後継者達と世界の運命   作:AZΣ

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お久しぶりです!書こうと思った矢先にインフルエンザになってしまいまして、遅れました。待っていて下さった読者の方々に感謝致します。では、本編どうぞ!


第陸話-明けの明星

パイモンが俺を(あお)った時、少しだけ見えた碧愛(みりあ)の辛そうな顔。その顔を見た時、俺の中で何かが切れた。

 

この時、俺の左手は本来ならば絶対に抜くはずのない剣へと伸びていた。その剣に人差し指から触れていくにつれて、俺の心は少しずつある感情によって侵食されていった。

 

その感情とは、ただ純粋に目の前で呼吸をしている生物への憎しみ。完全なる、圧倒的な……殺意。

 

そして、俺の心にその感情を芽生えさせた剣の名は、

『ダーインスレイブ』。

 

「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!!」

 

俺はダーインスレイブによって芽生えた殺意の(おもむ)くままに、パイモンに向かって走り出した。

 

当然、彼に操られている四人の候補者達が止めに入る。

 

しかし、何故か彼等の動きが少しだが(にぶ)い。突如、様子が変わった俺に戸惑ったのだろうか。だが、所詮(しょせん)はパイモンに精神までも操られている傀儡(くぐつ)。すぐに俺の前に立ちはだかった。

 

まずアマイモンが、先程と同じく詠唱を始める。

「我が命に従い、(かたち)を持て……!?」

 

地面に手を当てると、再び巨大なゴーレム達が姿を現した。しかし、彼がゴーレム達を呼び出した瞬間、彼の身体はゴーレムもろとも、粉々に砕け散った。

 

次はベルゼブブ。彼は自分の得意な風の属性の魔法と眷属の蝿の大群を従えて、俺に向かってきた。

 

「は……? 一体何が……」

 

しかし、彼も俺に追い付く事は出来ず、容赦なく首を切り捨てた。

 

オリエンスは、自らの身体に炎を纏い、そして俺の周りにも、炎の壁を造った。しかし、俺がダーインスレイブを一振りすると、炎の壁は裂けた。

 

「こ、この俺の炎が……バカなぁぁぁ!」

 

そして彼の脳天にダーインスレイブを振り下ろした。彼の頭は四散し、後には血だまりだけが残った。

 

そして、四人の中では最後に残ったアスタロト。彼は自分の能力で未来を見る事が出来る。

 

そのため、俺の一撃を避けたがその瞬間、俺がアスタロトの避けた場所へ先回りして、刹那の内に切り刻んだ。

 

俺が何故、未来の見えるアスタロトを先回りする事が出来た理由。

 

それはダーインスレイブの力。このダーインスレイブは生き血を吸う度に切れ味と、使用者の速度を上げる。

 

しかし、デメリットもある。一度この剣を抜いてしまえば、最低一人、または一体の生物の命を奪わなくてはならない。

 

そして一番のデメリットは、速度は際限なく上げる事が出来るが、身体が付いていかない事だ。

 

この剣を長時間振るっていれば、やがてどんな怪物だろうが耐えきれない速度になる。

 

そして、使用者の身体は速度に耐えきれずに砕け、ダーインスレイブの(かて)となる。

 

この時、俺の身体はまだこの速度に付いていけていた。そして、最後に残ったパイモンに目を向けると、何故か俺の方を向いて、(あざけ)るように笑っている。

 

そして、奴の笑みが一層深まった時、奴が操っていた碧愛の手に握られていたナイフが……彼女の首を切り裂いた。

 

血が飛び散る。彼女の白い肌と銀髪の上ではさらに良く目立つ。

 

次の瞬間、俺の(わず)かに残っていた理性が吹き飛び、狂気に支配された。

 

「くきゃ。くきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃあ!!!」

 

俺はパイモンに今出せる最大の速度で切り込んでいき、奴の両腕を切り飛ばした。奴の両腕から大量の鮮血が吹き出す。

 

「ああああああ!!! ちくしょう……腕がぁ! よくもこの俺様の腕を! 俺様こそが正統な()()()だって言うのにぃぃぃぃ!!! ……っ!?」

 

突然、パイモンの顔色が変わった。

 

さっきまで痛みと屈辱(くつじょく)に歪んだ顔が、今は表情を無くし、たたでさえ白い肌が青ざめてさらに白く見えた。

 

俺が一度(まばた)きをした次の瞬間、世界の全てが光に包まれた。圧倒的な白の中にほんの少し、赤と黒が混ざっていた。

 

再び景色が見えるようになった時、俺とパイモンから少し離れた所に、黒いマントの下に白銀の鎧を(まと)った白髪の男が立っていた。背中には六枚の焼け(ただ)れた翼が見える。

 

俺はその男を前に見た事があった。しかし、男は俺には無関心でパイモンの前に立ち、やがてその口を開いた。

 

「なんと(みにく)い……。愚物め」

 

男はパイモンに向かってそう言い放った。男のその少し年老いた見た目からは想像も出来ないような、力のある、そして暗く低い声だった。

 

「わ、私はただ貴方に……貴方に認めてもらいたくて!」

 

その後のパイモンの言葉を(さえぎ)るように、男はパイモンの方に右手を向けた。すると男の全身から光が(あふ)れ出し、右手に集中し始めた。

 

「そん……な……父……さ……」

 

その光を浴びた瞬間、パイモンの身体は光の柱となって、この世から消滅した。

 

他の五人の候補者の遺体からも光の柱が発生し、恐らく方向からして、アスモデウスとアリトンの氷像(ひょうぞう)もまた、光の柱となって消滅した。

 

「ふん……」

 

「くきゃきゃきゃきゃきゃあ!!!」

 

俺はダーインスレイブが命じるがままに男に飛びかかっていった。しかし男は俺の一撃を避けようともしない。

 

俺が最高速でダーインスレイブを振り下ろすと男は、右手から光を発し、ダーインスレイブを掴んだ。

 

「くきゃ……?」

 

俺が剣を取り返そうと引っ張るが、男の腕はびくともしない。

 

そして男は信じられない事に、さらに力を込めて、ダーインスレイブの刀身をまるで木の棒を折るかのように、軽々とへし折った。

 

そして男は俺にその光る右腕を伸ばし、俺を消し去ろうとしてきた。

 

これで最後か……。俺がそう覚悟したその時、再び目の前が光に包まれた。

 

俺は死んではいなかった。何故なら目の前にある人物が立っていたからだ。その人は俺の方に顔を向けた。

 

魔界に戻る前、マゴトを倒すように俺に頼んできたあの人だ。

 

彼の見た目で思念体と違う所は、思念体だった時には短髪だったその黒髪が年月を経て長髪になっている事だった。

 

彼はその低くも優しい声で俺に、

 

「ありがとう」

 

と言って、男の方に向き直った。

 

(ようや)く会えましたね……ルシファー」

 

「べリアル……」




はい、こんな感じです。題名から分かった人はきっと多いでしょう。とうとう魔王、ルシファーが登場!かなりの終盤になってきました。
そしてこの作品を読んで下さりありがとうございました、感想などを頂けると嬉しいです、お待ちしています!

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