我が名は天駆ける蠍アンタレス!   作:伊 号潜

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失踪したと思った?残念でした、生きてますぅ〜

え〜〜長い間うpできずに大変申し訳ありませんでした。実は訳あって10月の後半から三週間ほど入院していまして、PCいじりたくても中々いじれませんでした。
え?残りの2ヶ月は何していたかって?……すいません、ために溜め込んだプラモやらを消費したりしていました…
本当に申し訳ないですハイ…

と、とにかく…突貫工事で仕上げた第13話をどうぞ!



第13話_ドッグファイト!華麗なる空中戦(激突編)_

《カノープスより演習参加予定の全航空機へ。これより訓練プログラムを発動し、コード0.7の臨時編成を行う》

 

カノープスと合流すると、無線からバーフォードの声が流れてきた、アンタレスはカノープスの機体側面にある窓を見ると、そこにはカノープスに便乗していた他のウィッチ達が自分らを覗き込んでいるのが見えた。

 

《今回の模擬空戦の目的は三つ、一つはウィッチ達の対高速機戦闘の戦術訓練。二つ目はパイロット達の対小型・高機動機戦闘の戦術訓練、三つ目は互いが訓練を通し、交流を深めることだ。また、今回の戦闘にはオペレーターによる支援は行わないものとする》

 

「綺麗事並べてるけど、こっちはただ単に売られた喧嘩買っただけだっつーの」

 

と、バーフォードの説明を聞いていたアンタレスが呟いた

 

《聞こえてるぞアンタレス》

 

「おー、クワバラクワバラッ」

 

その後、ある程度の説明を受けたアンタレスらとウィッチの編隊はそれぞれ二手に分かれ、距離を取った。

 

ここで、今回の模擬空戦のルールを簡単に説明しておこう。

チーム分けはアンタレス+サーニャ、アレクセイ、菅野、田中の四機対、バルクホルン、シャーリー、ハルトマン、宮藤の四機。

 

ルールは指定されたエリア内での殲滅戦で時間は無制限。ただし燃料限界を超えたり、一機でも指定エリアから離脱した場合はそのチームの負けとなる。また、速度や高度の制限は無い。

 

ウィッチチームは手持ちのペイント弾を、相手の機体に一発でも命中させれば撃墜判定を取れる。

戦闘機チームは、ウィッチの背後に3秒間(GUNの照準を合わせるにかかる最短時間)張り付くか、または短距離ミサイルをロックオンしその状態を3秒間維持する事が出来れば撃墜判定を取れるというものだ。なお、この模擬空戦でのオフボアサイト機能の使用は認められていない。

 

以上である

 

 

双方が指定されたエリア角の端まで来た、双方の距離は約50km。雲があるとは言えほとんど隠れ場所の無いこのエリアでの戦闘はアンタレスらの乗る高速機にとっては戦いずらいだろう。しかし、戦いのゴングは鳴り響いた

 

《エンゲージ!》

 

先に反応したのは空自の二人だった。二人の乗るF-2Aは海面に向かって急降下しアンタレスらの視界から姿を消した。一方アンタレス隊の二機はそのまま水平飛行を続けた

 

「済まないな」

 

「え?」

 

開始直後、アンタレスはサーニャに謝ってきた

 

「本来ならこんな茶番にお前を付き合わすべきでは無いんだが、何せ人手も戦闘機も不足してんだ。本当に悪いと思ってる」

 

「だ…大丈夫です。それに、ユーリさんの飛行機を勝手に持ち出してしまった私たちにも責任がありますから」

 

彼女自身が持ち出した訳では無い。謝る立場ではないし彼女に責任がある訳でもない。しかし、いくらウィッチと言っても彼女はアンタレスと同じ航空兵、自分の乗機が勝手に持ち出されると言うことは搭乗者にとってはとても辛いことだと、彼女自身もわかっていた

 

「お前…本当良い子だなぁ〜…。よし!帰ったらPXでなんでも好きなもん買ってやる!」

 

「え、でも…」

 

「その代わり、この戦い勝つぞ…!」

 

「はい!」

 

アンタレスの掛け声に対し、元気のいい返事が後席から聞こえてきた

 

