光と影に咲き誇る英雄譚   作:トラソティス

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ようやく林間合宿に突入出来ました。
いやぁ、一年経たず、ここまでやって行けるとは想像もしてませんでした。
もしかしたら一年経つころには本誌まで追いついてたりして?いや、そんな訳ないか?



林間合宿編
92話「林間合宿・スタート!」


 

 

 

 

あの後お茶子の通報により、警察とヒーローが駆けつけ、ショッピングモールは一時的に閉鎖。

緑谷と飛鳥の下にはA組の生徒達が駆けつけに来てくれた。

区内のヒーローと警察が緊急捜査に当たるものの、結局見つからず、二人はその日の内に警察署へ連れられ、オールマイトの友人である塚内刑事から事情聴取を受けた。

 

塚内刑事は忍のことと、飛鳥がワン・フォー・オールとオールマイトの事に関しては存じてるので、飛鳥にとっては何の問題もない。

 

雄英襲撃、蛇女襲撃、保須事件、警察は既に敵連合に対して、特別捜査本部を設置し捜査に当たってるらしく、忍からは何でも巫神楽三姉妹が動いてるらしく、執行部達も手を焼いてるそうだ。

その捜査の内に加わってる塚内に、主犯・死柄木弔の人相や会話内容などを伝えた。

 

塚内は苦慮しながらも、纏めたメモと書類に目を通す。

 

「なるほど…ね、聞く限り、連中も一枚岩じゃ無いみたいだな…

 

忍の存在を知った連合…それだけで脅威だと言うのに、これが肥大化すると考えると…想像を絶するな…オールマイトと忍打倒も変わらず…と言ったところかな?

 

うん、よしありがとう緑谷くんに飛鳥さん」

 

「あ、いえ僕が引き止めていれば…良かったんですけどね…」

 

「すいません…私、忍なのに…手も足も出なかった…それ以前に、怖いと思っちゃった…私、忍失格なのかな…」

 

二人は酷く落ち込んでいた。

折角、主犯・死柄木弔が姿を現し、手掛かりが掴めたかもしれないのに、それは叶わず、止めることもすら出来ず、警察やヒーロー・上忍達が追ってるに、自分たちは何の役にも立てなかった。

それだけでもう致命傷だ。

二人は不甲斐ない自分を思わず責めてしまう。

 

「いやいや!寧ろ自分と市民の命を握られながらよく耐えたよ!

――普通なら恐怖でパニックになってもおかしく無い状況、ましてや人殺しが近くにいるにも関わらず、平静を保ったまま犠牲者ゼロは凄い。

これも君らのお陰だ、捜査に関しては僕たちが全力を尽くすから、安心して良いよ」

 

流石はオールマイトの親友だけのことはある。

塚内は何も悪く無い二人を、明るく励ます。

実際彼の言う通り、もしあの状況になってたのなら、少しでも可笑しい挙動を出してしまう。

それが、自分の意思で無かったとしても、死柄木は飛鳥に「怪しい動きと判断した瞬間に殺す」と言ってるのだから、脅迫されたら誰だって反射的に反応してしまう。

しかし、飛鳥や緑谷がなんとか堪えたからこそ、今がある。自分たちは生きている。

それでも、二人の表情が晴れることは決して無かった。

 

「よし、それじゃあ三茶に頼んで、君たちを無事家にまで送るよ。それにもう外は暗いし…飛鳥さんの家…というか、君は寮か…

寮だとバレる危険性もあるし…」

 

「い、いえ!私は大丈夫です!歩いて帰れます…から」

 

「夜中は昼と違って敵が多いんだよ、暗いからというだけで、視界が見え難いからね…

君の安全性を確保する上での手配だ、別に断る必要性はどこにもない」

 

