我が名は天駆ける蠍アンタレス!   作:伊 号潜

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長らくお待たせしました!
誤字・脱字報告やアドバイス・感想などは大歓迎です!

それでは第9話をどうぞ!


第9話 __訪問者__

アンタレス帰還四日目(転移六日目) 夕方

 

「タワー、着陸許可を求む」

 

高速型ネウロイを撃破したアンタレス各機とソード隊がミッドウェーに帰投した。

 

夕方のミッドウェーは夕日に照されオレンジ色に輝いている、それはまるで神話に出てくるエルドラドや黄金の国ジパングのようだ

 

《了解アンタレス、着陸を許可する。ILSマーカーより侵入せよ。滑走路上の風速は極めて微速、南南西より1.2》

 

「ギアダウン、ロック」

 

アンタレスはコックピット正面左側のギアレバーを下げる、すると空母への着艦に耐える頑丈な脚がゆっくり胴体から降り、定位置で固定される

 

《アンタレス、ギアダウンを確認》

 

タワーからギアダウン確認の合図が入る、と同時にアンタレスはスロットルを徐々に引き、着陸最適速度まで減速する。

主翼が前進したのを確認すると、アンタレスは操縦桿の親指操作レバーを使い、F-14主翼上のスポイラーをおこし、最大上げ角の17度を維持させて機体を迎え角15度の侵入姿勢をとる。

しかし、最終着陸体勢に入った瞬間、タワーからコールが入った

 

《アンタレス、着陸中止!一旦上昇せよ》

 

「ッ!」

 

管制からの急な着陸中止を受けてアンタレスはスロットルを全快する。

 

だが、かなり減速していたためF-14はなかなか高度を上げず、轟音を響かせながら滑走路上を低空飛行、滑走路先の海面上に達したところで上昇した

 

「異物か?それらしいものは見なかったが」

 

アンタレスは異物が滑走路にでも落ちていたのかと思い管制に聞く

 

《レーダーが新な未確認機を補足、Xバンドレーダーでも確認したためゴーストの可能性無し、信頼度高い》

 

「方向は?」

 

《ブリタニアの方向より接近中》

 

「敵性か?」

 

《ネガティブ、不明だ。しかしブリタニアより出現したためネウロイの可能性は低い》

 

アンタレスはそれを聞くと燃料メーターを確認する

 

「わかった、予備燃料を使えば問題ない、当該空域へ向かう。他の機は着陸しろ」

 

《了解》

 

《了解隊長》

 

アンタレスは管制から指示された方向へ機首を向ける。予備燃料に余裕があるとは言え、少ないのには変わりはない。インターセプトし警告、万一交戦したときの事を考えて出来る限り燃料を節約して飛行する

 

「見えました」

 

しばらく飛んでいるとサーニャが9時の方向に目標と思われる航空機を発見した

 

「カールスラントのJu-52です」

 

「Ju-52?俺もプラモデルでは作ったことあるが」

 

そこには、特徴的なジュラルミンの波形外板、機首と両主翼にBMW 132A-1エンジンを一基づつ配置し固定脚を装備した特徴的な機体。

ルフトヴァッフェの兵士たちからは、親しみを込めてTante Ju=「ユーおばさん」と呼ばれたJu-52が悠然と飛行していた。

 

現在でも世界で多数が保存されており、数機が飛行可能な状態で残っている、2009年夏にルフトハンザドイツ航空が定期遊覧飛行を復活させたことは記憶に新しい

 

アンタレスの横を飛行する機体の本来ルフトヴァッフェの国籍マークが描かれている場所には、青を基調とし五本の箒が星の形に組まれたエンブレムがあしらわれている。

その上には『501 JOINT FIGHTFR WING』下側には『STRIKE WITCHES』と書かれている。それを見てアンタレスは通信機の回線を管制にセットした

 

「ミッドウェーコントロール、撃墜許可をくれ」

 

アンタレスが冗談半分で管制に呼び掛ける。しかし、許可が出るわけもなく、帰って来た内容は《ネガティブ》の一言だけだった

 

「サーニャ、対象機を撮影しろ」

 

「は、はい」

 

