昨日徹夜しようと4時まで起きてたも、寝落ちして7時まで寝てた作者でございます。
いやぁでも7時で起きれたのは良かったです。
小説投稿できたのでね、まあ取り敢えずどうぞ、
「クッセェ…んだこの焦げ臭い匂いはよォ…」
「美野里、大丈夫か?」
「ケホ…コホ……うん…大丈夫…」
黒煙が充満に溢れる中、毒ガスの被害から免れた爆豪、轟、美野里は、音を立てないよう密かに宿泊施設に向かっている。
この近くに敵がいる危険性がある、音を立てれば気付かれてしまう事もある…
野蛮な爆豪も、出来れば戦闘を避けたいらしい…
まァ尤も、マンダレイから指示を出されてるのが一番の理由だろう。
美野里は鉄哲と夜桜と離れ、代わりに爆豪と轟と一緒に施設に戻るよう夜桜に頼まれたのだ。
最初は「嫌だ!美野里も…」と言いかけたのだが、この状況の中夜桜の指示に従うのが妥当だと判断し、美野里は渋々と二人に付いてきてるのだ。
それに、もう一人いた円場は毒ガスを吸ってしまった所為か、倒れてしまったのだ。
轟が背負ってるので良いものの、仲間が倒れてる姿は見たくはない。
「
美野里もう嫌だよ…帰りたい……夜桜ちゃん、四季ちゃん…無事…かな…?」
今にも泣き出しそうな美野里は、目を潤せていた。
暗闇と共に不安に包まれる三人…しかし
「うるっせェなチビ、一々泣くんじゃねェよ…」
「爆豪?」
「ッ!!」
厳しい彼の声に轟は首を傾げ、美野里は面食らった顔を見せる。
美野里だけでなく、爆豪は雲雀や美野里と言った幼い性格を持つ子どもらしい人間は苦手だ。
自分が素を出しただけで直ぐに怯え泣くし、図書館の一件ではエライ目に遭った(特に切島が)。
だから当然、美野里は泣き出しそうになる。
「おい、爆豪…美野里泣かせたらダメだろ…もう少し言葉を…」
「あっ!?うっせぇ喋んな舐めプ野郎!!」
…多分、この組み合わせは最悪だと思う。音を立てずに施設に戻るなんて出来ない。
爆豪が叫んでは隠密行動も意味がない。
こんな大声を出されては誰かに気付かれる。
それはそうと、美野里は足を止めて今にでも泣き叫びそうだ。本当に幼稚園か…なんて思うし、爆豪も轟も反応に困っている。
「美野里…爆豪が怖いのは分かるが…今は…」
「はァ!?何で俺が怖いとか俺の所為になるんだクソ野郎!」
「いや、だって――」
「――違うの…」
「あ?」「え?」
美野里の発言に爆豪と轟は疑問を浮かべる。
違う…とは、爆豪の事で泣いてるんじゃないんだと思う。
彼女は泣き虫でもあるが、爆豪じゃないとなると、何なのか?
何故美野里は、立ち止まったまま、震えてるのだろうか。
それは…
「あれ…見て……」
小刻みに震える美野里の指を差す方向。
そこには、見慣れぬ人物が、地面に膝をついて背中を向けている。
――人?
見た感じ黒い布で体全身を覆い、拘束具やらで体を縛り付けられている模様、その怪しい人物は此方に振り向く事なく、何かを眺めている…
「……おい、待てや…俺たちの先って…誰かいたか?」
爆豪の言葉に轟は、みるみると恐怖に表情を歪ませる。頭の中に二人の人物が過ぎる。
前のチームは確か…
「常闇と…障子――!!」
彼らが無事かどうかは分からない…
ただ、三人の視界にはにわかに信じ難いものが、映っている。
その人物が見つめている視線の先は、べチャリとこびり付く赤い鮮血。
そして…斬られた腕――
「…ああ、見惚れてた。
いけない、イケない…仕事しな…くちゃ…
綺麗な肉面だァ……あぁ、あァ…ダメだ駄目だ駄目だ……
集中出来ない…
仕事しなくちゃ…いけないのに……僕の…後ろに…人が三人もいる…そう考えると……肉面があァ……
――でも、
ブツブツと物騒な事を呟いている。
一体何の事か知らないが、声から察するに男性であることは確かだ。
男は三人が居ることを知りながら、振り向くことなく悠長と語り出す。
「あぁ、あァァ……殺しても…死んでも良い人間が…この場所にいるなんて……夢…見たいだァ…
あああァァァ!!駄目だダメだろ!仕事しなくちゃ…いけないのに!
肉面が…綺麗で……もォ、誘惑すんなよもおおおおおおぉォォォォォーーー!!!」
突然発狂し叫び出す男に、美野里は僅かに体を反応させる。
轟と爆豪は至って普通だ。だが、血生臭い匂いには何とも…
この腕が一体誰のものなのかは知らないが、前のチームにいた常闇か障子である可能性は高い。
他にも青山や耳郎のペアもあるのだろうが、とにかくこの腕がこの男に斬られた?のは確かだろう…
そして拘束具で縛り付けられてる男は、立ち上がり後ろを振り向く――
「――…仕事、しなくちゃ」
目元が見えないこの男は、口だけがむき出しになっており、興奮してる所為なのか、口から涎を垂らしては息遣いも荒い…
ただ次の獲物を仕留めるべく、この男は三人をジッと見つめている。
「交戦すんなだァ…!?」
そんな男に、不敵な笑みを浮かべる爆豪勝己。
恐らくこの男も…他の敵や忍とは負けず劣らず強いだろうことが安易に分かる。
この男が発する異常な殺気は、肌身で感じるだけで背中から何かが這いずるような、気味の悪い感覚に囚われるようで気持ち悪い。
さァ、まだまだこれからだ…
敵と忍…ヒーローと忍の戦い…いや、戦争は始まったばかりだ。
「刀と盾だって…?ハハッ――!