事情聴取があった為、大分時間を食わされた。

窓から覗くと、空はもう真っ暗だし昼飯食べてないし、今日は疲れた故にとんだ厄日だ。

事情聴取されてる時は空腹のあまり、お腹と背中がくっ付きそうになったが、時間が経つと不思議なことに、空腹を通り越して何も感じなくなったのだ。

それでも、何もいらないと言えば嘘になる。

 

事情聴取を終えた二人は、警察署から出る。

すると出口の方に人影の姿が浮かび上がる。

 

「緑谷少年!飛鳥くん!塚内くん!」

 

「おっ、丁度良いタイミングだな」

 

それはオールマイト。

夜中とは言え、トゥルーフォームの姿なのは、いつ何処で誰が見てるのか分からないからである(そもそもマッスルフォームをする意味もないため)。

 

「オール…マイト」

 

「すまない、助けてやれなくて…」

 

個人的な話があるからなのか、塚内に呼ばれて来たそうだ。

しかし、オールマイトオタクである緑谷も、表情はまだ冴えない様子、それは飛鳥も同じであり、俯く。

そんな沈痛とした暗い顔をした二人を見て、オールマイトは首を傾げる。

 

緑谷と飛鳥の頭に過るのは、死柄木弔の事だ。

あの時、ショッピングモールで、彼はこう言ってた。

 

 

 

――誰も救えなかった人間なんていなかったかのように、ヘラヘラ笑ってるからだよなぁ!!

 

 

救えなかった人間。

死柄木はもしかしたら、ただ単にオールマイトを殺したいのではなく、何か理由があるのではないか。

そう、心の中の靄が纏わり付き、頭の中から離れない。

まるでモヤモヤとした煙を吹き込まれたかのような、嫌な感覚。

オールマイトは誰もが認めるヒーローだ。

オールマイトに、救えなかった人間など存在しないとさえ言われて来た。

当たり前のことだ、オールマイトに救えなかった人間なんていない…その筈なのに…死柄木の言葉が頭から離れない。

だから、オールマイトに聞くことにした。

 

「オールマイトも…救えなかった事はあるんですか?」

 

「―――……?」

 

緑谷少年…?

 

「オールマイト…オールマイトは、救えなかった人間はいないって言われてますよね…?

でもそれは世間一般の話で…

 

忍は、どうなんですか…?」

 

「飛鳥…くん?」

 

二人の気迫ある目に、オールマイトは思わず息を詰まらせる。

なんで、そんなことを?

 

あの時二人があの場所で、死柄木と話し合ったからこそ、出てくる言葉。

 

オールマイトは暫し黙り込み、ようやく口を開く。

 

「……あるよ、たくさん」

 

 

ポツリと、力なく言葉が零れる。

 

 

「今でも、この世界の何処かで、誰かが傷つき、倒れてるかもしれない…

悔しいが私だって人間だ、手の届かない場所の人間は救えない

 

――忍もね、人が見てない、存在すら認識されない場所で、善忍だろうと悪忍だろうと、抜忍だろうと、今でも倒れてると考えると、辛いよ……

 

忍の命は確かに儚いさ…でもね、私はそうは思わないんだよ。

だって、忍は影で出来てるんだ…影で人を、支え、世の平和の平衡を保つ。

影…ということは、人は影がないと生きていけないんだ。

人がいるから必ずしも影がいる、人がいるから必ずしも光がある。

 

だから、忍には…死んで欲しくないんだ……それは、私自身の問題も含めてね」

 

 

―――だからこそ、笑って立つ。

 

 

儚い命だろうと、死ノ定だろうと、それでも私は、一人のヒーローとして、影も大切だと思うし、その影が消えるのは何よりも辛いと感じる…

忍だって一人の人間だ、だから生きる意味を、生きる証を、自覚して欲しい、持って欲しい。

 

「正義の象徴が、人々の、忍の、ヒーローたちの、悪人たちの、心を常に灯せるようにね」

 

