転生したら滝本ひふみの彼氏になった件について 作:飛び方を忘れてるカラス
久しぶりの投稿。2期放送まであと少し!
トンネルを抜けると、そこは雪国だった。
真っ白な白銀の世界。ビルに囲まれ、限られた緑に見慣れていた俺たちには、とても新鮮な光景に見えた。
「綺麗…」
隣で白銀の景色に見入っているひふみがポツリと呟く。
確かに、目の前の世界はとても綺麗だ。この世のものとは思えないぐらい。
「確かに、綺麗だな」
俺は同意の念を言う。
「けど、もっと綺麗なものを俺は知っている」
「それは何?」という目をしたひふみの目を黙って見つめ返す。
「それはーーー君さ」
ーーーー決まった。
これ最高だろう?ドラマとか映画以上に決まってたろ。これに意がある者は出てこい、死よりも恐ろしい何かをしてやる。
しかし、この最高のムードはそう長くは保たなかった。
「あのさー…雰囲気出してるとこ悪いけど、周りの目考えよっか?」
「……空気読めよ八神」
「いや、読みたいところだよ?でも周りの視線を考えてよ…見てるこっちが腹立つというか」
雰囲気をぶち壊したのは同僚の八神コウ。
「ふんっ、お前らがそう思ってたって、ひふみは違うんだよ、なあ?」
と、ひふみに目を向けると、彼女は顔を赤くして笑った。
「ちょっと恥ずかしい…かも…」
「ほらね?」
「…まあ、可愛いからOK」
実際にひふみーーー我が妻(予定)は可愛いのだから。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
「おはようさん」
「ん、おはよ」
同期の倉橋が味噌汁を啜りながら朝の挨拶。
俺も彼の隣に座り、いただきます、と手を合わせて白米を口にする。
「今日はどうするんだ?」
「さあな。ひふみの行動次第、ってとこか」
「相変わらずお熱いことで」
「羨ましいだろ?」
「憎たらしいぐらいにな」
やはり朝の倉橋はテンションが低めだ。たぶん少し経てば元のハイテンションな野郎になると思うのだが。
「そういえば、遊佐先輩は来なかったのか?」
「遊佐先輩?」
遊佐先輩というのは俺たちの上司。俺たちが入社した頃の直属の上司となった人…なのだが。
「どうせ家でエロゲでもやってんだろ」
「あー…ブレないな、あの人も」
そう、遊佐先輩は大のエロゲーマー。こういうイベントに興味を示さず、ただエロゲーを家でやるのだ。
この会社に入社した理由は、エロゲーを作りたいから、だそうだ。もっとも、何かの手違いでエロゲーなんて作れる環境じゃない所で働いてしまっているが。
「あの人彼女もいないらしいな…」
「顔は良いんだけどな」
「不思議なこともあるもんだねー…」
箸を進めながら倉橋は話す。
そう、遊佐先輩は顔が良いのだ。所謂イケメン。
社内で数少ない男性+イケメンということもあり、めちゃくちゃ人気が高いのだ。
「ああ、でも、風の噂によると遠山を狙ってるらしい」
「遠山さんを?」
「噂だよ噂。あの人が3次元に興味を持つとはとても思えんが」
「だな」
と、笑いながら話す。
朝から上司の噂をしていると、何か起こりそうだが気にしない。
「で、結局どうするんだよ?」
「んー…まあスキー…俺の場合はスノボーか。はやるよ。運動不足も解消したいところだし」
「そうか。なら俺も滑ろうかね。これでも、高校時代は学内出1、2を争う運動神経の良さだったんだぜ」
「なら篠田と競ってみたらどうだ?あいつチャリ通勤だし、運動は得意らしい」
「おっ、なら本気を出さなくちゃな」
と、まあそんなこんなで朝ごはんを終え。
この旅館はかなり大きく、俺たち社員以外にもお客さんが多かった。
途中、良い景色が見れる談笑場があったので、暇があったらそこで酒でも飲もう。
自分たちの部屋に戻り(実質俺と倉橋の2人だけだが)、着替えを終える。
その間にひふみとメールをしたところ、彼女はどうやら涼風ちゃんの付き人をするらしい。
…なんか不安だから付いていくか、ということになり、篠田と競う予定の倉橋について行くことにした。
旅館から出ると、そこにはいつもの後輩達が待っていた。
「おっ、立花先輩遅い」
「へいへい、悪かったよ」
いつもの調子で篠田が言う。
「さてと、じゃあ早速行くか」
「ですね!」
「久しぶりやけど、ちゃんと滑れるかな…」
不安になる飯島を横目に移動しようとすると、目の前の雪原に突然コブができた。
「は?」
「なんですかね…あれ」