聞いたことねえな?そんな綺麗事…綺麗なもん更に磨き上げて出来たような綺麗事としか思えねェなァ?」
洸汰の秘密基地へ行く途中、左右に分かれる山林に寂しく続く一本道…
洸汰への救出を赴くものの、黒佐波と呼ばれる抜忍がその行く手を阻み、飛鳥は緑谷に洸汰を救ける事を託し、現状…飛鳥は黒佐波と対峙することになった。
飛鳥のその目には、覚悟が見受けられた。
どんな事があろうが決して折れる事なく…
洸汰に緑谷…そして、他の皆んなを守る…
他者を守ろうとするその目は、何処か現役時代の半蔵の目と似ていた。
「お前さ!殺し合うことが忍の道じゃねェつったよな?んじゃよォ、俺達みたいに
所詮、俺たち忍がやってる事は殺し合いさ…それが忍だろうと妖魔だろうと関係ねェ…
世の中楽しいことやったもんが勝ちなんだよ!!
お前アレだろ?半蔵の孫なんだろ?だったらさ、言葉じゃなくて殺し合いで俺を止めてみせろよ?
言葉でどうこう訴えても意味がねェぜ?」
黒色の両籠手を装着してる両手で指を鳴らす仕草を取る。
理屈の通じない敵に言葉どうこうで止められるほど甘くはないし、少なくとも黒佐波は誰かの言葉で変わるほどの人間ではないだろう。
飛鳥は呼吸を整える…気を研ぎ澄まし、冷静さを保つ。
「…うん、そうだよね。
言葉で変わる位なら、誰だって苦労しないもんね……それに、任務なら…厳しく言えないけど…
でも、私たちだって忍…それに貴方達が殺すことが任務なら…私たちがそれを止めれば…問題ない!」
ようは『俺に勝って止めてみせろよ』という意味だ。
黒佐波の遠回しな台詞に飛鳥は理解したのか、軽く頷く。
シンプルで分かりやすい…だが、こう言った単純な人間ほど、どれ程の実力を備えてるかが見切れない…
ただ少なくとも、忍の彼女が気を察知する前に秘伝忍法を使われ食らったのだから、それなりの実力は備えてるのだろう。
「皆んな…私が守ってみせる!貴方達の好きにはさせない…!
忍・転身――!!」
飛鳥は跳躍するよう軽く地面を蹴ると、黒佐波目掛けて飛び出す。
それと同時に体が光に覆われ、服が一瞬で吹き飛び忍転身により忍装束を身に纏う。
黒佐波は不敵な笑みを浮かべ「よっしゃァ来いや!!」と歓喜の雄叫びを上げる。
「秘伝忍法――【半蔵流乱れ咲き】!!」
飛鳥は刀を乱暴に振るうよう、無我夢中に黒佐波に斬りかかる。
黒佐波は両手を盾のように使い、刀を弾く。
しかし、乱れ咲きは【二刀繚斬】とは違い、一撃だけで終わるのではなく、岩を斬り裂くように、何度も何度も執拗に、一撃ずつ力を込めて振るう。
手加減などしないし、訓練をされてない一般人が喰らえば死ぬだろう、飛鳥は躊躇する事なく、手を休める事なく振るい続ける。
ガギィン、ガギィンと金属の音が響き、火花散る。
飛鳥の刀の一撃が、本気以上だ。
それを黒佐波は――
「ほォ?これがテメェの秘伝忍法か?」
余裕を持ってそう言った。
飛鳥の表情が僅かに歪む。
衝撃を受けるかのような言葉。
手加減はしてないし、先ほどの秘伝忍法で彼に傷が付いてない事がハッキリ分かってるので、これでも本気でやってるのだが…黒佐波は余裕で全て腕で受け止めている。
「おらよッ――!!」
黒佐波は小蝿を払うかのように腕を払いのけ、刀を弾き飛鳥を軽く吹き飛ばす。
黒佐波の秘伝忍法を食らった時の衝撃を受けた訳ではないが、態勢を崩してしまう。
擦れた地面の足跡がくっきりと見える。
又しても秘伝忍法が通じない…こんな敵今までにあっただろうか?
――焔ちゃんでも忍装束を破けてたし…ダメージが入るのに…
雪泉ちゃんや雅緋ちゃんだって、強いし彼女たちの秘伝忍法の力には劣るけど…それでも攻撃は通用する…なのに…なんで!?
「おいオイどうした?何ボーッと突っ立ってんだよ?
鳩が豆鉄砲食らったような顔しやがって、掛かって来いや、俺を楽しませてくれよ飛鳥。伝説の忍のお孫さんだろォ?」
黒佐波は指で挑発する仕草を取る。
飛鳥は絶望の色に染まる…実力が通じないなんて嘘だ…だって、そんなのって…
いや、これはもしかしたら忍術なのか?
攻撃が通じない…通用しない忍術を使ってるのか?それ以外考えられないし、幾ら何でも可笑しすぎる。
「来ねえのか?はたまた秘伝忍法はたったのそれだけか?
