とは言っても今回限りのやり方です。
第2回戦。
全王様ルール適用による再シャッフル。
今回は紐が複雑に絡み合ったものになっている。
両端をもって引っ張るとほどけていき、その端を持っている者同士での戦い。
「運命のように引き寄せられたか……」
余りにも力強い。
そして端が僅かに燃えている。
それだけで十分だった。
「ジレン……」
ピオーネの相手で満身創痍ともいえる。
そんな中の戦いなど自殺行為に等しい。
「因縁がある意味深い野郎だ……」
バーダックさんがエルク。
バチバチと火花を散らしあう。
「破壊の化身が相手とはな…面白い」
ヒットがルタ。
嵐の前触れのような静けさを感じる。
そして第8宇宙同士の潰しあい。
良い見方をすれば確実に生き残れるというわけだ。
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武舞台の修繕。
それが終わると互いに向き合う。
お互いの戦意をむきだしに。
炎のように燃え盛る気が互いを包んでいる。
「始め!!」
その言葉と同時に『身勝手の極意:兆』の状態となって拳を突き出す。
それと同時で示し合わせたようにジレンも拳を突き出す。
どちらからともなく。
互いの顔に打ち付けあうと次は跳躍。
後ろ回し蹴り。
互いの足が交錯して着地。
高速タックルをこちらが放つ。
それを力づくで切った瞬間を見抜き、首を両手で持ち上げようとする。
しかしそれをバックステップで回避。
またも、互いが睨みあう展開となった。
「流石だな」
ジレンがそう言ってまたもや駆け出す。
速射砲のごとく蹴り。
それを後ろへ跳躍して威力をそのままカウンターの形で胸元へ叩きこむ。
ジレン自身の威力となれば話は別物。
たたらを踏む形で後退。
その隙を逃すまいと瞬間移動で後ろを取る。
それを読み切り裏拳を放ってきたのか、鼻先をかすめる。
「喰らいやがれ、『プライド・オブ・ラクタパクシャ』!!」
本来ならば終盤に放つような大技。
しかしこいつ相手には惜しまない。
こんな隙のある状態なんてそうそうないのだから。
鳥が啄むようにジレンを呑み込んでいく。
敗北という臓腑まで嚥下しろと力を込めていく。
「焦りすぎだな…」
抵抗の為に力を込めているジレン。
指摘は間違ってはいない。
しかし死闘を繰り広げた以上、自分の限界は近い。
ならばいつもより急いだ試合展開は当然だ。
「珠玉の技にも弱所があるようでは……」
腕を突っ込んでそこから引き裂くように。
ダメージこそあるものの、それでは倒せはしないと誇示をする。
「半分にも満たない威力だ」
完全に真っ二つにして着地をする。
太陽を思わせる熱気を発しながら怒っている。
「そんな早々に終わらせようなどつれない真似はやめろ」
じりじりと大気を焼くように接近してくる。
観客も息を呑んで見るジレンの全力。
「もっと戦おうじゃあないか」
頬を吊り上げて笑みの形を作る。
昨日とはまるで別人のような表情。
好敵手を見つけたが故の笑みなのだろう。
「いくぞ!!」
空気が爆ぜる。
さらに蹴りを放ってくる。
腕を交差して受け止めるが振り抜かれて強引に宙を舞わせられる。
「ぐっ!!」
さらに後ろに気配を感じる。
後ろに向かって気弾を放ち、地上に近づく。
しかし……
「甘いぞ!!」
首を掴まれ一気に降下。
こちらよりも先に読んでいた。
武舞台に叩きつけられて跳ねる。
それを追いかけてくるがこちらも黙ってはいない。
「フンッ!!」
拳を合気道の要領で受ける。
そしてその威力のまま場外の壁へとジレンは叩きつけられた。
己の一撃の重さがそのまま返っていく。
これは流石のジレンも効くだろう。
「むむっ……」
