転生したら滝本ひふみの彼氏になった件について   作:飛び方を忘れてるカラス

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2話連続です。
戒くんのプロポーズはどうなるのか…。


白い幸せ

 

12月24日。

クリスマスイブである今日、俺は朝にある誘いをした。

 

「なあ、今夜どこか行かないか?」

 

「…いい、けど。どうかしたの?」

 

「ほら、クリスマスイブだろ、今日。それで…」

 

「…うん、わかった。じゃあ、早めに仕事を切り上げるよ」

 

「ああ、よろしく頼むよ」

 

これが俺が朝に誘った文句だ。

我ながらぶっきらぼうというか、不器用というか、拙いというか…まああまりいい誘い方ではなかっただろうが、誘うことには成功した。

 

そして今は仕事終了し、俺は外で手に白い息を吐きながら待っていた。

 

「さみー…」

 

雪でも降りそうなぐらい寒い。というか降るだろうこれ。

 

「手袋でも持ってくるべきだったか…?」

 

本当に寒いわ。手の感覚がなくなりそうだ。ホットコーヒーでも自販機で買って暖めるか?

…と、

 

「お待たせして、ごめんなさい…!」

 

「ああいや、大丈夫大丈夫。手の感覚が少しなくなってきたぐらいだから」

 

「じゅ、十分重症じゃ…?」

 

「大丈夫だ。もう長いこと生きていれば手の感覚の一つや二つなくなるって」

 

ひふみを安心させるように言う。

まぁ実際、転生前の人生合わせればひふみよりも圧倒的に年上なんだけどさ俺。

 

「ま、そんなことより行こうぜ。雪が降りそうなぐらい寒い…」

 

「ちょ、ちゃっと待って」

 

「ん?」

 

ひふみに呼びとめられ、足を止める。

すると、ひふみが俺の手を掴んできた。

 

「こうすれば…あたたかい…」

 

「…あー…」

 

まったくこの娘は。

めちゃくちゃ可愛いじゃないですかこの野郎めが。

 

「…行くか」

 

「うん」

 

どうにかして自分の理性を治め、歩き始める。今回の目的は理性を爆発させることではない。そこのところをしっかりと肝に命じておかなければ。

 

その後は、まあ適当というか、数年前のクリスマスのようにレストランとかに行くという感じではなかった。

もともと予定も立てられなかったので、仕方がないといえば仕方がないか。

 

イルミネーションを見にそこら辺をぷらぷらしたり、何か面白そうな雑貨屋があれば立ち寄ったり、そんな感じだ。

 

予定もクソもない、デートと言えるのかわからないが、俺は楽しい。

リュックサックに入っている紙袋を思い出す。これを渡す。これを渡すことが今日の目的だ。

そして、俺とひふみは進む。

…俺は何を言っているのか。

正直な話、緊張しまくっている。だが、笑顔で景色を見ている彼女を見ていると、少しだけ緊張が和らいだ気もする。

 

 

 

辺りが暗くなってきた。

さすがに寒さがえげつなくなってきたので、帰ることにした。

普段ならバイクで帰っているのだろうが、生憎と今はヘルメットが一個、壊れてしまっている。その事もあり、最近はひふみをバイクに乗せていなかった。と、そんな事を思いながら、いつ指輪を渡すか…と、タイミングを模索している。

 

「……あの…」

 

「ん?」

 

「その、前から気になってたんだけど……何かあった?」

 

「…は?」

 

何かあった?