1、2分程ある程度の距離を保ちつつ平行に飛行をした、いくら可変翼で低速飛行が得意なF-14でも時速270km/h足らずの機体に張り付くのは非常に難しく危険であり、実際アンタレスのF-14のコックピット内に失速警報が何度も鳴っては止んでを繰り返していた、アンタレスはそれがうっとうしくコンソールをこじ開けて配線を引きちぎってやろうかと考える程だ

 

すると管制からコールが入る

 

《アンタレスへ、対象機の状況を報告せよ》

 

「対象機はドイツ....じゃなかった、カール....スランプ?のJu-52。武装は認められず、これより全周波数で呼び掛ける」

 

《了解、気を付けてくださいアンタレス》

 

とコントロールのグレンが言う

 

アンタレスは「はいはい」と返し、無線のコントロールパネルにある周波数スイッチを回し、全チャンネルに切り替えネイティブなクイーンズイングリッシュで呼びかける

 

「飛行中の航空機に告ぐ!直ちに進路を変更しろ」

 

しかし、返答は無い。アンタレスはさらに呼びかける

 

「Warning Warning !Please change your course now!Attack unless you change it!(警告、警告!直ちに進路を変更せよ!従わなければ攻撃する)」

 

が、やはり応答はない

 

「Bitte jetzt und dann sofort den Kurs ändern(今すぐコースを変更しろ!)」

 

続いてドイツ語で呼びかける、するとJu-52の大きな機体がまるで太った人が不機嫌に体を揺さぶるかのように翼をゆっくりと上下に振る

 

「バンクをふってます」

 

「(たしか、1940年代じゃバンクは味方って意味だったな)」

 

そう考えていると、Ju-52のコックピットで何かが光ったのが見えた

 

「発光信号です」

 

サーニャがそう言うと、アンタレスは内容を読む

 

「我、連合....軍機.......negotia....交渉?」

 

アンタレスに限らず、音声の通信や手信号にに頼っているパイロットは発光信号やモールス信号はあまり得意ではない。アンタレスも内容を全て理解することは出来なかった

 

「サーニャ、内容わかるか?」

 

アンタレスはサーニャに聞く、するとサーニャはすらすらと読み上げた

 

「『我連合軍、貴官らと交渉のために、重要人物を輸送中。島への着陸を許可されたし』」

 

「スゲェ~」と心の中でサーニャに拍手をしつつアンタレスは無線をミッドウェーコントロールに繋いだ

 

「ミッドウェーコントロールへ、バーフォードに繋いでくれ」

 

数秒と経たない内にバーフォードが出る

 

《なんだ?》 

 

「お客さんだ」

 

《状況は?》

 

「交渉人を乗せた輸送機、Ju-52をエスコート中」

 

《島への着陸を許可する》

 

「了解」

 

「即答かよ」と思いつつアンタレスは輸送機のコックピットに向かって手信号を送る

 

「『我に、従え』」

 

すると輸送機のパイロットは親指を立てて答える、アンタレス達は輸送機をエスコートし、ミッドウェーへ向かった

 

着陸手順を済ませてアンタレスとサーニャの乗る機体は輸送機を誘導しつつ着陸体勢に入った、アンタレスは手信号で輸送機に先に着陸するように促す

 

『先に降りろ』

 

とアンタレス、すると

 

『貴機に従う』

 

と、輸送機のパイロットが手信号で答える

 

輸送機はミッドウェー島滑走路へスムーズに着陸し減速、待ち構えていた誘導車に誘導されハンガーエリアに通じる誘導路へと入っていく、アンタレスもそれを見届けた後に着陸した

 

アンタレスがタキシングしハンガーエリアに入り、機をアンタレス隊の格納庫手前まで移動させ整備班に引き渡すと、サーニャを先に来ていたアレク達に預けて輸送機へ向かった。

 

現場では基地守備隊の装甲車やジープが取り囲み小銃を手にした守備兵と輸送機の乗員達との睨み合いが行われていた。その中にバーフォードの姿もある

 

一人の守備兵が拡声器で輸送機に向かって吠えた

 

「降りる前に条件を提示する!」

 

1、本島はアメリカ合衆国の領土であるため、島に居る以上アメリカ合衆国の法律に従うこと。

 

2、降りる者は三人以内とする。

 

3、武器の携帯は認めない。

 

