

「・・・・・葵。もし霊夢達が俺が自分のことを愛していないって知ったら・・・・・今の葵のように考えると思うか?」

 

「当然です。ミコトさんは・・・・・あなたが思っている以上に多くの人に慕われているんですから。実際にミコトさんが自分を愛していないことを知っている人はいると思いますし・・・・・その人達はミコトさんのことをすくいたいと願っていると思います」

 

「・・・・・そうか」

 

ミコトは目を閉じ、幻想郷に住まう人々へと思いを馳せる。

 

一人、また一人とミコト脳裏をよぎるミコトの大切な仲間達。

 

もしもその者達を自らの欠陥が原因で悲しんでしまったとしたら・・・・・そう考えるとミコトの胸はズキズキとした重い痛みが広がった。

 

「葵・・・・・正直言って俺は簡単には自分を愛することなんてできない。誰になんて言われようとも・・・・・・自分への憎しみが消えることは多分一生ないと思う」

 

「ミコトさん・・・・・」

 

ミコトの自らへの憎悪は並大抵ではない。それほどまでに彼にとって『神楽』という存在は大きいのだ。

 

ただ・・・・・

 

「でも、そのせいで誰かが悲しむとしたら・・・・・・凄く辛い。皆にそんな思いはして欲しくないって心から思う」

 

自らの欠陥が原因で誰かが悲しむ・・・・・それはミコトにとって耐え難いもの。そんな思いを他人に強いたくはないとミコトは強く思っていた。

 

「すぐには無理だと思う。でも・・・・俺は俺のせいで誰かを悲しませたくない。だから俺は・・・・・自分を愛せるようになりたい」

 

誰かの為に自分を愛す・・・・・それは他者を慈しむミコトらしい考え方であった。

 

そもそも自分を愛するのは自分の幸せの為なのだからこの考え方はあまり適したものではないのだが・・・・・それでもミコトは自分を愛する道を選んだ。

 

自分を愛するきっかけとしては・・・・・十分であると葵は思った。

 

「教えてくれてありがとうな葵」

 

「いえ、私は私の言いたいことを言っただけですから。私こそ・・・・・偉そうなことを言ってしまいすみませんでした」

 

「謝ることなんてないさ。葵がああ言ってくれなかったら・・・・・俺は自分を愛そうだなんて思うこともなかったからな。本当に葵には感謝してもし足りない」

 

「言いすぎですよ」

 

クスリとミコトと葵は互いに微笑みを浮かべ合った。

 

 

 

 

 

 

 

自らを愛さぬというミコトの欠陥・・・・・・それは簡単には治ることはない

 

だがしかし、たとえ少しずつであっても・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったく、随分と遅い迎えだな紫」

 

葵がミコトに欠陥を告げて数日後、ようやく紫がミコトを迎えに来た。

 

「ふふっ、ごめんなさい。少し整理する時間も必要だと思ったから」

 

あまり悪びれた様子を見せずに、紫は扇子で口元を抑えながらミコトに言う。

 

「・・・・・まあ俺を神無月神社に連れてきてくれたことには感謝してるから別にいいんだけどさ」

 

「それは何よりね。それじゃあ帰りましょ。霊夢達があなたの帰りを待ち遠しにしているわ」

 

「ああ、わかった。それじゃあ皆。俺はもう行くな」

 

ミコトは振り返り、見送りの為に集まった神無月神社の面々に向けて言う。

 

「何日も世話になったな。この礼はいつか必ずする」

 

「お礼なんていいですよ。ミコトさんには色々と手伝ってもらいましたし」

 

「泊まらせてくれたんだから手伝いぐらいは当然だ。それと礼は別の話だろ」

 

礼はいいという葵であったが、ミコトは頑なに引こうとはしなかった。

 

「なんていうか・・・・・ミコトのそういうところも葵に似てるな」

 

「確かにな。まあ好感は持てるからいいが」

 

「よく言えば律儀・・・・・だね」

 

ミコトの変な律儀さに、ルカ、鬼灯、想起は苦笑いを浮かべる。

 

「というわけで、今度会ったときは誠心誠意込めて礼をさせてもらうから覚えておいてくれ」

 

「ミコトさん・・・・・わかりました。楽しみにしています」

 

とうとう観念した葵は、微笑みを浮かべながらそう告げた。

 

「それじゃあまたな」

 

「あ、待ってくださいミコトさん」

 

踵を返すミコトを葵は引き止める。

 

「なんだ葵?」

 

「ミコトさん・・・・・・自分に向けられた愛ももちろんそうですが、自分の抱いた愛にもちゃんと目を向けてくださいね」

 

「俺が抱いた・・・・・愛?それって・・・・」

 

青いの言っていることの意味がわからずに聞きかえそうとするミコトであったが、それは叶わなかった。ミコトの足元に開かれたスキマに飲み込まれてしまったからだ。

 

「おいおい・・・・・随分と強引だな。戻ったらミコトに怒られるぞ?」

 