オールマイトは、空に浮かぶ星空を見上げながら、虚しく、それでいて悲しい顔を立てていた。

夜空に浮かぶ綺麗な星の数が、今まで誰にも手を差し伸べられず、救われず、死んで行った人間の魂が映し出されてるように見えた。

人々だけでなく、忍も、ヒーローも、悪人も、救う。

それは、昔のオールマイトから…『あの人』がいなければ、考えられない言葉だった。

自分でも不思議に思う、なんで彼女は殺されなければいけなかったのか…なぜ『あの子』は死ななければいけなかったのだろう…

時折、上層部の人間の考えは分からない。

 

オールマイトの様子を、遠くで見てた塚内が口を開く。

 

「二人は死柄木の発言を気にしてるんだ。

 

多分、逆恨みかなんかだと思う…オールマイトが現場に来て、救えなかった人間と忍は今までに一人もいない」

 

死柄木弔が、何故オールマイトを恨んでるのかも分からないし、理由は定かではないが、恐らく逆恨みなんだと思う。

オールマイトが現場で救えなかった人間はいない、忍と偶にタッグを組む時もあったが、半蔵の時と同じく、彼は何度か忍の命を救い出した。

そんな彼が、救えなかった人間がいる訳がない。

だから死柄木の言葉はきっと、恨みや怒り、殺意による言葉なんだと思う。

 

「さっ、手配するね。三茶」

 

「ハッ!」

 

顔が猫そのもの、面構署長とは真逆な個性だ。

警察といえば犬、なのだが…反対で愛くるしい猫とはこれはまた…

三茶は塚内が信頼する警官だ、責任を持って二人の身柄は保証する。

 

 

 

二人の姿が遠く離れていき、目では見えなくなっていく。

二人の姿を見送る塚内とオールマイトは、微笑を浮かばせていた。

 

「なぁ、オールマイト」

 

「ん?」

 

「今回は偶然の遭遇だったようだけど、今後、彼…ひいては生徒が狙われる可能性は低くないぞ。

それは忍学生も例外じゃない――雄英と関わりを持つ忍学生…半蔵学院の誰かが狙われることがあるし、もしかしたら月閃女学館の生徒だって、被害に巻き込まれる危険性も低い訳じゃない。

 

もちろん、引き続き警戒態勢は敷くが、学校側も思い切った方が良いよ…

 

強い光ほど、闇も大きくなる――」

 

ヒーローが光なら、忍は影。

敵は闇。

今は良かったかもしれない、しかしこれが今日みたいに話し合いだけで済むとは限らないし、もしかしたら集団で攻めてくる危険性もある。

相手は打倒オールマイト…が目的だが、生徒たちも狙われる危険性もある。

 

「雄英を離れることも視野に入れておいた方が良い…

 

――オール・フォー・ワン、今度こそちゃんと捕まえような」

 

「うん、今度こそ…絶対に捕まえよう」

 

 

オールマイトの僅かに明るい瞳が、揺れる。

……緑谷少年、飛鳥くん…君たちには、ちゃんと生きて欲しい…

神威…オール・フォー・ワンと戦うことになるその時はもう私は、いないかもしれないから。

 

 

ゴメンな、塚内くんも…本当はいるんだよ…

どうしても、何処を探しても見つからなかった…

実は、救えなかった人間は…いるんだよ。

 

それも、大切なあの子を…私は…救えなかったんだから。

 

 

 

 

 

『未来ある忍の子達に……教えて……あげて…?お願い、オールマイト………生きる…意味を……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴメンよ、陽花くん。

君の約束は、あの時果たせなかった…救えなかった――

何も…出来なかった……

でもな、見ててくれ、飛鳥くんを初めとした忍は、少しずつ、ちゃんと、生きる意味を見出して来てる――

 

そして、二度とあんな悲劇を生まないためにも、神威、お前は…この命に代えても絶対に捕まえる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから翌日。

昨日の事件が嘘のように、何事もない、いつもと変わらぬ日常を迎え、緑谷は学校に出向いた。

唯一変わったと言えば、お母さんが「出久、今日は学校休んだ方が良いんじゃないの…?」と心配してくれたこと。

流石に学校は休みたくないし、それに昨日の出来事があったからと言い、休む理由を作りたくない。

 

クラスに入ると、周りからは「昨日は大丈夫だったか?」とか、「二人ともよく無事でいれたよな」と声をかけてくれる。

昨日のことがあったのだし、心配されるのは当然かもしれない。

殺されてたかもしれないんだから、もし、死柄木に殺されてたら、皆んなはどう思うだろ?