んじゃ今度は俺から行くかァ!」
黒佐波は腰を低く構え、突進してくる。
次はどのような攻撃が来るかわからない…避けるタイミングを捗らないと、防御だけでも彼に殺られてしまう危険性が高――
「秘伝忍法――【黒波衝乱舞】!!」
――ボボボボボボボボ──!!
黒佐波は荒々しく一心不乱に連続で殴りかかる。黒い波紋はエネルギーとして拳に纏わり付き、一気にゴリ押しをしていた。
乱暴でいて、適当に殴ってるように見えるが、拳の一撃一撃が重々しく、その威力は飛鳥の【半蔵流乱れ咲き】のレベルを軽々しく超えていた。
飛鳥は避けるタイミングが取れず、刀をクロスさせるも、黒佐波の連撃に為すすべ無く食らってしまう。
「ッッッ――!!あああァァァーーーー!!」
激しい拳ラッシュの猛攻に、飛鳥は耐えきれず更に吹き飛んでしまう。
口から血を吐き、頭、手、腹、足など、様々な部位を殴られ、拳の跡が僅かに残る。
「おいおいどうした?皆んなを守るとかほざいてたよな?
この程度で吹っ飛ばされてんじゃねえよ、皆んな守るんだろ?ちゃんと盾役演じろよ?
秘伝忍法――【黒波衝乱舞】ゥ!!」
黒佐波は又しても連続で同じ秘伝忍法を使用する。
――また…!?
なんて心の中で大きく叫ぶ。
飛鳥は何とか後方に下がる。
あんなのをマトモに喰らえば体力が削れるだけで、体力戦としてはまず勝ち目がない。
連続で、ただ殴るように見えるこの技も、波紋に応じて相手にダメージを与えている。
つまり、黒佐波の拳と忍術による波紋が合わさった技…
単体の力だけでも重いのに、それを連続でしかも力を乗せると来たらたまったものじゃない。
だが、後方に下がれば問題な――
「秘伝忍法――【波動拳大玉】ァァ!!」
と思ったら大間違い。
秘伝忍法を中断させ、黒佐波は拳と拳…両拳で玉を作るよう螺旋状の球体を作り上げ、エネルギーを溜めれば溜めるほどにそれはデカくなり、溜まると両拳を突き出し大砲を発射させるかのように、螺旋状の玉は前方目掛けて襲いかかる。
「わわッ――!!」
飛鳥は痛みを堪えながら辛うじて右方向へ転がり回避することに成功し、攻撃を免れた。
しかし、衝突した木々は大爆発を引き起こし、木々は一瞬で焼け、焦げ臭い匂いが充満する。
回避したのでダメージはないものの、もしアレを食らってたと思うと…考えただけでゾッとする。
飛鳥は表情を更に絶望と恐怖の色に染める。
しかし、其処から飛鳥は更に絶望と恐怖に身を染めることになるだろう。
「秘伝忍法――…」
「!?ちょっ…」
――まだ来るの?!
この男、先ほどから休むことなく連続で秘伝忍法を使用している。
秘伝忍法と言うのは知っての通り、ゲームで言う必殺技のことだ。
しかしこれはゲームではない現実だ、MP制限以前に、強い忍法を使用することにより体力を削り疲労が溜まるのだが…
黒佐波は息を荒げることもなく、平然と、ごく普通に…それこそ普通に殴り殺す感覚で、多用な秘伝忍法を使って来る。
それも、連続で――
「【黒風大波乱衝】――!!!」
右腕に大きな渦巻く黒い波紋が風のように蠢き巻いている。
風の唸り声、大きな風に似た黒い波紋…まるで災いの竜巻だ。
他にも、台風、サイクロン、ハリケーンなど呼び名はあるが、この際はどうでも良い。
その渦巻く黒い波紋は、吸引力や引き裂く力があるのか、木々の落ち葉が竜巻に乗り、その葉が無残に散り散りになっていく。
飛鳥は目の前の光景に、唖然とする。
コイツは、一体――
「伝説の忍の孫ならよォ…これ位お茶の子さいさいだよなああァァァ!?!」
黒佐波の嗤笑もここまで来ると歪みでしかない…いや、もう頭が完全にイカれてる。
狂ってる、狂人だ。
本当に殺すが為に生きて来たんだ…
こんな忍が、この世に生きてるなんて…想像出来やしない。
「ああああああああァァァーーーー──!!!!」
獣に似た雄叫びを上げる黒佐波、その気迫に応じるかのように黒波紋のエネルギーは渦巻き、辺り一面を一掃する。
横から薙ぎ払うように仕掛けるこの大技は、回避不可能だ。
避けるにしても、波紋による吸引力が凄まじく、逃げようにしてもジャンプしようとしても、掃除機見たく吸い寄せられ体の自由が効かない。
「ダメ…!これは……!!」
飛鳥は唇を噛みしめる。
この男、選抜メンバーの筆頭に相応しい…それ以上の実力を備えている。
この実力クラスは…大道寺並みか…それに近い実力だ。
この技は防ぎようがない…飛鳥は思わず死を錯覚させる。
「――アッ!!あああああああァァァァァァァァァ!!!」
黒い竜巻に吸い込まれると、あらゆる波紋の衝撃波が体全身に襲いかかり、刃物で全身を小刻みにするように斬られてる感覚だ。
血飛沫が飛び散り、傷口にまた傷口を抉るようで…忍装束がみるみると破けていき、肌が露出する。
「あッアァ…!!があああァァああァあァァァああーーーーー?!!」
激しい激痛、鈍器やら刃物やらで延々と傷が続くかのような痛み。
脳が引き裂かれそうな程の激痛…これを食らって無事でいるはずがなく、まるでミキサーの中に入った感覚だ。
ようやく嵐のような竜巻が止むと、飛鳥は力なく倒れかけ、手でなんとか地面を付き、膝をついたまま、呼吸を整える。
下着姿なのかみるからに無残な姿で、血が流れて酷い有様だ。
見るに耐えないこの傷跡…体中刃物やらで傷つけられてる。
「おうおう!お前伝説の忍の孫じゃねえのかよ!?為すすべなくして虫の息になってらァ!
