光と影に咲き誇る英雄譚   作:トラソティス

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ワイプシのマンダレイ、物凄く可愛いですよね。惚れちまう…皆さんは誰が好きなんですかな?
それと小説投稿…寝る暇惜しんで書いてます。
やりたいことを優先してやってるのでアレですが、寝てませんよ。正直言って疲れてますが、まあこの小説を読んでくれる方を…と同時に、多くの方が読んでくれたら…と思い、書いてます。


93話「洸汰くん」

 

 

 

「ヤーーッとついたにゃんね」

 

合宿施設、マタタビ荘の広間の前で、ピクシーボブが両手を腰に当ててA組の帰りを待っていた。

もう夕暮れ…空は夕焼け色に染まっており、見れば分かるがもう昼はとっくに過ぎている。

今の時間は大体5時半だろうか、予想以上に時間が掛かってしまった。

 

魔獣を相手にし、森を抜け、空腹と疲労に襲われながらも、クラスの生徒達は何とか辿り着くことは出来たものの、ボロボロだ。

制服は泥やら土やらで汚れており、汗は滝のように流れ、土と汗の匂いが混ざり、スポーツから帰ってきた気分だ。

まあ尤も、スポーツなんて生易しいものではなく、強化合宿を始めて初日から、こんなにヘバッてしまうなど、誰も思ってもいなかった。

どんな時でも、人の常識を軽々と超えていく雄英の厳しいカリキュラムは流石!と言いたいが、激しい空腹と何倍もの疲労感が溜まっており、最早そんな前向きな考えは出来るはずがなく、全員虫の息だ。

忍学生の三人も、常人とかけ離れた訓練や、それなりの耐久値はあるものの、流石にこれはキツイ。

昼抜きのまま、何も食べずずっと走りっぱなしだったのだ。

タダでさえ宿泊施設が遠いというのに、ピクシーボブの造り出した魔獣が、倒すたびに何度もなんども現れ襲いかかってくるので、もう頭がはち切れんばかりのストレスと、永久的に続くかのような時間感覚に囚われ、もうとにかく酷いのだ。

 

「何が『3時間』ですか…腹減った…減り過ぎて胃袋がどうにかなっちまうよ…」

 

「死ぬぜ……さっきから腹の虫が収まらねえ……お腹と背中がくっ付きそうだ…」

 

「僕は別の意味でお腹痛いけどネ☆」

 

瀬呂と切島はマンダレイ達に野次りを飛ばし、お腹を抑えてる青山は何故か得のしないドヤ顔を決める。

しかし、お腹を抑えてるあたり全然カッコよくない。

青山がお腹を抑えてるのは、空腹やトイレと言った類ではなく、個性を使い過ぎたからだ。

青山の個性は確かに威力は良いものの、持続時間が1秒ゆえに、使いすぎると、または1秒以上放出し過ぎるとお腹を壊してしまうデメリットが存在する。

 

ふもとまで自力で走ってきた。体力的な意味での疲労ではなく、個性を使った上を踏まえてのこの重たい疲労、早く床に就きたい…

 

「ごめんねえ、アレ私たちだったらって意味だったのよ。

まあでも意外…本当はもう少し時間が掛かると思ってたし、因みにB組の生徒はまだ来てないわ」

 

「ねこねこねこ!本当それね!

 

私の土魔獣、本当なら結構強いんだけど、簡単に攻略された時はビックリ!

皆んな良かったんだけど…特に君らその五人…躊躇のなさは経験によるものかしらん?」

 

爆豪、轟、飯田、緑谷、飛鳥、この五人だ。

意外にも、マンダレイとピクシーボブは褒める。

二人でならってことは…つまり、自分たちよりももっと早く辿り着けてたって言う事になるのか、なんというか…そう言われると返す言葉もない…それ以前に、プロヒーローの凄みが肌に染み渡り、思い知らされる。

逆にそれが嫌味にも聞こえるのだが。

 

「三年後が楽しみー!取り敢えず唾つけとけ!ペッペッ――!」

 

「うわっ、汚ねぇ…!」

 

「おい!唾つけんなや!」

 

ピクシーボブの唾をガードするよう腕を交差して身を守る。

 

「マンダレイ、ピクシーボブってあんな人でしたっけ?昔は何というか…夫が欲しいとか、女の幸せ掴みたいとか、どうとか…」

 

「ああ、彼女ね焦ってるの…適齢期的な意味で」

 