…想像しなくても、それはきっと悲しむだろう。

かっちゃんは何て言うか分からないけど…

 

そうしてるうちに予鈴が鳴る。

当然、予鈴が鳴ったらさも当然のように相澤が教室に入ってくる。

一通りの挨拶を終えると、相澤は昨日起きた事件を口にする。

当然ソレは相澤先生の耳にまで届いており、その件で職員室は一時期混乱していた。

生徒の安否、今後の対策、それらの意見が飛び交い、教師達が出した結論は――

 

「とまあ、そんなことがあって、敵の動きを警戒し、例年使わせて頂いてる合宿先を急遽キャンセル。

 

よって行き先は当日まで明かさない運びとなった」

 

 

 

ええええぇぇぇええぇぇーーーーーー!?!

 

 

生徒の喚き声が教室に響く。

楽しみにしてた合宿先が、昨日の都合により突如キャンセルとされた。

生徒のブーイングや不満の声が、キャッチボールのように飛び交う。

しかし、合宿自体をキャンセルしない辺りは、まだ優しい方だろう。

 

向こうは得体の知れない敵連合だ、敵の大将が姿を現した以上、どんな事をしやらかすか分からないし、此方の合宿先の件も嗅ぎとられてる危険性がある。

 

だから今回、予定してた合宿先をキャンセルしたのである。

 

 

当日まで合宿先を教えない理由は、情報漏洩になる危険性が高いためだ。

生徒達を信頼してない…と言う訳ではないが、最低限その可能性を阻止するためだ。

何処から情報が漏れるか分からないし、そう言った個性を持つ輩がこの世にいても不思議ではない。

一方、教師達も同じこと。

よって、これを知ってるのは相澤先生を初め、ブラドキング、オールマイトに塚内刑事、合宿先の人間にしか知らないよう警備体制を整えている。

 

合宿先が何処なのかは不安だが、持参する物は一通り相澤先生が連絡を入れてくれるので、荷物に関しての心配は無用。

 

よって連絡は以上、特に変わった様子はなく、それ以降いつも通りの授業を受けるようになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから随分とした日にちが経ち、あまりにも濃密だった前期は、幕を閉じた。

今思えばいろんな出来事が昨日のような思い浮かんでくる。

初めて忍と手を交わした日、敵連合の襲撃、蛇女子学園での一件、体育祭、学炎祭、そして職場体験、強化パトロールなど、気付けば色々なことがあった。

色々なことがあり過ぎて、半年以上過ごしてるんじゃないかって言う気分になって、時間感覚が狂ってる感覚がした。

 

 

――そしてついに夏休み。

林間合宿、当日――!!

 

 

A組とB組は二手に分かれ、指定されたバスに乗る。

高鳴る鼓動、己を強化するためとは言え、待ちにまった林間合宿。

バスに乗る途中、B組の物間から

 

「あれれぇ!?補習が五人もいるね?!おかしいなぁ?A組は僕らより優秀な超絶エリートなのに、五人もいる故に僕らより上ぇ?あれがぁ?お笑いだねぇ!ホラ、皆んなも笑おうよ!アレが惨めなA組の姿なんだよって、恥ずかしいよねぇ!」

 

と凄い嫌味をグチグチ言ってきたが「お前も補習じゃろ、人のこと言えるのか」と夜桜に手刀ではなく、重いゲンコツをくらいノックアウト。

痛そう…。

最近、夜桜が物間の監視及び、拳藤の代わりになってるのだが、B組の姉御肌の彼女は気にしず、寧ろ「夜桜には本当に感謝するわ」と感謝の意を表すほどだ。

 