4、降りる者を含め全員身体検査を受け銃からナイフに至るまで全ての殺傷能力のある物を没取し、降りる者以外は指示された場所で待機すること。

 

5、以上の4つの内1つでも守られなかった場合は、アメリカ合衆国への不法入国者と見なし直ちに全員を拘束する。

 

「これに一切の例外は認めず!」

 

「良いだろう」

 

すると一人の50代らしき軍服姿の男性がタラップを降りてきた

 

「私はトレヴァー・マロニー、ブリタニア空軍大将だ」

 

続いてフライトジャケットに身を包み、スナイパーライフルのスコープの様な物を首に掛けている黒髪ロングヘアの若い女が降りてきた

 

「私はアドルフィーネ・ガランド、カールスラント空軍少将だ」

 

マロニー、ガランドと名乗る二人が降りた後、人混みからバーフォードが現れる

 

「マーティネズセキュリティ社、ミッドウェー基地司令及びM42飛行中隊、中隊長のフレデリック・バーフォード」

 

「で、そこに居るのが」

 

バーフォードは人混みにの中にいる一人の人物の方を向き「出てこい」と言わんばかりに手招きする。

 

出てきたのは30代程の金髪男性で、全身を包む袖を捲ったフライトスーツを着ている。アンタレス1及びアンタレスこと、ユーリィ・リトヴァクだ

 

「M42飛行中隊第一小隊長、アンタレス」

 

「アンタレス....それは本名か?」

 

「んな訳ねぇだろ」

 

マロニーの問いかけに対しアンタレスは睨み付けながら答える

 

「上官には敬意を払わんか」

 

「アンタは俺の上官じゃねぇし、俺もアンタの部下じゃねぇ。上官ヅラしてんじゃねぇよ」

 

「ふん....」

 

「フフ、怖いもの知らずだな」

 

とガランド

 

「ここで立ち話と言うわけにもいかないな、部屋へ案内しよう。アンタレス、お前も来い」

 

「何で俺が?」

 

「良いから言う通りにしろ」

 

「わかったよ」

 

 

 

「__つまり、我々と手を組みたいと?」

 

会談が開始されて30分程が経過した。

 

今までのガランドやマロニーの話を簡単に説明すると『我々と共にネウロイと戦ってほしい、見返りに定期的な食料や燃料など必要なものを用意する』とのことだ

 

「あぁ、我々としても貴殿方としても悪い話じゃないだろ?」

 

「不時着した所を拘束し、丸一日監禁したことはこちらとしても悪いとは思っている、今後は貴官らと我々との間の関係を修復し共に協力関係を築いていきたい」

 

マロニーはアンタレスの方を見つつバーフォードに話しかける

 

「どうだかね」

 

アンタレスは持っていたスチールボトルの中のウォッカを一口飲み続けて話す

 

「それは表向きで、本音は俺達の技術が欲しいだけだろ?」

 

二人は黙り混んでしまった、どうやら図星だったようだ

 

「俺の機体奪ってかなり....あぁ失礼、言い過ぎかな。略奪して結構経つからな、それなりのデータを収集してんだろ?ただ、オーバーテクノロジーすぎて逆に使えない。そうだろ?」

 

ガランドはマロニーの方を向く、マロニーは首を上下に揺らした

 

「その通りだ」

 

そこにバーフォードが

 

「あなた方も軍人ならお分かりのように、兵器とは製造国が保有する技術の集合体です。無論最高軍事機密も含まれている。それを譲れとおっしゃる事はどのような事かわかってるでしょう?。ましてや、こちらはその機密及び貴重な戦力を奪われた側だ、実力行使に出ても構わないのだが...」

 

バーフォードの目付きが変わる、流石は管理職なだけあり軍人としてではなく交渉人としての才能も持ち合わせていた。彼はさりげなく敵意を表し相手の反応を見て、今後の会話を予測し言葉を選択しているのだ。

先の遭遇戦や、アンタレス奪還作戦、ロンドン上空での戦いを見ていれば、相手は少なくともこちらについて不明な点は多いだろうが、真っ向からやりあえば勝ち目はない事くらいは予想できている。バーフォードはそう予想し、あえて"実力行使"という単語を出したのだった

 

「あ、あぁ、十分承知している。しかし、今はそんな悠長な事....人間同士で争っている暇など無いのだ」

 