ああ成る程…

偶々よく見るパターンの人だ。

心の中で呟いたが、決して口には出さなかった。

言ったらなんかそのネコの手をモチーフにしたグローブで顔に思いっきり猫パンチを食らってしまう気がしたので…

 

「あっ…そう言えば…ずっと気になってたんですけど…

 

()()()、どなたかのお子さんですか?」

 

マンダレイとピクシーボブの後ろ、相澤の隣に立っていた少年が、鋭い目つきをした顔で反応する。

 

「あー、違うよ。

この子は私の従甥だよ、ほら洸汰、お兄さんお姉さん方に挨拶しなさい、一週間お世話になるんだから…」

 

「──うるさい、世話なんて要らない…」

 

洸汰はマンダレイや他の皆んなに聞こえない範囲で呟くと、トボトボと歩き、緑谷の近くに来る。

緑谷はニコッとした晴々しい笑顔を見せ、手を差し伸べる。

 

「あ〜っと、僕!雄英のヒーロー科の緑谷、宜しくね!」

 

「……ふん!」

 

 

ゴチン!

 

 

「ぶっ!?!」

 

瞬間、誰もが目を疑う光景を目の前で見てしまった。

洸汰は緑谷の手を力強く握ることも、邪魔だと払うこともなく、拳を強く握りしめ、股間めがけて…それこそ男性の誰もがついてるゾウさんと二つのゴールデンボールを潰すかのように、力いっぱい入れたのだ。

股間から強烈な激痛が走り、白目を向いたまま押さえ込み無様に倒れる。

 

「緑谷くん!?おのれ従甥!何故、緑谷くんの急所を…「うるせえ黙れ、話しかけんな」なに!?」

 

緑谷を心配し駆けつけた飯田が呼び止めるも、洸汰は緑谷たちに背を向けたまま、飯田の言葉など気にもせず、口の悪い利き方で返してくる。

 

「ヒーローになりたい、なんてイかれた連中とつるむ気なんざねえよ」

 

「つるむ!?君は一体幾つなんだ!?」

 

洸汰はそのまま、宿泊施設のマタタビ荘に入っていき、姿を消した。

あの子は一体何なんだろう…と皆んなは思うが、さほど強い感じではなかった。

小学生か、それくらいの子どもはあんな爆豪みたいな性格をした子どももいるだろう。

まあ尤も、爆豪本人の目の前で「お前に似てるな」なんて言ったら爆殺ものだ、口が裂けてもそれは言えない。

 

「なあ、爆豪」

 

「あ?」

 

「洸汰って、お前に似てるな」

 

――いた。

ここに、轟焦凍というハンドクラッシャーがここにいた。

爆豪本人に、しかも直接言うとは、天然とは言えここまで来ると、嫌がらせにしか見えない。

 

「アァ!?俺が小学生並みって言いてえのかクソ舐めプ野郎が!」

 

当然、こうなる。

轟は何の悪そびれた態度も出すことなく「ああ、悪いな、似てる」と二回言い、ブチ切れをした爆豪は掌を爆破し轟に殴りかかるも切島がそれを止め、落ち着かせる。

 

「オイお前らそろそろ良いか?

さっさとバスから荷物下ろせ、部屋に荷物運んだら食堂にて夕食だ。

 

――その後、入浴で就寝だ。

本格的なスタートは明日からだ、今日は早めに体休めとけよ」

 

はーい。と気怠い声を発する皆んなは、雑談をしながらもバスから荷物を降ろしていく。

しかし、これが終わったら夕食…

昼抜きなので、夕食はたらふく食べて空腹を満たそう。

 

「皆んな疲れてるのも当然ね、私たちも早く荷物降ろして夕食の時間にしましょう」

 

飛鳥の隣で蛙吹が呟く。

しかし、飛鳥はマタタビ荘に視線を向けたまま、一向にバスから荷物を下ろす気配はない。

 

「ケロ…?飛鳥ちゃんどうしたの?」

 

「ッ!あー、ううん!何でもないの、気にしないで梅雨ちゃん!」

 

「ケロ…」

 

ボーッとしてた飛鳥は、蛙吹の言葉でようやく我に返り、慌ただしい素振りを見せる。

当然、何でもないし気にしないで、なんて余計な言葉が出れば、何かあるんだろう…と疑うが、深い詮索は嫌われちゃうし、失礼なので、この際問うのはやめた。

 

そして飛鳥は再度、洸汰が入っていった場所に視線を戻す。

 

 

――なんだろう、この嫌に胸に引っかかる言葉は…

洸汰。

彼のような子どもはあまり触れ合ったことがなければ、そう言う今の幼少期の子供達について、どんな感じの子なのか、知識が疎い。

自分の想像してる、あれくらいの年齢の子といえば、明るかったり、ヒーローになりたいなんて、漠然とした夢を見る子だろうと思うのだが、洸汰は飛鳥の想像の真逆、むしろヒーローと関わりたくない、憎悪に近い眼差しだった。

 

ヒーローのことをよく思ってないのかな…?

