光と影に咲き誇る英雄譚   作:トラソティス

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最近少しだけ進むスペースが遅くなってるような気がしますが、皆さん気にしないで下さい。
この作品の展開も、そろそろ本格的となりました。(多分…
これからも愛読して下さると嬉しい限りです。


85話「明かされる真実」

職場体験も終わり、各々の生徒たちは帰る支度をしてるであろう…

きっとその場で学んだ者もいれば、後悔した者もいる、成長した人間も、出来なかった人間も、きっとA組に限らず出ている筈だ。

飛鳥たち忍学生も、強化パトロールは今日で終わりだそうだ。

 

 

帰る支度を整え、忘れ物はないか再確認し、準備が終わると後はバスや新幹線を使って帰るだけ…

緑谷は玄関に立つと、グラントリノに一礼する。

 

「この度一週間は、誠に有難う御座いました!」

 

「ハッ!別に良いってことよ。調整も完璧!……と言えば嘘になるが…一週間前の頃と比べりゃ上出来だ、そもそも職場体験と呼べるかどうかすら疑わしいが…アレで良かったのかと言っても別にそうでもねえ…」

 

早朝の為か、グラントリノは大きな欠伸をする。

職場体験の頃と比べれば、確かに大分成長したと言える。

しかし、だからと言って調整が完璧と言えば嘘になる。

ヒーロー殺し相手に許容範囲をオーバーしてしまった。

焦りによるコントロールのズレ、そこに僅かにヒビが入り軽い骨折を起こした。

病院の際に診て貰い、治療を施したものの、リカバリーガールの個性で治癒を受けた訳ではないので、まだ完全に治った訳ではない。

 

しかも、本気じゃないヒーロー殺し相手と戦い、生かされた。

100%の一撃必殺を狙って外した…なんて残念な結果になるよりかは充分マシだが、なぜヒーロー殺しが緑谷や飛鳥、轟に雪泉を生かしたのか、その理由は定かではないし、理解は出来ないが、それでも救けられたことに変わりはなかった――

 

取り敢えず、これからの課題は、常に緊張と冷静を保つこと。

 

オールマイトのような最高のヒーローになりたいなら、まだまだ学ぶことは多い。

 

「あっ、そうだグラントリノ!一つ聞きたいことがあるんですけど…」

 

「あ?何だ?」

 

「俺は早くたい焼きを食べたいんだ!」という視線を気にすることなく、緑谷はある一つの疑問を思いながら、訪ねる。

 

「そんなに強くて、オールマイトを鍛えた実績もある凄腕の貴方が、何で世間では噂になってないんですか?

グラントリノ…世間じゃほとんど無名ですし…

もしかして相澤先生…イレイザー・ヘッドのようにメディアを嫌ってるんですか?」

 

「え?そりゃ、俺ヒーローに興味ねえもん」

 

「えええぇぇ!?!」

 

初耳!

ヒーローに興味が無いって…そんな人聞いたの初めてだ…

いや、違う。

もしかしたら、自分は知らないだけかもしれない、

この世界には、ヒーローに憧れてる人間もいれば、憧れを持たない人間、憧れてもヒーローになれない人間、そういう人たちを緑谷は見てなかっただけかもしれない。

 

誰もがヒーローになれる訳じゃない、緑谷の周りにはヒーローになれそうな人が居たし、実際「かっちゃん」たること、爆豪勝己という幼馴染が近くにいたのだから、その影響か、そうやって考えることが少なかった。

 

「かつて、目的の為に個性の自由使用が必要だった。

資格を取った理由はそんだけだ、これ以上は俺からよりもオールマイトが話してくれることを期待すんだな、俺からは喋れねえよ」

 

「ハァ……何やら深いですね……グラントリノでも言えないことがあるんですね…」

 

まあそれもそうか…

幾ら師匠といえど、言えないことだってある。

オールマイトが頼んだことなのか、又はグラントリノ独断によるものか、詳しいことに関してはオールマイトから聞けば良い。

仮に答えられなかったとしても問題ない、無理に詮索するのも良くないし、オールマイトは嘘こそ付かないが、隠し事が多い。

 

「じゃ、じゃあオールマイトと半蔵さん…何でオールマイトも、グラントリノも忍と交流が?幾らオールマイトがトップでも、何か事情が――「それも俊の…オールマイトに聞けぇ!俺が教える事は何もない!」――は、はいぃ!すいませんでした!」

 

グラントリノの一喝に恐縮してしまう。

大きな声で怒鳴られたりすると、つい反射的に萎縮してしまう癖があるのだ。

テントウ虫か。

 

「まっ、そーゆー訳だ。

――じゃあ達者でな!体、気を付けろよ」

 

「あっ、はい!本当に有難う御座いました!」

 

緑谷はもう一度丁寧に頭を下げ一礼すると、グラントリノに背を向け、駅の方面へと歩いていく。

巨大なバックにコスチュームを背負う彼の姿を見て、グラントリノはつい何処か微笑ましくなる。

 

最高のヒーロー。

容姿も、性格も、まるで似てないが、確かにオールマイトにそっくりだ。

飛鳥もそうだ、会ったのはほんの少し、しかも会話すらした事ないが、彼女もまた半蔵に似ていた。

特にアイツの心から来る正義感は、半蔵のソレと同じだ。

 

ヒーローと忍は、背中の隣り合わせ。

今社会でのNo. 1と言えば、半蔵とオールマイトだろう。

平和の象徴、伝説の忍、二つの世界には代表が必要だ。

脚光を浴び、注目され、大きな存在が世界には必要だ。

今は良くとも、その内必ず限界がくる。

半蔵は忍を引退した身だが、実力は他の追随を許さない。

オールマイトも平和の象徴、No. 1ヒーローの肩書きを背負ってはいるが、五年前…敵の襲撃、神威たること、オール・フォー・ワンによって腹に穴を開けられたことで、手術で一命は取り留めたものの、力は衰えてしまった。

更に緑谷出久に、個性「ワン・フォー・オール」を譲渡した事により、個性を使う度に日々弱体化していき、残火はやがて消え、無個性として迎えてしまう事になる。

それでも、オールマイト自身後悔はしていない。

大切な愛弟子である緑谷出久を見守る。

そう決めたのだから…

 

――盟友が選んだ男、そしてその男が選んだ――

 

「小僧!誰だ君は!」

 

「えっ!?ちょっ、嘘でしょ此処で!?」

 

頭の上にクエスチョンマークを浮かべるグラントリノの突然のボケに、又しても驚愕する。

 

――共に見届けてやろうじゃないか俊典…そして、お前と陽花の交わした約束を、俺も見守ろう……

 