とマロニー、そしてガランドが

 

「我々はヨーロッパの大部分をネウロイに占領され、古郷や家族、友人、家を失った者達の数は計り知れない。私もその一人だ」

 

ガランドの故郷であるカールスラントはネウロイに占領され、今も尚奪還には至っていない。

 

すると

 

「知ったことかよ」

 

「....!」

 

その一言を聞きにガランドの表情が変わる、ガランドは言葉の発信元であるアンタレスを見る、と言うよりは睨む

 

「プハァ....んな事俺達には関係無ぇ」

 

アンタレスはウォッカを飲み干し、そんなのお構いなしに更に言い放つ、ガランドは静かながら明らかに穏やかではない顔で聞き返す

 

「今なんと言った?」

 

アンタレスも躊躇せずに言い放った

 

「関係無いつったんだ。俺家有るし、なんとなんと別荘も持ってるし、友人知人で今のところ死んだ奴だ~れ一人も居ないからテメェの痛みなんざ全く分からねぇし古郷も国も絶賛営業中ですしおすし。『私たちは国を奪われました』だって?、は~い俺の国はとある燐国の半島手に入れました~!」

 

「貴様、もう一度言ってみろ!」

 

「止めろアンタレス、島にはウクライナ出身の社員も居るんだぞ!」

 

今にもガランドが殴りかかりそうな中バーフォードが止めに入る、アンタレスは笑いながら答える

 

「冗談だよ冗談だよ」

 

ガランドもマロニーに止められとりあえず一旦最悪の事態は回避された

 

「部下の無礼、謝罪しよう。しかし、我々の保有する装備は各国から購入した物であり、取引先との信頼関係の結晶です。それを我々の独断で譲り渡す意味を貴殿方、正規の軍人ならお分かりでしょう?」

 

「貴官らは正規の軍人ではない....と?」

 

「我々は民間軍事会社です」

 

「つまり、傭兵を派遣する会社?」

 

マロニーが聞き返す

 

「まぁ、間違ってはないでしょうな」

 

「なら、報酬をだす。それで....」

 

「不可です」

 

ガランドが言い寄が、バーフォードは拒否する

 

「我々としても好き好んでこの世界に来た訳じゃない。ただでさえ混乱している中で、急に来られて技術を譲れと言われましても」

 

「しかし事は一刻を争う。近々ネウロイの大規模な侵攻が予想されているのだ」

 

「概要は?」

 

「現在、ドーバー海峡に多数の艦隊を配置しているが、数日前からネウロイの侵攻回数が激減した。丁度貴殿方が出現した時期だ」

 

マロニーが黒鞄から英文の書類を数枚取り出しバーフォードに手渡す

 

「恐らく、大規模侵攻の準備だろう。嵐の前の静けさとはこの事だ」

 

と、ガランド

 

「どうすんだおっちゃん?」

 

「君はどうしたい?」

 

アンタレスがバーフォードに聞くと、逆にバーフォードがアンタレスに聞き返す

 

「俺の飛行機返さないなら帰ってほしいし出来れば殺してさしあげたい」

 

アンタレスは一言そう言った

 

「彼はこう言っているが」

 

「き、君の機体を管理しているのはブリタニア軍であって、私は管轄外だ」

 

ガランドはマロニーの方を見る

 

「ほう」

 

アンタレスとバーフォードもマロニーを睨む

 

「今の状態では、返還するのは困難だろう」

 

マロニーは知らん顔でそう告げる

 

「なら話すことは何もない!今すぐこの島から出ていけ!お出口はあちらです!」

 

マロニーの言葉を聞くとアンタレスは立ち上がり廊下に繋がる扉を指差した

 

「貴様ふざけてるのか?!こっちは人類存亡に関わる真面目な話をしているのだ!」

 

ガランドがアンタレスに怒鳴り付ける。しかし、アンタレスは顔色ひとつ変えず反論する

 

「知ったことか!俺達は傭兵だ、人類存亡とか滅亡うんぬんなんて知るかってんだ!」

 

「貴様それでも人間か?」

 