人それぞれだし、一概的には言えないけど…

アレ?でも、なんだろ…洸汰くん、なんか誰かに似てる気がする…

似てるって言うより、外見的な意味じゃないんだけど、言葉の意味…なのかな、性格とか、誰かに似てる気が――…

 

――焔ちゃん?

ううん、違う。

まあ、昔の焔ちゃんの目つきは、洸汰くんに似てる感じだったし、ヒーローとか、善とかの馴れ合いは言語両断だったけど、何か違う。

 

――雪泉ちゃん?

う〜ん…近い。

昔の雪泉ちゃんの、悪は滅する…という歪んだ正義の価値観の眼差し、憎悪と言ったレベルでは似てるが、何かパッと浮かべない。

 

――雅緋ちゃん?

雅緋ちゃん…は、会ってから日は浅いしよく知らないけど、ああ言う厳しめな発言は雅緋ちゃんよりもやっぱ爆豪くんみたいだし…あっ、でも焔ちゃんは昔は結構言葉遣いが荒かったなぁ…

正にTHE・悪忍だったし…

他に違うと言ったら一体誰だろう?

 

考えても、頭の中がモヤモヤするだけで、答えが見つからない。

 

「――おい、おい!飛鳥!」

 

「へっ!?あ、相澤先生…?な、何ですか?」

 

「何ですかじゃねえ、何ボーッとしてるんだお前は。

後残る荷物お前だけだぞ、他のみんな先行ってる、早く支度しろ」

 

「――え?あっ、嘘!?ちょっと…!」

 

気付けば、バスの中にあるのは飛鳥の荷物だけとなり、他のみんなは施設の中に入っている。

自分も早くしないと…!

焦る気持ちを胸に抱きながらも、荷物を取りに走って急ぐ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いただきま〜す!!

 

横長い木製テーブルの上には、豪勢豊かな料理がズラリと並べており、色んな品の匂いが食堂に充満し、皆んなの食欲を爆発的にそそる。

どれもこれもデカ盛りとは有難い。

ポテトサラダ、唐揚げ、コロッケ、刺身、etc…プラス、白米に豚汁。

もちろんお代わり自由。すみません自分、フードファイター目指してもよろしいか?

 

食事の挨拶を軽く終わらせると、皆んなはガッツクように食事に食いつき、せっせと料理を口に運ばせる。

美味い!最高!など、さも当然のような感想が溢れかえり、瞬く間に騒がしくなる。

しかし、空腹だと本当に何でも食えるし、今ならどんな物でも胃袋に収まる。

白米はモチモチとした食感がよく、ランチラッシュの料理に負けを取らない。

豚汁もいい出汁が取れてるし、具材は豚肉を始めとして、人参、じゃがいも、ネギ、こんにゃくなど様々な種類が入っており、程よい出汁と絡み合い、無限にお代わりしたくなる味わいだ

他にもポテトサラダも、口の中に広がるジャガイモの味に、マヨネーズとマッチした淡白な味が特徴。

コロッケなんかも、サクサクとした香ばしい香りに、中にはクリーミーな食感がたまらない。

ジャガイモばっかじゃないか、まあ美味しいので文句は無いが…

刺身はマグロ、鯛、サーモン、海老など、色鮮やかで艶があり、脂っぷりも良く、醤油に漬けて食べるのが何とも…これが刺身の魅力なところ。

刺身よりも寿司の方が好きだ!と言う輩もいると思うが、空腹の中ではそんな事どうでも良く、気にしない。

唐揚げも、外はカリっとした歯ごたえに、中身はとろっとろのジューシーとした鶏肉、塩胡椒は自分で調整出来るので、自分のかける分量は好きなようにかけて、食べる。

家庭的な味だが、空腹と疲労に解放された今は、そんなのはどうでも良く、どんな物を食べても美味しいことに変わらないのだ。

 

 

そんな感じで、楽しく賑やかな夕食は、満腹に満たされ終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っとまあ、ね。