「えっと、だから…緑谷出…「――違うだろ」?……あっ…!」

 

お前が過去となる日まで、そして俊典と陽花が、かつてのコンビだったように――

 

 

 

「えっと、僕の名前は『デク』です…!!」

 

 

 

こいつの名前が、平和の象徴と謳われるその日まで……

緑谷と飛鳥が、いつか輝かしいコンビになるように…

 

飛鳥は陽花に良く似てる…

容姿も髪型も違うんだが…他人に優しい思いや、『誰も知らない強さ』を持つ心の刃、太陽のように全てを包み込む光を持つ正義。

だから、飛鳥は陽花に似てならないんだ――

 

半蔵や小百合とは面影はある、でもな…アイツを見てると…陽花を思い出しちまうんだよ――

 

 

いつか二人が、最高のヒーローと、一流の忍と呼ばれ、脚光を浴びる日が来れば良いな…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

長きに渡った一週間の職場体験を終え、生徒たちはこの日、いつも通りの学校生活を迎えることになる。

職場体験が終わったその日は、皆んな自宅に帰り疲労を回復するべく、学校は休みだ。

自宅に帰れば、母親は不安を抱えながら憂患した。

 

ヒーロー殺しの事件に、短期間とは言え入院。

タダでさえ、息子想いの強い母親が、心配しないわけが無い。

体育祭の傷よりかはマシだが、もしヒーロー殺しの事件で、彼が殺されてもしたら、母の引子はきっと、悲しみの果てに、心が壊れてしまうかもしれない。

 

ヒーロー殺しの事件については、詳しくは言えなかったが、遭遇しただけと嘘をついた。

気が真面目で、心優しい緑谷が、大切な母親に嘘を付くのは心を痛めるが、安心させるにはそれしか無い。

もしヒーロー殺しと遭遇し、闘ったなんて真実を話せば、学校側に連絡しそうで怖い。

折角、面構署長が頭を下げてくれたのに、それを無駄にしてしまう。

だから母には悪いが、真実は話せない。

 

でも、骨折に関しては「コントロールの調整が難しくて」と、なんとか納得してもらえた。

 

そんな事があってか、昨日は中々眠れなかった…

個性の調整、ヒーロー殺し、誰にも心配かけないという懸念。

 

 

そんなことがあって翌日が迎えたわけなんだが…

緑谷は教室のドアの前に立つ。

しかし、入ってもいないのに笑い声が廊下にまで響いている。

何の騒ぎだろう?とドアを開けると…

 

 

「オイ爆豪!何だよその頭!8:2坊やじゃねえかアッハハははははははは!!!」

 

「お前事務所に行って一体何があったんだよ!待って、チョー受けんだけど!写メ、写メ!!」

 

ドッと教室中に切島と瀬呂二人の爆笑の叫びが響く。

対して、七三分けの髪型をした爆豪は怒りを抑えながらも、プルプル震えながら二人を忌々しく睨みつける。

 

「煩え笑うなボケ共が!!これクセついて洗っても直らねえんだよ…!

おいマジで笑うな、つーか誰だ!写メ撮るっつったヤツ、撮ったらソイツのケータイごと爆破すっぞ!!」

 

流石のこれには緑谷も思わず笑いがこみ上げて来る。

いや、緑谷や瀬呂、切島だけじゃない。

教室の中にいる他のみんなもそうだ。

尾白や上鳴も笑いを堪えながら腹を抱えてるし、あの冷静でクールで、常闇にも負けを取らない柳生も、今回ばかりは笑いを堪えている。

見ないように見ないようにと気を遣ってはいるものの、ついつい視線を爆豪に向けてしまい、笑いが込み上げてくる。

柳生といつも一緒の雲雀はトイレに行ってる為、もしここに雲雀がいたら必ず喧嘩になっていたに違いない。

 

「ま、まあ落ち着け爆豪…?あ、案外似合ってる…ぞ……… プッ――」

 

「おい眼帯野郎、ちょいと表でろ、マジで爆殺したる。

今笑ったの知ってんだよクソがあぁ!!」

 

荒々しい声を出すも、髪型が似合わない為、怒っても全然怖くない。

寧ろ笑いすぎて死にそうになるから別の意味で困る。

爆豪が本気で柳生を表に出そうと、教室の扉に視線を向けると――

 

「あっ…」

 

「あぁ――?」

 

顰めっ面の爆豪と、震えながらニコリとぎこちない笑顔を立てる緑谷、二人とも視線が合う。

そして数秒間を置くと、自分の髪型を緑谷に見られたという屈辱感と、羞恥心、爆豪自身のプライドが傷付けられ、保っていた冷静さが消え失せ、怒りの感情に支配される。

 

「何見てんだクソがデクテメエエェェェェェエェェェェェ!!!」

 

「うわああぁぁっ!!ご、ごめんなさい見てません!見てません!!8:2坊や!矯正された髪型なんて決して見てませんん!!」

 

「結局見てんじゃねえかブッ殺すぞ!!!」

 

ボンッ!と爆発したかのように髪型が元のギザギザ頭に戻り、一週間前の髪型に元取りになった。

どういう仕組みになってるのか知らないが、怒りパラメータが限界を超えると髪型が元に戻るらしい。理科の実験か何かかよ。

と言うより、本当にベスト・ジーニストの所で一体何があったのだか…

 

それを見た一同は「ちぇ〜、んだよツマンネ〜」「折角爆豪の髪型SNSに上げとこうと思ったのに〜」「爆発さん太郎に戻んなよ!」「そーだそーだ!」なんて抗議が挙げられている。

 

 

「――デクの前にテメェらから先に爆殺されてえか?」

 

 

「すいませんでした」

 

そして本気の殺意の目で睨む爆豪に、恐怖で怯えた一同は、頭を下げ調子に乗ってたことを反省し、謝罪する。

これ、将来自衛隊の指揮官とかになりそう。

 

そんな喧騒とした男子とはかけ離れ、女子たちはガールズトークではなく、職場体験の話し合いをしていた。

 

蛙吹の席の周りには芦戸、耳郎が立っており、三人とも話し合っている。

 

「へぇ!耳郎デステゴロん所だったんだ!?麗日と同じバリバリの武闘派じゃん!」

 

「んー、まあね。私ってさ、個性がアレで近接戦っつーか、対人だと戦闘術があんま得意ではないんだよね。

麗日見て、私も頑張らなきゃって思って…まー、他の人たちと違って指名来てた訳じゃないし、フリーで雇ってくれてるけどさ」

 

「私も同じだよ〜…アントヒーロー「フォルミーカ」って所で職場受けた!