そんなことがあってか、今バスの中は生徒達の騒然とした空気になっていた。

やれ音楽聞こうだの、ポッキーくれだの、尻取りしようだの、昨日の野球はどうだっただの、好きな異性はだの、それはそれは、煩い程に騒がしかった。

無駄がもっとも嫌いな相澤にとって、この空間はさも地獄絵図でしかなく、見てるだけで気が狂いそうになる。

普通の相澤ならここで「お前ら静かにしろ」と一声かけるのだが、今回だけは何も言わず瞼を閉じた。

 

(まあ、つってもこんなワイワイ出来るのは今だけだし…自由にさせとくか…)

 

一時間後、バスに降りれば自由なんてないのだから――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何処だここ?」

 

そして一時間後、指定された場所に着いたバスは止まり、生徒達は降りていく。

見渡す限り、山だの森だのと、一目で見渡せる展望台のような場所に降りた。

特にこれと言ったものは無く、あるのは一台の車だけ…

ここに他にも誰か来てるのだろうか?なんて疑問を抱くものの、もう一台のバス…B組が乗ってたバスは何処にも見当たらない。

 

「あれ?B組は?」

 

「ここサービスエリアじゃねえのかよ…おしっこしてぇ…グレープジュース飲み過ぎた…」

 

瀬呂が辺りを見渡すが、B組のバスがないことに気付き、峰田はバスの中で官能小説トークをしながら、グレープジュースを飲み過ぎたことで、尿が溜まったのだろう。

千鳥足のようにステップしながら股間を抑えていた。

 

「何の目的も無くでは、意味がないからな…」

 

「え?目的って何ですか?」

 

相澤の言葉に飛鳥が尋ねるが、シカトされ二人組の人物に視線を送る。

 

「おー、やっと着いたかイレイザー!」

 

「ご無沙汰しております…」

 

見知らぬ女性に、相澤はペコリと一礼する。

イレイザー?突然、相澤のヒーローネームが出て来たことに疑問を感じる一同。

皆んなも声のした方向に振り向くと――

 

 

「煌めく眼でロックオン――!」

 

 

 

――え?

 

 

 

「キュートにキャットにスティンガー!」

 

 

「ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!!」

 

カッコよいポーズを決める二人組みのヒーローに、隣には目つきの悪い、角のある帽子をかぶった小さい少年が一人。

この少年は見た所ヒーローと言う訳ではないのだが…というよりもこの人たち誰なんだろ?

 

「こ、この人たちは?」

 

「あー!ワイルドプッシーキャッツだ!!略してワイプシ!

ヒーロー事務所を構える四名一チームのヒーロー集団!

山岳救助を得意とするベテランチームだよ!

 

…あれ?でも二人…しかいないけど…」

 

「デクくん、やっぱりヒーローになると性格変わるよね」

 

「うん…オールマイトだけじゃなくて他のヒーローのことまで教科書通りに知識覚えてると、もう緑谷くん何でも知ってるんじゃないかな…」

 

鼻息を荒く、興奮して解説する緑谷を遠くみるお茶子と飛鳥。

二人は何かしら、何処か似ている箇所がある。

それが何なのかは知らないが…

 

「あー、『ラグドール』と『虎』はいないよ、明日は来るけど!」

 

金髪のピクシーボブが声をかける。

つまり、今日は二人だけ…と言うことか。

 

「えーっと、アンタ等の宿泊先は山のふもとにあるから、今は9時半…考えると12時前後かしらん?」

 

え?ちょっと待て。

こんな半端な場所に自分達を降りらせたのは、もしや…

生徒達の顔がみるみると青ざめていく。

これは、不味い…まさか…

 

 

「おいお前らバスに戻れ!!」

 

「うそだろ嘘だろ!?」

 

