はいどーも皆さんこんにちは、外に出ると暑くて汗が止まらないヤツ、大体クーラー病。
一日遅れて投稿です。
しかし、次の投稿日が少し不安定ですので、皆さん気長に待ってくれると幸いです。
暗闇の森は、いやにざわついていた。
風で木々の葉が揺れ、葉が次々と落ちていく。
ただ横切る風の音しか聞こえず、動物や虫の鳴き声は一切聞こえない。
それは、この場にいる六人の殺意が異常な余り、動物や虫が危機感を持ち近づかないのか詳細は分からない。
「ていうか、これ…嫌です。
何ですかこのデザイン…全然可愛くないんですけど…」
そんな静寂に包まれた空気の中で、最初に口を開いたのは、連続失血死事件の犯行人物として大きな疑いをかけられてたイカれたJKのトガヒミコ。
首元に巻いてあるスカーフには、化け物の口をモチーフにしたギザギザの歯が特徴で、口にはマスクを着用してる。
背中には太い注射器やらチューブやら収容器やら物騒な何かを背負っている。
「裏デザイナー・開発者が設計したんでしょ。忍商会も忍専用・裏デザイナーもあれば、忍対応・闇アイテムもあるらしいね。
まあ見た目はともかく、理には適ってる筈だよ」
「そんな事聞いてません、可愛いかどうかの問題なのです」
「見た目より効果の問題じゃないかな、まあ素顔をバラしたくないって言う意味に関しては同意だけど」
トガの隣に立つガスマスクの中学生は、高圧ガスを手に持ちシャカシャカと振り続けてる。
「まァまァ、トガちゃんはとっても可愛いから全然問題ないよ!
むしろカッコいいと可愛いと血の気が混ざってる辺り、魅力すら感じちゃうよ!」
背中の大鎌二本背負ってる少女・鎌倉は、顰めっ面のトガを慰める。
鎌倉の背中に背負ってるのは、忍商会のサポートアイテム、死柄木が発注してくれたそうだ。
「んなこたァどうだって良んだよ!!
何でも良い…オイ荼毘!早く始めようぜ!さっきからワクワクが止まらねェ…今までヒーローしかぶっ殺して無かったからよ、忍って言う奴らの血、見たくてどうしようも無ェんだ!
早く暴れてェ…ブチのめしてェんだよ!!!」
黒いコートで身を包んでる男は、腕を出すとゴキゴキと骨の音を鳴らし、腕の皮膚から筋繊維を出す。
マスクを被ってるので、表情は見れないが、マスク越しからは笑ってるように見える。
「黙ってろイカれ野郎共。
テメェら全員、大人しくしてることすらままならねぇのか、何度も言わせんな、静かにしてろ。
忍は気を察するんだ、テメェらの殺気で気付かれたら計画が台無しになる…」
「待って下さい荼毘、私をこんなイカれた連中と一緒にしないで下さい」
荼毘の右後ろに立つ少女が、不快そうに口を開く。
蒼く染まった短髪に、海のように広がる瞳、豊満なる胸、お淑やかな顔立ち、純麗とした美しい少女は他の連中とは違い冷静で、何故こんな美少女が敵連合と関わってるのかさえ疑問を抱いてしまう。
「分かってる…テメェは黒霧と同じまともだ、お前はノーカン…
それと決行は…」
敵連合は当然、忍を知っている。
この場にいる皆んなも、そしてこれから来る敵も…
「――
敵の集団に、新たな四人の人影が現れる。
「ごめん荼毘、準備に手間取ってたわ」
ふんわりとした鮮やかな長い茶髪に、豊満たる胸を僅かに揺らし、両手は頑丈そうな純白の籠手を装着させてる少女。
「おまたー」
サングラスを掛け、顎髭を生やし、タラコ唇に、赤く長い髪を垂らしたオネエ口調の人物。
男なのか女なのか、分からない。
「仕事…仕事……仕事…しなくちゃ…」
口からヨダレを垂らし、目元を隠す上に全身が拘束具でガッチガチに固められてる人物。
「………」
ヒーロー殺しに似せてるのか、目線を包帯で隠すトカゲ顔の男。