夕食とか、そう言うのはどうでも良いんすよ……オイラが求めてるのは別。

分かってんすよ…そう、求められてるのは、この壁の向こうなんスよ――」

 

「峰田くん、さっきから何言ってるの?」

 

夕食が終わった生徒達は、A組から先に湯船に浸かる時間…つまり、温泉を満喫していた。それも露天風呂。

そう、お風呂の時間だ。

クラスの中では男子が多く、漢供は、漢同士、背中で語り合い、汗を流す。

しかも夏とは言え、夜は外の空気が涼しく、温泉の暑さと外の空気で調整され、居心地が良い。

空は綺麗な星が輝かしく、まるで天の川のようだ。

正に絶景、夕食も豪華で露天風呂もある、なんて良い合宿なんだろう…

しかも湯船に浸かると、今までの疲労が全て流されるように消えていき、気持ちいい快感が全身に巡る。

しかし、峰田が求めるのはそんな物では無かった。

そう、峰田が望むもの…それは、女風呂という天国を覗くこと…つまり、桃源郷が目的。

峰田は、ずっとこの日を待ち焦がれていたのだ。

もはや峰田にとって変態という言葉は勲章であり、褒め言葉。

寧ろ、変態という本能に従い生きてると言っても過言ではない、世界でも滅多に見ない変態中のド変態。

峰田は一人、ポツンとカッコつけて男子風呂と女子風呂を隔ててる壁の前に立っている。

 

「み、峰田!今ならまだ間に合う…やめろ、それだけはやめるんだ!」

 

「上鳴…それでもお前…男か?あァ?」

 

「いや男だけど…確かに女子は可愛いし好きだし、なんつーの?気になる気持ちはわかるけどよ…お前ヒーロー科だろ?」

 

「ハッ!これだから甘ちゃんは…ヒーローという言葉を使って直ぐに正当化させようとする!良いか?男はな、ロマンを求める生き物なんだ…そうやって出来てるんだよ…!」

 

峰田はハン!と嘲り笑うように鼻で笑う。

木椰区ショッピングモールで、ナンパをしていたチャラい上鳴も、流石に女風呂を覗くことに躊躇っている。

それもそうだ、確かに女と付き合うのは、まあプライベートの問題だし、付き合おうとするのはまだセーフかもしれない…しかし、峰田は欲望に溺れてしまい、最早犯罪の手にまで染まろうとしてるのだ。

それを止めるのが、上鳴()の役目よ。

しかし、性欲に塗れた峰田がそう簡単に言葉だけで止まるのであれば、誰も峰田の事には苦労しないだろう。

 

「上鳴…考えてみ?あの中でスタイルいいヤツつったら?」

 

「え?えーっと…八百万に……忍学生の…ハッ!?」

 

ダイナマイトボディを誇る女子生徒と言えば…

露出高めの副学級委員、八百万。

天真爛漫、元気で明るい飛鳥。

クールで逞しい胸を備える、オレっ娘の柳生。

兎のような小動物、お尻がムチムチな雲雀。

忍学生=ナイスバディ。

上鳴の頭の中で勝手にコンバージョンした。

いや、上鳴だけでなくこの場にいる男子の誰もが想像付くだろう…

今まで自然的な常識で、なんとか受け流して来たが、忍学生はどういう理由か、都合よく胸が、夢と希望がつまったオッパイが、大きいのだ。

それは忍学生の体質か、理由は定かではないが、とにかく胸が大きいのだ。

それも尋常じゃないくらいに。

動くたびにプリンのように揺れ、この世の大地の恵みのような、安らぎを感じる柔らかさ。

触ったことがないし、仮にそうなってしまったら確実に無事じゃ済まされないが。

しかし、忍学生に「なんで胸が大きいの?」と聞くのは愚問だ。

これは自然的な…いや、宇宙の意思であり、摂理なのだ。

因みに、抜忍の焔紅蓮隊の未来や、悪忍の両備に「なんで君たちは胸が小さいの?」という質問はしてはいけない。禁句だ。

胸に風穴が開くじゃ済まない、体全身に穴が空くだろう。

死刑すら生ぬるい処罰が下される事間違いなし。

 

 

胸があるからこそ、掴みに行く。

これぞ、命懸けで取りに行く。峰田は、閃乱の境地にて、胸を掴むがために、その桃源郷に咲く果実を拝みに行く。

出来れば掴んで食したいのだが、それが出来れば苦労はしないし、忍学生も務まらない。何よりも規制確定だし、仮にR寄りにしたとしても、相手が峰田ならば残念だ。

 

「考えてみろ?ホラ、皆さん…手を胸に当てて、落ち着きましょう?