と、そのコブは物凄いスピードで俺たちに近づいてきた。突然の出来事に身構えていると、そこから真っ白な服装…装備といったらいいのか、を身につけた人物が現れた。
「ああ、これは失礼」
そう言ってマスクを脱いだのはアハゴン。
「すいません、サバゲーの訓練をしていたもので」
「にしたって装備ガチすぎるだろ。シモ・ヘイヘかお前は」
「気が付きましたか。私も彼のようになりたいのですが…」
また面倒なスイッチが入りそうだったので早急に撤退することにした。
そんなこんなでリフトに乗った。
俺の前にはひふみと涼風ちゃんが楽しそうに話している。…混ざりたい。
「にしても…大丈夫かね、涼風ちゃん」
聞くところによると、涼風ちゃんは運動が苦手らしい。今回のスキーもかなり不安だったらしい。
と、そう考えている内にひふみと涼風ちゃんがリフトオフする時になった。
「わ〜!」
なにやら叫び声をあげているが、なんとか成功したらしい。
俺も続けてリフトオフする。
「成功したか」
「はいっ、おかげさまで!」
「よかった」
「さて、そんじゃあ。やりますか」
そうして俺たちは雪の坂を下り始めた。
とりあえず最初は涼風ちゃんのペースに合わせる。途中途中で止まり、様子を見て、大丈夫そうだったらまた走り出す。
「うわ〜、立花先輩お上手です!」
「中学の時に修学旅行とプライベートで結構行ったからな。これでも、並の人間よりは上手いつもりだよ」
それとあとは死に設定となった前世のこともあるのだが。もう掘り下げたくないからその辺カット。
「ひふみは大丈夫か?」
「うん…大丈夫…」
と、言ってはいるがやはり動きがぎこちない。
「あっ…」
その瞬間、ひふみがバランスを崩して前のめりになった。
ボードを外していたことにより、咄嗟な動きをすることが出来た俺は、背後からひふみの腕を掴む。
「うぉっと…あっぶな…」
「あ、ありがとう…」
なんとかバランスを元に戻したひふみを確認し、俺は腕を離す。
「気をつけろよ」
「うん…」
よほど怖かったのか、若干涙目になっている。
仕方がない、と思い俺は軽くひふみの頭を撫でた。
「おお…!」
「…なに、涼風ちゃん?」
なにやら脇で目を輝かせている涼風ちゃん。
「なんだか…夫婦だなーって…」
「まだ法律上は違うんだけどね」
「それでも夫婦ですよ、やっぱり!」
「あ、青葉ちゃん…」
恥ずかしがってはいるが、満更でもないらしい。愛い奴だ。
「おらーっ、立花勝負しろやー!」
テンションが元に戻った倉橋が大声で名指しする。
「大丈夫か?」
「少し休んでるから。青葉ちゃんは私が見るから」
ひふみに確認すると、彼女は頷いて優しく言った。
よし、そうと決まれば…。
「おっしゃぁ!やってやるよかかって来い雑魚がァッ!」
「言ったなぁ!?」
クローズのようなバトルの始まりである。
バトルとは言っても、内容なレースだ。飯島がタイムを計り、俺と篠田と倉橋が順にタイムを計り競う。
倉橋には3秒差で勝ったものの、篠田には0.5秒差で負けた。さすがに日ごろ運動している篠田には勝てなかった。
「少し休むか…」
と、ひふみが座っている所まで向かう。
よっこいしょ、と言い彼女の隣に座る。
「あー…やっぱり日ごろ運動しとかないとダメだなぁ…昔に比べて体が動かん」
首をパキパキと鳴らす。
「立花先輩、大丈夫ですか?」
戻ってきた涼風ちゃんが心配の声をあげてくれる。
「大丈夫大丈夫。時の流れには勝てないのさ…」
こうして後輩たちの元気な姿を見ると、自分がいかに年を取ってきたかがよくわかる。今なら葉月さんが日ごろ抱いている気持ちにも共感できる。
「青葉ちゃーん、一緒にやろうよー!」
篠田が声をあげて涼風ちゃんを呼ぶ。
「あっ、はーい!では、行ってきます!」
「気をつけてね」
「何かあったら遠慮なく倉橋に言えよ。あいつは普段はアレでも頼りになるからな」
それだけ言って涼風ちゃんは滑りに行った。
なんというか、涼風ちゃんを見ていると、まるで未来の自分たちの姿を見ているような気になる。それはまあ、涼風ちゃんの体格とかもあるのだろうが。
「…ねぇ、戒くん」
「ん?」
「今の私たち…どう見えてるのかな」
「どうって、そりゃあ…」
周りで滑っている人たちを見る。若い人からご老人まで様々。その中で俺たちがどう見えるか。
「ま、こうして2人で座っているのを見るあたり、恋人が妥当だな」
「もしくは夫婦?」
「だな」
そう思われても俺たちは一向に構わない。何故なら事実なのだからな。
「…青葉ちゃんといると、なんだかお母さんの気持ちがわかる気がするの」