背中には大剣らしきものを布で覆い隠し、合宿施設を睨みつけてる。
よってみるからに只者ではない、そこらにいるチンピラや雑魚敵とは違う風格を漂わせていた。
どれもこれも、実力を持つクセ者ばかりだ。
「威勢だけのチンピラや下忍じゃ意味がねえ…やるなら経験豊富で実力のある少数精鋭。
見せつけてやろう、テメェらの平穏は、俺たちの掌の上で転がされてるってことを、そして…忍達に証明してやろう…
俺たちが強え、俺たちが正しいってことをな――」
忍び寄る悪意は、着々と力を培う。
敵は抜忍と、抜忍は敵と、結び付く。
光がより深くなるほど、闇もより深まる…善と悪が表裏一体になるように、雄英生と忍学生が強くなれば、敵連合に所属する敵も、忍も、強くなるのだ。
崖の上に佇む悪意を持つ10人は宿泊施設を、雄英生や忍学生、先生やプロヒーロー達がいる場所を、ただずっと、見下ろしていた。
まるで天から地を見下ろすように…ただただ、その目に悪意を募らせて――
三日目・昼。強化合宿、二日目に続き、個性伸ばしの訓練が続いていた。
忍学生は身体能力強化・耐久性や体力、秘伝忍法による強化を行なっていた。
昨日に続き、今日も訓練が実施される…となると、明日も明後日も、終日までコレが続くのだろう…
考えるだけで気が遠くなる。
特にA組やB組の男子達や、補習組の者達は昨日よりも表情が暗かった。
「補習組、動き止まってんぞ。
芦戸、欠伸するな。切島、眠るな。気ィ引き締めろ――」
「す、すいません…眠気が…」
「ちょっ、先生!縛らないで下さいよ!昨日の補習と説教が…」
「ソレはお前らA組B組男子達が悪いんだろうが…違うか?」
「スイマッせん!!」
切島は相澤の捕縛繊維の布に頭を縛られ、切島は眠たげな目を擦りながらも声を振り絞る。
通常の生徒は就寝が十時からなのだが、補習組は就寝が二時からで、起床時間は七時、つまり補習組は五時間しか取れず、中々キツイのだ。
ましてや個性訓練と補習の二つで疲労が半端ないのに就寝時間もろくに取れない…
相澤が学校で言ってた通り、かなりキツイ。
しかし、ここで一つ疑問に思ったのが、なぜ男子全員表情が暗いのか分からなかった。
補習組は分かるが、そうでない男子達も補習となると、何かあったのだろうか?
「そういえば、どうして男子の皆んな顔が暗いの〜?」
「分かった!昨日のカレーをいっぱい食べ好きだから、お腹壊しちゃったんだ!」
「良いですね〜…このワガママボディを持つ純粋で子供な子達はそんな甘い考えで…!」
甘く何も知らない雲雀と美野里の発言に、上鳴は唇を噛みしめる。
なぜ男子達がここまでして落ち込んでるのか…それには訳があった。
昨日、女子達が恋バナをしてる同時刻、男子達はA組とB組、二クラスになって枕投げ勝負をしていたのだ。
元の発端は、肉じゃがにあった。
カレーを食べ終えた昨日、明日の夕食は肉じゃがだと知り、豚肉か牛肉どちらを使うか言い争っていたのだ。
A組とB組の何方も肉なんてどうでも良かったのだが、物間が「あれェ?A組は逃げちゃうの?勝負から逃げちゃうの?なら僕たちは美味しく牛肉を食べてるから、君らA組は貧相な豚肉を食べてると良いよ!君らは豚みたいだし、お似合いだね!」と言う挑発に爆豪がまんまと乗せられ勝負事になったのだ。
本当は物間も肉はどうでも良かったのだが、これはA組を出し抜くチャンスだと見切り、ワザと煽いだのだ。
「あ〜、それでブラド先生と相澤先生に怒られてたんだ〜」
「お前らバカだろ…」
四季は苦笑して、耳郎は心底呆れたようにため息をつく。
因みに峰田は勝負事に巻き込まれた訳ではないのだが、B組の風呂場を覗こうとしたり、更には虎の入浴場を除いたことに、こりゃもうイカンと考えた相澤は彼にも罰を与えたのだ。
