一話でまとまりそうな戦いの場合は一話にします。
第1試合が終わって天使たちの復旧が終わる。
俺の戦いが迫っていた。
心は高鳴っている。
神を超えるものと戦えるなどそうない機会。
己の技術の粋をつぎ込めると思うと力が入る。
「勝って第6宇宙の弾みとなればいいがな」
そう言って相手が立つ武舞台へ向かっていく。
巨躯が佇んでいる。
氷点下に咲く雪の華を思わせる。
「強き人よ、お前を挫いて頂の道を拓こう」
そう言って気を全開にする。
それは天に昇り、また空気が凝固していく。
やがてそれは雪となって降り注ぐ。
「俺はそう簡単に倒せんぞ」
そう言って一本拳の構えをする。
相手は猛獣が狩りをするように四つん這いのような形で低い体勢を取る。
始めといった瞬間、トップスピードで突っ込んできた。
「なんという愚直さ……」
『時飛ばし』で回避をする。
そしてそのままカウンターを放つように動く。
だが驚愕の動きを見せる。
「それは読んでいた!!」
こちらのカウンターに合わせてカウンターを放つ。
まるで獣じみた嗅覚。
まさか、基本スペックの速度だけで『時飛ばし』の領域に来るつもりか?
「読んでいても……」
そのカウンターを合気の要領で利用する。
すると面白いように吹っ飛んで壁にぶつかる。
追いかけずに相手の出方を観察する。
「ミステリアスアーツをマスターしているとはな……恐れ入ったぜ」
第1宇宙の呼び方か?
とにかくこれがある以上、ある程度の相手の攻撃は無効化できる。
あのジレンという相手にも有効だっただろう。
「俺だってそれなりに勝利への渇望も持ち合わせているからな、有効な手は作っている」
そう言ってにやりと口角をあげる。
俺とて人間なのだ、冷たいだけではない。
勝利への熱を他より感じさせないだけ。
若い奴らが多いから年長者としておおっぴらにしなかったのだ。
じりじりと近寄って相手の急所を見定めていた。
「だが……克服してくるんだろう?」
そう言うとさっきよりも速い速度で接近してくる。
こちらが手を添えようとした瞬間、変化してきた。
足に体重がかかっている。
歯を食いしばって跳躍をする。
「速いな……」
反応するがそれを上回る速度で動いてくる。
着地と同時に再度跳躍。
その軌道はこちらへの突撃。
「ハアッ!!」
確かイルカとかいう奴らを模した名前の動き。
……思い出した、『ドルフィンキック』だ。
千年も生きていると知識だけが蓄積される。
そんな動きで俺の背中に頭突きをしようとしていた。
「甘い……」
それを避けるがさらに恐ろしい動きを披露する。
肘打ちを誰もいない場所へと放つ。
なんも変哲の無いものではある。
だが極められたもの。
それは空気を裂いて軌道修正すら平然と可能にする。
「ぐっ!!」
ガードをしていたが重い一撃を喰らう。
相手の動きが予測できない。
全てがリングだ。
空中であれほどの動き、舞空術も抜きで出来るとは。
「これが全宇宙最高峰と言われる第1宇宙最強戦士か……」
特別な力はそこになく。
正統派を極めた怪物。
極めたがゆえに法則が普通にふるまっても捻じ曲げられるという恐ろしいもの。
「面白い」
殺意を漲らせる。
おおよそ、どんな技を使っても死なないという確信。
それが大胆にも俺にそれを決意させる。
「お前のはく製でも作ってみるか……」
それは全ての殺人技の解放。
不慮の事故とは言い難いが、それくらいしないと勝てるとも思えん。
「受け止めろ」
そう言って指一本を突き出す。
狙うは目。
明かりを断つ。
「ふんっ!!」
掴もうとするがそれも予測済み。
より悲惨な結果になるように残りの指を広げて動きを変える。
指を相手の指の間に差し込み、鋏の形へ指を広げる。
そして切り裂いていく。
相手の掌は血が滴ってパックリと割れてしまった。
脇腹に指を捻じ込む。
貫く痛みにも表情を変えないのは素晴らしい。
だが手を緩めはしない。
「恥骨でも割るか……」