起き上がるジレンへ頭突き。
後ずさった所に延髄切り。
追撃の顎アッパー。
頭部中心の三連撃。
だが……
「どうした、ぬるいぞ!!」
カウンターの一撃で殴り飛ばされる。
やはり疲労の蓄積が顕著だ。
昨日ならばダメージになった攻撃が弱くなっている。
「シャッ!!」
着地をして瞬間移動。
死角に潜り込むのではない。
中間の距離を取る。
こちらからは回避できない。
しかし相手も回避は厳しい。
最大威力の拳をぶつけあう。
「面白い……!!」
ジレンがその挑発に乗る。
間合いに入った瞬間、空気がまたもや爆ぜる。
こちらが腹部に打ち込めば、顔面を打ち据える。
意識が飛びそうな一撃。
歯を食いしばり、膝の力を抜いて耐えきる。
「オラァ!!」
相手を突き上げていく。
ジレンの顎が跳ね上がると、こちらの首がもげる威力の一撃が飛んでくる。
我慢比べというにはあまりにもきつい打ちあいだ。
「ぐっ……!!」
そんな中で繰りだされた、擦るような拳。
それが瞼をわずかに切り裂く。
距離を取って血を拭おうとする。
その致命的な隙を逃すような男ではなかった。
「こちらとしても不運な怪我に付け入るのは不本意だが……」
あの技のセットアップに入る。
脇下に腕を差し込んで『ダブルアーム・スープレックス』の形を作る。
そこから渦を巻くように旋回。
そして膂力のままに上空へ向かってスープレックスの投げを放つ。
「ぬうう……」
体が風圧の為に動かせない。
そんな状態からジレンが背中合わせとなる。
腰を抱えて海老ぞりに。
そして抵抗できないように急降下。
風圧がブラックアウトに近い現象を引き起こす。
徐々に力が抜けていく。
そして武舞台へ無抵抗のまま……
「『世塵神灰』!!」
武舞台へと頭から叩きつけられた。
意識が徐々に遠のいていく。
まるで誰かが呼ぶ声がする。
よく聞く声が……
.
.
「やはり無理があったか……」
僕はため息をついていた。
あの女との死闘で全てを使い果たしたであろう。
そんなあいつがジレンを倒せる可能性など皆無。
それでも向かっていくのはサイヤ人の性だろうか?
顔を横に向けるかベジータが冷や汗をかいている。
ジレンの強さに対してではない。
まるでもう一波乱あるかのような……
「なんでそんな顔をしている?」
そう聞くと重々しくベジータが口を開いた。
恐れているかのように。
「ガタバルの頭部に受けた衝撃がどれほどか想像つきますか」
そう言われてもな……
ちゃちな星なら崩壊するようなレベルじゃないのか?
それを2回だ。
「実はカカロットの今は頭に強い衝撃を受けて産まれたものなんです」
赤子のころは手も付けられぬ乱暴者だった悟空。
それが崖から落ちた際に頭を打ったことで完全に180度変わってしまった。
つまりベジータが言いたいのは……
「サイヤ人そのものの本能に立ちもどってしまうという訳か……!?」
そうなるとぞっとする。
あいつが仮に180度変わってしまった場合……
思慮深さを捨てた悪魔。
むき出しの戦闘民族の残虐性。
そして何より胸糞の悪い傲慢さ。
「来るぞ……!!」
邪神さながらの邪悪な気。
ジレンが真赤な太陽ならばガタバルはどす黒い太陽。
全てを燃やし尽くすような存在。
「止める準備をしておけよ、ウィス……」
僕は足に力を込めて動向を見ていた。
息を吸い込む。
そして……
「アァアアアアアアアアアア~!!!!!」
星を震わせる叫び声。
ケダモノになったのかと錯覚した。
一気にジレンへ近寄って間合いが詰まる。
第2ラウンドが始まろうとしていた。
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.