どういうことだ。主語を使ってくれ。日本語を使ってくれ。

 

「えーっと…どういう意味?」

 

「つまり…戒くん、何か悩んでいるのかなって…」

 

「悩んでいるって…」

 

…まあ、今は君のことについて色々と思考を巡らせていて、ある意味悩んでいる状況なんだけどさ。

 

「そんな、別に悩んでなんかないよ」

 

「…本当?」

 

「ああ、本当。マジマジ」

 

「……」

 

なんでそんな疑いの目で見るんですかねぇ。別に俺は無茶をするような性格ではないよ。多分。

 

「……もし」

 

「?」

 

「もし、何か困ったこととか、悩んだりしたら…」

 

と、そこでひふみが頭を俺の胸にコツン、と当ててくる。

 

「私に、相談して。頼って。…それぐらいしか、出来ないけど」

 

「……」

 

…何をしているのか、俺は。

目の前には、こんなに俺のことを思ってくれてる人がいる。

気弱で、内気で、そんでもって人見知り。頼りがなさそうに見えるが…。

 

「ズリィな…そういうとこ」

 

なんでそこで、私に頼れ発言をするのかねぇ。

そんなの、惚れ直すに決まってるじゃん。

 

「…よし」

 

俺の胸に頭を当てているひふみを、そっと撫でる。

首だけ動かして俺を見る彼女に、俺は全力の笑顔を作って言った。

 

「行くか」

 

「え?」

 

そう言って俺はひふみの腕を引っ張って走り出す。

冷たい風が頬を突き刺すが、そんなのどうだっていい。

ひふみが転ばないようにと少し速度を緩めながら、走り続ける。

 

「ど、どこに…」

 

ひふみからの問いに、俺はあえて反応しなかった。

 

さっきのひふみからの心配の声で、ずーっと思い悩んでいたことが全て吹っ飛んだ。

そして、すべてのプランが浮かび上がった。

向かっている場所はそれほど離れてない。なら全力で走ろう。ひふみには悪いが、これは成功させる。

 

そうして着いた場所は、イーグルジャンプだった。

 

「な、なんで…?」

 

息を切りながら俺に聞くひふみ。

 

「悪いな、走らせちゃって」

 

「それは…もういいけど」

 

どうやら涼風ちゃんとの生活で、少し体力がついたらしい。少し余裕があるようだった。

 

「中に入ろうか」

 

「えっ…でも」

 

「大丈夫。すぐ終わるから」

 

そう言って扉を開ける。

開くかどうか不安だったが、意外とすんなり開いた。もしかしたら誰かいるのかもしれない。

…だいたい検討はつくが。

 

エレベーターに乗り、普段なら降りる階を過ぎてさらに上に行く。

そして、一番上の階に着いた。そうして慣れない足つきで、普段は開けない扉を開く。

 

扉を開くと、冷たい風が俺とひふみを包んだ。

屋上だ。

 

「屋上…初めて来た」

 

「俺は二度目か」

 

一度目は先輩と一緒にここに来た。ここからの景色が綺麗なんだよー、という話を聞いたな、そういえば。まあ、今となっては別のビルが建って、その綺麗な光景も拝めなくなってしまっているが。

 

「そういえば…俺とひふみが初めて話をしたのって、確か学校の屋上だったよな」

 

唐突だな。我ながら笑ってしまうほど唐突だ。

 

「…そういえば、確か」

 

ひふみも思い出してようだ。

あの頃はひふみの人見知りも結構ひどく、まったく会話が続かなかったっけか。

 

「…というか、なんであの時に笑ったの?」

 

「笑った…?」

 

「俺が絵を褒めた時」

 

「あ…」

 

と、ひふみは思い出したかのような声をあげる。

 

「あの時は…素直に嬉しかったの。私の絵を褒めてくれた人、君が初めてだったから」

 

「俺が?あんなに上手かったのに?」

 

「うん。お父さんとお母さんはあまり理解してくれなくて…今は納得してくれたけど。それで、友達もいなかったし…褒めてくれる人が、いなかったんだ」

 

そういうことが…。

確かに、親御さんは結構厳しい方だと聞いていた。

 

「だから、あの時はただただ嬉しくて、自然と笑っちゃったの。慣れてなかったからかな」

 

夜空に煌めく星を見て、ひふみは笑った。今となっては自然に出せるその顔も、昔は誰にも見せていなかった。

 