所詮はガキか?結局、刀と盾なんざなんの意味もねえな?」
黒佐波はゆっくりと歩み寄る。
黒佐波の忍法は波紋による忍術。遁術は風、風と波紋が合わさった忍術…対人専用の忍法術だ。
忍法には多彩な忍法が存在する。
秘伝忍法の数は無限大、制限などない、それはカグラや半蔵に小百合だけでなく、黒佐波もそうであれば、飛鳥もそうだ。
忍による特別な体質…ただ、その力に伴い取得するものが増えていく。
忍転身とは、己のイメージに伴い、自分がそうでありたいと願い具現化されるもの。
精神的な忍術であり、想像すれば何でも忍装束を変えることが可能。
つまり制限など無いということ、それと同じように秘伝忍法や特殊能力に入る忍術も同じだ。
忍によって取得する忍術は異なるものの、秘伝忍法は制限なしに多く生み出すことが出来る。
己がそうでありたい、こうしたい…そう言う心の強さとイメージによって忍法は生まれるのだ。
忍術は心の技、心の成長が技を生み、技の強さが心の強さと成り得る。
尤も、生み出した所でも最初は弱いが…後々と使い続ければ、熟練度が上がっていき技の威力も高くなる。
「最初なんつった?俺の事さ、間違ってるて言ってたよな!?
じゃあさっさと俺を止めてみせろよ!俺の間違いを正してみろよ!
それとも何か?所詮は勢いだけの口先女だったか?
――ハハッ!お前さ、綺麗事さえ言っときゃなんとかなるとか思ってたんだろ!?なぁ、それが間違いなんだよ!」
興奮してるのか、黒佐波の言葉が荒々しくなる。
飛鳥は血を流しながらも体をなんとか動かし、立ち上がるだけで精一杯だった。
対して相手は無傷、余裕をこいてる、この実力は間違いなく強い…妖魔と相手をしてるんじゃないかとさえ疑ってしまう。
「――守る物があるから負けられない?それが間違いなんだよ!!
テメェのような人間を世間は何て言うか知ってるか?なァ?
甘ちゃんって言うんだよ!!守る力も立派な強さ?
じゃあ何でお前は――俺にやられてんだよ!?!
お前皆んなを守るんだろ?じゃあだったら責任持って立ち上がれや!俺みてェなクズさっさとブッ殺してみせろや!!
テメェの言うその盾ってヤツ、俺がへし折ってやっからよォ――!」
相手の信念を嘲笑い、残酷な笑顔を立てる。
足音も重々しく伝わり、ズシンとした振動が響き渡る。
「お前に一つ教えてやろうか?
お前の弱点ってヤツを…さ、テメェと俺とでは圧倒的な差があるんだよ」
「弱点…?」
――自分の弱点…?
そして黒佐波はハッキリと、自信満々にこう言った。
「それはテメェの言う、守る力。つまり…
『盾』だよ――」
――は?
飛鳥の素っ頓狂な声など気にもせず、その男は悪魔のような歪んだ笑顔を見せて、語り出す。
「お前さっきからさ、意識がチグハグしてる時あるな?
あの緑谷…とか言うヤツだっけ?アイツを行かしてからお前、あの岩しかねえ崖の方向に視線がちょびっと向いてることあるんだよ、無意識で気付いてねェかも知れねえけど――。
それだよ、それがお前の弱さなんだよ」
「……何が…言いたいの……?」
「簡単だ。
盾なんざ捨てれば良い――」
黒佐波は、そう言い切った。
盾を、守る力を捨てろと、半蔵から教わった教えを、言葉を、黒佐波は軽々しく捨てろと告げた。
「守るべき物?そんなの要らない、弱肉強食の世界で守るべきものなど論外、荷物でしかないし、ハッキリ言って邪魔だ目障りだ。
人に守る物なんて必要ない、守る力も、守り抜く力も、意思も、心も、決意も、そんなもの、要らない――」
静寂な森が騒めきだす。
鳥類が夜空に舞うように飛び、逃げていく。
風が吹き森は僅かに揺れる。
「――だったら、捨てろ。
そんな意味も価値もないもの、さっさと捨てろ。
更に付け加えれば盾なんざ人の弱さに過ぎねェ、盾なんて馬鹿げたこと言ってる時点で、テメェと俺とで勝負は付いてんだ」
「何を…言って……」
「守られてる時点でソイツは弱えんだよ。
だってそうだろ?誰かが守るってことは、ソイツは殺されるかもしれない、死ぬかもしれないからだろ?
そんな弱え生き物守って何になる、何の価値が、何の意義がある?