内容とか厳しかったけど、励まされた時は嬉しかったな〜…」

 

アントヒーロー『フォルミーカ』

個性は蟻の異形型だ。

虫のようで表情こそは読み取れないが、心の気優しさと力強さが自慢の売り文句。

特に災害救助や、避難訓練とした活動を実施している。

敵との交戦では効果を発揮し、チームでの集団では脅威を発揮する。

正に蟻そのものだ。

 

「梅雨ちゃんは?」

 

「隣国の密漁者を捕らえたわ」

 

「それ凄くない!?!自慢しても良いレベルじゃん!」

 

蛙吹達がギャーギャー騒いでるのとは裏腹に、近くにお茶子が通り過ぎていく。

お茶子の研修先は、バトルヒーロー『ガンヘッド』、デステゴロと同じくゴリゴリの武闘派ヒーローだ。

本来、お茶子の目指すヒーローの本分は災害救助であり、武闘派と言った戦闘とは程遠いはず…

だが、お茶子自身が決意したことだ。

体育祭での爆豪戦以来、何処か気に思うことがあったのか、対人戦に於いてやたらと熱心に向き合うようになった。

それはお茶子自身、敗因を無くし弱点を補う為なのか、自身が強くなることで、対処出来ることを増やすためか…

どちらにしろ、お茶子にとって有意義な一週間だったに違いない。

 

「あらお茶子ちゃん。一週間どうだった……?」

 

蛙吹が声をかけるも、お茶子のオーラが異様な事に気付き、言葉が途切れる。

 

「フフフ……とても、有意義だったよ……」

 

「そう、目覚めたのねお茶子ちゃん…別の意味で」

 

あの一週間に一体何があった。

緑谷と通話してた時は健全だったろうに、お茶子は空気を吸い、格闘技を披露する。神龍でも出す気かこの女は。

 

「麗日のヤツ…一週間で変わっちまったな……全然麗日じゃねえや…昇竜拳とか出しそうなんだけど……てか、北◯の拳みたくっつーかなんつーか…画風違ぇ…」

 

「変わった?違うぜ上鳴、女ってのはな…元々悪魔なんだよ!常に誰にも見せない本性を隠し持ってんのさ…!!」

 

「お前Mt.レディの所で何があったんだよ?お前ともあろう煩悩の塊が…おかしいぞ?」

 

遠くで上鳴と峰田が、お茶子を見て談話している。

上鳴はお茶子の異様な変化っぷりに素直に感心する反面、当然驚きはするが、峰田は精神不安定なのか爪をガジガジと噛んでいる。不愉快、やめろ。

 

 

ガララと扉を開ける音が聞こえる。

緑谷は後ろを振り向くと、飯田が「おはよう緑谷くん」と朝の挨拶をして来た。

飯田の様子を見るからに、ステインの事はもう吹っ切れたのか、ヒーロー殺しのあの事件の前の、いつもの飯田くんに戻っていた。

 

「お、おはよう飯田くん!」

 

緑谷も挨拶を交わす。

そしてその後、つい反射的に左手を見てしまう…

 

――斑鳩さんが去ってから聞いた話なんだけど、医者から診てもらったら、後遺症が残るらしい…

ヒーロー殺しに両腕をボロボロにされたんだけど、特に左のダメージが深刻だったらしく、腕神経叢という箇所をやられたそうだ。

とは言っても、手指の動かし辛さと、多少の痺れくらいな症状が起きるらしく、幸い手術で神経移植すれば治る可能性もあるらしい。

本当なら、斑鳩さんの目の前で言っておくべきだったと思う…でも、あの後の事なんだから、気不味いと言うのも一つの理由に当てはまるし、きっとこれ以上斑鳩さんに心配を掛けたくないからこそ、言わなかったのだろう。

皆んなは飯田くんのことを甘いと、思うかもしれない、そう言う人も少なからずいるかも知れない。

でも、これが飯田くんにとっての優しさで、彼なりの気遣いだ。

 

――俺が本当のヒーローになれるまで、この左手は残そうと思う――

 

彼の、飯田くんなりの決意。

そこまで言われたら、何も言えない…

ただ一つ言えることは…あの時もっと強く言葉を掛けていたら、こんな事にはならなかったかも知れない。

飯田くんはもう飲み込んだんだ…僕が謝るのは失礼だ…戒めをこの手に――

 

 

 

 

「おーい!緑谷くん!いるかなー!?」

 

扉が開くとともに、天真爛漫な声が教室中によく響く。

この声は知っている、甘くて優しくて、元気100倍の声…これは、と視線を再び扉に向けると、飛鳥がキョロキョロと探していた。

「ここにいるよ〜」と手を振りながら駆けつける緑谷。

彼に気づいた飛鳥は、全速力で走って来たのか、息を荒げながら話し出す。

 

「え、えっとね…なんか突然で悪いんだけど……オールマイトが、緑谷くん連れて仮眠室に来て…って」

 

「――えっ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人揃って仮眠室にやって来た緑谷と飛鳥。

緑谷はここへ何度も来たことはあるが、飛鳥は仮眠室に行く機会が無いので初めてだ。

と言っても、緑谷が仮眠室に来るのは大抵オールマイトの呼び出しで、それ以外は特に無い。

 

「仮眠室…オールマイト先生、様子違ったけど…何だろうね?」

 

「え?そうなの?」

 

「うん…なんか少し深刻そうでさ……それに私あんまりオールマイトと交流がないし」

 

言われてみればそうだ。

飛鳥さんは半蔵の孫なのに、オールマイトと会話してる姿なんてほぼ見ない。

体育祭だの学炎祭だので色々と忙しかったからかもしれない…

 

緑谷は軽く三回ノックすると、扉越しから「入ってくれ」とオールマイトの声が聞こえる。

声の様子からして確かに深刻そうだ…

元気のないアメリカンなオールマイトが…一体何が起きたんだろう?

考えても仕方がないので、ドアノブに手をかけ、開ける。

 

 

「ん?」

 

「は?」

 

 

そこには信じられない光景。

逞しく誰もが知ってる平和の象徴、オールマイトの姿ではなく、ガリガリ姿のオールマイト…つまり、トゥルーフォーム――

この姿を見た二人…緑谷は白くカチンコチンに体を硬め、飛鳥は口をポカンと開け、「この人誰?」みたいな表情でジーッとオールマイトの方を見つめている。

 

「あ、えっと…どちら様…でしょうか?」

 

飛鳥は恐る恐ると尋ねる。

声はオールマイトとそっくりだった…声真似…としては急過ぎるし、そもそもする必要が無いし…

てかこの人本当に誰だ?

そもそもこんな人いたの?