「レーダーで周囲を索敵してくれ」

 

サーニャはぎこちない手つきでレーダーを操作し、同時に頭上に半透明の魔導針を展開、そっとレーダー画面に手を添えて目をつむった。

 

「そうだった、こいつ魔女だったんだ」

 

秒間の沈黙、聞こえるのは唸るエンジン音とキャノピーガラスを挟んだ向こう側を流れる風切り音、サーニャは意識を集中し真剣な表情でソレが映るのを待ち続けた。するとコックピットのモニター類がうっすらと光を放ち始めた

 

「やっぱりだ、サーニャの魔法とコイツ(F-14)が共鳴してやがる…別の世界の飛行機だってのにサーニャはコイツ丸々一つを自分専用のレーダーにしやがった」

 

アンタレスは酸素マスクの中で軽く息を呑み、キャノピーに備え付けられたミラーに映るサーニャを見た。並走するアンタレス2もその様子を固唾を飲んで見ていた。そして…

 

「ッ!?…左に旋回!」

 

サーニャの言葉にアンタレスとアンタレス2はすぐさま反応し、左旋回を行なった。すると一瞬だが先ほどまでのアンタレスらの飛行軌道上に無数の銃弾が通過するのが見えた

 

「太陽か?」

 

アンタレスはヘルメットのバイザーを下ろし太陽の方向に目を向ける。一見黒点の様に見えるその二つの黒い影は、真っ直ぐアンタレスら目掛けて接近していた。パイロットは視力が良い、アンタレスはその正体がすぐに分かった

 

「後方にバルクホルン大尉とハルトマン中尉です!」

 

アンタレスは咄嗟に横にいるアンタレス2に手信号を送った

 

「『別行動』」

 

本来ならペアで行動した方が戦術的に有利に立てるのだが、自機が追われている形の場合

 

自機←敵機←僚機←敵機

 

と言う形になって埒が明かなくなってしまうのだ。その様な場合の打開策もあるにはあるのだが、アンタレスはあえて別行動を取らせた。それを理解したアンタレス2も手信号を返し、左上方へ離脱した。するとハルトマン機もアンタレス2を追って離脱していった。

 

「『幸運を』か…」

 

「何か言いましたか?」

 

「いいや、何でもない。上昇するぞ!」

 

F-14のエンジンが唸りを上げ、燃焼室内の温度計がぐんぐん上がっていった。バックファイアは赤色から青紫色に変わり、主翼は後退角を増していく。野良猫はその体を矢尻の様な形に変え、鼻先を天空へと向けた

 

「馬鹿め!撃ち落としてくれと言っているようなものだ!」

 

アンタレスを追尾するバルクホルンは、上昇しようとする彼の機体を見てニヤリと笑った。すかさず彼女は、携行するMG42機関銃の銃口をアンタレス機の通過するであろう未来位置へ向ける、しかし

 

「なにっ!?」

 

さっきまで目の前に居たF-14が遥か遠くの高空に一瞬で登って行ったのだ。

彼女はこの時、大きなミスを犯した。F-14ほどの大型機が垂直上昇すればその重さゆえに速度が下がると考えたのだ。だが仮にもF-14は時代的に60年後の飛行機、ましては戦闘機用の高出力ターボファンエンジンを搭載したジェット機だ。いくら重かろうと小型の魔導エンジン搭載のストライカーユニットに比べて上昇力は雲泥の差。

アンタレスは、あっと言う間にバルクホルン機の構えるMG42の射程外へ離脱して行った

 

上昇を開始して数分ほどが立つとF-14は既に高度7000メートルの高高度に達した。一方バルクホルンは未だに高度5000メートルでアンタレスを追跡している状態だった

 

「思わず振り切っちまったけど…このまま蹴りつけても面白く無いしなぁ、少し遊ぶか」

 

本来ならこのまま反転しミサイルでロックオンすれば簡単に撃墜判定を得られる。だがそれでは面白くもないし、何より少し可哀想だと思ったアンタレスは、機首をバルクホルンの方へ向け緩降下を開始した

 

「どうした、さっきの威勢は口だけか?」

 