あるとあらゆる急所に効く技を放つ。
一撃で息絶えてきたが故に試す事すらできなかった。
それがこの時だけ叶う。
至福とも言うべき時間が流れている。
「『時飛ばし』」
0.5秒の中で相手の懐に入る。
そして躊躇わずに股間近くにある骨を狙って蹴りを繰り出す。
痛みに呻いて崩れ落ちる。
だがその眼には闘志が宿っている。
面白い、まだまだ技を使っていいのだな。
「があああ……」
相手が力を込めるとピキピキという音と裂けていた箇所が戻っていく。
脇腹の傷も塞がっていく。
まさか再生能力持ちだったとはな。
皮膚も僅かに厚くなっている。
骨も硬さを増しただろう。
「だが……」
骨が治ろうと、砕きやすい『点』がある以上は何度やっても同じ。
こちらの技の餌食になるだけだ。
次が息を止める技。
「はっ!!」
口から怪光線を出してくる。
腕と足の動き以外にも組み込んできたか。
それを避けてしまえば無防備に曝け出している。
その口に拳を捻じ込んでやる。
「ふっ!!」
深く捻じ込まれた拳は気道を圧迫。
そのまま、酸素の供給を行わず意識を手放させる結果になる。
しかし相手もそれを逃すわけもない。
「……!!」
気絶をする前に自分の喉に穴をあけて空気を確保する。
そして捕まえたというように腹部にアッパーが叩き込まれた。
舞い上がる事も出来ずに浮かされる。
「がっ……」
腕を引き抜いて二撃目を避ける。
その腕を掴んで『時飛ばし』。
瞬く間に体勢を崩して、その勢いでへし折る。
「ぐおっ……」
相手が片手を地面に着いた瞬間に頭部を蹴りあげる。
さらに背に肘打ち。
足のアキレス腱を固める。
相手を痛めつける動きだ。
「殺す技単体ではそこまで意味がないと分かったのでな」
痛めつけて抵抗するのが難しい状態になったら放つ。
後頭部やこめかみ。
腎臓などの内臓。
それらもまだできていない。
「まだ楽しめる」
そう言って一本拳を喉に入れる。
呼吸が苦しくなった瞬間、首に足を絡めて四の字を作る。
そしてのまま体重をかける。
「ぐぐぐっ!!」
力を入れていくと驚くべきことが起きる。
首が想像したものを超え、徐々に太くなっていく。
それに苦笑いを浮かべて技を解く。
「フッ!!」
降りて顎に頭突き。
ぐらりと揺れたところに捻じ込むように腎臓へと思い切り放つ。
めり込んで嫌な感触が拳に伝わる。
「ぐえぇえ……」
血反吐を吐く相手にさらに後頭部へ一撃。
相手がよろめいている隙にこちらは気弾の構えをする。
気の高まりを知ってもどうもできない。
「『アイオーンの慟哭』」
渦を巻いた気弾が相手を呑み込む。
其れの煙が晴れるよりも速く相手の懐へと入る。
隙を一つも見せぬように努める。
「砕けろ……」
前蹴りが腹部に突き刺さる。
肋骨が砕ける音がする。
それも胸骨もまとめて数本。
どう考えても大ダメージだ。
しかし相手は予測を凌駕してくる。
「捕まえたぁ!!」
痛みによる脂汗をかきながら言ってくる。
こちらの前蹴りで破壊されているにも関わらず掴んでくる。
そこまで本気か。
「ぬあああああ!!」
足を持たれてそのまま武舞台に叩きつけられる。
受け身を取らせぬ一撃に肺の空気が絞り出される。
そして上空に投げ飛ばされる。
「ふんっ!!」
肘打ちで肩の骨が折れる。
僅か一撃で戦況を変える男。
再生能力がないからこそ気をつけなければいけなかった。
少しばかりの高揚感と頑丈さに酔いしれてしまった。
「馬鹿な真似をしたものだ」
呼吸で痛みを逃がし腕の先だけでも使えることを確認する。
これならばやれる。
その確信をもって一気に接近。
「『時飛ばし』」
最速のステップで相手の姿が見える。
やはりこの世界へ侵入をするか。
しかしそれをしても……
「『カイロスの短針』」
カウンターでケガをしていた腕を突き出す。
虚を突かれた相手の顔面へと入る。
そこに追撃でこめかみへ痛烈なハイキックを入れる。
「お前を倒すまでは終わらんさ」