 

 

「――私はオールマイトだ…」

 

「……あっはは…またまたご冗談を〜……ねぇ、緑谷くん?」

 

 

飛鳥はぎこちない笑顔を浮かべながら、緑谷に振り向く。

緑谷がオールマイトオタクだということは飛鳥だけでなく、教室中の誰もが知る事実だ。

ここでガチオタの緑谷なら、ここで何か一つや二つは…

 

「………」

 

しかし、緑谷出久は大量の汗を垂らし、無言のままジッと下を向いている。

そしてチラリチラリとオールマイトの方に視線を送り、「えっ?言っちゃって良いんですか?」に近い眼差しを向けている。

緑谷のこの反応から察するに、彼自身もオールマイトだという事を知ってるそうだ…

飛鳥は次第に血相を変え、見る見ると表情を青ざめていく。

 

「う、嘘…ですよね…?」

 

「私は隠し事は多いが嘘はつかない主義さ…」

 

「しょ、証拠は…?」

 

飛鳥が証拠を追求すると、オールマイトは腰掛けてたソファから立ち上がり、正面を向くと、ムキッ!とマッスルフォームに変化する。

突然、ガリガリからマッスルに、それこそ誰もが知ってるオールマイトの姿に、飛鳥は「嘘だろ?」と言わんばかりの表情を立てていた。

実際オールマイトの事は知らない事だらけだし、些細な事から重要な事までの、秘密の一つや二つがあっても多少は納得出来るが、今回ばかり、この真実は無茶がある。

 

「えっ…えええええぇぇぇぇえぇえええ!?!!?」

 

仮眠室に、飛鳥の驚愕の叫び声が響く。

オールマイトと緑谷の二人は、慌てて飛鳥の口を閉ざす。

ここで悲鳴をあげれば生徒の誰かが駆けつけこの姿を見られてしまう。

そんな事があってはお終いだ、些細な事が世界中のニュースとして騒がれるのだから。

 

「と、取り敢えず飛鳥くん落ち着こうかい!?そんなに叫ばれるとおじさん、不審者見たいでカッコ悪いじゃないか!」

 

「お、オールマイト!オールマイトは…お、おじさんじゃないです!」

 

「緑谷少年!突っ込むトコそこ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一先ず、飛鳥を落ち着かせる事に成功したオールマイトは、彼女が理解できるよう、ゆっくりと分かりやすく、緑谷とオールマイトの関係を語る。

オールマイトは五年前、ある事件により腹に穴を開けられ、手術を施し一命を取り留めたも、制限時間が存在する事…

オールマイトの個性を、緑谷出久に渡した事を…

そしてこの真実を知ってる者は、緑谷を含め…

校長、リカバリーガール、塚内刑事、グラントリノ、半蔵、小百合…ある一名を除き、飛鳥にこの事を教えた事も。

ゆっくりと、状況が飲み込めるように教えたが、それでも上手く飲み決めれない様子。

 

「ば、ばっちゃんまで知ってるって…な、何者…?」

 

小百合の存在を知る者など、上層部を除いて世界には数人か、と言われてる。

その中でオールマイトは飛鳥の祖母を知っていた。

緑谷は何が何だか分からないが、小百合は恐らく相当手練れの忍だと言うことは理解できた。

 

「それで、話とは…?」

 

突然前触れもなく飛鳥に真実を教えたこと自体、驚愕しているが…オールマイトにはオールマイトなりの考えがあるんだろうと判断し、飛鳥に真実を話したに違いない。

飛鳥自身も、正直信じてはいないが、幾つか納得する点が存在した。

 

一つ――USJ行きのバスで、蛙吹が言ってたように、オールマイトの個性と似ている。

単純なパワー系かと思っていたが、オールマイトの個性とあらば納得がいく。

しかもまだまだ調整が出来なく、コントロールしている…だから、体育祭であれ程重傷を負ったんだと、より深く理解できた。

 

二つ――体育祭で轟が「オールマイトと何か関係があるのか?」と口にした言葉。

最初自分も血の繋がりなのか?という僅かな疑問を浮かべていたが、まさか師弟関係だったとは…

 

「まずは…先に謝らなければ……

ヒーロー殺しの件は聞いたよ…ゴメンな二人とも…私があの場にいなくて…」

 

「い、いえ!全然そんな…オールマイトが謝る事じゃないですよ!あれは偶々、ステインがいただけで…」

 

「そ、そうですよ!悪いのはヒーロー殺しで…オールマイトは全然…

 

 

本当にオールマイトで良いんですよね?」

 

「ま、まだ言うかい……」

 

しかしオールマイトの表情は何処か暗く、曇っていた…

ソレがヒーロー殺しの事件によるものなのか、または別件か…

こんな深刻そうなオールマイトは見たことがない…10年もずっと観てきた緑谷だからこそ分かるもの…

 

「で、本題に入るんだが…

ワン・フォー・オールについて話そうか。

 

緑谷少年、君ヒーロー殺しに血を舐められたろ?」

 

「え?あ、ああ…はい…血を取り入れて体の自由を奪うことが個性発動条件なので…それが何か?」

 

ワン・フォー・オール。

これがオールマイトが緑谷出久に譲渡し、今彼が持つ個性…

正直緑谷もワン・フォー・オールについて詳しい話は聞いてない。

ただ、これが代々引き継がれて来たという事だけは分かった。

一人が力を培い、譲渡し、また力を培い…

譲渡し、引き継がれ、譲渡する…それが繰り返して来た事で、ワン・フォー・オールという強大な個性が出来たという。

 

 

「私が譲渡した時に言った言葉、覚えてるかね?

DNAを取り込めるなら何でもいいと…」

 

「ッ!!まさか!ヒーロー殺しにワン・フォー・オールが!?」

 

「いや、それは無いよ。

君ならそれを憂慮してると思ったが、忘れてたようだね…まあ無理ないよ。

ワン・フォー・オールについて詳しく話してないし。

だからこうして真実を話すべく、飛鳥くんを呼んだのさ、ワン・フォー・オールの話を知る必要がある」

 

「へ?」

 

――何で私が?

そう疑問に思うのも仕方ない。

ワン・フォー・オールの真実を聞く必要がある…と言うことはつまり、言わなければならない…と言うことだろう…しかし何で自分が?

 

「飛鳥くん、この事は一切他言しないでくれ…絶対だぞ?