そんな下らねェ事してッから、お前ら全員弱えんだよ、俺に殺られるんだよ――」
黒佐波の言葉はヤケに落ち着いていた。
冷徹で、まるで弱者は死ねと、そんな意味を含めた言葉で、黒佐波は言葉を紡ぐ。
「だったら、盾なんて邪魔なもの、捨てれば良い。そして、相手を殺す刀だけを手にすれば良い。
人を、殺すんだ。
なに、罪悪感なんて無ェよ。だってお前は忍で、俺は抜忍であり
忍の道に進んだ以上、殺し合いは免れない、借りにお前が殺し合いが嫌だと言っても、社会が、忍の掟がそれを赦さない――」
対象を、忍を殺せと、上からの命令さえ来れば殺し合いは免れない。
仮に嫌だと命令を拒否したとしてそれは忍じゃない、忍は全て善良の任務を承る訳ではない、時に手を汚す仕事だってある。
忍は任務に従うしかないのだ、だからそう言った点では黒佐波の言ってることは、間違ってると断言は出来ない。
「だから――生きる為に殺せ。
俺たちみたいにバカみたく、暴れようぜ?殺そうぜ?
なァ、殺そうぜ?そうしようぜ?忍の社会とかそんな煩わしい考えなんか捨ててよォ…
逆に守るもんがあるから、人は苦しむんだから…
だからさァ…捨てろ!!!
殺そうぜ!!!!!」
黒佐波はニタリと気色悪く、口角を釣り上げる。
守るものがあるからこそ、人は命を懸けて闘う。しかし、守ろうとする人間が生き絶えた所で守られてる人間はどうする?
また、守るべき人間が殺されたとして、自分はそれでも誰かを守ると、断言出来るだろうか。
いや、多分…出来ないかもしれない。
黒佐波が強い理由が分かった。
コイツに、守る力なんて無い。
人を殺す刀しか持ってないんだ、だから盾という存在を嫌に捨てようとする。
コイツに、守る力も、守る人間もいない…
ただ暴れたい、たったそれだけ。
それ以外に彼は何もいらない、暴れて殺せれば、それで満足。
黒佐波とは、そういう自己出張が激しい人間だ。
おかしい物だ、守る人間がいないものは、失うものの無い人間は、此処まで強いのか。
人には大切な物が存在する。
金、家族、物、愛、個々人による大切な物…しかし、黒佐波には無いのだ、そんなもの。
だから黒佐波はヘラヘラ笑いながら、悠然と胸を張ってそんな事が言える。
しかし――
「………嫌だ」
それでも、飛鳥は自分の信じた信念を曲げない、折れない、捨てない。
他人にとやかく言われるのは慣れっこだ。
しかし、黒佐波は初めてだ。ここまでして人の信念を嘲笑い、見下し、否定しようとするのは。
護るべき人間がいない彼は、もしかしたら強いんだろうな、いやそうだろう。
失う物がなければ、平然と命だって懸けれる。
見返りを求めない、だからコイツは強いんだろうな…技術面だけでなく、精神面でも、手強いんだろう。
単直な脳筋バカだが、そう言った人間は本領を発揮する。
得体が知れない、でも相手が誰であろうと…
「ふざけないで」
信念を捨てて良い理由にはならない。
自分が決めた道を、半蔵から教わった教えを、曲げる訳にはいかないし、曲げさせない。
そんなの飛鳥が赦さない。
それさえ曲げてしまえば、自分の存在も、半蔵も、自分の忍の道も、曲がることになるから。
「刀だけが全てじゃ無い…盾だって立派な力…刀だけじゃ、意味ないんだよ…
それに勘違いしないで、皆んなは貴方が思ってる以上に弱くなんかない。
皆んな強くて、信頼出来る仲間たちだよ――」
ではなぜ飛鳥は、皆んなを守ろうとするのか?
その答えはもう、決まってる。
「私が、好きで守ってるんだよ――」
誰かが殺されたり、傷つけられたりするのは嫌だ、見たく無い。
忍からして、甘ったれた考えだろう。
だけど、それでも良い。
だって、それが自分の本音だから。
自分の正直な気持ちだから。
自分の気持ちに嘘は付けない。
お人好しだろうと、お節介だろうと、護りたい物は護りたい。
例え皆んなに否定されても、飛鳥は絶対に変えないのだ。
自分の気持ちに正直で何が悪い?
護りたい物の為に命を懸けて何が悪い?
護る価値なんて誰が決めた?
命にそれ以上もそれ以下もない。
皆んな、守ってみせる。
そう決めたから――
飛鳥は、誰もが手を焼くほど頑固だ、だから自分の正直な気持ちに、言葉に、嘘偽りもなく正々堂々と胸を張って、護ると宣言する事が出来る。
「――はァ??」
だから、黒佐波とは相性が悪いのかもしれない。
今まで殺す事でしか、己の欲望を満たすことしか出来なかった獣は、眉間に皺を寄せる。
マスクを被ってるので表情は見えないが、口から下までは露出してるので、口を見れば相手がどんな表情をしてるのか、大体分かる。
「お前はバカか?俺よりバカなのか?
俺はお前を殺そうとしてんだぞ?俺がテメェをブチ殺せば、全員も死ぬんだぞ?