 

今日日、男女の入浴時間ズラさないなんて…その時点でもう事故、これはもう事故なんスよ……

 

神が言っている…『望み求めるならば、行くが良い、禁断の果実を拝めに行くが良い』と…」

 

しかし、これはただの妄想であり、幻聴である。

峰田の頭の中はもうおっぱいのお花畑でいっぱいだ。

男としてのプライドや羞恥心などない…いや、プライドはある。

変態という名のプライドが。

 

しかし――

 

 

「峰田くんやめたまえ!!

――君のしてる事は己も女子陣も貶める恥ずべき行為!何よりも覗きは犯罪であり、法律違反だぞ!!

 

ヒーローを志す君が、犯罪者…いいや、それこそ敵となりうる存在に変わってしまってどうするんだ!?

改心したまえ峰田くん!」

 

当然、そこに壁と呼ぶべき番犬のような飯田が止めに入る。

サッカーで言うならゴールキーパー。

宝箱を守る強敵。

ドラクエで言うローラ姫を守るドラゴン。

 

勇者である峰田は、女子風呂を覗こうとするも、それを守る飯田というドラゴンが止めに入る。

なんか勇者が悪者で、ドラゴンが勇者みたいだ、勇なまじゃないんだから…

ガードの固い男だ。その硬さはメ◯ルキング級である。

 

峰田はさも失望するかのような表情を立てる。

その顔があまりにも酷すぎて、逆に笑いがこみ上げてくるが、峰田は直ぐに悟りを開いたような穏やかな顔に変わり「やかましいんスよ…」と呟く。

 

瞬間、訓練されたかのような、俊敏なる素早さで頭のもぎもぎを取り、壁にくっつけ壁をよじ登って行く。

 

「壁とは!越えるためにあるもの『PulsUltra』さ!」

 

「教訓を穢すんじゃない!!」

 

しかしもう遅かった。

飯田の言葉など意に介さず、峰田は性欲に赴くがままに、欲望をさらけ出すかのように、ケダモノは壁をよじ登り、桃源郷へと向かって行く。

なぜ山を登るのか?そこに山があるからだ。

峰田も言うだろう、なぜセクハラ(覗き)をするのか…そこにオッパイがあるからだ。

そして女子は言うだろう、そんなもん知るか、と。

半蔵学院に一人だけセクハラをする人がいるが、多分峰田と同じセリフを言うだろう。

しかし、あの人は性格がエロじじいとは言え女性なのでまだ百合の華として捉えられるのでセーフだが、峰田は完全にアウト。

後少し、後少しで壁を越え桃源郷に着くことができる。

天国に咲く、豊満なる果実を、その目で味わうことが出来る。

 

「オイラはこの日のために待ってたんだよおおおぉぉ!!

 

スケベでエッチなものを期待してる皆の衆!オイラは為してやるぜ…英雄、峰田実の勇姿をしかと見ろおおぉぉ!!今の俺は英雄グンダだぜぇ!」

 

もう頭の中がとにかくおっぱいしかない。

峰田は上か下かどちらか好きか、どっちも好きだが、どちらかと言えば、上だ。

おっぱいは余すことのない、魅力溢れたものだ。

おっぱいにいっぱいだ、おっぱいに乾杯だ。

そしてグンダに謝れ。殺されるぞ。

 

さぁ、いざ…桃源郷へ――

 

 

その時、峰田の行く手を阻むかのように、目付きの悪い一人の少年が壁の上から出てくる。

だれもが予想しなかった出来事だ。そしてその少年は、出水洸汰。

マンダレイの従甥であり、緑谷の陰嚢を殴った張本人でもある。

 

「ヒーロー以前に、人のあれこれから学び直せ」

 

――トンッ。

 

「クソ餓鬼イイィィーーーーー!!!!」

 

峰田よりも年下の少年に論破され、突き落とされてしまった峰田は、英雄でもハンターでもグンダでも勇者でもなんでもない、ただのアホだ。

それも世界一恥ずべき人間である。

恐らく洸汰は、マンダレイに「相澤から一人だけ変態がいるから監視してきて」と言われたので、渋々と承諾したのだろう。

だから監視役として見回り、こうして峰田という犯罪に手を染めたケダモノを止める事が出来たのだ。しかしヒーローを目指す人間が覗きって…

なんて呆れながら洸汰はため息をつく。

 