「人間だよ!人間様だよ!世界の英雄アンタレス様だよ!撃墜数600機以上、破壊ユニット数500基以上+α核ミサイル六基破壊のスーパーエースパイロット様だよぉ!少なくともテメェらの態度で『ハイそうですか、喜んで協力しましょう』なんてなると思ったら大間違いだアバズレ!」

 

「貴様ぁ!」

 

「おーおーヤるか?上等だ表へ出ろ!」

 

ガランドがアンタレスの胸ぐらを掴み、アンタレスもガランドの胸ぐらを掴む一触即発状態になってしまった、そこに

 

「止めろ!」

 

バーフォードの怒鳴り声が部屋に響き渡り、その状況は終わりを迎えた

 

「座れ!君はその喧嘩癖を直すんだ」

 

バーフォードはアンタレスの首根っこを掴み強引に座らせた、アンタレスは子供のようにスネた顔で舌打ちしながらソファーに座った

 

「君も落ち着きたまえ」

 

マロニーもガランドを落ち着かせ座らせる、するとガランドが何かに気づいたようにアンタレスを見る

 

「....何だよ?ジロジロ見てんじゃねぇよ気持ち悪い」

 

直後にガランドから発せられたのは以外な言葉だった

 

「お前....魔法が使えるのか?」

 

「....ハァ?」

 

「私が見る限り、彼から僅かながら魔法力を感じる」

 

ガランドの言葉に思わずアンタレスとバーフォードは拍子抜けする。直後アンタレスは大声で廊下に向かって叫んだ

 

「おーい、誰かナチス語の通訳者呼んでくれー!」

 

「真面目な話だ、以前に魔法を使ったことあるだろ?」

 

「アンタなぁ....」

 

「そんな物が浮いたり」

 

「「おぉ!」」

 

アンタレスは机に置かれた湯飲みを手に取るとパッと離した。しかし、湯飲みは落ちることなくアンタレスの手の前で浮いているようにみえる。

マロニーとガランドは思わず声をあげる。するとアンタレスは続けて

 

「消えたり」

 

「「おぉ!」」

 

今度は湯飲みがいきなり消え

 

「現れたり」

 

「「おぉ!」」

 

現れた

 

「そして大きくなったり」

 

「「おぉ~....ん?」」

 

アンタレスの耳が大きくなった!....と、思えばアンタレスの手には良くできたゴム製の耳があった

 

「そんな魔法を俺が使えるわけ無いだろうが」

 

「よく思い出してみてくれ、魔法ってのは意図ぜずとも発動するものだ」

 

「ないない、有るわけ無い」

 

アンタレスは顔を左右に振り否定する

 

「例えば、高い場所から落ちたのに助かったとか」

 

「高い場所?」

 

「動物の言葉がわかったりとか」

 

「動物の言葉....」

 

「攻撃を受けても助かったとか」

 

「っ....!」

 

アンタレスの顔が若干青ざめ、同時に501基地に捕らわれたときの記憶が甦る

 

「どうしたアンタレス?」

 

「心当たりが在りすぎる....」

 

バーフォードの問にアンタレスは小声で答えた

 

「ウィッチ....いや、魔法が使えるのは女性だけのハズでは?」

 

と、バーフォードが二人に問う

 

「確かに魔法が使える者のは多くは10代~20代の女性だ。しかし、男性の魔法使い....ウィザードが全く存在しなかったわけではない。過去に何人か居た記録は少なからずとも残っている」

 

ガランドが過去に男性の魔法使いが存在したことを告げるとバーフォードはアンタレスの方を見て呟く

 

「アンタレスが魔法使い....か」

 

「んな訳無いだろ」

 

アンタレスはよしてくれと言わんばかりにバーフォードに言う。

 

「例えば……アンタレスのエースとしての才能や類い稀なる悪運……運の良さや直感が、この世界でいうところの魔法力として表れている。というところか……」

 

「おい。悪運のくだりのところ、じっくり話し合いたいんだが」

 

するとガランドが思い出したかのように話し始めた。

 

「とにかく!我々は少しでもネウロイに対抗するための対抗策を一つでも多く必要としている!頼む、我々を助けてくれ」

 

「直ぐには決められない、この件は要検討とする、しかし技術は譲れn『ちょっと待ったおっちゃん』」

 

突然アンタレスがバーフォードの言葉を止め、奥の部屋へ誘導した

 