 

切島が先頭として声を上げ、早くもバスに戻ろうと走る。

それに続くかのように、他の皆んなも切島の後を追う。

 

「12時半にまで付かなかったキティらはお昼抜きね?」

 

しかし当然、バスに乗ることなど出来るはずがなく、地面は揺れる。

地震?いや、相澤や他の景色には特に異常はないし揺れていない様子…

と言うことは…この場所のみが揺れてる。

地面がやがて柔らかくなり、そして巨大な土砂土流がA組全員を飲み込み、柵を越え、飛ばされる。

 

「悪いな諸君。合宿はもう始まってるんだ――」

 

甘くみてた。

流石は雄英、まさかバスを降りたその時からもう強化合宿を始めるとは、雄英は本当に唐突という言葉が好きだ。

だから、今…生徒達は、修羅の場所に陥ったのだ。

 

「うぇ…ここ何処だ?」

 

口の中に入った砂や土を吐き出す。

先ほどピクシーボブの個性『土流』で制服が汚れてしまった。

土を自由自在に操ることの出来る彼女は、こういった山林や山岳地帯といった自然的なフィールドではとても有利だ。

見渡す限り、森やら雑草やらで溢れて、目的地が見えない。

しかし、唯一頼りになるのは記憶だけだ。

黒髪のボブ、マンダレイは合宿先に指を差していた。

なら、その方角を頼りに突き進めば良い。

 

「雄英…改めて本当に凄いよね…今まで訓練とか、そう言うのここでしなかったから…尚更」

 

飛鳥も、土で汚れた頬を拭い、息を飲む。

自分たちもここで在籍してる以上、全力を持って壁をの越えなければならない。

それは、飛鳥だけでなく、柳生や雲雀も同じだ。

大道寺との試験、自分たちは全力を尽くして止めたとはいえ、やられていた。

相澤先生が言うからには「30点が赤点とすればお前達は40点だ」とかなり厳しい評価を受けた。

自分の力が未熟だと言う事実を突きつけられた二人は、当然黙ってるわけがなく、飛鳥に負けずと食いつくばかりに走り出す。

 

「邪魔なものが入るよりかは断然的にまだ優しい方だな…」

 

柳生の言う通り、自分たちが受ける訓練はこれくらいのことどうって事はない。

険しい道のりなのは確かだが、そこに傀儡や忍がいなければ…

 

「グルルゥ…」

 

「――ッ!?」

 

突如、視界を覆う無数の木々から獣の呻き声が聞こえる。

柳生の足が止まり、声の主に警戒する。

 

獣?こんな場所に一体…

 

しかし、柳生の警戒も気にする事なく、無我夢中に走り股間を抑える峰田は白目を剥きながら「トイレぇ〜!」と小声で呟き足を止めない。

 

「おい峰田止まれ!何かいる!」

 

「オイラの目の前に壁があろうとも、登って越えて行く…!」

 

後少しだ、後少しで…!

柳生の忠告など意に介さず、峰田は尿が漏れるのを辛抱し、走っていると、目の前の何かにぶつかる。

目の前を見ていなかった彼は、木にでも当たったんだろうと、前を見ると。

 

「グルルゥァァア――!!」

 

虎でも熊でもない、異形な形をした化け物、魔獣が立っていた。

 

「魔獣だああぁぁーーーー!?!」

 

上鳴と瀬呂の叫び声と共に、峰田は恐怖に表情を歪ませる訳でなく、終わった…と言う蛇に睨まれた蛙でもなく、峰田の表情は、嫌に笑顔で優しかった。

ジョ〜…という嫌な水の音がして。

それも、臭い匂いが…

 

「獣よ!静まりなさい!」

 

ここであの無口な口田が牽制するよう声を振り絞る。

口田の個性は生き物ボイス。

声で生き物を操る口田の個性は、相手が動物であれば何でも操ることができる。

しかし口田の声など意味を成さず、魔獣は腕をゆっくりと上げていく。

峰田を捻り潰そうとするように、峰田目掛けて振り下ろす。

 

