転生したら滝本ひふみの彼氏になった件について 作:飛び方を忘れてるカラス
嫌な予感というのは大抵当たる
【フェアリーズストーリー、続編製作中!】
「20万本を超えるヒットを記録したフェアリーズストーリーの続編を製作中であることを、株式会社イーグルジャンプは発表した。
社長の…」
「うーわ、また随分とデカく報じられちゃってますね〜」
「無名の会社が突然スマッシュヒットをかっ飛ばしたんだ、続編が出るのは当然っつーことだろ」
「なんかファイナルファンタジーでヒットしたスクエニみたいですね」
「あ、言われみりゃ確かに」
「…いいから仕事してくださいよ」
ゲーム雑誌を開きながら先輩と話す倉橋。
そう、俺が初めて製作に携わったフェアリーズストーリーの続編の製作が決定したのだ。
そして今、俺達グラフィック班は続編の製作に追われているのである。なのにこの人達ときたら…。
「もう昼休みは終わったんだから、さっさと進めますよ」
「後輩に言われちゃ終わりってか。へいへい、働きますよ〜っと」
「まったく、立花ちゃんは真面目なんだから〜」
「離れろ気持ち悪い電波はね返せ」
ぐいっ、とくっついてきた倉橋の顔をどかす。
はあ…こんなんで完成すんのか?
マイペースな同僚達を見て、そう思わずにいられない。
––––––––––––––––––––––––––––––––
「やあ、ちょうどいいところに。ちょっといいかな」
「…はい」
ああ面倒な人に会ってしまった。
眼鏡をかけた白色の髪のロングウェーブの女性の名は葉月しずく。
フェアリーズストーリーの企画担当のディレクター。つまりは俺達の上司である。
「やっ、なんだか「面倒な人に会ってしまったな」っていう視線を感じたのだが気のせいかな」
「キノセイデスヨキノセイ、ハハハー」
うん、気のせいだから。
別に俺そんなこと思ってもないからね。思ってないったら思ってないんだよ!
「まあいいや。それより、この書類を八神に届けてくれないかな」
「八神にですか?いいですけど、葉月さんが行けばいいじゃないですか。その方があなた的にも役得でしょうに」
言葉通りだ。
この人は可愛い女の子が大好きなのだ。これ以上は追求させないでくれ。
「ああ、そうしたいのは山々なのだが…生憎と緊急の会議が入ってしまってね」
「ああー…」
なるほど。そこでたまたま見かけた俺に頼んだと。
「わかりました。それじゃあ」
「ああ、任せたよ」
「ああっと、そうだ」
書類を受け取り、踵を返すと、葉月さんが思い出したかの様に声をかける。
「八神のこと、ちょっと気にしといてくれないか」
「八神を?どういう…」
「ああっ、時間が!それじゃあまた!」
常に飄々としているあの人にしては珍しくあたふためいた状態で去っていく。
さっきの言葉の意味、どういうことだ…?
「すいません!」
俺がキャラデザ班の所へ向かっていると、大きな声が聞こえた。
その直後に一人の女の子が走って来て、俺とすれ違った。
…なんだ?
八神のデスクに着くと、八神は顔を机に向かって伏せていた。
「…何してんだおまえ?」
「おおっ!いたのかよ…」
「ついさっきな。ほれ、葉月さんから」
「ん、ああ、ありがと。どれどれ〜…はあ…まったく、あの人は無茶しか言わないな…」
書類を受け取り、ペラペラと捲ると、彼女はため息をついて愚痴をこぼした。
「ありがとね」
「おお、まあそれはいいんだが…今の子、確かおまえのとこのだろ?大丈夫なのか?」
「……ッ」
俺が先ほどの女の子のことを指摘すると、途端に顔を変えて目をそらす。
…図星か。
こいつ、後輩の扱いが上手くいってないのか。
「…なんかあるんなら相談しろよ。しっかり者の遠山と、ひふみがいんだからよ」
俺はあえて抽象的に言った。
多分、今の八神にストレートに言っても、ちゃんとした答えは返ってこないだろう。
「…わかってるよ」
そのまま会話が途切れる。
なんで黙るんだよ、すげぇ気まずいじゃねえか。
ああ誰か助けて。この負のスパイラル的な何かから俺を解き放ってくれ。
「あら、どうしたの立花くん」
俺の願いは通じたのか、女性の声が俺達の間に入った。
声の主は遠山りん。ああよかった。この人なら上手いことやってくれるだろう。
「ああ、葉月さんから書類を貰ったもんでな、八神に届けに来たんだ」
「そうだったの。わざわざありがとうね。…って、コウちゃんどうかしたの?」
「…ッ、なんでもない!」
八神は珍しく声を荒げてヘッドホンを付けてパソコンと向かい合ってしまった。
まったく、こいつは…。
「なあ、遠山。一ついいか」
「…?なに、どうかしたの?」
「八神のこと、ちょっと見といとくれ。このままだと、多分やらかす」
葉月さんから言われた事を、そのまんまの内容で遠山にも言う。
これは俺一人ではどうにもならない。こいつはこのままだと、いつか壊れてしまう。俺はそう直感している。
「…?やらかすって…?」
「じゃ、そういうことで」
戸惑う遠山をおいて、半ば強引的に俺はキャラデザ班のデスクから立ち去る。
後でひふみにも言っておこう。
一人の友人として、この事態は見過ごせない。
だが俺はこれから起こるであろう、嫌な予感が頭から拭えない。
「…ちっ、絶対にそうなるなよ」
俺はその嫌な予感をイメージし、そうならないようにと祈りを口にする。
…後日、その嫌な予感は的中をしてしまった。
キャラデザ班の、八神の下の社員が一人、辞職した。
コウちゃんのトラウマである、後輩潰し。
実はこのエピソードは書いてみたかったんです。
後々の物語、ただいま随筆中のコウちゃんヒロイン作品へとも繋がっていく予定。