仮にテメェが誰かを護ろうとしたってなァ、俺がテメェの守ってるもん、ソイツらブッ殺したらどうなんだよ?」
自分が守るにしても、その対象が殺され、壊されてしまえば守る意味がない。
自分が生きてたとしても、その人を護れなければ意味がない。
護るべき物を壊された時、それはきっと自分が死ぬ事よりも辛い事だろう…
必死に、命懸けで守ってきたのに、それすらも壊されて…
そう言うヒーローは少なからずこの世界に存在する。
それが原因でヒーローや忍を引退する人間は少なくはない。
それをトラウマに思う人間も、苦しむ人間は、世の中いっぱいいる。
大切だった人間を殺されたり、死んだりするのは、一番辛いことだ。
護るべき人が、誰かに殺されても、飛鳥は口が裂けても「刀と盾」の信念を掲げるのだろうか?維持する事が出来るのか?
だから黒佐波は問う。
もし大切な物を壊されたとしても、それでもお前は誰かを守るなんて口が言えるのか、いや…言えないだろうな。
黒佐波は抜忍狩を幾度となく始末してきた。
その中に突然、飛鳥のような忍もいれば、家族だの恋人だのと口にする者も飽きるほど見てきた。
「うん、それでも守るよ――」
けど、飛鳥はそれでも曲げない。
黒佐波はほんの僅かに、体を反応する。
痛みなど屁でもないのか、飛鳥は刀を構えて微笑む、
飛鳥は確かに言った、それでも守るって、そう言い切った。
「誰かが殺された、護れなかった…
それは一番辛いと思う…でもね、だからこそなんだよ。
だから、守るんだよ」
「……あ?」
「人を救えなかった、誰かを護れなかった…けど、それを理由にして護らない理由にはならないよ。
二度とそうならない為に、人は頑張るんだよ。同じ失敗を、過ちを犯さない為にも…守るんだよ。
だって、影は誰かを支えるものだもん。
この先、どんなに辛いことや苦しい事あってもさ、私はやるよ。
守るよ、だって決めたんだもん。
一流の忍になるって――」
苦しいことや辛い事など、覚悟の上だ。
だって忍は生半可でなれる程甘くはない。
そんなの半蔵学院に入学してから、ずっと覚悟して生きてきた。
命を懸けてまでやらなきゃ、きっと一流の忍になんて…カグラになんてなれないと思う。
だから、どんな困難が道を阻もうとも、歩む力を止めない。
信念を曲げない、絶対に。
「……あァ、気に入らない」
黒佐波は静かに口を開く。
冷静そうに見えるが、中には怒りの業火を燃やしていた。
「なんで、漆月がテメェのこと気に入らないか、何で死柄木が優先的にお前を殺せと命じたのか、なんか俺分かっちまったわ…」
黒佐波は両拳を握り締める。
声を発する度に段々と、少しずつ怒りで声色が高ぶってる感覚が伝わる。
「気に入らねェ。ざけんな、そんな綺麗事で俺に勝てるとか思ってんのか弱小が。
テメェの思ってる以上に世界は残酷だ。テメェの甘い考えで、世界がどうこうなる訳でもねェ、俺はな飛鳥…テメェのような甘ったれた人間が嫌いだ――
猛烈にブチ殺してェ位になあァァ!!!!」
黒佐波の表情がみるみると怒り色に染め、歯を食いしばり、歯軋りする。
ギチギチと不夜会な音を立て、殺気が火山の噴火の如く高まっていく。
誰かが守られて生きて行く、そんなの黒佐波は許せない。
刀と盾なんて論外、滅するべし。
「守る価値なんざ雑魚どもにゃあ無えだろうがあァ!!!
人は守られ生きて強くなる意味を忘れ!やがて強者は減って行く!!
俺は強えヤツと殺し合いたいんだ駄目だ駄目だダメだそんなの俺が赦さなあああああァァァいい!!!!!」
怒涛の黒佐波はあまりの憤怒に怒りで感情を支配され、高まる怒りに暴走する。
飛鳥は唾を飲み込む。
来る…秘伝忍法を使って来る。
「テメェを殴り殺して他の奴ら皆んなブッ殺す!!!
勝つのは
秘伝忍法――【黒波衝乱舞】!!」
黒佐波の鬱憤に呼応するかのように、秘伝忍法の威力がより強く増す。
歪んだ彼の殺意が、熱意が、闘志が、彼をより高く強くさせる。
彼が飛鳥を憎むのは、盾を否定するのはその強さにあった。
この世界は常に弱肉強食で出来ている。
それが黒佐波の主観だ、強い人間が勝ち弱い人間は死ぬ。
抜忍生活を送って来た自分は、ずっとそうやって、孤独ながらも生きて来た。
歪みとはいえ、彼に強い信念が、常に強者であろうと、そうなろうとしてるからこそ、自分はここまで生きて来た。
彼は強い人間と闘えれば何でもいい、殺すことが出来ればどうだって良い。
だが、飛鳥は守ると言った。
それが黒佐波は赦せないのだ。
だって、守られてる人間は強くあろうとしず、守られたままのうのうと生きているではないか。
ヒーロー志望はまだしも、人間は強さの意味を失いつつある。
それもこの社会が原因だ、ルールに縛られ個性規制や忍の掟など下らない理由で、人は強さを無くしていく。
だから、飛鳥もこの糞ったれた社会も気に入らない。
逆に守る人間がいなくなれば、人は生きる為に強くなろうとする。
強い人間と戦い、殺すことが黒佐波にとっての至福であり、強者が増え続け、強者同士の争いこそが彼の望むべきものなのだ。
だから、人を守ろうとする飛鳥は赦せないし、守るなんて言う存在そのものが間違っている。
守られてる人間が、強くなる訳がない。
守られたまま生きていけば、弱者が増え続け強者は減りつつ、やがていなくなる。
つまり盾とは、守る、とは黒佐波の望むものを邪魔する害でしかないのだ。
だから必死になって盾を否定する、捨てようとする。
命懸けで望むものを手にする為に。
そして、飛鳥を本気で殺そうと、秘伝忍法を炸裂する。
銃弾のように素早く、重々しい拳の嵐が、飛鳥を襲う。
傷だらけで、ましてや訓練で疲労してる飛鳥は、もはや絶体絶命と言えよう。
「盾なんざ糞食らええええェェェェェェェェ!!!!」
波動する拳が彼女の刀に当たる。
そこからか、絶え間なく連撃を仕掛けてくる。
これを食らえば飛鳥はひとたまりもないだろう…最悪死んでしまう。
見るに耐えない惨たらしい死が待ってるだろう…
しかし、そうはならなかった。
ガギィン、ガギィン!!ギャリギャリ…!