「感謝しているぜ、ジレンよ……」
あの頭への衝撃で優しいあいつとは違う、凶暴な潜在意識であるオレが目覚めた。
とは言っても前日の一撃でとっかかりが生まれたおかげだ。
もう一度眠らされたら生半可なことでは出てこない。
オレはようやく重苦しい檻から出た爽快感を噛みしめながら話す。
戦いは凄惨でなくてはいけない。
尊厳を踏みにじらなければいけない。
華々しさはそこにいらない。
敵の苦痛が我が力。
敵の恐怖が我が力。
残るものは友情という名の種もまかれず、芽吹くことの無い不毛の大地。
敵を慮らない圧倒的な力こそが存在意義。
「強きものを喰らい、頂点へ立ってみせる!!」
そう言って駆けだす。
ジレンが攻撃を放つが体が勝手に反応する。
ああ……自分の体に委ねているこの快感。
願わくば眠らないで済めばいいのに。
今まで解き放たれなかった事からの解放。
「オレはオレの為に今戦うのだ……」
そう言うと体中からさらに力が溢れる。
それを見て驚愕から笑みへと相手も表情を変える。
まるでそれを待っていたかのように。
「ハアアッ!!」
気弾を放ってくるが指先で方向を変える。
全然こんなじゃあ足りないぞ。
この力を持ってから感じる全能感。
どんな相手にも勝てるという確信がある。
「楽しませてくれよ!!」
気弾とともに接近して肘打ち。
それを喰らって吹っ飛ぶジレン。
そのコースに先回りをしていく。
「ハアッ!!」
上空から蹴って武舞台へ叩きつける。
しかし相手もさるもの。
その勢いを利用して跳躍。
「シッ!!」
裏拳を放ってくるがそれを瞬間移動で回避。
そして懐に現れる。
一気にガードをぶち破るようにアッパーを食い込ませた。
「うぐっ……」
ジレンが呻く。
その隙に腰を抱え込む。
そして持ち上げていき……
「でりゃあ!!」
単純に武舞台へ投げ捨てる。
それだけでも威力はすさまじい。
相手の足を掴んでぐるぐると旋回する。
「ヒャアッ!!」
上空へと舞い上がらせる。
それを追いかけるように跳躍を行う。
右のニードロップを首筋にあてがう。
さらに上乗せをするように左足を乗せる。
それでは足りないというように肘を左膝に当てて威力を一点集中。
「いくぜ、『敗断勝招』!!」
名前はそのままの意味を持つ。
この一撃で敵を打つ。
故に己の敗北の道は断たれ、勝利をを招き入れる。
武舞台の全てが砕け散る。
ジレンの意識は残っているか?
「凄まじいほどに容赦がないな…」
僅かに微笑んで起き上がる。
だがこちらの眼を見ると怒りを噴出させる。
まるで背後にある何かを見るように。
こちらが口角を上げて相手を見るとさらにそのプレッシャーが跳ね上がった。
「止めねばならん……」
そう言うと顔を掴み叩きつけてきた。
この野郎……
「易々と触るんじゃねえよ……」
隙をついたつもりだろうが甘いんだよ。
全くイライラする。
「お前の潜在的な邪悪さが徐々に出てきているからこそ、お前をそちらに行かせるわけにはいかない……」
そう言ってこちらを空中へ投げる。
この程度で……
「どうにかできるとでも思ってんのかい!!」
くるりと反転して睨む。
ジレンは真正面に既に立って拳を放つ構えをしていた。
「思っていないさ」
そう言うと連続して空気の避ける音がする。
回避をすれば皮膚を切り裂く。
喰らえば昏倒か。
だが、この攻撃すら……
「百八の拳を瞬時に叩き込んだが……」
効いてはいない。
黒い気が俺の周りを取り囲んでいる。
「お前如きがオレに触れることはもはやできんのだ」
そう言ってじりじりと近づいていく。
ああ、黒い力が漲るたびに奴らが矮小に見えてくる。
塵芥風情が俺に触れようとする。
痴れ者よ。
「勝てるはずもないのにあがくな……」
最強と言えど優しさの無いオレにかかればこの程度だ。
眼前に掌をかざして嘲り笑うように呟いた。
頭への衝撃で人格反転という原作設定を掘り起こしました。
最初はましでしたが時間経過とともに徐々にあの二人に近づいていくという。
『利己的』故に身勝手の極意を任意発動可能という凄さはあります。
指摘などありましたらお願いします。