転生したら滝本ひふみの彼氏になった件について 作:飛び方を忘れてるカラス
色々と趣味を優先してみたら筆が止まってた…。
自宅。
風呂から出た俺は柔軟体操をしようと前屈を始める。
すると机の上に置いていた携帯電話が振動する。静かな空間に突然振動するので少しびっくりした。
画面を見てみればその件はメールだった。
差出人は涼風青葉。
その内容はというと
〈夜分遅くにすいません。
今日、八神さんから次は3日で終わらせろ〜と言われてしまいました(>_<)
なにか早くに終わるアドバイス的なのはないでしょうか?〉
…俺は彼女からどんな立場の人間として見られているのだろうか。
聞くならキャラデザの奴らに聞けよ…。
正直な話、あまりアドバイスというのは頭に浮かばなかった。
〈とにかくパソコンに慣れろ。以上〉
その後、数分足らずでまたメールが届き
〈酷い!もう少し何かないんですか!?〉
何かも何も、まず班が違うんだからそんな無茶振り言うでない。
〈その苦しみはキャラデザ班の人間全員が味わっているんだ、お前も謹んで受けろ。以上〉
〈そんな…立花さんが頼りなんです〉
だからなんで俺なんだよ…
〈そんなこと言うなら飯島にでも聞いてみろ。あいつと歳近いだろ〉
〈ゆんさんの連絡先知らない…というか、立花さんと遠山さんの連絡先以外聞いてないんですよ〜…〉
あー…なるほどね。それは後々にも響きそうなので、一応連絡先を教えることにした。
慣れない手つきで携帯を操作し、飯島とひふみと…篠田も一応入れるか。あとで泣きついてきそうだし。
送信。
〈今送ったのが涼風ちゃんの周りの人達の連絡先。一応俺からの紹介って挨拶をしとけよ。それじゃ〉
暫く経って返信。
〈ありがとうございます!立花さんって意地悪そうに見えて、意外と優しいんですね!〉
〈あ、間違えた。今の連絡先、お偉いさん方のだったわ〜、間違えてメッセージ送ったらクビになっちゃうかもな〜〉
君は今、言ってはいけないことを言ってしまったぞ。
〈すいませんすいませんすいません!調子乗っちゃいました許してください〜!〉
〈ま、それは冗談だ。そんじゃ、健闘を祈るよ〉
〈はい、本当にありがとうございました!〉
そして涼風ちゃんとのメール間での会話は終了する。
そこで壁にかかったカレンダーを見てふと思い出す。
そういえば、明日は涼風ちゃんの歓迎会があったな、と。
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「よーし、じゃあ青葉の入社を歓迎して…」
「乾杯!」
八神の音頭と共にジョッキをぶつける。
みんなそれぞれ目の前に出された鍋に箸をつける。
「あ、ちょっと八神さんそんな肉持ってかないでくださいよ!」
「こういうのは早い者勝ちなんだよー!」
「2人とも、もう少し静かに食べなさいよね…」
篠田が真っ先に肉に手をつけた八神に突っ込む。
ひときわ騒がしいその2人に遠山が軽く注意をする。
と、そこで涼風ちゃんが少し緊張した面持ちで箸を止めていた。
「今回は会社の奢りだ。好き放題食べとけよー。なかなかないからな」
「あ、はい。ではそうさせてもらいます…」
そう言ってやっと鍋に手をつけた。
うん、鍋の時はみんなテンションMAXで食べているのがいいな。
「戒くん、注文お願い」
「ん?お、そうだな。すいませーん!」
ひふみから注文のお願いがきた為、店員さんを呼ぶ。
人見知りがマシになったとはいえ、まだまだだ。こうして人に頼まないと注文が出来ない。
「えーっと、どれにするんだ?」
「じゃあ、これで」
そう言って指を指したのは、かなり高い方に入る日本酒だった。会社の奢りのため、容赦せずに飲むつもりなのだろう。
ついでに俺も同じのを頼むことにした。
「んじゃ、これを2つ」
「はい、ありがとうございますー!」
店員さんが足早に去って行く。
「ひふみん、今頼んだの結構高いやつじゃないの?」
「うん、会社の奢りだから」
そう言って「フフフフ…」と笑いそうなぐらいの黒い笑顔を見せる。
あれ、お前そんなキャラだったっけ。
「立花、立花ー」
「はいはい、なんだ?」
八神に呼ばれたので振り向いてみれば、たこ焼きが乗った皿を渡される。
「ささっ、どうぞ食べてみて」
「はあ?」
どういう意図があるのかわからないが、とりあえずたこ焼きを口に運ぶ。
「いや、普通のたこ焼きだぞ」
「ちっ、ハズレだったか…」
「お前は俺に何を食わそうとしてたんだ」
追求する気は無いから別にいいけど…。
「青葉青葉!これ食べてみて!」
「え?何ですかこれ…」
次の標的は涼風ちゃんか…。
渡されたたこ焼きを口に入れると、顔を赤くする。
「辛っ!何ですかこれ!?」
「ロシアンルーレットたこ焼き!青葉当たりー!」
子供のようにはしゃぐ八神に、涼風ちゃんは悔しそうな顔をする。
後輩相手に何をやってるんだこいつは…。
ピリリリリ…
「ん?」
何だ、携帯が鳴り出したぞ。
送り主は…葉月しずく。
「……」
「だれだれー?って葉月さんじゃん」
ぶっちゃけ出たくない。
俺は何だかわからないが、あの人が苦手だ。
何というか、底が読めないというか、掴み所がないというか…。
「出た方がいいんじゃないの?一応あの人上司なんだし」
「あー…出るか。少し席外すぞ」
腐っても上司だ。
後々どういう仕打ちを受けるかもわからないし。
言うことを言い、一旦店の外に出る。
