とにかく第1話をお楽しみください!
「おはよぉ~」
あれから二日、ミッドウェーは二日ぶりの太陽を浴びていた
「おはよう隊長」
「お~っす」
アンタレスが格納庫の一角にある『休憩ゾーン』にやって来た。
休憩ゾーンと言っても、ボロボロでオイルの臭いが染み込んだソファーが一つに公園に置いてあるようなベンチが一つ、サンベッドが一つ置かれドラム缶のテーブルがひとつ置かれているだけの六畳ほどのスペースだ。ここは"昼間"はいつもアンタレス達がくつろいでいる
「日の光浴びるの二日ぶりかぁ~」
アンタレスは丁度天窓から休憩ゾーンに射し込む光をサンベッドに寝転がりながら浴びる
「絶好の飛行日和だな」
アンタレス3のキースが空を見ながら言った
「アキラは?」
アンタレスが四番機パイロットのアキラが居ないことに気づく
「ハザワや空自のやつらと朝飯食ってる」
と、アレクセイが答える
「そうか」
「同じ民族同士話が合うんだろ」
アキラはMS社ミッドウェー航空隊の中で二人しかいない日本人の内の一人である。ちなみにもう一人は羽沢伍長だ
「お前はアメリカさんとはつるまないのか?」
アンタレスがアメリカ人のキースに問いかける
「正規の軍人は固くて嫌いなんだよ」
キースはやめてくれと言わんばかりの顔で答える
「ふ~ん」
その答えを聞いてアレクセイは格納庫右奥に置いてあるアメリカ空軍のF-15Cの方を見た、そこには....
『おい!離せ!洒落になってねぇぞ!』
『HAHAHAHAっ!』
『写真とってカミさんに送ってやるよw!』
『オイ冗談だろ!?よせよ!おい!』
パイロット達がふざけて一人をパイロンに縛り付けて写真を撮っている
「あれが固い....?」
「まぁ確かに、緩いところもあるけど....」
「そう言えば、まだ通信機器の故障が直ってないんだろ?」
アンタレスが思い出した様にアレクセイに問いかける
「あぁ、短距離無線なら使用は可能らしいんだが....ハワイや本部との通信が出来ないらしい」
とアレクセイは言う
「原因がなにかすら解らないんだと」
「ふ~ん」
そう言うとアンタレスは目をつぶり深呼吸した
「.................................平和だなぁ~」
風の音だけがミッドウェーに響いていた。ところが....
《プルルルルルっ!プルルルルルっ!》
『っ!?』
休憩ゾーン脇に設置された緊急用電話が鳴り響く、三人が一斉に立ち上がり、アンタレスが受話器を手に取る
「俺だ....!」
キースとアレクセイの目が強ばる
「スクランブル!」
《ビイィィィィ!ビイィィィィ!ビイィィィィ!》
アンタレスの言葉とほぼ同時に基地内に警報が鳴り響き格納庫の扉が開く。整備員達が一斉にアンタレス隊の機体へ駆け寄り各所のチェックを行った、その間にアンタレスはコックピットに滑り込み後方の安全を確認した後、エンジンをスタートさせた。
巨大な機体が唸り声をあげ、格納庫内に轟音が響き渡る
すると整備員の一人がタラップを上がりコックピットで発進準備をするアンタレスに話しかけた
「アンタレス!一応指摘された箇所のオイル交換や調整は行いましたが微調整がまだです!若干の違和感が残ってると思いますからそのつもりで!」
整備員はそう言うとチェックリストをアンタレスに手渡した、アンタレスはパラパラと数枚のリストに目を通した
「Всё ништяк!」
アンタレスはヘルメットのバイザーを下ろしHMDを起動させキャノピーを閉める
「グリーンライト確認」
アンタレスは兵装類や各種機器のチェックを済まし、左右のラダー、フラップ、スラットを確認した。機体の両脇に立つ整備班が異常なしのサインを出すのを確認しアンタレスはギアブレーキを解く。機体はゆっくりと格納庫の外へと動き出した
直後にアキラが慌てた様子で格納庫に入ってきた
「急げ急げ!置いてっちゃうぞ!」
キースがアキラに急ぐよう催促する
誘導スタッフが乗ったピックアップトラックがタキシングするアンタレス隊の前に出た。荷台に乗っている誘導スタッフが誘導灯を振り、アンタレス隊を誘導する。アンタレス隊は1、2、3、遅れて4の順に格納庫前の駐機スペースを突っ切り誘導路に進入した
《アンタレス、こちらミッドウェーコントロール。感度はどうか?》
ミッドウェー基地の管制官から無線が入る
「クリアだコントロール」
《二番誘導路より滑走路へ進入せよ、進入後は貴機のタイミングでの離陸を許可する》
「了解、気象状況は?」
《南南西より秒速5mの風。離陸に支障は無いと判断する》
「アンタレス了解、アンタレス4の到着を待って離陸する」
直後に遅れて4が滑走路へ進入してきた
「遅ぇぞ」
《すまん....》
全機が離陸態勢を整えた
「アンタレス隊テイクオフ!行くぞ」
四機のSu-35、合わせて八基のリューリカ=サトゥールン 117S ターボファンエンジンが轟音と共に青紫色の排気炎を噴射し一気に機体を大空へと誘う