バルクホルンのいる高度まで降りて来たアンタレスは、無線でバルクホルンを煽った

 

「おちょくってるのか!」

 

「そうだと思うなら、二、三発くらい当ててみろ、怖いのか?」

 

「貴様ぁ!ぶっ◯◯てやるっ!」

 

その煽りにバルクホルンはまんまと乗ってしまった様だ

 

「(おい…一応未成年である乙女が『ぶっ◯◯てやるっ!』はねぇだろ〜)」

 

アンタレスは心の中で呟いた

 

 

MS社AWACS E-767機内

 

戦闘に参加していないウィッチ達は、皆E-767に搭乗し、その戦闘をレーダーや戦闘機チームのデータリンクによって送られてくるカメラ映像を通して見守っていた

 

「アンタレス1、左旋回しています。バルクホルン大尉が続きます」

 

「アンタレス2、ハルトマン機の後ろに出ました」

 

グレアムとアリーナがアンタレス1、2の状況を逐一報告して、バーフォードや便乗者達に伝えている

 

「今のところ互角と言ったところかしら」

 

「高速の戦闘機、高機動のストライカーユニット、なかなか面白い戦いだ」

 

ミーナと坂本がレーダー画面を見ながら話をしていた。他のウィッチ達も、見たことのない機器類に興味津々な様子だった

 

「ソード1、2はどこにいる?」

 

バーフォードが、先程アンタレスらとは別方向へと飛んで言ったソード隊の居場所を聞いた

 

「それが、今探しているのですが…」

 

羽沢伍長がレーダーをボール型コントローラーでスクロールし、ソード隊の二機を探した。するとアンタレス隊から北方数kmの地点に二つのIFF反応を捉えた

 

「あっ、居ました。行動15mをヨー旋回して居ます」

 

「宮藤機とイェーガー機に接近するコースです」

 

レーダー画面には宮藤とシャーリーのシンボルが表示されていた。両機は高度4000m付近を飛行しており、それに空自の二機が背後から接近する形を取っていた。レーダー画面の動きを見る限り、宮藤とシャーリーはそれに気づいていないようだ

 

「随分低空を飛行して居ますのね」

 

ソード隊の乗機であるF-2は戦闘機という分類だが、当初はF-1と同じく対艦攻撃を主任務とした支援戦闘機だ。元であるF-16ファイティングファルコンよりも翼面積が広く、低空での操縦性は極めて良好。また余談ではあるが、その機体の迷彩も特殊で、濃さの異なる二種類の青い塗料を使った洋上迷彩が特徴だ。この迷彩により、海上での低空飛行時には優れたカムフラージュ効果が得られる。

ソード隊の二機は恐らく海面にカムフラージュしてイェーガー機と宮藤機に接近しようてしているのだろう

 

「ソード1、2のコックピットカメラに切り替えます」

 

羽沢伍長がモニターのタッチパネルを操作し、ソード1、2のコックピットを写すカメラに画面を切り替える。すると画面に酸素マスク姿の菅野一尉と田中二尉の姿が映し出された。

 

 

アンタレス隊より北方、5km地点

 

「田中、見えたか?」

 

「いや、雲が多い。近距離に注意」

 

「あいよ」

 

ソード隊…剣部隊の隊長である"菅野 直"一尉は、キョロキョロと辺りを見回して敵機を探した。

標的はもちろんシャーリーと宮藤だ

 

「タリホー、2時上方機影二」

 

田中二尉が目標を確認し、方向を伝える。どうやら向こうはこっちに気づいていない。高度15m、洋上迷彩の効果は抜群な様だ

 

「高度制限解除、武器使用自由、突貫!」

 

菅野の合図と共に、両機は緩い右旋回をしながら目標へと向かった

 

 

一方でシャーリーと宮藤はと言うと

 

「バルクホルンさんとハルトマンさんが交戦しているようです」

 

「始まったなぁ〜」

 

まるで公園で散歩でもしているかの様にのんびりとした飛行をするシャーリーに対し宮藤が呆れている様子であった。自分たちが今まさに狙われている獲物であることも知らずに

 