私が君を呼んで、こうして話すのもなんだがね……勝手ですまない。

本当は、前々から話さなければならない事なんだが…私自身、気不味かったという点もあったし、この事はあまり知って欲しくなかったんだけどね……半蔵くんに口酸っぱく言われたから……事情が変わった…」

 

飛鳥にはよく分からないが、きっとこれは重要な話なんだろうと解釈した。これから先にこの話が関係すると言うのであれば、聞かないわけにはいかない。

他言なんて絶対にしない…ついつい言ってしまう癖はあるが、ここまで深刻に話されては、意識が芽生えて言えない。

 

「ワン・フォー・オールは、持ち主が()()()()と思った相手にしか譲渡されないんだ…

 

無理矢理 奪われる事はない…無理矢理 渡す事は出来るがね」

 

本人の意思がない限り、個性は奪われることは絶対にない。

例えで言えば、強引な女性が男性にチョコをあげるようなものだ。納得はいかないが…

 

 

「ワン・フォー・オールは特別な個性でね、()()()()()()()()なんだ…」

 

元々は?

ワン・フォー・オールの個性は元は一つの個性ではないのか?

確かにワン・フォー・オールには不思議な力があるし、何処か並みの個性とは違うが…

 

「オール・フォー・ワン…他者から個性を奪い、己がものとし…

そしてソレを他者に与えることの出来る個性だ……」

 

オール・フォー・ワン。

皆んなは一人のために…ワン・フォー・オールとは真逆の言葉。

 

「超常黎明期…社会がまだ変化に対応しきれてない頃の話になる…

その時は、よく忍が栄えてたさ……何せその世代にヒーローは無かったんだから……影で世を支える時代だったんだよ……

突如として人間という規格が崩れた…たったそれだけで、法は意味を失い、文明が歩みを止めた、まさに()()

個性を持つものを人間じゃないと見なし、一時期大混乱に陥った時があった。

 

その頃からかな、忍はより頻繁的に社会に対応するべく、善忍も悪忍も、個性狩を始めた…

 

悪忍は、主の為に…善忍は正義の為に、二つの存在はやがて手を取り合い、社会を正すべく、罪のある人間からそうでない個性を持つ人間を処罰して行ったのさ……」

 

「そんな……」

 

飛鳥の言葉が小さく、弱々しく声に出る。

確かに社会の混乱を正すべく、忍が動くことは何らおかしくない…

しかし何も処罰なんて…と言いたいところだが、当時は個性を持つ人間を人間ではないと見なし、化け物、亜人、怪物と見なしていた。

個性について何も知らない者から見てみれば、個性を持つ人間は恐怖でしかなかったのだから…

 

 

「そんな混乱の時代にあって、いち早く人々をまとめ上げた人物がいた…

君らも聞いたことはあるハズだ…

 

彼は人々から個性を奪い、圧倒的な力によって勢力を拡げていった…

 

計画的に人を動かし、己の思うがままに悪行を積んでいった彼は、瞬く間に『悪の支配者』として日本に君臨した――」

 

「ネットの噂話では聞いたことありますけど…アレってただの創作じゃないんですか?

だって授業でもそんなの聞いたことないですし、教科書にも載ってませんから…」

 

「わ、私も…です。

霧夜先生の授業は聞いてますけど…こんな話、初めてですし…

じ、じっちゃんはこのこと知ってるんですか?」

 

二人は首を横に振る。

超常黎明期があり、社会が混乱に陥った話は教科書でも知ってるし、聞いたことはあるが、その時代に悪の支配者がいた事は初耳だ…

緑谷は少しだけネットで触れた事はあるが、ただの噂話…または創作ものだと見なしていた…そもそも調べても詳細は書かれてなかったし、どっちにしろ知らない結果だ。

忍学生は、一般人が知らない知識を身につけてることはある。

同じ学生とはいえ、忍にしか知られない物もあれば、一般人の学生が受ける授業を受けないなんてことは良くある。

しかし、忍学生でも教えられない決まりがある、幾つかは、忍学生を卒業した者にしか教えられないものもある…

――例えば妖魔なんかもそうだ、妖魔の存在は、飛鳥たちも知ってはいるが、怨楼血以外に化け物を見た事がない為、あまりパッとしない…

 

「ああ、半蔵くんは知ってるさ……ただ君に話さなかったのは……もう関係ない事だと思っていたからだ…

 

私だってそうさ、まさか()()()が生きていたなんてね……」

 

アイツ…

オールマイトともあろう者が…震えている。

一体誰のことを指してるのか分からないが、あのオールマイトを恐縮させる程だ、きっと何かあると見なして間違いない。

 

 

「それで、そのオール・フォー・ワンと何が関係あるのですか?」

 

「さっき言ったように、オール・フォー・ワンは個性を与える事が出来る…と言ったろう?

 

ヤツは昔、人々の個性を無理やり奪い、そして他者に与えてたのさ…

そうする事により、仲間への信頼・屈服をさせていたのさ…

 

一方で…与えられた人間は、馴染み深い個性じゃない限り、その副作用か、負荷に耐えきれず人形のように、心が無くなってしまう…つまり、思考能力を持たない廃人と化してしまうのさ…

 

 

例えば――君らが遭遇した…脳無のようにね」

 

「「ッ!?」」

 

個性を複数持つ改人・脳無。

雄英高校襲撃の脳無、蛇女子学園襲撃の脳無、保須市で暴れた脳無、それらは皆んな意思も心も持たない、廃人と化した人間…

つまり、脳無と名付けられる改人は皆んな、元はただの人間だったのだ。

 

つまるところ、平たくいえば…

 

「つ、つまり……私たちは……元はただの、無関係な人間と……闘わされた…という事ですか…?」

 

「……そうだね……相手の過去に罪があろうと無かろうと………元はただの人間……悪意を持たない廃人と、闘わされていた…という事だ……」

 

衝撃な事実。

まさか、あの脳無が元はただの人間だったなんて…

最初は異形形の個性か…または生まれた時からこういう身体になっていたのか…と自分で勝手に理由を付けていた…

しかし、オールマイトの口から放たれた真実、自分が元・人間と闘わされていたと考えると、胸が痛くなると同時に、そうさせていた敵連合が許せなく思ってしまう。

 

こうも言える…

脳無の正体をハナから理解してた上で、一般人やそこらの人間を脳無に変えて、戦闘兵器のように闘わせていた…

相手が理屈の通じない組織だとは分かっていたが、ここまで来ると何かしらの悍ましさを感じる。

 

 

「ヤツは数多くの名のある…名を残して来た忍達からも、上層部からも恐れられていた…

何せヤツは、忍の社会を崩壊させようとしたヤツだ…

忍名『神威』…流石にヤツも、忍の力は持っていなかったらしい…だが、忍を対抗できる力は充分に備えていた……

 

そこでヤツは、忍を殲滅するべく…妖魔を創り出した」

 

「妖魔って…何ですか?」

 

当然、緑谷は忍じゃないため妖魔のことなど知るはずが無く、首を傾げる。

 