「――ッ!?」
黒手甲に甲高い金属音が鳴り響く。
この手応え…飛鳥の体じゃない…刀によるもの。
まるで金属同士を打ち合うかのように、火花が散る。
黒佐波の表情から、怒りなど消えていた。
代わりに少し衝撃を受けたような、息を詰まらせる。
だってボロボロになりながらも、飛鳥は刀で拳を全て受け止めてるのだから。
端から見れば、大したことはないだろうと思うかもしれない。
だが、飛鳥は先ほど彼の拳を防げなかったのだ。
それなのに、彼女は黒佐波の拳を全て、受け止めている。
――さっきは軽々しく吹っ飛んだのに!?
それなのに、どうして黒佐波の秘伝忍法を受け止めているのだろうか?
そんな事が出来るのは、黒佐波が拳を交わした忍の数人位だろう…
上忍や強い忍なら、そう言った個性を持つヒーローなら、敵(ヴィラン)ならまだ分かる。
だが、相手は忍学生…ましてやさっきまでほぼ虫の息になってた彼女が、だ。
何処にそんな力が…どうしたらそうなるのか、黒佐波には理解不能だった。
「違う――貴方は間違ってる。
刀だけじゃ意味がないんだよ、それは本当の強さじゃない、貴方が強くても、それは本当の強さじゃないし、そんな強さは誰も認めない――」
飛鳥は拳を刀で押し返そうと力を入れる。
黒佐波の表情は又しても驚き止まる。
「……コイツ――」
先ほどまでと力が全然違う。
俺とコイツとでは歴然とした差があった。
力を隠してた?
仮にそうだとしてもどうしてだ?
体力勝負を狙ったのか?はたまた、火事場の馬鹿力か?
飛鳥から闘気が溢れてくる。
その強さが、身に染みるように伝わっていく。
この気は…まさか!?
「飛鳥。真影の如く、正義の為に舞い忍びます――!!」
緑の闘気が、風神の如く唸りをあげ、髪をまとめてた紐が解け、髪を下ろす。
その姿は美しく、闇夜を照らし、暗闇を吹き飛ばす風を見に纏う飛鳥。
真影の飛鳥――
疾風を身に纏い、黒佐波の拳を払いのける。
そして彼女は、刀を振り下ろした。
人の笑顔を守る為、誰かの命を守る為に、飛鳥は刀を振るう。
より強く生きる為に、思うがままの強者である為に、黒佐波は人を殺す。
人を救け、守る盾と、人を殺し、壊す刀。
刀と盾が、命を懸け激しく衝突する。
最後に勝つのは、立つのは、生きるのは、何方か――恨みっこなしの勝負。
飛鳥は、黒佐波は、刀を、拳を、――振るう。
事が起きてから数分前に遡る。
岩だらけの崖には洸汰ともう一人の人物が、立っていた。
洸汰の表情は青ざめ、冷や汗を滝のように流していた。
――洸汰!聞いてた!?
今すぐ施設に戻って!私ゴメンね洸汰が何処にいるか私知らないの!
貴方がいつもどこに行ってるか私わからなくて…本当にゴメン!
私救けに行けない直ぐに戻って!
テレパス、マンダレイの声が直接脳内に響く。焦りと不安の声色、洸汰の息は荒く、恐怖で怯えていた。
「よォ、ガキんちょ一人かよ?お前、見ねえ顔だな?」
自分のもう一個分の身長があるのだろうか、フードを見に纏う大男は、洸汰を影で覆い、悠然と語り出す。
顔はマスクを付けてるので表情は読み取れない。
「見晴らしが良いんでやって来たは良いがなァ…
所でボウズ、お前センスの良い帽子被ってんなァ!俺のダセェマスクと交換してくれよ、死柄木が素性を隠すためとかどうとかほざいて、こんなの付けられてんのよ。
だからさ、お前のと交換してくれよォ、なぁ?」
大男は洸汰の被ってるマスクを見つめ、親指を立てる。
そして自分のマスクと交換しようと手を取り外そうとする。
洸汰はその隙にと、大男に背を向け無我夢中に逃げ出す。
「あ、オイ待てゴラ――」
次の瞬間。
岩を蹴る轟音が響くも、その音よりも素早い速度で、大男は洸汰の前に現れる。
そのスピードは、忍を軽々しく超えるほどに…速かった。
そしてマスクを外したのか、表情が見える。
「景気づけに一杯やらせろよ――!」
そして腕の皮膚から筋肉繊維が飛び出る。
大男の顔を見た途端、その腕を見た途端、洸汰は立ち止まり、思想を巡らせる。
――あの腕の個性は…!それにあの顔…何処かで!!