「よかったな。夢が叶って」

 

「叶ったのは、戒くんのおかげ。一緒に東京に来てくれて、夢を叶えてくれた」

 

「俺は何もしてないよ。ただ、たまたま趣味が合ってて、就職口に困ってたから、ひふみと一緒に来ただけだよ」

 

照れ隠しのために言ったが、なぜか皮肉っぽくなってしまった。

 

学生時代のことを思い出していると、もう一つの記憶も思い浮かんで来た。

 

確か、告白も屋上だったか。

どうしようとなく泥臭かった記憶があるが、それも今となってはいい思い出だ。

 

そんな学生時代、上京したて、そして今の思い出を巡らせる。

 

ああ、いいなぁ。

 

俺は自然にリュックを開けて、紙袋を取り出す。そして紙袋の中から小さなケースを手に取った。

 

一度深呼吸。

 

冷たい風が吹く。

 

 

 

「滝本ひふみさん、俺と結婚してください」

 

 

 

 

それはごく自然に、当たり障りのないことを言うかなように。

俺でも信じられないぐらい自然と出た。告白の時とは真逆だ。すごい落ち着いている。

 

しかし、ひふみは時が止まったかのように動かない。

 

「…あの、もしもし?」

 

少し心配になったので顔を覗き込むと、ひふみは涙を流した。

 

「え…」

 

「あ、れ……なんで…」

 

自分でも訳がわからない、とい風に涙を手で取る。しかし、いくら取っても涙は止まらなかった。

 

「なんで…なん、で……」

 

ひふみの声は徐々に潤んできた。

 

「止まらない…なんで……」

 

その姿を見ていた俺も、なぜか涙が出てきた。

それはごく当たり前のように、意思に反して涙が出てきた。

 

「なんで…戒くんも……」

 

わからない。もらい泣きというやつか。

しかし、それでもお互いの涙は止まらない。いや、止まるはずがないのか。

 

俺は、ひふみの体を強く抱きしめた。

突然のことにびっくりしたらしく、体を震わせたが、受けいたかのように手を俺の背中に回す。

 

「ごめん、遅くなった…」

 

謝罪をする。

本当に遅くなってしまった。テレビ番組で自慢できるほどにだ。

 

「うん、遅かった」

 

「ごめん」

 

「許さない」

 

「…手厳しいなぁ」

 

「これからずっとネタにしていく」

 

「されても仕方がないな」

 

「……」

 

俺の方はやっと涙が止まったが、ひふみは止まってないようだ。

しかし、多分受け答えできないほどに泣いてはない。

 

「…返事は、どうしますか?」

「いい…」

 

「それはどっちの意味で?」

 

いじらしく聞いてみる。

するとひふみは仕返しのように腕に力込めた。

 

「ぐぉぉ…っ!」

 

「……はい、お願いします」

 

小さく、涙声で呟いた。

その声を聞いた俺は、笑った。

 

「はははははっ…」

 

「ふふっ…」

 

ひふみもつられたのか、俺に続いて笑う。

しばらく笑い合い、そして体を離す。

そして目と目を見て、俺は真摯に聞く。

 

「では、これからもよろしくお願いします。滝本…いや、立花ひふみさん」

 

「こちらこそ…旦那さん」

 

そうして俺とひふみはキスをした。

 

そんな二人を包むかなように、優しく雪が降ってきた。

 

12月24日。ホワイトクリスマス。

その日が、俺とひふみの結婚記念日となった。

 





はい!これにて″転生ひふみん″は完結です!
長かったです。主に私の更新の間が。

元々は思いつきで書いた作品なので、賛否両論となりましたね〜(笑)終わり方もなんだか雑ですし。
一応本編は完結なのですが、番外編とかは続けていきたいと思います。主に結婚後の生活とか、回収しきれてない原作エピソードとかを。

次話は、同時刻のとある人物についてを書いてみました。
それでは、またどこかで会えたらお会いしましょう!それでは!

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