「妖魔とは…忍の血から生み出された膿のような化け物さ……一定量の忍の血が集まる事により、妖魔を生み出す事が出来る……

 

飛鳥くんは多分、分かってると思うけど…」

 

カグラの存在を知ってる飛鳥なら、薄々と分かっていると思う…そう判断したオールマイトは口を開くと、飛鳥は僅かながらにコクリと頷く。

 

「そして!ヤツは忍を殺すと同時に数多くの妖魔を創り上げた……しかし、ヤツはある理由で妖魔を作れなくなった……

 

そこで、妖魔と同格…その代用品として、脳無という存在を創り上げたという訳さ……」

 

妖魔は、数々の忍の血が必要となり、それを摂取し集め、妖魔を作り出す。

脳無は、数々の個性を必要とし、それを奪い集め、脳無を作り出す。

 

脳無と妖魔に共通点が生じているのは、その為だった。

 

 

「どうして…妖魔を作れなくなったって……また何でですか?」

 

「そう焦るなよ緑谷少年…話には順序と言うものがある……まだ待て…」

 

質問を制するオールマイトは、手で落ち着かせる仕草を取る。

 

「一方、個性を与えられた事により、個性が変異し混ざり合うというケースもあったそうだ…

 

悪の支配者である彼には、無個性の弟がいた…弟は体が小さくひ弱だったが、正義感の強い男だった…!

兄の所業に心を痛め、争い続ける男だった…」

 

又しても驚きの事実、悪の支配者と謳われた男に、弟が存在していたらしい。

 

「そんな弟に彼は、『力をストックする』個性を無理矢理与えた…それが優しさ故か、はたまた屈服させる為かは、今となっては分からない…」

 

「……どういう事ですか?」

 

「まさか…!」

 

「緑谷少年は知ったようだね…ワン・フォー・オールの正体を――」

 

飛鳥は分からない…しかし、ワン・フォー・オールを持つ緑谷には、何が言いたいのか…ワン・フォー・オールの意味が分かったのだ。

 

「無個性だと思われていた弟にも、実は個性が宿っていたのさ……

 

ただしそれは…自身も周りも気づきようのない…無個性に近い個性をね…

 

 

――個性を与えるだけという、何の意味のない個性が――!!

 

つまり、力をストックする個性と、与えるという個性が混ざり合い、結果ワン・フォー・オールが生まれた…

 

これが、引き継がれて来た個性のオリジンさ――」

 

与える、力をストック…それらが混ざり合うことにより生まれた個性…

しかし、元の原因は…

 

オール・フォー・ワン。

つまり、ヤツが生みの親…という話になる。

 

正義はいつだって正しい…

しかし、正義が生まれるその理由は?

ワン・フォー・オールの由来と同じ、悪より生まれ出ずる――

 

 

例えば、雪泉が歪んだ正義を持っていたのは、元は悪が生み出したものだから。

ヒーローや警察は、事件が出てからこそ駆けつけやって来るもの…

つまり、それも悪がいるから、ヒーローが駆けつけに来る…

ヒーローがいれば、必ずしも悪がいるという訳だ。

 

「でも、何で…?そんな大昔の悪人の話を…何で今?」

 

「そ、それに…それと私が…何の関係があるんですか?」

 

飛鳥の意見は尤もだ…

確かにこれが事実であれば、態々飛鳥を呼ばなくても良いはず…

半蔵や小百合からという理由は仕方ないとして…

 

「おいおい、忍の社会を崩壊の危機に追い詰めた男、そして個性を奪えるヤツだぜ?

ソイツが今も生きている…

ヤツは何でもアリの人間さ、成長を止める個性…そういう類を誰かから奪い取ったんだろう…

 

そうなればまず、年齢を迎える必要はない。

半永久的に生き続けるであろう悪の象徴…覆しようのない戦力差、当時の社会情勢…

 

敗北を喫した弟は、後世に託すことにした…

今は敵わずとも、少しずつ力を培って、いつかヤツを止めうる力となってくれる……

 

そして私の世代となり、私と同じく…ヤツを討つ事が出来る忍…半蔵と共に、遂にオール・フォー・ワンを討ち取った!

 

筈だったのだが…ヤツは何かしらの手によって、生き延び、敵連合のブレーンとして再び動き出している――」

 

オールマイトの脳裏に浮かぶは、血の海に座り込み、腹に穴を開けられ、悪の象徴オール・フォー・ワンは頭をなくしている光景――

 

「ワン・フォー・オールは言わば、オール・フォー・ワンを倒すために受け継がれた力!

 

ヤツはきっと、今もヒーロー社会のみならず…忍社会を壊そうと計画を立てている……

 

いずれ、巨悪と対決しなければならない…かもしれん」

 

飛鳥はここで悟った。

なぜ、オールマイトが飛鳥だけを呼んだのか…何故、この真実を知らなければいけないのか…

 

オールマイトと半蔵…つまり、じっちゃんもまたオール・フォー・ワンと戦った…と言うことは…半蔵の孫である自分だからこそ、この事を知らなくてはいけなかった…

だから、オールマイトが抱え込んでいた秘密も、打ち明けなければならなかった…

 

オール・フォー・ワンと戦わなければならないから――

 

 

オールマイトの予想だと、きっと飛鳥は狙われる…半蔵が何故忍の身を引退したのか…それは、オール・フォー・ワンと戦い、深い手傷を負ったからだ。

 

もし、ヤツの性格上なら…半蔵の孫であり、弟子である飛鳥を脅威…と感じ取り、排除しようとする。

 

 

だからこそ、飛鳥には言わなければならなかった…

それ以前に、もう一つの理由も存在するが…

 

「先ほど緑谷少年の質問なんだがね、妖魔を作れなくなったのも、ヤツが人前に出れる体じゃなくなったから…だと思う。

ここの所、蛇女の伊佐奈の事件を除いて、妖魔を見たと言うケースは、ヤツが死んだと思われてから、現在に至って一匹たりとも見てはいない…

つまり、ヤツは妖魔を作れなくなってしまった…だからこそ、代わりに脳無という凶暴な戦闘兵器を創り上げたんだろうね…」

 

やる事が滅茶苦茶だ…

そう思うのも無理はない…だって、それがヤツなんだから…

 

酷な話だし、この状況に納得しないという意見が出ても仕方がない…

それでも、言わなければならなかった…

 

「頑張ります!」

 

「――え?」

 

沈黙が続いた中、緑谷が声を上げる。

その言葉に覇気が纏っており、やる気を感じる…

 

「オールマイトの頼み…何が何でも絶対に応えます…!