《こちらコントロールセンターのハートリーです。アンタレス聞こえますか?》
アンタレス1担当オペレーターのグレアムがオペレートを開始する
「バッチリだぜグレン、状況を説明してくれ」
《スピット島の対空レーダーが機影を捉えたました、距離200km地点を飛行しています》
「距離200?随分近くだな、なんで探知できなかったんだ?」
スピット島の対空レーダーは地上型イージスと呼ばれる物である。本来は弾道弾探知が目的だが技術を応用し通常の対空探知能力が付与されたものだ。
その探知範囲は半径約500km、国際宇宙ステーションすら探知可能だ
《アンタレス、バーフォードだ》
無線にバーフォードが割って入る
「おっちゃん?」
《レーダーの状態が不安定で、探知するのがやっとの状態だ》
《大気中にレーダー波に干渉する物が確認されてるが詳しいことは不明、そのため目標の進行方向や高度はハッキリとしていない。各種情報は追って伝える》
「Понятно...」
《それと....》
バーフォードの声が深刻そうなトーンに変わる
《300m級のデカブツだ》
「300m?」
アンタレスはあまり驚きはしなかった、以前にも巨大航空機とは戦った経験が有るからだ。しかし、厄介な敵には変わりなかった
《辛うじて捉えたレーダー反射波を分析した結果目標の大きさは約300m以上だ》
《オルゴイか?》
300m級の航空機と聞いて先ず考えられるのがヴァラヒアが所有していた航空要塞オルゴイだ。機動性に特化した設計でありスピリダスより小柄なものの、それでも他の航空機を圧倒した巨大さを誇り空母より大きい。巨大な図体のわりに機動性は高くアンタレス隊も苦戦した相手だった
《まだ解らない、それを確認するのが君達の任務だ》
「もし"敵性"だった場合は?」
アンタレスはあえてオルゴイとは言わなかった、フラグを立てたくはないのだろう
《....君達に任せる》
「了解」
「全機、目標からの探知を避けるため低空で接近する。フォーメーションC」
アンタレス隊は海面ギリギリまで高度を下げた、機体間隔を1m前後まで縮めダイヤ型の密集体型をとる。アンタレスの通過した海面上には機体の通過した衝撃や排気炎の風圧により巻き上げられた水しぶきが水の壁を成形し、それに反射した太陽光が虹を造り出す
アンタレスのバイザーには『1034km/h』と速度表示が投影されている
時速1034km/h、音速に迫るその速さは200km離れた地点にいる"目標"まで数分で到達できるスピードだ
《会敵予想ポイントまで1分》
「全機警戒しろ!」
アンタレスはマスターアームをオンにし、HMDの表示を航行モードから戦闘モードに切り替える、バイザーの中心に機銃レティクルが表示され機体傾斜率表示や横転率表示も連動する形で投影される。
《アンタレス、新たな情報です。大型目標の周囲に小型の反射物を捉えました、ステルス並の反射面積です。目標の周りを動き回っついます》
「俺達のレーダーには何も映ってないぞ」
レーダー画面に目をやるが味方機表示以外は何も映し出されていない、すると
《おい》
「ん?」
《上を見てみろ》
アキラが重い口調で言いながら空を見上げた、そこには
「っ!?」
ハニカム柄の巨大な航空機....いや、構造体と言うべきなのか?とにかく巨大なソレは空中に浮かんでいた。
所々のハニカム型の模様は不気味に赤く発光し人工物とはとても思えない
形は空気力学を無視した形状で、飛行できるのが不思議なほどだった
「う、映ってないんじゃない....デカ過ぎてレーダーの解析範囲を越えてたんだ....」
バーフォードの言った300m級は大きく外れていた、大きさはざっと見たはだけでも500m以上は有る
キィイィィィイイィィ!
謎の物体からまるで鳴き声のような音が発せられ、辺り一帯に響き渡る
《何だよアレ....》
《まるで生き物だぜ....》
直後、数ヵ所の赤く発光した箇所がより一層光度を増した。
その瞬間アンタレスは身の危険を感じとった
「全機避けろ!」
アンタレス、アレクセイ、キース、アキラ四人はそれぞれ別の方向に操縦桿を倒した
直後に発光した箇所から濃いピンク色の帯が放射され一点に集中、集中した帯は力が増したかのように太くなりアンタレス隊めがけて降り注いだ。しかし、アンタレスのとっさの判断で接触は免れた。あとコンマ1秒でも遅れていたら直撃は免れなかっただろう
《危ねぇ!?》
《レーザーか....!?》
「全機交戦に備え、上昇しろ!」
アンタレス隊は高度をとり"目標"の上へと出ようとする、アンタレスと謎の敵との戦いが今始まったのだ
次回予告
目の前に現れたのは巨大な謎の敵、そして次に現れるのは.....
次回『我が名は天駆ける蠍アンタレス』
第2話
__魔女__
お楽しみに!