二クラス男子全員と共に、肉じゃがの肉を抜く事と、訓練二倍という罰を。
つまり、今日は一段と訓練が厳しいのだ(男子だけ)。
女子は全員普通なので、何の問題もなければ、肉じゃがの肉を抜かれることもない。
肉じゃがの肉を抜いたら、もうタダのじゃがじゃ…ホクホクのジャガイモだけだ。
だがこれ以上相澤に何か文句を言ってみよう、じゃがも抜かれる。つまり、肉じゃがが無くなるのだ。
「んじゃ、ウチらは肉結構食べ放題って事になるね」
「こりゃ俄然、やる気出るなァ!」
「おい四季、葉隠、駄弁るなちゃんと訓練しろ」
「「は、はァ〜い…」」
相澤の声を聞いた二人はせっせと訓練を始める。
自分たちも肉じゃがの肉抜かれたら困るし、訓練がいつもより倍にでもなったらひとたまりもない。
男子達は滝のように汗水垂らし、血と汗と涙を飲みながら、渋々と耐えるよう訓練を始めている。
男子陣は嫉妬の目を女子陣に向ける。
自分たちに非があるのは確かだが、それでも自分たちの肉を女子達が平らげるとなると、心が痛い。
元はと言えば物間だが、勝負に乗った爆豪も悪い…つまり、双方悪いのだ。
そして峰田はもう犯罪の域に達してるので、もうしょうがないし、当然だと思う。
「ねこねこねこ!そんな暗い顔しなくても、今日は肝試しがあるよ!
訓練された後には楽しいことがある!これぞ、ザ・アメとムチ!」
ピクシーボブの言葉に、クラスの皆んなが反応する。
肝試し――
それは、肝を試すもの。
怖い場所へ行かせ、その人の恐怖に耐える力を試す事である。
真夏の大イベントの一つだ、他にも夏で涼むために恐怖を体験すべく、立ち入り禁止区域や廃墟となった場所を平気で肝試しする、恐れ知らずのチャレンジャーもいるが、学校側はそんな危険な事はさせないので、林間合宿の肝試しは特に問題はなさそうだ。
ただ、個性を除けば…
二組のグループは分かれ、A組が先行で肝を試し、B組が脅かす側となる。
それが終わればチェンジ、と言った形式でやっていくそうだ。
勿論、個性を使用して脅かす事は良いが、直接接触は禁止で、攻撃などは論外だ。
個性を使用して脅かすことは良いのだが…勿論、忍学生も参加するし秘伝忍法で直接攻撃もまた論外、脅かすためとして披露するのは良いが。
「なるほど…ね。
さっすが肝試し…個性使って良いのは面白そうだね」
「僕は対抗って所が気に入ったよ…」
腕から鱗を出してる『燐』に、同じく頷く物間。
だが、それはあくまで訓練が終えてからであり、今は真っ最中だ。
「オイどうした、サボるな動かせ、ちゃんと訓練しろ。
特に補習組は緊張感と危機感を持てよ、お前らがどうして他の者より厳しく指導受けてんのか、考えろよ」
相澤の厳しめな言葉が、補習組の心に突き刺さる。
期末での露呈した立ち回りの脆弱さ、自分たちの個性による理解不足、それらが原因で自分たちは補習を受けてるのだ。
特に危なかったのは、麗日、青山、柳生、雲雀。
この四人もギリギリだったそうだ。
柳生と雲雀は、連携としては理に適っていたし、高得点は得たものの、大道寺にやられたという点は大きく酷かったそうだ。
もし期末試験という立場でなければ、気絶してたとは言え本気で殺されてたのだから。
そう考えると、己の未熟さがより伝わり、自分が非力だと言う事を改めて感じられる。
柳生はともかく、雲雀は落ち込んだそうだ。
だって、40点なのだから…
因みに青山と麗日は35点…超ギリギリだ。
「何をするにしても原点ってのを常に頭の中で意識しとけ、向上ってのはそう言うもんだ。
何の為に汗かいて、何の為にグチグチ言われるか、常に頭に置いておけ――」
何の為。
人を救けるのは何の為?
強くなるのは何の為?