「ちょっと二人だけで話さしてくれ」

 

バタンと扉が閉まり、マロニーとガランドの二人は「何だ?」と思いつつ、再び扉が開くのを待った

 

 

「どうした?」

 

執務室と扉で繋がった六畳ほどの倉庫の中で、アンタレスは入るなり様々なファイルが納められた棚から一つのファイルを取り出しバーフォードに渡した

 

「これ、これを奴等にやろう」

 

「本気なのか?」

 

アンタレスが渡したファイルには一機の機体に関する書類が十数枚ファイリングされている。オールドハンガーにあった機体の一つだった

 

「確かにあれは既に無可動機だが」

 

「場所が空いていいだろ?」

 

「しかし、仮にもジェット機だぞ」

 

「たかが第三世代機だ。コピー出来たとしても俺たちの脅威じゃない」

 

バーフォードは書類を読む。そこには、ソ連空軍最高速度を記録したMig-25の写真があった。書類によると1985年以降にMS社でテスト用に購入されたが部品の不足やソ連出身パイロットの確保がうまくいかず保管状態とされていた。

 

「うむ....」

 

「もしもだ、俺の機体のエンジン....АЛ-31はロシアの最高軍事機密だ、俺でさえ迂闊に触るのを躊躇うくらいだ。あれを....あり得ないが万一、コピーされたら」

 

「我が社の信用問題だな....」

 

バーフォードは書類を捲りながら答える

 

「だから、使わなくなったエンジンと機体をやるから俺の機体を返してくれって事だ」

 

「しかしだな」

 

バーフォードは躊躇った、確かにMig-25は配備から半世紀近く経って老朽化が進んでいるが今も尚一部では現役の機体、この島にあるのだって冷却液(高純度アルコール)や必要な機材が不足しているだけで飛べないわけではない。ましてやレーダー等のエンジン以外の機密性の高い機器を搭載している。それを簡単に渡すなど....

 

「レーダーや必要の無い部位は取り外せばいい」

 

アンタレスはバーフォードの考えを読んだように答えた

 

「しかし…」

 

「マズくなったら後々取り返せばいいさ」

 

「あの子はどうする?」

 

バーフォードは話を変えてサーニャについて聞く

 

「ジェットに対する適応力が高い、今日の戦闘で高Gを受けたはずなのに帰ってきたとき立ち眩みすら起こさなかった。サーニャは必要だ」

 

「機体の代わりに別の機体。なら彼女の代わりに何を差し出す?」

 

「まぁ、何とかして見せるさ」

 

そうアンタレスが答えると、バーフォードは「どうなっても私は知らんぞ?」と言い執務室に戻った

 

 

倉庫の扉が再び開き、アンタレスとバーフォードが戻ってきた。時間にして僅か五分程度、するとバーフォードが話す

 

「アンタレスから提案があるそうだ」

 

「提案?」

 

「それは?」

 

マロニーとガランドは同時に聞き返す、そこにアンタレスが

 

「ウチで保管してある機体を譲る。これがその機体の大まかな概要だ」

 

アンタレスから差し出されたのは先程倉庫の戸棚にあったファイルだった。ガランドはファイルを開き書類をパラパラと捲り出す

 

「MiG-25....迎撃戦闘機」

 

ソビエト連邦のミグ設計局が自国の国土防空軍向けに開発したマッハ 3 級の航空機"Mig-25だ。

 

マロニーとガランドは書類と一緒にファイリングされている写真を見て思わず「巨大な機体だな」と言ってしまった。無理はない、少なくとも元居た世界の1940年代の戦闘機は全長が10M前後、その二倍もある大きさの単座戦闘機を見れば誰だってそう言う

 

「スペックは....」

 

マロニーがスペック表をみる、そこには大まかなスペックが記されていた

      

全長:19.75m

全高 :6.10m

翼幅 :14.01m

空虚重量 : 20,000 kg

最大離陸重量 : 41,000 kg

発動機 : ソユーズ・ツマンスキー R-15BD-300×2

最大速度 : マッハ 3.2 (3,490 km/h)

航続距離 : 2,575km

燃料搭載量:4,500L

最大G:4.5~8

乗員 : 1名

固定武装:なし

 

「「最大速度マッハ3.2....!?」」

 