「後の二機は何処でしょうか?」

 

「わからん…バルクたちのエンジン音がここまで届いてるよ」

 

辺りに響き渡る唸る轟音、MS社から支給されたヘッドセットをしていてもその音は耳の奥にまで伝わってくる。すると、シャーリーのうさ耳がピコンッと立ち、何かに気づく

 

「なんか…エンジン音がどんどん近づいてないか?」

 

「確かに…」

 

流石に何かを感じたシャーリーも、空かさず手にしていたM1918BARの安全装置を解除し、初段を薬室内に装填した

 

毎秒ごとに近づいてくるエンジン音、そしてその方向も徐々に分かってきた

 

「…後ろ?」

 

シャーリーは息を呑みながら後ろを振り返る、そこには

 

「うそぉ!?」

 

白い鼻先に青いボディ、赤いシンプルな国籍マークのソレはまるで飢えた狼の様に2人に襲いかかろうとしていた。ソード隊のF-2戦闘機だ

 

「貰ったぁ…!」

 

その機体の搭乗者の殺気立ったオーラが2人を襲う。ヘルメットを被りバイザーを下ろしているが、ハッキリとその人物の目が2人には見えた

 

「掴まれ宮藤!」

 

「え?」

 

シャーリーは宮藤の手を握ると、ストライカーの出力を最大まで上げ急激に加速した。加速時の凄まじい風圧が宮藤を襲う

 

「うわぁあああーー!」

 

「これならある程度振り切れただ…ろぉおお!?」

 

シャーリーが後ろを確認すると、撒いたと思っていたF-2戦闘機二機がさらに接近して追ってきていた。このままでは撃墜判定を喰らうのは時間の問題だった

 

「一緒にいたらいい的です、二手に別れましょう!」

 

「ナイスアイデア!」

 

宮藤の提案を聞き、シャーリーは彼女の腕を両手で掴んだ

 

「え?」

 

いきなり右手を掴まれた宮藤は、キョトンとした顔をする。そして

 

「必殺!宮藤砲ぉおおお!」

 

「うわぁあーーーーーーーーー!」

 

投げられた

 

「シャーリーさんのバカァアー!」

 

雲の中に消えて行った宮藤のジェットエンジンにも引けを取らない声が辺りに響き渡った

 

「田中、今のぶん投げられた白いのを追え、俺は茶色をやる!」

 

「了っ!」

 

ソード2は直ちに、宮藤が消えた雲の中へと飛んで行った。

菅野もちょこまかと回避行動をとるシャーリーを追尾する

 

「あたしのマスタングについて来るなんて中々やるな!」

 

「マスタング?」

 

「P-51Dマスタング!アタシがチューニングした最高のストライカーユニットさ!」

 

「今マスタングって言ったか?」

 

「え?」

 

「俺の爺さんな、マスタングと戦ったことがあるんだ。まさかこんな所で好敵機と会えるとは、血は争えねぇな…」

 

シャーリーは、よくわからないが嫌な予感を感じ

 

「あれ?何か変なスイッチ押しちゃった?」

 

「見敵必墜じゃぁああ我ぇええーーー!」

 

その数秒後、アンタレスらから見て北方の空域からシャーリーの叫び声が響き渡った

 

 

E-767機内

 

「ソード1、イェーガー機を撃墜」

 

「あぁ…確か菅野一尉のお爺さんて、日本海軍最後の撃墜王"菅野 直"大尉だったなぁ」

 

「イェーガー大尉も気の毒に…」

 

「凄いわ、レーダーもだけど、こんなに鮮明な映像がリアルタイムで観れるなんて、しかも色付き」

 

ミーナを含むその場にいるウィッチ全てが、シャーリーがやられた事はそっちのけでライブ映像を映し出すモニター類に釘付けだった

 

「偵察機に取り付ければ、目標の状況がリアルタイムで観られるだろうな。例え未帰還となっても

 

「うちの島には、偵察機が2機あるけど、全部無人偵察機だよ。もしも未帰還になっても人的損耗はゼロさ」

 