暗い部屋の中、荷物をまとめた段ボール箱が、部屋を埋め尽くしていた。
山座りの姿勢で、明るいテレビを睨みつける。
洸汰が今観てるのは、テレビニュースだ。
『ウォーターホース、素晴らしいヒーロー達でした。
しかしその二人は市民を守るべく、心なき犯罪者によって、絶たれました』
ウォーターホースの輝かしい未来は、敵によって殺された。
犯人は現在も行方を眩ませている模様、洸汰は大好きな両親を殺した男を覚える為に、ニュースを観ていたのだ。
『現在も警察とヒーローが行方を追っています。
個性は単純なる増強型ですか、非常に危険な人物です。この顔を見かけたら直ぐに警察とヒーローに通報を――
その男の特徴は、現在左目にウォーターホースが受けた傷が残っています。
――血狂いマスキュラー。
そして現在、洸汰の目の前にいる大男は、左目に傷を負っていた。
「お前…まさか――!」
洸汰の表情は歪み、目に涙を溜める。
だってコイツは――
「パパ、ママ――!!」
大好きなパパとママを殺した人間、なのだから。
その大男は、残酷で、歪んだ満面な笑みを浮かべ、洸汰を殴り殺そうと腕を振り下ろす。
ドガアアァァァン――!!
地雷でも起きたかのような轟音、地面がクレーターのように凹む。
たったの一撃でこの威力、しかし…洸汰は彼の拳を受けることはなかった。
マスキュラーは視線を前にやる。
殴った時の感覚がない、避けられた。
思わず舌打ちをする。
「つっ…!あいた――!!」
洸汰を救けたと思われる人物は、地面にバウンドしながら、洸汰を抱きしめ、当たらないよう跳ねる。
直ぐに姿勢を整え、洸汰を放す。
「お前…なんで…?」
洸汰は分からなかった、何故こいつは自分が此処にいるのが分かったのか、何でこの男がやって来たのか――
「ん〜?地味めの緑髪…お前は…リストにあったな!」
マスキュラーは余裕そうに視線をその人物に向ける。
地味めの緑髪と言ったら、洸汰の秘密基地を知ってる者と言ったら、彼しかいない。
そう――
「大丈夫だよ…!洸汰くん!」
緑谷出久という少年しかいない――
緑谷は洸汰に大丈夫と笑顔で告げる。
その後直ぐにマスキュラーの方へ視線と意識を向ける。
男は舌舐めずりをする。
まるで次の獲物がやって来たと歓喜の笑顔を見せるソレは、狩猟者だ。
一方、緑谷は不安で緊張し体に無駄な筋肉が入る。
落ち着けるべく、深呼吸しながら、考える。
――此処にも
広間で二人、飛鳥さんと対峙してる男、そして…こいつ…
今の所四人の敵がこの合宿所にいる。
まだまだ数や実力も知れないが、それでもこの男からタダならぬ気配を感じる。
オマケに携帯も壊れた、先生や皆んなに連絡は送れないし、仮に出来たとしても、飛鳥さんと戦ってる大男がそれを邪魔するだろう…
どの道増援は呼べない…相手がどんな個性を持っているか分からないし、強さも未知数…
「僕一人でやれるかどうか…」
緑谷は洸汰に視線を送る。
「――」
洸汰は、泣いていた。
自分が殺されてたかも知れない、両親が殺された、様々な感情が洸汰の心を支配していた。
――じゃない!!
緑谷は心の中で一喝する。
出来るか出来ないかの問題じゃない…守らなくちゃ、救けなきゃいけない。
何がなんでも…
マンダレイが、飯田くんが、飛鳥さんが、託してくれたんだ。
ここで救けなきゃ、いけないんだ。
「忍学生じゃねえのかよ、残念だなァ…まあいっか、どーせこの場にいる奴ら全員皆殺しだ、ハハッ!」
マスキュラーは腕をグルグル振り回し、肩を鳴らす。
対する緑谷は、体全身に力を入れる。
緊張なんて、洸汰の救けを求める顔を見て、そんなの吹き飛んだ。
「大丈夫だから――!必ず、君を救ける――!!」
僕一人で、コイツと闘わなくちゃいけない、守り抜かなきゃいけない。
飛鳥さんや他のみんなも、闘ってるんだ!
離れた森林地帯で、龍姫と四季が闘ってる。
爆豪や轟、美野里も、飛鳥も、相澤先生も、皆んなピンチな状況に陥ってる。
守れないじゃ赦されない、やらなきゃいけない、それがヒーローなのだから――
秘伝忍法を軽々しく、ポイポイ使って来るバケモノの黒佐波くんパネェ、
彼はまァ単に強いヤツと殺し合いたいって言ってるんですよね。
弱いヤツばかりじゃ味気ないし倒せるのも当然、だから強いヤツと闘えれば、自分ももっと強くなれるんじゃないかって、逆に守られてる人間は、皆んなヒーロー任せだから、強くならない且つ弱いままになるんですよね。
黒佐波はそう言うのが嫌いなんです、ゴリゴリの脳筋なんです、まから飛鳥の盾という存在が邪魔でならなかったんですよ。