それが善であろうと悪であろうと、原点という存在は必ずや存在するのだ。
それは、ヒーローや忍…人間誰だって原点というのは存在するのだ。
その原点が自分で理解してるかどうかが問題であり、原点によって人の強さは変わるものだ。
「原点…かぁ…」
飛鳥は小声で言葉を漏らす。
今まで思ったんだが、自分は一流の忍になりたい…そう願っている。
しかし、その原点は?
なぜ自分は忍になりたいのか…
じっちゃんやお母さんが忍だから、と言う理由もあるのだが…(事実、お母さんは反対してたが)、多分じっちゃんを見て、私も忍になりたいと思ったんだ。
それは、緑谷がオールマイトに憧れたように、飛鳥は半蔵に憧れたから。
自分も、じっちゃんみたいに強くなって、立派な善忍に、カグラになりたい。
その想いが、人を強くしてくれる。
個性訓練も終わり、夕食の時間が迎えた。
夕日が山の彼方へと沈むその光景は、何とも美しいものだ。
数羽のカラスが、夕日へ向かうように、羽を羽ばたき飛んでいく。
「えっと…これで良かったんだよね」
二組の女子達は、豚肉や牛肉やらを切り込み、焼くなり煮るなりと調理している。
まあ女子は肉じゃがで、男子達は肉のない肉じゃが、つまりホクホクなじゃがしか食べないので、今日は少し特別だ。
男子達は薪を運んだりや、肉以外を調理している。
肉を没収されるだけでここまで落ち込むとは夢にも思ってなかった。
本当に女子達が羨ましい、自分も女の子として生まれたかった…なんて時折思えてしまう。
「よし、焼き加減はこれくらいで良いかな…あとは…」
鍋に投入…と思ったその時、竃の方から緑谷と轟の喋り声が聞こえた。
何だろ?と思い耳を澄ます…どうやら洸汰の事で話してるらしい。
「そう言えば…洸汰くん…見てないね…」
朝から今に至るまで、一回も洸汰を見てない。
もしかして、昨日のこと言い過ぎたのかな?
いや、でも…う〜ん…
飛鳥が悩ましそうに表情を難しくすると
「ん?どうした飛鳥?」
「あっ、柳生ちゃん」
柳生が手を洗ってる所、飛鳥が悩ましい顔を立ててたことに気付いたようで、声をかける。
「んっとね、洸汰くんについてなんだけど…」
そこから飛鳥は昨日あったこと、そして洸汰の心境を彼女に話した。
本当は洸汰くんの家事情を、そう易々と教えてはいけない事なんだと思うが、そうでもしなければ話せないし、何より彼の悩みを解決したい…
でも、自分の意見では彼には通用しなかったし、自分の価値観ではもしかしたら彼に声は届かないとさえ思えてしまう。
なら、他人の意見を聞いてみようと思ったのだ。
そうすれば、自分になかった意見が出るかもしれない。
まあ、此処に洸汰がいない事が幸いだったのかも。
しかし、此処にいない…となると、やっぱり自分たちのことをよく思っておらず、嫌いだから一緒に居たくないのだろう…
「どう思う柳生ちゃん…?もし、柳生ちゃんだったら、なんて言うかな?」
柳生は目を瞑り、沈黙する。
そして、目を開けると、柳生は簡潔に言った。
「簡単だ、受け入れれば良い――」
「え?」
飛鳥は素っ頓狂な声を出す。
余りにも、柳生の言葉が手短く、それでもってアッサリした答えなので、逆に驚きてしまった。
「悲しみも、その人の死も、受け入れるしかないんだと思う。
乗り越えられたようで、乗り越えてないようで…また乗り越えたようで…乗り越えてなくて…その繰り返し。
だからそのまま受け入れるんだ、何もかも――
悲しんでも良い、苦しんでも良い、人間というのは弱い生き物だ。
だから、その悲しみを踏まえて、人は生きるしかないんだ…」
その時の柳生はいつになく真剣だった。
悲しんでも良い、苦しんでも良い、その人の事を想い、涙を流すことは、決して悪いことではないのだから。
涙を流すことは、悲しむことは、亡くなったその人の事を大切に思う証拠だから。
だから事故だろうと、殺されたとしても、その死は受け入れるしかないのだ。
だって、死んだ人間は生き返らないのだから。
そして人間はいつか死ぬ、生があるから死がある。
人間は、世界はそうやって創られている。
その寿命が、短ろうと長かろうと、必ず死ぬんだから。
悲しみは、避けて通れないのだ。
「俺の妹の望は、交通事故で死んだ…
個性とか、忍とか、関係のない…極一般な事故死でな…
洸汰の言う通り、確かに個性のせいで、人は狂ってしまうだろうな…それはヒーローとか敵だけじゃない、俺や、俺たちも…そうなんだろうな…
力があるから、人は狂い、争ってしまう…
でも、例えそうじゃなかったとしても、争いのある世界じゃなかったとしても、人は死なない訳じゃない、いつか死ぬかもしれない…
それは、変わらないんだ…」
自分だけじゃない、この世界に生きてる人間、いつ誰が何処で死ぬかも分からないのだ。
突然死んだりすることもあれば、望と同じ交通事故で死んでしまうことだってあれば、凶器やらで殺されたり…
人は、平穏という名で生きている。
だから、人は常に死を意識しなくなる。
「洸汰くんは…受け入れてくれるのかな…?」
両親の死だけじゃない、個性という存在、超人社会という世界を、洸汰は受け入れてくれるだろうか?