貴方が居てくれれば、僕は何でも出来る…出来そうな感じですから!!」

 

「緑谷少年…」

 

「わ、私もです!!」

 

腰掛けてたソファから立ち上がる飛鳥、その目には決意を宿している。

 

「こんな大事な話を…態々私に話してくれて…それで、こんな事が起きてるなんて……私全然知らなかったですし…

 

それを聞いて見過ごすなんて…私出来ませんもの!!だから、私もじっちゃんの意思継いで、オールマイトの期待に…応えますからね!」

 

「――飛鳥くん…!」

 

健気にオールマイトの気持ちを応えようとする二人を見て、オールマイトはたじろぐ。

気持ちは痛いほど、充分に嬉しい…それが二人の優しさだということも分かっている。

分かっているからこそ、痛いんだ…

その優しさが、オールマイトの心をより痛めてることを…

 

――言うんだよオールマイト、言わねば――

 

違うんだ…違うんだよ飛鳥くん、緑谷少年…!!

 

 

『やめるんだオールマイト!貴方がこのまま行けば…陽花くんと同じ…言葉に言い表せない…惨たらしい死を迎えてしまう!!それだけは…嫌なんだ!!!』

 

 

『ねぇ、オールマイト…お願い……もし、貴方の時間をくれる…なら……

もし、貴方が私の想いを引き継いでくれるなら………約束して…?

 

未来ある忍達を……()()()を……救けて………』

 

 

「二人とも…ありがとう…!!」

 

 

私は多分…その頃にはもう…君のそばにも居ない…いいや、この世にはもういないんだよ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

飛鳥さんは、秘密を知った…

僕とオールマイトの関係、ワン・フォー・オールの正体と、オール・フォー・ワンという悪の象徴が、再び動き出してることを…

 

彼女からしてまだ理解できない点はあると思う…それに僕自身、納得はしたけど、それでも飛鳥さんに秘密を教えたのは驚いた。

 

 

正直言って凄い話だったけど、日常はこうして続いていく訳で、結局僕がやることは、やるべき事は変わらないのだ――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻――場所は変わり…

ある人物は、パソコン画面を見つめていた。パソコンに映し出されてるのは、ヒーロー殺しの動画…今一番大炎上してるネット動画だ。

 

「ヒーロー殺しが捕まったか…出来れば、死柄木弔率いる精鋭部隊として、もう少し活躍して欲しかったけど…まあ良いや…

 

概ね、想定通りさ…」

 

その人物は、ステインの動画を削除すると、後ろにいた老人、ドクターと呼ばれる人物が声をかける。

 

「先生…本当に良かったんですか?()()を手放して……それに、折角上位級脳無に変え、戦力となったにしても、保須市で捕まったんでしょう?」

 

「ハハッ、別に良いさ…道元はね、最初は僕の代わりに延々と妖魔を作らせようとしたんだけど…生憎彼の技術ではてんで、ろくに妖魔を出せない…出すにしても忍の犠牲が必要……素材は死柄木に向かわせても良いんだけど、他の忍に居場所が知られ、情報漏洩として捕まる危険性がある…今はまだ潮時じゃない…」

 

何より死柄木弔の為になるのなら、それで良いさ――

そもそも、道元の性格から考えて、寧ろ死柄木弔の命の危険性を感じる…ならいっそ、個性を与えて脳無に変えれば問題ないというわけさ…

 

 

教育者としての本能か、或いは先生自身によるゲームなのか…どちらにしろ性格が悪いのは確かだ。

 

「妖魔…ねぇ、では…復興した蛇女子学園に、伊佐奈が妖魔を作ってるというのも、先生の仕業なんですかな?」

 

「いや、僕自身じゃないよ…魔門に頼んでの計画さ…忍商会は金さえ払えば、客の利益になる事は何でもしてくれる…そう、何でも…ね。

だから、魔門に頼んで伊佐奈にけしかけたのさ……彼が(ヴィラン)として道を歩んできたのも分かってるし、悪に関する事は少なくとも私の方が理解してる…

 

 

 

でもね――つまらないんだよ」

 

――つまらない、先生はそう言い切った。

何かと言えば…彼の所業も、目標も全て。

頂点を目指す事はいい事だ。しかし、それはただの自分勝手であって、人を動かしてるわけではない。

そんなもの頂点とは呼ばないし、王とも呼べない。

時に厳しめは必要だ、間違いを正す事や、極一般的な家庭も、親が子を叱る…という物を見るはずだ。

しかし、伊佐奈の場合は暴力だけで人を動かしてるに過ぎない。

そんなものなら誰でもやれる、それは只のガキ大将であって、本当の支配者として相応しい姿ではない。

 

本当の支配者は、恐怖や暴力だけで無く、時に人を動かす人間に…つまり、自分の想定通りに動かすこと……

つまり、死柄木弔は人を動かす支配者として成長しなければならない。

 

 

(――薄々と解ってはいたけど、伊佐奈では無理だね。

前々から分かってはいたが、彼のような人間に仲間はついてこない…だから簡単に仲間に裏切られ、捕まってしまう…自業自得さ…

 

彼はいい参考書さ…そうさせない為にも、もっと弔には教育をさせとかないとね…今はいい時期だ…

ヒーロー殺しが捕まったことにより…思想に当てられ感化された悪が、弔の下へ集まる――)

 

 

「妖魔を造ってくれたことには感謝してるさ……まあこれも、オールマイトの所為だ。もう一つは…陽花が原因かな、僕の放った妖魔を全部台無しにし、忍の殲滅が叶わなかった…あろうことか、最高傑作である古の妖魔、心が倒されたのは、流石の僕も計算外だったなぁ」

 

「あのクソ女さえ居なければなぁ!!ワシと先生の共作妖魔を全部無駄にしよってあのアマめ!

死んだ忍とは言え、恨みに思うよ…!」

 

「ハハハ…死んだ忍を愚弄するのは感心しないなぁ…」

 

「先生が言うことですか……黒影の両親を殺し、思うがままに悪を憎む道に進めたのは、先生の仕業でしょう?」

 

怒り溜まってるドクターの声に、先生は薄ら笑いを浮かべる。

まるで「ああ、バレちゃったかぁ…」みたいな反応は、時と場合に似合わず、冗談とは思えない。

 

「まあね。悪を憎む道へ歩ませ、そして自身が滅ぶ結末へと導く…

それが叶わなかったとしても、彼には孫がいる…

昔からの推測だと、黒影の姿を見て、悪を憎み、滅ぼす道ヘ進み、いずれ半蔵の孫と対峙し滅び合う…そんな最高のハッピーエンドを楽しみにしてたんだが…

 

どうやら滅び合うこと叶わず、和解したらしい…

あーあ、残念だ…きっと、オールマイトが動いたんだろうねぇ…本当に醜いよ――」

 