「はい、もしもし」
『やあ、歓迎会楽しんでるかい?」
「あなたに電話をかけられるまではエンジョイしてました」
『そうか、それは悪いことをしたね』
「で、用件は何ですか?用がないなら切りますよ」
早く戻りたかったので、少し声を低くして言う。
『なんとなく』
「じゃあ、また今度」
『待て待て待て待て!悪かった悪かった、こっちが悪かった!』
ならさっさと用件伝えろ、と言いたかったが我慢する。
『いやまあ、ちょっと重要な話があってだね…』
「…?」
さっきとは違う葉月さんの真面目な声に、俺はちゃんと聞くことにした。
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「さて、男子もいなくなったわけだし…女子会トークでも開催しようか!」
戒が席を外したことにより、この席には女性陣しかいなかった。
そこをついて、コウは女子会トークを始め出したのだ。
「で、どうなのよ青葉。彼氏いるの?」
「えぇっ!?」
青葉は顔を赤くして驚く。酒気のせいもあるのだろうか、赤色は少し濃かった。
「そ、そんな、いるわけないじゃないですか!第一、関わりのある男性自体少ないし…」
「少ない、ということはいるんだなー?」
コウが意地悪そうな顔をして追求する。
「一応、高校の時の後輩とは今でも連絡は取り合うし、たまに会ったりもしますけど…。でも、そういう関係じゃないんですよ!」
必死になって否定する。
それを見て笑うコウは、やっぱり青葉は弄ると面白いなー、などと思っていた。
「むぅ…なら、八神さんはいるんですか?私にさんざん言ったんですから、まさかいないとは言いませんよね〜?」
「いっ…!?」
まさかの逆襲に、コウは思わず声をあげる。
「い、いないに決まってるんじゃん!…でも、好きな人は…」
「おお!」
「マジっすか、八神さん!」
「へぇー、意外やわー」
青葉、はじめ、ゆんの順に驚きの声をあげる。
彼女の恐ろしさを知っている3人は、コウのことをずっと仕事一筋の人間だと思ってからだ。
「そ、それより!はじめはどうなの?いたの?」
半ば強引にはじめにシフトチェンジをする。
「何で過去形なんですか…まあ、いませんでしたけどね…」
どこか遠くを見るかのような目でボソリと呟く。
その目からは哀愁が漂っていたので、これ以上は聞くのはやめようとコウは思い、その横にいた少女に聞く。
「ゆんは?」
「うちも右に同じです。弟と妹の世話が忙しかったので、あまりそういうことに関われてなくて…」
「あー…そう」
なんだ、結局はみんないないじゃないか。
「ひふみ先輩は彼氏さんいるんですか?」
「え…!?」
突然の話題変更に戸惑うひふみ。
顔を赤らめながらも、彼女は外の方に目を向ける。
そこには、上司との電話を終えて戻ってきた立花戒の姿が。
「え?」
今、ひふみは自分の質問に答えているのだろうか。
もしそうなのならば、それは立花戒ということに…。
「青葉ちゃん知らなかったの?立花さんとひふみ先輩は付き合ってるんよ」
「え、えええぇっ!?」
ゆんの言葉に、思わず青葉は声を上げた。
「高校の頃かららしいよ?いやー長いっすねー」
「うぅぅ〜…」
はじめからのひやかしに顔を赤くし、手で顔を覆うひふみ。
その可愛らしい姿に、少しだけ青葉はいじめたくなったが、それを心の内に押さえ込んだ。
「何話してんだ〜?」
そうこうしてると、戒が席まで戻ってきていた。
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あれから1時間とちょっと。
殆どのメンバーの顔が赤い状態で、我々歓迎会組は店の外へ出た。
「えー、それではもうお開きなのですが…二次会来る人ー!」
「私はゆんを送ってきますので、この辺で」
篠田の肩には小さな寝息を立てた飯島が。
「なら、立花とひふみんは」
「俺は今日はいいや。ちょっと用事がな…」
そう言ってひふみの方を向く。
するとひふみは自分に関係することと気づいたのか、控えめな声で言う。
「そ、そういうことだから私も…」
「そっかー。なら私とりんと青葉で行くかー!じゃあまたねー!」
「あ、今日はどうもありがとうございました!」
「じゃあね〜まらね〜」
相変わらずテンションの高い八神と、律儀に頭を下げる涼風ちゃん、酒が入って完全に酔った遠山達は夜の繁華街へと姿を消した。
「それじゃあ私達もこの辺で。じゃあまた」
「おう、気をつけて帰れよー」
「じゃ、じゃあね…」
飯島を担いで歩く篠田を見送る。
そして静かな空気。
「それで…話って?」
「ん?ああ、まあここじゃなんだし、ちょっと移動しないか?」
ひふみは俺の提案に頷き、一緒に歩き出す。
着いた先は近場の公園。
この時間帯にはさすがに誰もいなく、ブランコが風に揺られてる音が響くだけだった。
とりあえず、酔いを覚ます(双方、酒には強いが)ために自販機で水を2本買う。
1本をひふみに渡し、もう1本は蓋を開けて飲む。
「それで、話って?」
「ああ、その…な」
なんだか、いざ言おうと思ったら照れ臭くなってきた。
「…結婚、のことについてだ」
「……!」
その言葉に、ひふみはわずかに反応した。
2人の体に、春にしては冷たい風が通り抜けていった。
一応、この物語の終わりは結婚を予定にしてます。
どれくらい先になるかはわかりませんが。