坂本の呟きにアリーナが言葉を返す。ミッドウェーにはマーティネズ社と日米が共同で運用する無人偵察機グローバルホークが二機配備されていた。元々はグアムや日本の横田基地に配備されていたものだったが、システムアップデートや各所の改良が進んだ派生型機配備によって余った中古機をミッドウェー基地に配備したものだった。

 

「貴女達の国でも無人ロケット兵器とか作ってるでしょう?、それと同じよ。たしかV1とかV2だったかしら?」

 

サラがミーナに問いかける

 

「それは最高軍事機密のはず…そうだったわね。あなた達にはそんなの関係ないわね」

 

「今の私たちにとって、貴女達の軍事機密なんて、言っちゃ悪いけど紙くず同様よ。博物館や資料館に展示されても素通りされるレベルね」

 

と、ハザワが言う

 

「なら、貴様達にとっての機密は、我々には想像できない様な事なんだろうな」

 

「まぁ、宇宙人とかな…」

 

坂本の発言を聞きアリーナが小さく呟いた。すると

 

「アンタレス1、減速しました」

 

各機の飛行経路を二次元的に表示するモニターを見ていたグレアムがアンタレス1の減速を伝えた。モニターを見ると、『MS.Antares 01』と表示された二等辺三角形のシンボルの左下側にある速度表示がぐんぐんと下がっていた

 

「こんな所で減速するなんて、彼は自殺志願者ですの?」

 

ペリーヌがモニターを見ながら言う

 

「アンタレス機の後方カメラに切り替えろ」

 

バーフォードがグレアムに指示を出す、グレアムはレーダー画面横にある多機能表示ディスプレイを各機の情報表示モードに切り替えるいくつかのボタンを押しアンタレス1の機体に備えられたカメラの一覧が現た、機種前方を映すものやコックピットを映すもの等。グレアムはその中のCAM.7を選択した

 

「ピッタリついて来てるな、距離は50mちょっとか」

 

「よくついてこれますねえ〜、ウェイク・タービュランスもろに受けてるハズなのに」

 

「アンタレスも流石だけど、それについて行けるバルちゃんもかなり凄いわね」

 

オペレーター達が感心していると、アリーナが何かに気づいた

 

「ちょっと待った」

 

アリーナが画面をタップし、バルクホルンの顔をズームにして映し出す。すると、明らかに腹わた煮え繰り返った表情のバルクホルンがアンタレスの機体を追いかけていた

 

「「鬼だ」」

 

それを見たエイラとアリーナが揃って言った

 

 

「なんなんだ、減速して当てやすいはずなのに!

 

減速したアンタレスに対して行ったバルクホルンの射撃は、見事に全て外れていた。アンタレスは操縦桿やヨーペダル、スロットルを巧みに操作し不規則な機動を取り続けバルクホルンに照準させる隙を与えなかった。

宙返りに左ロール右ロール、急降下に急上昇、急旋回と、それらの機動をランダムに取り一貫性がない。そんなアンタレス機を追っていたバルクホルンの体力は確実に削られ冷静な判断を奪われていった

 

「エイラを連れてくれば良かった」

 

こんな時、エイラの未来予知さえあれば簡単に当てられるだろう。バルクホルンは今までの彼女の居たありがたさを実感しつつも銃を撃ち続けた。だがやはり当たらない

 

「逃げてないで戦え!

 

イライラが沸点に達しようとして居たバルクホルンはアンタレスに怒鳴りつける

 

「んじゃ本気出しますか!

 

それを聞いたアンタレスは操縦桿を引き、スロットルをやや押し込み、エンジンの出力をゆっくりと引き上げ、再び垂直上昇態勢をとった。スロットルをやや押し込むと言っても、重いF-14の機体を重力とは真逆の方向へ向かわせるには相当なエンジン出力が必要だ、その凄まじいエンジン音は、例え防音ヘルメットをしていても2人の鼓膜を勢いよく殴りつけてくる。慣れているアンタレスならともかく、そうではないサーニャにとってはただの騒音、苦痛でしかない

 

ともあれ、アンタレスは機体を上昇させた。バルクホルンも先程のように引き離されまいとストライカーユニットに大量の魔法力を送り込み必至に後を追う。しかし、彼女はこの時アンタレスがわざと彼女が引き離されないよう速度を調整していたことに気付いていなかった

 

「サーニャ、少し股がキュンとなるぞー」

 

「え?