それが出来ないから、洸汰はああなってしまってる…では、どうしたら受け入れてくれるのだろうか?
「受け入れてくれる…じゃない、受け入れなければならない…だな」
柳生だって、望の死を受け入れられなかった。
それもそうだ、まだ幼い妹が、子犬のように後を付いてきてくれた可愛らしい妹の死を、どう受け入れろと言うのだ?
当時の頃の柳生は、心の半分が死んでいた。
だから、悲しみを受け入れるため、望の願い…忍になる夢を叶うために、自分は眼帯を作ったのだ。
いつの日か隠鬼の目――なんて物騒なものになってしまったが。
それでも視界が狭まれば、望のことは忘れない…
「さっきも言った通り、人間は弱い生き物だ。
弱い生き物でも、強くなることはできる。
だから、自分で受け入れなくちゃいけないんだ。
それが、アイツにとって…洸汰の課題…なのかもしれないな。
アイツが望まなくても、いつか受け入れなくちゃ…いけないんだ。
今はまだ無理なのかもしれない…でも、無理でも良い、焦る必要はない…
いつか、受け入れれば…それで良い――」
望の死をどうすれば良いか、心が裂けるほど悩み、甚い、苦しんだ。
大切なものを失った柳生だからこそ、ソレを経験した彼女だからこそ、言える言葉。
自分たちがどうするかじゃない、洸汰がどうするかが問題なのだ。
幼い少年に「死を受け入れろ」なんて言っても納得が出来ないし、柳生でもそこまで単直には言わない。
結局、無理に他人の家事情には首は突っ込まない方が良いし、問題なのが本人がそれを呑めるかどうかで、自分たちが解決するのではない。
でも…手助け位は、しても良いのかもしれない。
だから柳生は「無理に首を突っ込むな」とは言わない。
そもそも言ったとしても、飛鳥が止まる訳がない。仲間として、忍として、今まで飛鳥を見て来たから分かる。
飛鳥は今まで曲がらず己の信じる忍の道を前向きに突っ走って来たからこそ、どんな人間も救おうとする。
焔も、雪泉も、そうやって救って来た。
そして、ステインだって――救おうとした。
彼を倒したは良いが、アレが救えたと言われたら、答えられない。
でも、彼の心に少しでも変化があれば、それが人の為になるのなら、良いのかもしれない。
「…そっか、そう…だよね」
これは誰かに助けてもらう、ではなく、自分で解決しなければいけない問題だ。
他人がどうこうする問題ではないし、自分で乗り越えなきゃ意味がない。
でも、これだけは伝えておこう…
――今は受け入れなくたって良い、これからちゃんと、向き合っていこう――
個性も、超人社会も、そして…ヒーローも。
例えそれが無駄だとしても、ちゃんと彼に伝えよう…
それが私に出来ること――
肉じゃがを食べ終え、ようやく待ちに待った肝試しが行われた。
「ケケッ、爆豪と轟ビビってたな。
俺と小大の相性抜群だな!」
「ん」
「ウチだって忍法工夫すりゃ脅かす事だって朝飯前だし〜」
「四季に唯も気合入ってんな!」
暗い森の中、最初の脅かし役は小大、骨抜、四季、拳藤だった。
骨抜の個性で小大を沈めさせ、地面から顔を出すのが彼女の役目。
四季は蝙蝠を召喚させ、驚かせる。
勿論、危害は加えないし触れることはないのでセーフ。
拳藤が指導、または手を巨大化させて驚かせる。シンプルだが怖い。
事が起きること数十分前、夕食を食べ終えた皆んなは、肝試しのルールを聞き実行。