ルカがスキマを開いた張本人、紫にジト目を向けばがら言う。

 

「大丈夫よ。ミコトのところに顔を出すつもりはないもの」

 

「・・・・どの世界でも紫は紫ということか」

 

「褒め言葉として受け取っておくわ鬼灯。それじゃあ私も行くわ。葵・・・・・・ミコトのこと本当にありがとうね」

 

葵に礼を告げて、紫もまたスキマで自身の幻想郷へと帰って行った。

 

「行っちゃったね・・・・・・葵、ミコトは大丈夫だと思う?」

 

想起は心配そうな面持ちで葵に尋ねた。

 

「・・・・大丈夫。ミコトさんならきっと・・・・私はそう信じてるから」

 

想起の問いかけに、葵は笑顔でそう答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「紫の奴・・・・本当に急だな」

 

「全くね」

 

博麗神社の境内に飛ばされ、紫に悪態をつくミコトは背後から聞き覚えのある者の声を聞いた。

 

ミコトが振り返るとそこには・・・・霊夢が居た。

 

「霊夢・・・・・」

 

「何日も留守にしてくれて・・・・・この埋め合わせはちゃんとしてくれるんでしょうね?」

 

「・・・・ああ。もちろんだよ霊夢。俺にできることならなんでもする」

 

「なんでも・・・・・ね。だったら」

 

霊夢はぎゅっとミコトの手を掴んだ。

 

「霊夢?」

 

「しばらくは・・・・・こうさせてもらうから」

 

そっけない態度で言う霊夢。だがどこか恥ずかしそうに頬を染めていた。

 

「・・・・ああ。わかった」

 

そんな霊夢を見て、ミコトは霊夢の手を握り返す。

 

すると・・・・ミコトは自身の胸が高鳴るのを感じた。

 

(・・・・あれ?なんだこの動悸・・・・どうして?)

 

ドキドキと心臓の鼓動は早くなり、体が芯から温まる感覚。

 

それはミコトに戸惑いと同時に・・・・妙な心地よさを感じさせた。

 

「どうしたのミコト?」

 

「い、いや。なんでもない。それよりも少し話しをしようか。向こうであったこと色々と霊夢にも話しておきたいし」

 

「わかったわ。それじゃあ神社の中に入りましょ」

 

霊夢が促すと、二人は神社の中へと入っていく。

 

その手はしっかりと繋がれていた。

 

 

 




あとがき座談会のコーナー!IN東方!!

今回は再び葵さんをゲストにお招きして進めていきます!

「よろしく願いします」

はいよろしくお願いします!

では座談会を進めておきますけど・・・・今回とうとうミコトさんの欠陥が明らかになりました。

「といっても・・・・・俺はそれを欠陥だとは思っていなかったがな」

「それ含めて欠陥とも言えるよね~。ちゃんとミコちゃんに言い聞かせてくれてありがとうね葵ちゃん」

「いえ、お礼を言われることでは・・・・・少しでもミコトさんの為になれたと言うなら嬉しいです」

「謙虚だね~葵ちゃんは。それにしても・・・・・自愛の心がないっていうのは本当に恐ろしいものだよ。なにせミコちゃんをあんなふうにさせちゃったんだから」

「・・・・・俺ってそんなにやばい状態だったのか?」

当然ですね。自愛の心というのは誰にでもある当たり前のもの。それがないというのは人間性の破綻を意味しています。

「ミコちゃんの自己犠牲が激しい理由の一端もそこから来てるんだよね~。自愛がないから自分をないがしろにすることを躊躇わない。その結果誰かが泣くことになっても・・・・ね」

「・・・・・そのせいで今まで悲しませてしまった人も居るんだな」

ええ。だからこそこの欠陥はなんとかしないといけないものなんですよ。自分をないがしろにすることはもちろん、他者と自分の愛に気がつけないなんて悲しすぎますからね。

「ミコトさん・・・・・重ねて言いますがちゃんと自分を愛してあげてくださいね?」

「ああ・・・・・善処する」

「それじゃあこの話はここまでにして・・・・・ちょっち気になることがあるんだよね~」

「冒頭のアレ・・・・だな」

「Exさん。あの人って・・・・・」

まあ皆さんの予想通りの方ですよ。

「あいつ・・・・・今地獄にいるのか」

ええ。そしていずれは・・・・

「いずれは・・・・なに?」

それ以上は今言うのは伏せましょう。あまり言い過ぎるのもあれですし。

では締めに入る前に・・・・・ルミナスさん。今回のコラボ承諾誠にありがとうございました。

本当は他にも出したいキャラはいたのですが・・・・

「雪華ちゃんとか?」

ええ・・・・・ですが出番を考えはしたんですがいかんせんタイミングが・・・・

「ルミナス・・・・・本当にすまなかった。それと葵、本当にお疲れ様」

「はい。またどこかでお会いしましょうね」

重ね重ねルミナスさん、本当にありがとうございました。

それではここで締めにしましょう。

「「「「次回もまたきてくれ(きてね~)(きてください)!!」」」」


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