未来予知でもしているのか、または心でも読んでいるのか…考えれば考えるほど、疑問が頭の中で連鎖するよう浮かび上がる。

 

「半蔵学院に死塾月閃女学館…恐らくは新・蛇女子学園も…死柄木弔の報告からして焔紅蓮隊と名乗る抜忍集団…それらは必ずしもあの子の障壁になる……

 

敵連合が壊滅する危険もある…」

 

「何を言ってるんだいドクター…その為の、()()()()()()()()だろう?」

 

オール・フォー・ワンは鼻で笑うと、パソコンのキーボードをカタカタと音を鳴らして、何かを調べている。

 

「先ず雄英高校に襲撃することで、敵連合という脅威的な組織を、世間に知らしめる…

 

――次に蛇女子学園の襲撃。

元々、ヒーローと忍が手を組むのは、社会の秩序を守る為だ…

だからこそ、敵と忍が手を組むことはない…

そこで、だ。

 

敵連合に抜忍・漆月が所属している事実。そして悪忍養成学校に襲撃し、組織は忍を仲間に入れたがってることを世界中の忍に認知させる。

するとどうだ?

忍は敵連合と漆月の存在を無視することは出来ず、良かれ悪かれ、忍にとって敵連合の存在は極めて大きなものとなる……

 

そこからヒーロー殺しさ!

彼の思想と執念…それらが感染し、感化される…

ヒーロー殺しが敵連合に所属していた…その事実が、忍を動かすことになる…

 

うん、僕のシナリオが機能して良かったよ…完璧さ――」

 

全国指名手配犯の抜忍・漆月が敵連合の仲間だと知った事により、敵連合の繋がりに示唆された。

そうする事で、ヒーロー殺し…別名・忍殺しステインの最後に感化され、彼が所属した組織に入るに違いない。

つまり、敵のみならず…忍をも仲間に入れることを、先生は最初っから計算していたわけだ。

 

 

「出来るかね?あの子に…

ワシはどうせなら、先生が前に出た方が事が進むと思うんだがね…」

 

「ハハハ!では早く体を治してくれよドクター…もうかれこれ五年間もこの状態なんだよ?」

 

「『超再生』が後五年早ければな!傷が癒えてからでは意味を成さない、期待外れの無意味な個性だった…」

 

先生の首には何本もの太いチューブが突き刺さっており、液体やら何やらを投与してる様子…

しかし、一番気味が悪いのは…先生の顔には目がなく、酷たらしいものになっていた。

 

「良いのさ!彼にはもっと苦労して貰う…次の僕となる為にね……

暴れたい奴、共感した奴…様々な人間と忍が、衝動を解放する場として敵連合を求める…

 

死柄木弔は、そんな奴らを統括しなければならない立場となり、それらを動かす悪の象徴になって貰う!!

 

それだけじゃない…

悪の司令塔を支えるには…彼にも影が必要だ…

本当の影こそ…漆月…君だ――」

 

巨悪となり得る存在を、悪の司令塔を支える漆月は、いずれ弔のコンビになりうる。

先生は、全てを支配してはいたが…忍が先生の下にいた訳ではない(ある一例を除いて)。

個性を持つ人間をまとめても、忍だけは出来なかった…恐怖では、忍は動いてくれないからだ。

自分たちは死の定めにあると、常識が縛られてるからこそ、死を恐れず歯向かってくる…

何より先生の存在自体が、妖魔を超える化け物と認識され、彼に耳を傾ける忍は一人もいなかった…

強大なる力は時に、人を寄せ付けなくなってしまう…大変、困ったものだ。

 

だから、弔に任せたのだ。

その為には、漆月と共に成長して貰わなくてはならない…

 

 

パソコンに映し出されたのは、前科無数の極悪人から、逃走中の重罪人まで多くの敵と忍の資料がまとめられていた。

先生はそれを見て、口角を釣り上げ、リストに載ってる人物を見渡していく。

 

 

ブレザーの服装に、人を殺し喜んでる少女の写真。

忍を殺し、鎌に付着した血をペロリと舐めている少女の写真。

顔中、つぎはぎで皮膚が縫われている男の写真。

豹のように美しく、黄金の瞳を宿し、黒い髪がストレートに長い…お嬢様の容姿を持つ少女の写真。

顔がトカゲでステインに似せたコスプレをしている男の写真。

ガスマスクと学ランを着用し、悪事を働く中学生の写真。

黒いフードを着用し、妖魔らしき異形な化け物を食い漁ってる大男の写真。

全裸の巨人が、ラジカセでニュースを聞き「全ては主の為に…」という意味深な言葉を発する大男の写真。

メガネをかけ、本を手に持ち、白髪に顔が黒い模様か何かで侵食されている少女の写真。

 

 

弔の下に集まる(ヴィラン)と忍…きっと、これからも退ける度に増えていく…

彼は新たな仲間を手にし、新たな力を手に入れて、強くなる――

 

 

「弔、あの子はそうなり得る、歪みを持った男だよ…

 

今のうちに謳歌してると良いさオールマイト…

仮初の茶番(平和)をね――」

 

 

 

ヒーローと忍が手を取り合い、絆を深めるだけでなく…

(ヴィラン)と忍も手を取り合い、絆を深めていく。

 

悪が栄え、支配するのはいつの日か――

 

 




やっと伏線明かし回収出来た…
蛇女子学園の襲撃はこの為だったんだよなぁ!そしてステインが忍を殺して来たのも、そう言う意味だったんです!
漆月が敵連合の仲間に入っていれば、重罪犯から逃亡犯までの忍が、「あれ?敵連合に忍がいる?」とか、「敵連合は忍を仲間に入れる危険な組織だ」という認識を持たせる。そして忍を殺して来たヒーロー殺しの最後の執念を見て、彼が所属してた敵連合の組織に入りたい…という繋がりを示唆する…
ヒーローたちが忍と関わってるのなら、敵連合も…ね?と思いまして…
今まで温めてたものを出すのは気持ちがいいですね!決して下品な意味ではありません。

あと飛鳥に真実を話したのは、半蔵の孫だから…狙われる危険性があるという意味もありますが、もう一つは、飛鳥なら半蔵を超える、一流の忍になれるから…という想いもあるんですよね。
そして更に理由はもう一つあります。
オールマイトはこれだけは誰にも言えない為、今後明かされることになるので、是非気長に待ってくれると嬉しいです。

それはそうと、次からは新章です…すいません本当に……
次からはちゃんと新章ですから…いやマジで本当に、今回の話が新章なんて、なんか違うでしょう?だから、ちゃんと区切りをつけて、次回から新章に入る訳です。

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