B組が脅かす役、A組が肝を試す役…時間は1組に付き5分置きに出発。
ルートの真ん中に名前を書いた札があるので、それを持って帰ることが条件とされている。
因みに補習組は最初こそ行けるハズだったのだが、訓練が疎かだったので肝試しの時間を削いで補習…とのこと。
楽しみにしてた補習組がとても可哀想でならなかったが、肝心の物間も同じく補習を受ける羽目に…残念だ。
因みに出発したペアは爆豪・轟と、柳生・雲雀。
そろそろ五分が経つので麗日と蛙吹のペアが出発する頃だろう。
ペアになった際、嘆く者が居た。
爆豪、峰田の二人…
爆豪は轟のことにヤケに苦手意識を持ってる為、尾白に変われと命令し、尾白とペアを組んでいる峰田は、八百万…飛鳥に代わりたい為か、青山と緑谷に「代わってくれ!」と膝を地面につけてひがんでいた。
当然二人は峰田とくっつかせたら危険だと思ったので(または爆豪と変わりたくないので)断固拒否する。
八百万と飛鳥は峰田と変わりたくないし、他の女子も峰田に当たらずに心の底から安堵の息をつく。
まあ実際バスの中でエロ(本人は官能)トークしたり、覗きを二回行ったので、女子から不潔扱いされるのは瞭然たる結果だ。
B組は勿論、皆んな仲が良いので誰がどのペアになろうと関係ないし、それはそれで楽しい。
「にしても、柳生ちゃんが意外だったな〜、まさかホラー系が苦手なんて知らなかったし」
「まあでも脅かし役は案外楽しいよな!
爆豪とか柳生っつーヤツとか、人に見せない一面を見ること出来るし、恐怖ってスゲェ!」
「……ん?」
「…?どったの拳藤ちん?」
「ねぇ、あのさ…さっきから焦げ臭くない?妙に…さ」
拳藤が何かを察したかのように、手で鼻と口を抑え、辺りを見渡す。
しかし闇が広がる森の中、懐中電灯でもない限り視覚することは出来ない。
「焚き火とかやってたり?広間で…キャンプファイヤーとか?」
「けど…プッシーキャッツの皆んなや先生…今日は肝試しやるとしか言ってなかったろ?
何か匂いが強くなってきたし…」
「どーせ爆豪か轟辺りがビビっちまって個性使ったんじゃ――」
バタン――
「――え?」
この時、小大・四季・拳藤は目の前の光景を疑った。
なんと、骨抜が突然倒れ出したのだ。
先ほどまで何ともない様子で自分たちと、平然と会話をしていたのに…
骨抜はまるで魂が抜け取られたかのように、目を開けず、物言わず倒れてしまったのだ。
この焦げ臭い匂いが原因か?
しかしこの匂いが原因であれば当然、自分たちも骨抜と同じく気絶してしまう…
では何が原因で…?
「ッ!これって――!」
拳藤は暗闇に漂う視覚出来る異様な空気、ガスを見て瞬時に悟った。
これは…毒ガス――!?
「四季!小大!」
「ん!」
「待って拳藤ちん!なんか来る!」
「え?」
手で口を抑えながら、小大を掴むものの、四季の言葉に視線を向ける。
四季が指を差してる方向から、フヨフヨと不確定な動きをした光る物体が此方に近づいて来る。
その姿は、妖怪シリーズに出て来そうな火の玉と同じサイズをした龍が口を開き、遅くとも此方に近づいて来る。
「何これ…?」
「ッ!拳藤ちんに小大ちんこれなんかヤバ――」
「――さぁってと、開戦の幕上げだ」
瞬間、聞きなれない女性の声が暗闇の森の何処からか聞こえ、それを合図にするかのように、龍の姿をした物体は、危険察知して避難させようとした四季や拳藤に触れることなく――
――ボガアアアァァン!!!