二人は驚愕した。最大速度がマッハ1以上の航空機などこの時代では開発不可能と思われていたが、この機体は裕に三倍を越えていたからだ

 

「こんな機体が存在するのか....」

 

二人はまさかこんな機体を譲ると言われるとは思ってもいなかった。マロニーが信じられないと言わんばかりに「これを我々に?」と聞き返すとアンタレスは答える

 

「条件さえ飲んでくれればな」

 

「条件とは?」

 

「俺の機体....ネジ一本に至るまで全ての返還。それと、リトヴァク中尉のマーティネズセキュリティ社M42飛行中隊配属」

 

「なっ!?」

 

アンタレスの以外な要求に二人は再び驚愕した

 

「ま、待ってくれ!中尉はあくまでオラーシャ軍所属で我々の管轄外だ!」

 

「あ、そう。なら」

 

アンタレスはガランドの言葉を聞いてファイルを取り上げようとする。しかし

 

「待て」

 

マロニーがアンタレスの手を掴み止める

 

「その条件を飲めば、その機体....Mig-25と言う機体を譲ってもらえるのだな?」

 

アンタレスは静に微笑んだ

 

「しかし閣下!」

 

「オラーシャの方へは私が掛け合ってみよう。アンタレス君、検討させてくれ」

 

するとアンタレスが廊下に向かって誰かを呼んだ、執務室の廊下に繋がる扉が開くと、そこにはマイケルとグレアムに連れられて銀髪ロングヘアーの少女が入ってきた、エイラ・イルマタル・ユーティライネンだ

 

「ど、どうも」

 

「この子はお返しする、連れていってもらって構わない」

 

とアンタレスが言うとエイラはサーニャの事を聞いた

 

「サーニャは?!」

 

「アレキサンドラ中尉は....しばらくこの島に残ることになった」

 

「そんな!」

 

ガランドがエイラに今までの話を大まかに説明する。エイラは渋々納得したようだが酷く落ち込んでいた

 

「と、言っても....」

 

バーフォードが窓の外を見る。明るかったハズの外は既に太陽が沈み暗くなっていた

 

「既に日も沈んでいる....今日は泊まっていかれてはいかがかな?」

 

「もうこんな時間か」

 

マロニーが腕時計を確認すると、時計の針は七時を指していた

 

「部屋を用意させましょう」

 

バーフォードが島内電話の受話器に手を伸ばす、しかし

 

「いや、私はこの事を報告せねばならん」

 

「夜間飛行ですが大丈夫ですか?」

 

「パイロットはそれなりの訓練を積んでいる」

 

そう言うと、マロニーは先程のファイルを持っていた黒鞄に入れ変える支度を始めた

 

「なら、ガランド少将とユーティライネン少尉は明日我々がお送りしましょう」

 

「良いのか?」

 

「もちろん」

 

バーフォードは再び受話器に手を伸ばし、部屋を用意させるため電話をかけ始めた

 

「"がらんどう"少将」

 

「"ガランド"だ」

 

アンタレスがガランドの名前を間違えながら呼ぶ、ガランドは訂正するがアンタレスはお構いなしだ

 

「あぁ、そうだったカリントウ少将」

 

「わざとだろ、もはや怒る気すら起きない。で、何だ?」

 

ガランドは呆れた様子で聞き返した

 

「ちょっと話が」

 

「ん?」

 

アンタレスはガランドを連れて執務室を後にした。

 

しばらく廊下を歩くと、廊下の一角に自販機とベンチが置かれた小さな談話スペースに着いた。アンタレスはポケットから小銭を出して缶コーヒーを二つ買い一つをガランドに渡した。ガランドは「驚いたな」と一言いいコーヒーに口をつける

 

「で、話とはなんだ?」

 

「あくまで個人的な頼みだか、Yak-1b戦闘機を1機買いたい」

 

「なに?」

 

Yak-1とはソ連で開発された戦闘機である。第二次大戦中に労農赤軍航空隊や労農赤色海軍航空隊の主力戦闘機となりナチス・ドイツ軍との戦闘におけるソ連軍反撃の序盤に活躍した。ロシアでは今尚「最も偉大な戦闘機」のひとつとして記憶されている。

 

アンタレスはそれを買いたいとガランドに話したのだ

 