「峰田ちゃんサイテー」

 

「アイツ後で夜桜に頼んで煩悩ごと打ち砕させてやろう…」

 

「洸汰くんありがとー!」

 

後ろから苦楽とした女性の声が聞こえる。

突然お礼を言われたので、反射的に後ろを振り向くと…そこには、確かに天国が存在した。

湯気が立っているので都合よくアウトな場所は隠されてるが、それでも充分に凄かった。

 

まずピンク肌の芦戸は親指をグッと立てて感謝をし、雲雀はその我儘ボディを活かしながら立ち上がり、両手でピースサインを送る。

乙女のように恥じらい、胸を…真ん中の位置にあるアレを腕で隠しながら頬を赤く染める八百万にお茶子、梅雨ちゃん、飛鳥、そしてついでに耳郎。

柳生は冷静であり、風呂に入ってても眼帯は外さない。

湯船に空洞があるが、これは葉隠だ。

透明な彼女は一見、何も見えはしないが、鮮明に空洞が空いてるため、そのボディラインはしっかりとしてる。

 

「――ッ?!!」

 

当然、小学生で幼い彼には刺激が強すぎたため、鼻から血を出してしまい、温泉にでも浸かったかのようにのぼせ、火がついたかのように顔を真っ赤っかにする。

これは不可抗力であって、決してわざとではない。

よくあるハーレム系やノベル小説、結城◯トのようなラッキースケベではない、事故。

これは本当に事故、仕方ないのである。

少年は下心がないし、潔癖であるので、事故でも笑って許せる。

良いことをした上で、鼻血を出して気絶してるのだから、これを責める人間は峰田と同類だ。

 

落下して来る洸汰を、緑谷がつかさずキャッチする。

もしあの高さで頭をぶつけたら、確実に病院行きだ。

本当の、違う意味で事故になる。

しかし、峰田はだれにもキャッチされることなく、これでも運良く湯船に落ちたので、頭ぶつけずセーフ。

しかし落っこちた先は、爆豪の目の前だったので「何だクソ葡萄がああぁぁ!!」と怒鳴り、爆豪は峰田の首根っこを掴んで乱暴にする。当然の帰結だ。アレが峰田実という愚か者の末路だ。

まるでハイエナに捕まった子兎のようだ、ウサギに失礼だが許してください。

 

「良かった…洸汰くん無事みたい…」

 

そんな峰田を気にする事なく、緑谷は気絶してる洸汰の外見を見て安全を確認するとホッとする。

今のところ、傷らしいところは見てないので、大丈夫だが…

気を失ってるので、取り敢えずマンダレイの所に戻ろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ…スッキリした…」

 

「峰田本当にすこぶるサイテーだ!信じられなーい!」

 

「ね!本気で覗きをするなんて!…将来が心配…」

 

「まー、アイツは一旦心の底から反省するべきだって」

 

一方、洸汰のお陰で峰田の魔の手から阻まれた女子陣は、峰田の事に腹を立てていた。

それもそうだろう、変態変態と思っていた彼が、最早犯罪の手に染まるなど、だれも予想しなかった。

今回は洸汰が監視役として見回りに来てくれたので、阻止してくれたが、もしいなかったと思えば…もしかしたら、本当に裸を見られてたかもしれないと想像すると…寒気がする。

あんなヤツに裸を見られるなんて…という苛立ちも同時に湧き上がって来るので、体の疲れは取れたものの、精神的な意味では疲れが取れなかった。

いや、取れたが疲れがたまる。疲れというよりストレスだ。

 

「オレたちにとってアイツはゴキブリ以下の害虫だ…駆除しておいた方が良い…雲雀の体をあんな屑に見られるのは御免だ」

 

柳生はいち早く寝巻きに着替えて、自室に戻ろうとする。

そう言えば、今夜は女子とみんなでトランプで遊んだり、女子のガールズトークをしたりするんだっけ。

因みに提案者は芦戸、彼女は補習組の一人だが、今日だけは補習がないのでゆっくりとくつろぎ遊ぶことが出来る。

 

 

皆んなが峰田の事で文句を垂れつつ、会話しながら自室に戻る中、飛鳥だけはモヤモヤとしていた。

それは洸汰のことだ。

さっき洸汰は峰田の魔の手から守ったのだ。

しかし彼は落っこちてしまったし、あの後洸汰がどうなったのか気になるので、飛鳥は皆んなに「ごめん、私ちょっとトイレ行って来る!後飲み物も買ってくね!」と告げて、皆んなから離れた。