 

突如バルクホルンの目の前で、F-14が垂直状態でホバリングを行なったのだ

 

「止まっただと!?

 

と言っても、実際にホバリングなど行っている訳もなく、ただバルクホルンの速度が早すぎるためにアンタレス機が止まっているように見えただけの話なのだが、驚いているのもつかの間バルクホルンはアンタレス機の背面を通り越して、前に出てしまった

 

 

E-767機内

 

「あれは零戦のお家芸と言われる木の葉落とし」

 

カメラを通して一連の流れを見ていた坂本が言った

 

「似ていますが、少し違います」

 

と、バーフォード

 

「上昇している状態で、故意に失速状態を作り出した所は、確かに木の葉落としと同じです。しかし、そのあとアンタレスはヨーとラダー、エルロンを巧みに操作して機体を前方…と言うよりは進行方向下方へスライドさせたんです。バルクホルン大尉からはあたかもその場で止まっているしているように見えるでしょう」

 

バーフォードが機内の壁に設置されているホワイトボードを使って簡単に説明する

 

「すなわち、垂直上昇している様に見えましたが、実は若干斜めに上昇していたんです。そしてアンタレスは失速状態を起こし、山形の機動で飛行しバルクホルン大尉はアンタレスの上方を抜けて行った。あとは慣性による姿勢制御で失速状態から回復。相手の目をくらましつつ彼女の背後に回ったんです」

 

わかりにくいだろうが、作者の形容力ではこれ↑が限界だった、申し訳ない

 

「流石としか言い様がないわね」

 

「あぁ」

 

説明を聞いたミーナや坂本達はただただ驚いている様子だった

 

「と言っても、本来あの様な大型機で先程の失速状態から立て直すのはほぼ不可能。可変翼であるF-14だからこそできる技ですな」

 

と、バルクホルンが一言言うと、再び彼らの視線はモニターへと戻った

 

 

背後を取られたバルクホルンは急降下で振り切る作戦に出た、しかしアンタレスもそう簡単に逃げられまいと追尾する

 

「急降下しても速度じゃこっちが有利なんだよ!」

 

そう言うとアンタレスは操縦桿の兵装選択レバーをGUNからミサイルの位置にし、ロックオンを試みる。前方のHUDにロックオンコンテナが表示されバルクホルンの動きを追っていく、電子音がピピピッとなり続け、右に左にと動くバルクホルンをコンテナが追尾している

 

「もう少し…少し右…!」

 

遂にバルクホルンとコンテナが重なり、赤く表示される寸前

 

「おいおい!うそだろ!

 

バルクホルンが腕と足を大の字に広げ急減速、アンタレスの視界から姿を消した

 

「重力と運動エネルギーには逆らえまい!もらった!」

 

後方を見ると、銃を構えながらニヤリと笑うバルクホルンの顔がハッキリと見えた

 

「迂闊だった、確かに向こうの方が軽いから減速しやすい。それに対してこっちは空虚重量19t、おまけにミサイル満載の化け物だ。急降下状態じゃそう簡単には減速できねぇ!」

 

誰に説明してるんだ?

 

「ユーリさん!前っ!前!!」

 

後ろばかり気にしていたアンタレスは、サーニャの言葉に気づき前方を見ると、紺碧の壁が目前まで迫りつつあった

 

「歯を食いしばれ、舌噛むぞ!」

 

アンタレスは、猛スピードで降下するF-14のテイルをスライドさせた。本来なら不可能、もしくは規制される動きを彼は行なっているのだ。インテーク付近の空気流は乱れコンプレッサーストール寸前、機体各所に過剰な負荷がかかり機体が過剰な振動を起こした。コックピット中にアラームが鳴り響く

 

「上がれぇええ!