「手配してくれるんなら、俺からバーフォードに色々具申してやっても良いぜ」

 

「....何故、Yak-1bなんだ?」

 

ガランドはP-51やスピットファイア等、もっと性能の良い機体が他にあるにも関わらずアンタレスがYak-1戦闘機を選んだのを不思議に思った。ましてや、それ以上に性能の良い機体をアンタレス達が運用しているにも関わらずだ。ガランドが理由を聞くとアンタレスは静に答えた

 

「ばあちゃんの乗ってた機体なんだよ」

 

「ばあちゃん?」

 

「あぁ、ばあちゃんが見ていた景色を見てみたくてさ」

 

ガランドは少し考えた、アンタレス達が来た世界はこの世界で言うと約80年後、アンタレスの見た目の歳を考えると確かに時代的にはアンタレスの祖母の時代に当たる

 

「....なるほど、上に掛け合ってみよう」

 

「アンタは、あのオッサンより話がわかるようだな」

 

「私が言うのもなんだが、奴には気を付けた方がいい」

 

ガランドの表情が急に真剣になった

 

「奴は大のウィッチ嫌いだ、ウィッチについて悪い噂しか聞かない」

 

「だろうな....今まで色々な奴を見てきたが、あんな感じの奴は大体何か隠してるヤツだ....オリビエリとか」

 

アンタレスが何かを言いかけた、ガランドが頭に?マークを浮かべるがアンタレスは「いや、何でもない」と言いごまかした。するとガランドは

 

「手を組まないか?」

 

「ん?」

 

「恐らく、奴は私の知らないところで何らかの形で接触してくるだろう、それについての情報を教えてもらいたい」

 

「いいのか?。アンタはカールス、奴はブリタで国が違う。下手すりゃ両国関係がぶっ壊れるぜ」

 

「それのせいで、我々も下手に動くことができない。そこで君に」

 

「窓口になれと?」 

 

「勿論タダでとは言わない」

 

ガランドの提案にアンタレスは少し考えた後答えた

 

「ガランド少将....アンタとは個人的に仲良くできそうだ」 

 

「個人的に....か?。まぁいい、私の部隊との直通無線をそちらに送る」

 

「いや、周波数だけ教えてくれれば良い。アンタん所のよりもずっと強力な無線機がウチには有るからな」

 

「なるほど」

 

するとアンタレスは思い出したかのように話を変えた

 

「あぁ、あと明日、501基地に行こうと思ってる」

 

「501基地にか?」

 

「サーニャの着替えとか私物を持ってこなきゃならねぇからな」

 

「ふむ」

 

「バーフォードも色々話したがってんだよ、地雷中佐や自走砲大尉と」

 

「地雷?自走砲?」

 

ガランドがそんなヤツ居たかと少し考える、"地雷"は"ミーネ"、自走砲....ナースホルンやマッターホルン等を考えた後に気がついた

 

「あぁ!ミーナとバルクホルンの事か?ははは!これは傑作だ」

 

ガランドは思わず笑いだした、笑いが収まった所でアンタレスが手を差し出す

 

「んじゃ、握手といきますか?」

 

「あぁ」

 

二人は手を握り合い、固い握手を交わした。するとガランドが

 

「何度も言うが、奴には気を付けろ」

 

「ナメんなよ、泣く子も黙るアンタレス様だぜ。あんなジジィ、毒針で瞬殺さ」

 

「頼もしい」

 

二人は手を更に強く握り握手をする

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「所で、アンタ握力強いな....!」

 

「お前こそ....」

 

「こう見えても会社の腕相撲じゃ負けなしでね....!」

 

「ほ、ほう。面白い、一戦行くか?」

 

「望むところだ....!」

 

その日の夜、談話スペースの一角で集まってきたギャラリーを交えた細やかな腕相撲大会が行われた

 




_次回予告__
マロニー、ガランドとの階段の翌日、アンタレス一行は501基地へと向かうべく飛び立った。
そこでアンタレス一行が出会ったのは、様々な思いを胸に空を駆ける魔女達だった

次回『我が名は天駆ける蠍アンタレス』
第10話
 
       _ワルキューレの飛来_


お楽しみに!

※タイトルや内容は予告なしに変更する場合があります

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