 

飛鳥は一人、音もしない静かな廊下を歩いていると…ベンチに緑谷が座っていた。

少し遠いが、人っ子一人いないので直ぐに分かる。

緑谷は片手に自動販売機で買ったコーヒー牛乳を飲みくつろいでるも、表情が暗く、落ち込んでいた。

何を落ち込んでるのだろう?と飛鳥は「おーい!」と声をかける。

飛鳥の掛け声に気づいた緑谷は、視線を彼女に向けると、「うおぉ!かわ…飛鳥さん?!どうしてここに?」と飛鳥を見て一瞬頬を赤く染め動じるも、直ぐに心を落ち着かせた。

緑谷が驚いたのは、飛鳥が突然声をかけて来たからではない。

飛鳥のことは慣れたのでそこは問題じゃないのだが…

緑谷が驚いたのは、飛鳥の姿だ。

可愛いパジャマの寝巻きに、今まで束ねてた髪が解け、下ろされている。

簡単に言えば、真影の飛鳥の髪型と同じだ。

髪を下ろす姿は滅多に見ないし、それだけで印象が変わるので、一瞬戸惑うのも無理はないだろう。

だって髪下ろすといつもと違って可愛いもん。

なんか新鮮な感じだ。

しかもまだ髪は乾かしてないのか、濡れており、風呂上がりのシャンプーの匂いがする。

「隣良い?」と彼女が聞いて来る。

ドクンと心臓が脈打つ。

こんな美少女にこんなこと言われたら堪らない。

しかし、今回の緑谷は心臓こそバクバクしてるものの、「う、うん…良いよ」と平常心を持って言葉を返す。

 

隣にいると、彼女が近くで見られるし、何故か妙にソワソワする。

少しだけ沈黙が続くと、飛鳥は口を開け「そう言えば洸汰くんどうだった?」と聞く。

男子なら知ってるだろ、と飛鳥は思ったのだ。

 

「あ、うん!洸汰くんは僕が運んでったし、マンダレイに診せて貰ったところ、「刺激の強すぎるものを目の前にしたのと、落下による恐怖で失神しただけだから、命に別状はないよ」って…大丈夫だって」

 

「あ、そっか!なら良かった〜…」

 

安全なら様子を見に行かなくても良いか。

しかし、洸汰くんも災難だ。

まあ、ああいう年頃は羞恥心があるし、峰田くんのような変態行為には手を染めないだろうから、裸を見られても叱りはしない。

そもそもアレは峰田くんの行為を止めただけだし、お礼を言われて反応しただけなので、悪気があった訳ではないので、問題ない。

 

「……」

 

「ねえ、緑谷くん…どうしたの?さっきから元気ないね?」

 

「あ、そう見える…かな?はは…」

 

「もぉ〜…同じクラスなんだから、悩みがあったら言ってよ、私ももしかしたら力になってあげれるかもしれないから!」

 

苦笑する緑谷に、飛鳥は協力すると言っている。

やっぱりこの人は優しいな…と思った緑谷は、「飛鳥さんなら…」と思い、洸汰のことを打ち明ける。

 

「ねえ飛鳥さん…

 

守られてる人間って…どんな、気持ちなんだろ…」

 

「え?」

 

緑谷は、マンダレイから聞いたことを、飛鳥に全て話した。

 

なぜ洸汰はヒーローのことを嫌ってるのか、なぜ緑谷たちに無愛想で、態度が悪いのかを…

洸汰は、かつては普通に生活していた。

昔はこんなに無愛想じゃなかったし、ヒーローのことはあまり知らないが、それでも普通に暮らしていた。

しかし、ある事件がきっかけで洸汰は変わってしまった。

洸汰の両親はヒーローだった。

だけど殉職してしまったのだ。

二年前、敵から市民を守り息を引き取ってしまったのだ。

ヒーローとしてはこれまでにない以上に、立派な最期で名誉ある死と褒め称えられた。

しかし、物心ついたばかりの子どもにはそんなことが分からない…親が世界の全てだった。

「自分を置いて行ってしまった」のに対し周りの皆んなは良い事・素晴らしい事だと、褒められ続けた…

洸汰にとってその言葉は一番嫌いだった。

どれだけ親のことを褒めようと、名誉があろうとも、大好きな両親は生き返らないのだから。

 

マンダレイ達のことも本当はよく思っておらず、他に身寄りがないから仕方なく従ってるだけ。

洸汰にとってヒーローは、気持ち悪い人種なのだ。

 