「お母さん?」
「つまり…親になるって、こういうことなのかな…って」
どうやら、ひふみも俺と同じ感情を抱いていたらしい。
もしかしたら、涼風ちゃんを入れれば親子に見えるのでは…とも思ってしまう。
「…今度は、周りから親子って見られたい」
「ああ、俺もだ。次来るときは…みんなで行こう。何年先になるかわからないけど」
「うん…」
ひふみが俺に寄りかかった。俺もひふみに少し寄りかかった。
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コンコン、と襖を鳴らす。
中から遠山が顔を出す。
「立花くん、どうしたの?」
「八神はどうだ?」
「大丈夫、たぶん明日には治ってる」
「そうか」
八神はどうしたのか、旅館に着いた翌日に風邪を引いたのだ。仕方がなく、今日1日遠山に看病されていたのだ。
「んー、誰ー?」
と、八神も顔を出す。
「ちょっと、コウちゃん!」
「…立花」
一瞬、彼女はどこか不安げな顔をした。しかし、次には何かを振り切ったような笑顔になった。
「どうしたの」
「土産。ほら」
そう言ってスキーに乗ったご当地キャラのマスコットキーホルダーをわたす。
「もうちょっといいのなかったの?」
「文句言うな。これでも厳選したんだぞ、それ」
「へー…ありがと」
パン、と俺の胸を叩いて八神は部屋の奥へと行った。
「…確かに、大丈夫そうだな」
「ホント、いっつも無茶するんだから」
「ま、いつも通りってのはいいことだ。じゃあな、お大事にとだけ言っといてくれ」
そう言って俺は去った。
その後は温泉風呂に入りゆっくりした。…覗きイベントなんてやってないぞ。
特に何事もなく風呂を終え、夜ご飯となる。
バイキング形式の豪華な食セット。ひふみは涼風ちゃん達と食べているので、俺は朝と同じで倉橋と食べることにした。途中、アハゴンに絡まれたが話は聞いてない。なんでかって?面倒くさいからだ。
そのあとは何もすることはなく、各々好きな時間に寝たり、お土産やさんに行ったりしていた。
倉橋は今日、かなり動いたためか、部屋に着くなりすぐに寝てしまった。全くもって極端な生活スタイルをした男だ。
「…む」
外の景色を見ると、大きく欠けた三日月が見えた。
と、そこである場所を思い出した。
「……飲むか」
倉橋を起こさぬように静かに部屋を後にした。
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さすがに日本酒がそこらに置いてあるはずもないため、自販機で缶ビールを二本買うことにした。
誰もいないことを願いながら角を曲がると、そこには1人、女性が座っていた。
しかし、その後ろ姿を見ただけで、すぐに正体がわかった。
「…ひふみか」
「戒くん…?」
ひふみは俺と同じく缶ビールを片手に景色を堪能していた。
「横、座るぞ」
「うん」
三日月が夜空に王の如く居座っていた。そんな王を讃える聴衆のように星は輝いている。
「後で1人酒でもしようと思ったんだが、まさか先客がいて、しかもそれがひふみだとは」
「私もビックリした…まさか戒くんが来るなて」
「考えることは、お互い同じってわけだな」
プシュッ、と音を立てプルタブを開ける。飲もうとすると、ひふみが缶を出した。俺もそれにならい、缶を軽く当てた。
しばらく2人で黙って三日月を堪能していると、ひふみがポツリと呟く。
「月が綺麗…だね」
それは夏目漱石の言葉だったか。I love youを日本語に強引に訳した言葉。センスはあるがなんのこっちゃだ。
「わかってる」
「……もう」
酔いが回ってきたのか、お互いに口調が明るくなる。
自分の愛しい人を隣に、そして綺麗な夜空を肴に飲む酒はこんなにも美味いのか。
「楽しいか?」
「うん…充実してる。君との生活も、青葉ちゃんたちとの仕事も」
「そうだな…」
俺もひふみと同じで充実している。かつてないほどに。
その幸福感からか、もしくは酔いが本格的に回ったからか、どちらかわからないが、俺は缶をあげた。
それに気がついたひふみも缶をあげる。
「「乾杯」」
コンッ、と軽い音だけが響いた。
今回は全体的に大人な感じ。
今回登場した遊佐先輩というのは、5話で少しだけ出てきたあの先輩です。まさかのエロゲーマーという衝撃設定で名前デビュー。
ところで話は変わるけど、今の僕のツイッターのプロフ画のひふみん、あれOVAの時のなんですけど、可愛すぎませんかね…?