 

バルクホルンが間近に迫る中、アンタレスは海面数メートルのギリギリのところで機体を引き起こし、なんとか水平飛行まで立て直したのだった

 

「今のは少しやばかったなぁ!」

 

ホッとしたのもつかの間、背後から無数の銃弾がキャノピーをかすめ飛んで来た。後ろを確認すると、某映画に登場する主人公に恨みを持った敵役の元特殊部隊員のセリフを具現化したように銃を乱射するバルクホルンがいた(野郎ぶっ殺してヤァァァル!)

 

冗談はさておき、バルクホルンの放った銃弾は見事に外れ、海面に水柱を立てていた。

 

「奴のマガジンの装弾数は?」

 

「あのタイプのマガジンは約五十発です」

 

バルクホルンがMG42を使用する際には通常サドルマガジンを使用しているが、今回は訓練用のペイント弾を使用しているためか、通常のドラムマガジンを使用していた。

アンタレスはその装弾数五十発と聞き、MG42の発射レートと先程の射撃時間、彼女が何回リロードを挟んだかを計算して、残弾数を導き出した。そして彼女が再びリロードをするのを待った。数発、また数発とアンタレスの頭上を飛び交う銃弾を見ながら、アンタレスは落ち着いた表情で待った。そして

 

「今だ!

 

彼の計算通り、バルクホルンがリロードを行なった。アンタレスは待ってましたかと言わんばかりに機体の機首を上げ、海面スレスレで大迎え角飛行を行なった。

 

「うわっ!

 

F110エンジンから放出されるジェットブラストによって生み出された巨大な水しぶきは、アンタレス機の背後にへばりついていたバルクホルンを飲み込むには十分な大きさだった。案の定、バルクホルンは水しぶきの直撃を受けた

 

「海水でも飲んどけ堅物ポテト!はっはっはっはっ!」

 

バルクホルンが持っていたMG42や予備弾薬は使い物にならないまでにずぶ濡れだった。バルクホルンは低空でホバリングし、濡れたMG42と弾薬ポーチを放棄した。

 

「…なるほど、そうか、そう来るか…なんでもアリなんだな…もう頭にきたぞ!!」

 

何かが吹っ切れたように、バルクホルンは猛スピードでアンタレス機を追った

 

その様子を見ていたアンタレスは、再び彼女をオーバーシュートさせようと、F-14を急減速させ進行方向に対して機首を垂直に立てた。しかし

 

「あれ、どこ行った?」

 

機体を立て直し、いざバルクホルン機を追おうと前方を見るが、そこにバルクホルンの姿は無かった。あったのはただ青い空と海、何処にも人の形をした飛行物体は居なかった

 

「サーニャ、レーダーは?」

 

「見えません」

 

「目で探せ、真下に注意しろ」

 

この時、一瞬アンタレスに焦りが生じた。追っていた敵機を見失うと言うことはパイロットにとって命取りになるからだ。だが、次の瞬間

 

ババン!

 

「おぎょっ!?」

 

突如、アンタレスのいる前席真上のキャノピーに二つの手が現れた、あまりの驚きに変な声を出してしまうほどだ

 

「つ〜か〜ま〜え〜たぁ〜〜」

 

その手の正体は、先ほど見失ったバルクホルンだった。700 km/hで飛行する戦闘機のキャノピーに己の握力と腕力だけでしがみついていたのだ

 

「逃がさない…!」




次回『我が名は天駆ける蠍アンタレス』
第13話

_ドッグファイト!華麗なる空中戦(決着編)_

お楽しみに!

ここで作者から読者の皆様に意見を求めたいのですが、今現在自分が連載しているこの『我が名は天駆ける蠍アンタレス』とは別に、当サイトでもう一つ小説を執筆しようかなぁと迷っています。ジャンルやストーリー、またそれが短編なのか連載になるのかは未定ですが、もしやるとなればそれに伴い当物語の執筆や投稿スピードは下がると思われます。
…あ、でもちゃんと完結させるつもりです!と、言うかある程度完結までの流れやストーリーはもう既に出来上がっては居るので途中で失踪する事はまず無いですがww、ただ…それを文字にするのが中々難しい!
話が脱線しましたね…。とにかく、それでも良いよ〜と言うのであればコメント欄で一言いたたげれば幸いです。長文失礼しました…

それでは次話をお楽しみに!

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