 

ワイプシの皆んなは三ヶ月前からようやく、忍の存在を知る事が出来たそうだ。

ヒーローの誰もが忍を知る事が出来る訳ではないのだが、上層部に公式に認められた為、四人は忍学生のことも知っている。

洸汰には話さなかったのだが、雄英が忍学生を連れて一週間、強化合宿を行うのを知った以上、隠すのは無理だと悟り、洸汰に真実を話した。

だが洸汰はヒーローと同じく忍学生のことも嫌悪し関わりを持つこと自体、拒んでいる様子。

 

それは、ヒーローと忍が何も変わらない、似てる存在だと知ったからこそである。

 

 

 

 

 

 

 

「そんな事が…」

 

飛鳥は口を閉ざす。

――洸汰くんにそんな辛い過去があったなんて知らなかった…

物心ついたばかりの時から、大好きな両親が殺された。

それがどれだけ辛いのか…

いや、これは知っている…洸汰の境遇は雪泉たちとそっくりだ。

大好きな両親を殺され、行く当てがなく拾われた…

最も、雪泉や他の四人は雪泉の祖父、黒影に拾われたので、家族の縁が途切れた事がないので、洸汰の思考には行き着かなかったが、それでも家族を失った、悪によって大切なものを奪われたその悲しみは、雪泉とそっくりだ。

そうだ、だからあの目付きも、雪泉と似て似つかなかったのだ。

雪泉は悪に憎悪の懸念を抱いていたが、洸汰は悪どころか、善も憎む…つまり、両方とも憎んでいるのだ。

それが何でなのかは知らないが…

 

「……善と悪があるから…か」

 

 

――『善だの悪だのという理由で、上層部の命令だからって言って結局は殺しあう……想いがあるから?私たちと違う?この世に忍は必要?影から支える?本当に………

 

 

 

――バッカみたい!!』

 

 

洸汰のソレは、漆月の言葉と同じものだった。

そうだ、これだ。

学炎祭で、彼女と鉢合わせになり、漆月と話したのだ。

忍とは何か?

善忍とは、悪忍とは、敵とは何か?

そして、彼女の導き出した答えが、洸汰のソレと同じなのだ。

 

――もしかしたら、漆月ちゃんも…洸汰くんと同じ、両親が殺されたのかな?

 

 

なんて思ってしまう。

でも、飛鳥も考えさせられた…自分たちは忍だから、善忍だから、命を懸けて人のために、影で支え守り抜き闘ってきた。

死を恐れず、真っ直ぐ忍の道を突き進む。

でもそれは自分の夢であり、目標であり、自分の価値観と主観でしかない。

他の忍達もそうだろう…なぜなら、忍たちの命は儚いのだから…花のように簡単に散って行く。

それは忍になることを決めた時から、覚悟していた。

しかし、自分は良くとも、そうでない人間もいる。

例えば、洸汰くんのように…

自分がどれだけ正しくとも、世界中の皆んなの誰しもが認めてるわけではない。

それは飛鳥だけに限った話じゃない。

 

「洸汰くんは…何を求めてるんだろう…?」

 

ではどうしたら、洸汰くんの心の傷を癒す事ができるのだろうか?

体の傷は、直ぐに癒える。

だが、心の傷は一つ一つがこびり付くように消えず、癒す事だってそれなりの時間がかかる。

中には消えることのない傷も存在する。

家族を失った傷は、より深いものだ。

それを癒すこと…果して本当に出来るのだろうか?

そもそも、洸汰は何を求めてるのだろう?

分からない…そもそも考えた事もなかった…

守られてる人間の気持ちなんて…

感謝する人間もいるのだろうが、洸汰みたいに捻くれた者もいる。

そう言った人間の気持ちはどうなのだろう…それは、飛鳥もしらない。

だから、答えられなかった。

 

 

 

二人は沈黙し、静かな廊下が嫌に冷たい空気に変わった感覚に見舞われた。

どうしたら、洸汰くんを救うことができるのだろう。

 

 




本当は洸汰くんに、忍のこと知ってもらおうかなどうかな、って悩んでたんですけど、知らせることにしました。
最初はまー、教えない決まりにしてたんですけど、ある理由がありましてね…
先のこと考えると「あっ、もうこれ知ってて良くね?」と思い、洸汰くんも忍社会を知る一員となりました。
それにこれはクロスオーバーです、そう言う意味も込めてます。知っておかないと話もなんか面白くないかな?と思ったので、その理由もその一つです。

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