爆発を起こした。
それこそ花火のように光が爆発し、周囲に漂う毒ガスは爆風により吹っ飛ばされるものの、森がヒシヒシと悲鳴をあげる。
「
さァ始まりだ。地に墜とせ…『敵連合開闢行動隊』――」
暗闇の森の何処か、荼毘は近くにあった木に触れると、その木は瞬時に燃え上がり、黒煙が巻き起こる。
森に火が付くことで、当然気がつく者もいるが、関係ない。
合図があったと言うことは、各々の悪意は暴れると言わんばかりに…動き出す。
「何だ?さっきの爆発…近かったな…」
「もしかしたら、爆豪くんが爆発起こしてるのかも?」
柳生・雲雀ペアも何が起きてるのか分からないし、毒ガスが発生してることも、森が燃えてることも、分からない。
しかし、直ぐに知ることになる――
「――みーつっけた♪」
木の上、葉に紛れて隠れてる少女は、背負ってる一本の鎌を手に持ち、微笑む。
鎌倉は柳生の首めがけて、鎌の刃先を向ける。
当然、始まったばかりのお茶子と蛙吹ペアも…その悪意に気づくことなく、後ろにナイフを持つトガヒミコの存在も、彼女たち二人には分からなかった。
ポタポタ…
地面に血が流れ、こびり付く。
広間に集まる生徒たちや、飛鳥に緑谷は恐怖で怖気付き、マンダレイと虎は目の前の光景を恨むように睨みつける。
その目には、怒りが込められていた。
――なんで
そんな、こんな事有り得ないのに…
だって、この場所は雄英生と担任、そしてワイルド・プッシーキャッツにしか此処にはいないはずなのに。
「――もぅ、飼い猫ちゃんは邪魔ね」
サングラスを掛けたオネエ口調の敵は、嫌に薄ら笑みを浮かべながら、広間にいる皆んな全員を見つめる。
布で覆い隠された大きな鉄棍棒を手に持ち、頭から血を流し気絶してるピクシーボブの頭を潰すようにと、力を入れる。
その痛みに伴うかのように、ピクシーボブの表情は歪む。
「ハッ――無様な事だな、至極当然な報いだ」
装甲付きの黒いブーツを履き、ゴミを踏み潰すかのように、ピクシーボブの腹に足を踏み入れ、ペッ――と唾を顔に吐き付ける、トカゲの顔をした男は、嘲笑う。
――なんで、そんな…だってここは…
私たちしか知らないはず。
林間合宿のことは、誰にも知られてないはず…生徒たちだって当日になってからしか知らなかったんだ。
なのに、こんなこと…あり得るはずがない。
「なんで…そんな…万全は期した筈じゃあ…
なんでだよ畜生…嘘だろ……なァ?おいって!!」
皆んなの気持ちを代弁するかのように、訴えかける峰田は、恐怖で体を小刻みに震える。
他の生徒たちの顔色も、目の前の信じられない光景に息を呑み、青ざめる。
峰田の気持ちは同じだ…
「なんで
峰田の怯えた叫び声が、空に届くよう響き渡る。
そしてピクシーボブと虎が戦闘態勢に入る。
歪んだ悪意を持つ敵は、善を踏みにじり、嘲り笑う。
その光景は、もはや悪夢でしか何でもない。
唐突たる理不尽は、ヒーローと忍に襲いかかる。
あのピクシーボブが、個性を使う前にやられたのだ。
見るからに結果は最悪、森は燃えてる、爆発があった、毒ガスがある。
敵の実力も数も未知数、何処にいるかさえ不明、用意周到に計算された襲撃、生徒たちが危険…状況は最悪だ。
「何が…起きてんだ?」
そして、秘密基地で独りになってた洸汰は燃えてる森を見つめる。
その後ろに、殺意を孕んだ敵がいる事などいざ知らず――
なんと、新しい敵キャラクターは五人も追加されてるんだよ!
うわぁ、すごいすごーい(棒
…ってことで、待ちに待った敵連合開闢行動隊との激戦が始まります!