ダウンした相手の頭に踵落としをする。
それによって跳ね上がる。
首を掴んで上空に放り投げる。
その軌道に向かって自らの足を針としてドロップキックを相手へと放つ。
「『クロノスの長針』」
腹部に突き刺さり、相手が落ちていく。
着地を決めて相手を見る。
「どこを見ている?」
いつの間にか後ろにいた。
落ちて行ってその次に俺が落ちていく。
そしてこちらの着地に合わせて跳躍をして後ろに回ったのか。
「ぐはっ……」
もう片方の腕を防御ごと圧し折る拳。
肘が解放性の骨折になる。
受けられない拳というのは厄介だ。
「お前の負けだ」
そう言って蹴りを繰り出してくる。
回避をするがさらにその速度を超えてくる。
後ろにいると感じて即座に側転。
「どこに行く気だ?」
すでに先回りをしている。
頭を掴まれる。
武舞台に叩きつけられてガリガリと引きずられる。
「終わらせてやる」
足を壊される事は無くジャイアントスイングで上に投げられる。
そして跳躍で追い越すと片足を持って落下。
流星のごとく速度。
受け身を取ることもできない。
密着状態の『時飛ばし』はできる。
しかしそれ以上の速さで足が圧し折られるだろう。
「まずは一本!!」
バキリと嫌な音がこだまする。
これで両腕と片足が壊れた。
立ち上がるのもままならない。
「…と思っているだろう」
俺の年を考えろ。
この場面から動くための知識はある。
まさかそれを実践させられる機会に恵まれるとは思ってなかった。
「はあああっ……」
深呼吸で痛みを消して立ち上がる。
この最後の足に己の力を注ぐ。
片手には『時の牢獄』を携える。
「回避以外にこの技から逃れることはできない」
『時飛ばし』を使う。
0.5秒を連続使用。
パラレルワールドに身を置かず時間を貯める。
「くっ!!」
気が付いた時には懐に既にいる。
反応をしてももはや遅い。
掠っただけで準備は整う。
「くあああっ!!」
肩の関節を外す。
肘の関節も外す。
さらには人差し指を立てて捻りを入れる。
大股のストライドで距離まで詰めた。
全てこの一撃のため。
一ミリでも長く奴がかわせない様に。
「長っ……!?」
射程距離が想像以上に増えた姿に戸惑いを覚えたようだ。
かわしきれずに人差し指が刺さる。
これで準備は完全に整った。
一気に『時の牢獄』へ閉じ込める。
躊躇いも何もありはしない。
「ぐううう……」
力づくで動かそうとしてくる。
それほど時間をかけてもいられないという事か。
ならばなるべく早くこの一撃を叩き込むことだ。
「完全に閉じ込められてはいかなる手も通じない」
そう言って全力の一撃を放つ。
狙うは左胸。
人が逃れられない急所である心臓。
「『ヴェルダンディの涙』!!」
寸分たがわず狙った場所へ着弾する。
買い手していたことで深く捻じ込まれていた。
「……ぁ……がっ…」
相手は息も絶え絶えながら踏ん張ってこちらを睨み付けていた。
何故なのだ?
こちらとしては完璧の一撃。
なのに、なぜこいつは立っていてこちらを見ている?
「痛みが僅かに浅くしたようだな」
その言葉に歯軋りをする。
そう言って相手も脂汗と冷や汗でびっしょりと顔を濡らしていた。
気絶どころではなかった。
確実に殺す一撃を放っていたのだから。
「ぐはっ……」
左胸に拳がめり込む。
心臓に着弾した一撃は迷走神経反射を起こす。
目の前が急激に暗くなる。
足の感覚が無くなって地面が近づいてきていた。
「壊しきる前に気絶するなら仕方ない」
最後にそんな言葉を聞いて武舞台に倒れ込む。
腹部にめり込んでついた後が目に入る。
それを見て微笑む。
最強の相手にこれほどの痕跡を残したのだと。
あとはバーダックに任せるのだった。
ヒットの殺人技、もしくは重篤な後遺症を残す技の連打をイメージしました。
次回はバーダック戦の予定です。
リキールの宇宙同士の試合は飛ばして準決勝の予定です。
殆どダイジェストになるかと思います。