「あのバカ!」

 

柳生は苦虫を噛み潰したかのように、表情を歪ませ、舌打ちをする。

柳生からして峰田は恐怖のあまり、腰を抜かして身動きが取れないと勘違いしてるが、峰田はそれよかとんでもない状況に陥ってるので、魔獣のことなど今の峰田にはどうでも言いのだ。

 

しかし――魔獣が腕を振り下ろすこともなければ、峰田が捻り潰されることもなかった。

魔獣に飛びかかる人物が五人、峰田の前を通り過ぎる。

爆破、斬撃、蹴り、氷結、拳、様々な攻撃が魔獣に襲いかかり、魔獣は跡形もなく姿を崩す。

爆豪、飛鳥、飯田、轟、緑谷の五人が、魔獣を倒したのだ。

この魔獣の正体は土でできている。

木や雑草やらが混じってるが、これはピクシーボブが個性で作り出した魔獣。

ただ単に簡単に目的地に来られても意味がない。

これは強化合宿、合理的に行う。

そのため、遠い合宿施設をピクシーボブが邪魔をする。

 

 

しかし生徒達の様子は、ピクシーボブからでも確認する事が出来た。

遠くでも様子を見れるスカウターで、生徒達の様子を観察していた。

 

「どうです?ウチらの生徒達は…」

 

「くうぅ〜!!逆立って来たァ〜!」

 

ピクシーボブは五人が自分の魔獣を倒されたことに、興奮する。

決して変な意味ではなく、自分も少年少女に負けんと言わんばかりに、心に火が付いた。

そしてピクシーボブは複数の魔獣を何度も作り出し、生徒達にぶつけさせる。

 

「それにしても凄いね、イレイザー所の生徒、忍学生を雇うなんて…どうしたの?」

 

「雇うっつーかな、まあ訳ありの事情で…アンタらも忍に関しては三ヶ月前に知ったんだっけか…」

 

「まあね〜、まあ忍学生もそうなんだけどさ、結構気合入ってるじゃん?

 

仮免取得のために向けての強化合宿…普通二年生からじゃなかったっけ?」

 

「まあ、ウチの生徒は無駄は多いですが…実力はそれなりにありますし…

それに、仮免は確かに二年生前期から取得するモノ…

ですが、緊急時における個性行使の限定許可証、ヒーロー活動認可資格、仮免。

 

敵が活性化し始めた今、一年とはいえA組にも、自衛を術が必要だ――」

 

木椰区ショッピングモールの時みたく、死柄木や他の敵が彼らを狙う可能性もある以上、危険因子を取り除くベく徹底的に対策を練らなければならない。

その為の一つが仮免。

忍学生からすれば関係ない…と思うかもしれないが、大有だ。

確かに彼女らは忍を目指してるので、仮免…とは縁が遠いが、彼女らにも彼らと同じく訓練を積ませても損はないし、霧夜に言われたのだ…

 

『今後とも、飛鳥達を厳しく指導してやった下さい…』

 

同じ教師だ。

あんな事を言われたら、彼女たちを除くのは些か悪い。

同じ教室で過ごす以上、躊躇もしないし遠慮はしない。

それに忍になるのに彼女らも、越したことはないだろうから。

 

 

「ほら、行くよ洸汰」

 

マンダレイが小さな洸汰と呼ばれる少年を手招くように声をかける。

小さい子供ときたら、とても愛想が良く、人懐っこいのだが…彼だけは違った…

 

 

「何がヒーローだ…何が正義だ…下らん――」

 

それは、余りにも…憎しみに近い何かを、少年は持っていた――





洸汰くん…
個人的には、洸汰くんのエピソード泣いちゃいそうだったんだよね…
あっ、まだ見てない方やネタバレ食らいたくない人もいるかもしれませんので、軽率な発言は控えめにしときましょう…

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